異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品

文字の大きさ
15 / 53
第一章 少年との出会い

15.聖男、少年にドキッとする

しおりを挟む
 お風呂から出た僕たちは体の火照りが収まるまで涼んでいた。
 夏から秋になり涼しくなってきたが、まだまだ暑いのは変わらない。

「そんなに近いと暑くない?」
「だってしばらく会えないんでしょ?」
「しばらく……?」

 ルシアンは僕にベッタリとくっついて離れようとしない。
 それに子どもの体温は高いから尚更暑く感じる。

「朝に出かけたら夜には帰ってくるよ?」
「そうなの? そっか……うん……よかった!」

 ひょっとしたら長いこといないのが仕事だと思ってたのだろうか。
 貴族の仕事とかってちゃんと聞いたことはないもんね。

「それでルシアンに渡したいものがあるんだ」
「プレゼントかな?」

 キラキラした目で僕の顔を見てくる。

「プレゼントって言ったらそうかな? ルシアン専用のお財布だよ」
「財布?」

 ルシアンは不思議そうに首をかしげた。
 僕が用意したのは、深緑色の革の生地で作ったシンプルな財布だ。
 昨日、雑貨店で見つけて買ってきた。

「ルシアンの瞳の色に近い――」
「ありがとう!」

 ルシアンは僕に勢いよく抱きついてきた。

「わぁ!?」

 だが、大きくなったルシアンにそのまま僕は押し倒されてしまった。
 少し濡れたままの髪が妙に大人びて見えた。
 ルシアンも成長したんだな……。

「みにゃと……」

 なぜかルシアンに見つめられると、吸い込まれそうな気がする。
 そんなことを思いながら体を起こした。

「ルシアン、大きくなったんだから気をつけないとあぶないよ?」
「そうだね。みにゃとがケガしたら危ないもんね」

 少し寂しそうにしているルシアンの頭を軽く撫でる。
 急に成長して、自分の体の大きさがわかっていない犬みたい。
 ふと僕はそう思った。

「財布にはお金が入っているんだけど、何か買う時は自分で出してね」
「ぼくの……お金?」
「そう! 自分でお金を渡して、商品をもらう時はちゃんとお礼を言うんだよ」

 ルシアンは真剣な顔でうなずいた。
 財布に入っているお金を取り出して、いくら入っているのか、値段はどこに書いてあるのかを教えていく。

「あの大きなやつにピッってするんだよね?」
「わからなければ店員さんに聞けば教えてくれるからね」

 実際に身支度を済ませて、僕たちは近くのスーパーに行くことにした。

「これはルシアンの鍵だから大事にするんだよ」

 僕はルシアンに合鍵を渡す。
 初めは何かわからないのか、ジーッと見つめていた。

「外に出る時はこうやってガチャッと回すの。閉まってるか確かめてね」

――ガチャ!

「よし、閉まった!」

 ドアノブを持って、しっかり閉まっているか確認していた。

「えらいね。その鍵は大事だからなくさないように」

 首に鍵のついたストラップをかけると、ルシアンは驚いた顔をした。

「みにゃと、本当にいいの?」
「ん? 別に大丈夫だよ。ルシアンのために作ってもらったから」

 ルシアンのためにも鍵は用意しているからね。
 そう言葉をかけると、ルシアンは満面な笑みで抱きついてきた。

「みにゃと、大好き!」

 少し低くなった声が胸に響く。
 鍵を渡しただけでこんなに喜ばれるとは思わなかった。
 きっと一人で色々やらせてもらえることが嬉しいのだろう。
 その後もルシアンと手を繋いでスーパーに向かっていく。
 途中で恥ずかしくないのか聞くと、首を傾げていた。

「好きな人と手を繋いで恥ずかしいの?」

 さりげなく言ったルシアンの言葉に僕はドキッとしてしまった。
 本当に将来は魔性な男に成長をしそうな兆しを感じた。

 スーパーに着くとルシアンにカゴを持たせる。
 中に入るとルシアンは真っ先にあるところに向かった。

「くくく、こういうところは変わらないんだね」
「えっ? ホットケーキ食べるでしょ?」

 ルシアンが向かったのはホットケーキミックスが売っている棚だった。
 ホットケーキはルシアンの大好物だからね。
 他にも必要なものや欲しいものをカゴに入れていくが、ルシアンは興味深々に野菜を見ていた。

