【完結】婚約破棄された令嬢、マッチョ売りに転職しました!〜筋トレのために男装してたら、王子の護衛にされました〜

k-ing /きんぐ★商業5作品

文字の大きさ
17 / 40

17.筋肉令嬢、町づくりをする

しおりを挟む
 私は急いで旧セラフに戻った。
 着いてからトカゲさんを置いてきたことに気づいたが、きっと大丈夫だろう。
 ルシアン様の隣にはガレスさんがいるからね。
 それに手合わせ相手としては少し頼りないが、いないよりは良い。

「みんな、ちょっと聞いて!」

 声をかけると、ゴブリンたちは手を止めて近寄ってきた。
 みんなの視線が私に集まっている。

『ボス、ドウシタ?』

 一番体格の良いゴブリンが前に出て声をかけてきた。
 それに合わせて、次々とゴブリンたちは片膝をつき頭を下げる。
 突然の行動に驚きを隠せない。
 それに――。

「ボス?」

 なぜか私はボスと呼ばれていた。

『チカラガツヨイ……ボスキマリ』

 どうやら力が強いとボスと呼ばれるらしい。
 過去に屋外訓練で出会った魔物や自称ファイアードラゴン、上腕三頭筋からは「魔王」と呼ばれていたが、そっちよりは可愛いから問題ない。
 私としては回復魔法を使う女性だから、「聖女」の方がしっくりくる。
 でも、愛称は自分で決めるものでもないからね。

「ええ、今日から私はボスよ!」
『『『ハッ!』』』

 ゴブリンたちも私の声に合わせて返事をする。
 統率できていた方が、今後も動きやすいからちょうど良かったわ。

「それでみんなに頼みたいことなんだけど……」
『ボスノタノミハゼッタイ』
『『『ゼッタイ!』』』

 まだ何も伝えていないのに、ゴブリンたちは協力的だ。

「明日、ここにルシアン様が来ることになった」
『ルシアンサマ?』
「ええ、私が仕える大事な人よ」

 ここでルシアン様に私の成果を発表しないと、マッチョ売りとして解雇されてしまう。
 それだけは回避しないと、また路頭に迷うことになる。
 今頃、プロテイン公爵家に帰ることもできないし、きっとみんなに笑われる。
 社交界で婚約破棄された醜い令嬢として笑われるに違いない。

『ボスノ……ボス……』

 ゴブリンたちはお互いに顔を見合わせていた。

「そうよ。大ボスってところかしら。私でもルシアン様には敵わないわ」
『オオボス……ツヨイ』

 ルシアン様の高貴な姿を見たら、きっと震え上がるだろう。
 あんなに小さな姿で見せる、私を雇うほどの包容力と優しさ。
 そして、なんと言っても私の体から力が抜けるほど、容姿が天使のようにキュートだ。
 拳ではどうにもならないことが、本当に起きるとは思わなかったからね。
 お父様が言っていた、「最強のやつには敵わない」ってこれだったのかと実感する。

「明日中に旧セラフを復興させるよ! みんなも協力してね!」

 私は握り拳を作る。

『イノチガケ……』

 なぜかゴブリンたちは全身震え上がっていた。
 それだけルシアン様が来ることを喜んでいるのだろう。
 ある国では、戦う時に興奮して全身が震える「武者震い」って言葉があるぐらいだ。
 ただ、みんなで一致団結して頑張るときはこれをしないと始まらないわ。

「ほらほら、みんなも拳を作って!」
『オレタチ……シヌノカ』

 ゴブリンは戸惑いながら、手をギュッと握る。

「よし、いくよー!」
『アア……イママデアリガ――』
「えいえい、おー!」

 私は手を大きく空に向けてあげる。

『……エッ!?』

 ゴブリンは何を勘違いしていたのだろう。
 みんなでやることと言ったら、お互いを鼓舞することだ。
 だが、私の拳は思ったようにはいかない。

――ズバン!

