異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた

k-ing /きんぐ★商業5作品

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第一章 少年との出会い

15.聖男、少年にドキッとする

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 お風呂から出た僕たちは体の火照りが収まるまで涼んでいた。
 夏から秋になり涼しくなってきたが、まだまだ暑いのは変わらない。

「そんなに近いと暑くない?」
「だってしばらく会えないんでしょ?」
「しばらく……?」

 ルシアンは僕にベッタリとくっついて離れようとしない。
 それに子どもの体温は高いから尚更暑く感じる。

「朝に出かけたら夜には帰ってくるよ?」
「そうなの? そっか……うん……よかった!」

 ひょっとしたら長いこといないのが仕事だと思ってたのだろうか。
 貴族の仕事とかってちゃんと聞いたことはないもんね。

「それでルシアンに渡したいものがあるんだ」
「プレゼントかな?」

 キラキラした目で僕の顔を見てくる。

「プレゼントって言ったらそうかな? ルシアン専用のお財布だよ」
「財布?」

 ルシアンは不思議そうに首をかしげた。
 僕が用意したのは、深緑色の革の生地で作ったシンプルな財布だ。
 昨日、雑貨店で見つけて買ってきた。

「ルシアンの瞳の色に近い――」
「ありがとう!」

 ルシアンは僕に勢いよく抱きついてきた。

「わぁ!?」

 だが、大きくなったルシアンにそのまま僕は押し倒されてしまった。
 少し濡れたままの髪が妙に大人びて見えた。
 ルシアンも成長したんだな……。

「みにゃと……」

 なぜかルシアンに見つめられると、吸い込まれそうな気がする。
 そんなことを思いながら体を起こした。

「ルシアン、大きくなったんだから気をつけないとあぶないよ?」
「そうだね。みにゃとがケガしたら危ないもんね」

 少し寂しそうにしているルシアンの頭を軽く撫でる。
 急に成長して、自分の体の大きさがわかっていない犬みたい。
 ふと僕はそう思った。

「財布にはお金が入っているんだけど、何か買う時は自分で出してね」
「ぼくの……お金?」
「そう! 自分でお金を渡して、商品をもらう時はちゃんとお礼を言うんだよ」

 ルシアンは真剣な顔でうなずいた。
 財布に入っているお金を取り出して、いくら入っているのか、値段はどこに書いてあるのかを教えていく。

「あの大きなやつにピッってするんだよね?」
「わからなければ店員さんに聞けば教えてくれるからね」

 実際に身支度を済ませて、僕たちは近くのスーパーに行くことにした。

「これはルシアンの鍵だから大事にするんだよ」

 僕はルシアンに合鍵を渡す。
 初めは何かわからないのか、ジーッと見つめていた。

「外に出る時はこうやってガチャッと回すの。閉まってるか確かめてね」

――ガチャ!

「よし、閉まった!」

 ドアノブを持って、しっかり閉まっているか確認していた。

「えらいね。その鍵は大事だからなくさないように」

 首に鍵のついたストラップをかけると、ルシアンは驚いた顔をした。

「みにゃと、本当にいいの?」
「ん? 別に大丈夫だよ。ルシアンのために作ってもらったから」

 ルシアンのためにも鍵は用意しているからね。
 そう言葉をかけると、ルシアンは満面な笑みで抱きついてきた。

「みにゃと、大好き!」

 少し低くなった声が胸に響く。
 鍵を渡しただけでこんなに喜ばれるとは思わなかった。
 きっと一人で色々やらせてもらえることが嬉しいのだろう。
 その後もルシアンと手を繋いでスーパーに向かっていく。
 途中で恥ずかしくないのか聞くと、首を傾げていた。

「好きな人と手を繋いで恥ずかしいの?」

 さりげなく言ったルシアンの言葉に僕はドキッとしてしまった。
 本当に将来は魔性な男に成長をしそうな兆しを感じた。

 スーパーに着くとルシアンにカゴを持たせる。
 中に入るとルシアンは真っ先にあるところに向かった。

「くくく、こういうところは変わらないんだね」
「えっ? ホットケーキ食べるでしょ?」

 ルシアンが向かったのはホットケーキミックスが売っている棚だった。
 ホットケーキはルシアンの大好物だからね。
 他にも必要なものや欲しいものをカゴに入れていくが、ルシアンは興味深々に野菜を見ていた。

「みにゃとの世界は野菜が美味しそうだね」
「ルシアンのところとは違うの?」
「んー、僕の世界は野菜ができにくいからね」

 話を聞いていると、ルシアンの世界は地面が痩せているというのか、長い間何も育てられない土地が多いらしい。

「その土地にあったものを選ばないといけないからね。あとで調べてみようか」
「うん!」

 またルシアンが帰るころには、必要そうなものを持たせた方が良いのだろう。
 日本語もだいぶ流暢になってきているし、本も難しいものを持たせても勉強になりそうだ。

 買い物を終えてレジに並ぶと、ルシアンは少し緊張した様子で財布を取り出した。

「2357円です」

 店員が微笑むと、ルシアンは照れたようにお金を渡し、お釣りを受け取ってぺこりと頭を下げた。

「ありがとう!」

 その言葉に店員の動きが一瞬止まっていた。
 やっぱりルシアンは魔性な男になりそうだね。
 ただ、本人は気づいていないのか、僕の方を何度もチラッと見て褒めて欲しそうな顔をしていた。

 スーパーからの帰り道、二人で荷物を持ちながら家に帰っていく。
 前はほとんど僕が持っていたのに、今はルシアンもしっかり荷物を持っている。
 ただ、僕と手を繋ぐのは変わらないようだ。

「すごいね、ちゃんとできてた!」
「うん! みにゃとが教えてくれたからね」

 ルシアンは得意げに笑いながら、頭を僕の方に向けてきた。
 これは撫でてほしいってことだろうか。
 僕は軽く頭を撫でると嬉しそうにしていた。

 家に着くと、すぐに買ったものを冷蔵庫に入れるように教えた。

「トマトはここ、卵はこっち。牛乳は立てて入れるんだ」
「こぼれちゃうから?」
「そう。ちゃんと覚えてるね」
「えへへ、みにゃと一緒になるから覚えないとね」

 その言葉に僕は吹き出しそうになったが、ただ優しく頷いた。
 僕と一緒に住むことを想像しているのだろうか。
 ほんの少し前まで何もわからなかった子が、今ではこうして生活の形を覚えていっている。
 ただ、体の傷を見ていると、ルシアンを傷つける人はいない。
 今後のことも一度しっかりと話さないといけない日がくるのだろう。

「みにゃと、これは?」
「ああ、ホットケーキミックスは外でいいよ!」
「わかった!」

 成長していく後ろ姿は嬉しい反面、どこか寂しくも感じた。
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