「みにゃとの世界は野菜が美味しそうだね」
「ルシアンのところとは違うの?」
「んー、僕の世界は野菜ができにくいからね」

 話を聞いていると、ルシアンの世界は地面が痩せているというのか、長い間何も育てられない土地が多いらしい。

「その土地にあったものを選ばないといけないからね。あとで調べてみようか」
「うん!」

 またルシアンが帰るころには、必要そうなものを持たせた方が良いのだろう。
 日本語もだいぶ流暢になってきているし、本も難しいものを持たせても勉強になりそうだ。

 買い物を終えてレジに並ぶと、ルシアンは少し緊張した様子で財布を取り出した。

「2357円です」

 店員が微笑むと、ルシアンは照れたようにお金を渡し、お釣りを受け取ってぺこりと頭を下げた。

「ありがとう!」

 その言葉に店員の動きが一瞬止まっていた。
 やっぱりルシアンは魔性な男になりそうだね。
 ただ、本人は気づいていないのか、僕の方を何度もチラッと見て褒めて欲しそうな顔をしていた。

 スーパーからの帰り道、二人で荷物を持ちながら家に帰っていく。
 前はほとんど僕が持っていたのに、今はルシアンもしっかり荷物を持っている。
 ただ、僕と手を繋ぐのは変わらないようだ。

「すごいね、ちゃんとできてた!」
「うん! みにゃとが教えてくれたからね」

 ルシアンは得意げに笑いながら、頭を僕の方に向けてきた。
 これは撫でてほしいってことだろうか。
 僕は軽く頭を撫でると嬉しそうにしていた。

 家に着くと、すぐに買ったものを冷蔵庫に入れるように教えた。

「トマトはここ、卵はこっち。牛乳は立てて入れるんだ」
「こぼれちゃうから?」
「そう。ちゃんと覚えてるね」
「えへへ、みにゃと一緒になるから覚えないとね」

 その言葉に僕は吹き出しそうになったが、ただ優しく頷いた。
 僕と一緒に住むことを想像しているのだろうか。
 ほんの少し前まで何もわからなかった子が、今ではこうして生活の形を覚えていっている。
 ただ、体の傷を見ていると、ルシアンを傷つける人はいない。
 今後のことも一度しっかりと話さないといけない日がくるのだろう。

「みにゃと、これは?」
「ああ、ホットケーキミックスは外でいいよ!」
「わかった!」

 成長していく後ろ姿は嬉しい反面、どこか寂しくも感じた。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

ハッピーライフのために地味で根暗な僕がチャラ男会計になるために

ミカン
BL
地味で根暗な北斗が上手く生きていくために王道学園でチャラ男会計になる話 ※主人公へのいじめ描写ありのため苦手な方は閲覧ご注意下さい。

異世界で孵化したので全力で推しを守ります

のぶしげ
BL
ある日、聞いていたシチュエーションCDの世界に転生してしまった主人公。推しの幼少期に出会い、魔王化へのルートを回避して健やかな成長をサポートしよう!と奮闘していく異世界転生BL 執着最強×人外美人BL

【土壌改良】スキルで追放された俺、辺境で奇跡の野菜を作ってたら、聖剣の呪いに苦しむ伝説の英雄がやってきて胃袋と心を掴んでしまった

水凪しおん
BL
戦闘にも魔法にも役立たない【土壌改良】スキルを授かった伯爵家三男のフィンは、実家から追放され、痩せ果てた辺境の地へと送られる。しかし、彼は全くめげていなかった。「美味しい野菜が育てばそれでいいや」と、のんびり畑を耕し始める。 そんな彼の作る野菜は、文献にしか存在しない幻の品種だったり、食べた者の体調を回復させたりと、とんでもない奇跡の作物だった。 ある嵐の夜、フィンは一人の男と出会う。彼の名はアッシュ。魔王を倒した伝説の英雄だが、聖剣の呪いに蝕まれ、死を待つ身だった。 フィンの作る野菜スープを口にし、初めて呪いの痛みから解放されたアッシュは、フィンに宣言する。「君の作る野菜が毎日食べたい。……夫もできる」と。 ハズレスキルだと思っていた力は、実は世界を浄化する『創生の力』だった!? 無自覚な追放貴族と、彼に胃袋と心を掴まれた最強の元英雄。二人の甘くて美味しい辺境開拓スローライフが、今、始まる。

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

御堂あゆこ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

追放された『呪物鑑定』持ちの公爵令息、魔王の呪いを解いたら執着溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
「お前のそのスキルは不吉だ」 身に覚えのない罪を着せられ、聖女リリアンナによって国を追放された公爵令息カイル。 死を覚悟して彷徨い込んだ魔の森で、彼は呪いに蝕まれ孤独に生きる魔王レイルと出会う。 カイルの持つ『呪物鑑定』スキル――それは、魔王を救う唯一の鍵だった。 「カイル、お前は我の光だ。もう二度と離さない」 献身的に尽くすカイルに、冷徹だった魔王の心は溶かされ、やがて執着にも似た溺愛へと変わっていく。 これは、全てを奪われた青年が魔王を救い、世界一幸せになる逆転と愛の物語。

処理中です...