 鋭く空気を裂く音とともに、目に見えない圧力が一直線に空を抜け駆ける。
 風を断ち切るような衝撃が旧セラフ全体に伝わる。

『グウェ!?』

 その瞬間、空から何かの鳴き声が聞こえてきた。
 羽根がばさりと宙に舞い、何かが勢いよく落ちてくる。

「えっ……?」

 空は暗くなり、何が落ちてきているのかはわからない。
 ただ、思ったよりも大きい何かが近づいてきてるのは確かだ。

「せっかくゴブリンたちが頑張ったのに!」

 私は落ちてくる何かを片手で受け止める。

「ニワトリがこんなところになぜいるのかしら?」

 嘴からは舌がだらんと出て、気を失っているようだ。
 何度も声をかけるが起きる様子もない。
 ニワトリなのに寝坊助なのかしら。

『グリフォン……イチゲキ……』
「グリフォン? ……いや、どう見てもニワトリよね?」

 グリフォンって爪が鋭くて、獰猛な鳥の魔物って聞いている。
 どこからどう見ても、獰猛な姿はない。
 私はジーッとゴブリンを見つめると、頭が飛んでいきそうな勢いで頭をペコペコと下げていた。

『アレハ……ニワトリ!』

 ゴブリンも急にニワトリが落ちてきたから、間違えてしまったのだろう。
 それにいつまで経っても起きないため、心配そうな顔をしていた。
 私はそのまま邪魔にならないところに、そっと寝かせておくことにした。

『ふぉふぉ、また面白いことをしているのう』

 声がした方に振り向くと、そこにはトカゲさんがいた。
 やっぱり足が遅いのか、少しだけ遅れて帰ってきた。

「トカゲさん、……そちらの方は?」

 トカゲさんの隣にはぐったりとした三匹の豚がいた。
 ひょっとしたら、トカゲさんのご飯だったり――。

「こいつらは家を建てる三兄弟だな。昔、食べようと思ったが、そこで仲良くなった」

 一匹の豚は立ち上がると、ペコリと頭を下げた。
 立ち上がる豚って食べづらいもんね。
 他の二匹は鼻をほじったり、お尻を掻いたりと性格が全く違う。
 それにトカゲさんの隣にいて気づかなかったけど、豚って立ち上がると大きいのね。

『オーク……』

 ゴブリンは豚のことをオークと呼んでいた。
 さっきもニワトリをグリフォンと言ったりと、やはりゴブリンの知能は低いようだね。
 ちゃんと私が教えてあげないといけないかしら。

「そういえば、家を建てるってことは手伝ってくれるのかな?」
『ああ』

 トカゲさんは豚を手で押して、差し出してきた。
 湯浴み場や池は土を盛れば、形は整えられるけど、町全体を作るってなったら、家問題が出てくる。
 私も家はトンネルを貫通させて作ったことしかない。
 ルシアン様が来るなら、しっかりとした家の方がいいものね。
 これでどうにか町を作ることはできそうだ

「明日の朝までに立派な町にしましょう!」

 みんなやる気満々なのか、静かに武者震いをしている。
 私たちはルシアン様に認めてもらうために、町づくりを始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『婚約破棄されましたが、孤児院を作ったら国が変わりました』

ふわふわ
恋愛
了解です。 では、アルファポリス掲載向け・最適化済みの内容紹介を書きます。 (本命タイトル①を前提にしていますが、他タイトルにも流用可能です) --- 内容紹介 婚約破棄を告げられたとき、 ノエリアは怒りもしなければ、悲しみもしなかった。 それは政略結婚。 家同士の都合で決まり、家同士の都合で終わる話。 貴族の娘として当然の義務が、一つ消えただけだった。 ――だから、その後の人生は自由に生きることにした。 捨て猫を拾い、 行き倒れの孤児の少女を保護し、 「収容するだけではない」孤児院を作る。 教育を施し、働く力を与え、 やがて孤児たちは領地を支える人材へと育っていく。 しかしその制度は、 貴族社会の“当たり前”を静かに壊していった。 反発、批判、正論という名の圧力。 それでもノエリアは感情を振り回さず、 ただ淡々と線を引き、責任を果たし続ける。 ざまぁは叫ばれない。 断罪も復讐もない。 あるのは、 「選ばれなかった令嬢」が選び続けた生き方と、 彼女がいなくても回り続ける世界。 これは、 恋愛よりも生き方を選んだ一人の令嬢が、 静かに国を変えていく物語。 --- 併せておすすめタグ(参考) 婚約破棄 女主人公 貴族令嬢 孤児院 内政 知的ヒロイン スローざまぁ 日常系 猫

貧乏奨学生の子爵令嬢は、特許で稼ぐ夢を見る 〜レイシアは、今日も我が道つき進む!~

みちのあかり
ファンタジー
同じゼミに通う王子から、ありえないプロポーズを受ける貧乏奨学生のレイシア。 何でこんなことに? レイシアは今までの生き方を振り返り始めた。 第一部(領地でスローライフ) 5歳の誕生日。お父様とお母様にお祝いされ、教会で祝福を受ける。教会で孤児と一緒に勉強をはじめるレイシアは、その才能が開花し非常に優秀に育っていく。お母様が里帰り出産。生まれてくる弟のために、料理やメイド仕事を覚えようと必死に頑張るレイシア。 お母様も戻り、家族で幸せな生活を送るレイシア。 しかし、未曽有の災害が起こり、領地は借金を負うことに。 貧乏でも明るく生きるレイシアの、ハートフルコメディ。 第二部(学園無双) 貧乏なため、奨学生として貴族が通う学園に入学したレイシア。 貴族としての進学は奨学生では無理? 平民に落ちても生きていけるコースを選ぶ。 だが、様々な思惑により貴族のコースも受けなければいけないレイシア。お金持ちの貴族の女子には嫌われ相手にされない。 そんなことは気にもせず、お金儲け、特許取得を目指すレイシア。 ところが、いきなり王子からプロポーズを受け・・・ 学園無双の痛快コメディ カクヨムで240万PV頂いています。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

「君は悪役令嬢だ」と離婚されたけど、追放先で伝説の力をゲット!最強の女王になって国を建てたら、後悔した元夫が求婚してきました

黒崎隼人
ファンタジー
「君は悪役令嬢だ」――冷酷な皇太子だった夫から一方的に離婚を告げられ、すべての地位と財産を奪われたアリシア。悪役の汚名を着せられ、魔物がはびこる辺境の地へ追放された彼女が見つけたのは、古代文明の遺跡と自らが「失われた王家の末裔」であるという衝撃の真実だった。 古代魔法の力に覚醒し、心優しき領民たちと共に荒れ地を切り拓くアリシア。 一方、彼女を陥れた偽りの聖女の陰謀に気づき始めた元夫は、後悔と焦燥に駆られていく。 追放された令嬢が運命に抗い、最強の女王へと成り上がる。 愛と裏切り、そして再生の痛快逆転ファンタジー、ここに開幕!

【完結】カノン・クライスラーはリンカネーション・ハイである。~回数制限付きでこの世界にある魔法なら何でも使えるという転生特典を貰いました

Debby
ファンタジー
【最終話まで予約投稿済み】 カノン・クライスラーは、辺境に近い領地を持つ子爵家の令嬢である。 頑張ってはいるけれど、家庭教師が泣いて謝るくらいには勉強は苦手で、運動はそれ以上に苦手だ。大半の貴族子女が16才になれば『発現』するという魔法も使えない。 そんなカノンは、王立学園の入学試験を受けるために王都へ向かっている途中で、乗っていた馬車が盗賊に襲われ大けがを負ってしまう。危うく天に召されるかと思ったその時、こういう物語ではお約束──前世の記憶?と転生特典の魔法が使えることを思い出したのだ! 例えそれがこの世界の常識から逸脱していても、魔法が使えるのであれば色々試してみたいと思うのが転生者の常。 リンカネーション(転生者)・ハイとなった、カノンの冒険がはじまった! ★ 覗いてくださりありがとうございます(*´▽`人) このお話は「異世界転生の特典として回数制限付きの魔法をもらいました」を(反省点を踏まえ)かなり設定を変えて加筆修正したものになります。

平民に転落した元令嬢、拾ってくれた騎士がまさかの王族でした

タマ マコト
ファンタジー
没落した公爵令嬢アメリアは、婚約者の裏切りによって家も名も失い、雨の夜に倒れたところを一人の騎士カイルに救われる。 身分を隠し「ミリア」と名乗る彼女は、静かな村で小さな幸せを見つけ、少しずつ心を取り戻していく。 だが、優しくも謎めいたカイルには、王族にしか持ちえない気品と秘密があり―― それが、二人の運命を大きく動かす始まりとなるのであった。

老伯爵へ嫁ぐことが決まりました。白い結婚ですが。

ルーシャオ
恋愛
グリフィン伯爵家令嬢アルビナは実家の困窮のせいで援助金目当ての結婚に同意させられ、ラポール伯爵へ嫁ぐこととなる。しかし祖父の戦友だったというラポール伯爵とは五十歳も歳が離れ、名目だけの『白い結婚』とはいえ初婚で後妻という微妙な立場に置かれることに。 ぎこちなく暮らす中、アルビナはフィーという女騎士と出会い、友人になったつもりだったが——。

処理中です...