25 / 141

25.マンドラゴラの唄

しおりを挟む
 その後メジストの錬金術店に入ると目を赤くしたメジストが立っていた。

「覗いて――」

「ぐずっ、覗いてはない」

 メジストは目を擦りながら、奥の工房に戻って行った。きっと心配して見にきたのだろう。

 工房から大量のスキル玉を持ってきては、子供達にプレゼントしていた。俺も欲しかったが、子供を泣かすやつは自分で稼げと言われてしまい諦めた。

 あの一件以来、ロンとニアはさらに俺にべったりとくっつくようになった。寝る時やお風呂に入る時も常に一緒だ。

 最近は排泄まで一緒に来ようとするため、引き離すのが大変なぐらいだ。

「ねぇ、私も冒険者になりたい」

「僕も武器が欲しい」

 以前よりも活発的になった二人は、自分から魔物と戦いたいと訴えることが増え、自分達の意思とロビンの勧めで冒険者になることが決まった。

 生憎、ロンはスキル【収集】でニアに関して無スキルのため、ポーターとして冒険者ギルドに登録した。

 流石に子供だからか、獣人が関係しているのかはわからないが意地悪をする冒険者はいない。

 ただ、登録するその日に限っては冒険者達は何かに怯えているような感じはしていた。

 そんなことがあって二人は冒険者になることができた。

 そして、俺達三人にとって今日は大事な日だった。

「じゃあ、初めての依頼を受けに行こうか」

「うん!」

 俺達はポーターだけのパーティーを組むこととなった。実際はポーターのロンとニアの方が、俺よりステータスが高いため頼りになる。

 今日の依頼はマンドラゴラという錬金術に必要な魔物の討伐および回収だ。危険度も低いため、ポーターだけのパーティーでも依頼を受けることができた。

「あー、わしの可愛い孫達やー!」

 その依頼主はメジストの錬金術店の店主であるメジストだった。もうメジストにとってロンとニアは孫のような存在だ。

「じゃあ、これが依頼内容だからマンドラゴラを10体持ってきてくれよ」

「わかった! じいじ頑張ってくるよ!」

「今日はニアも活躍してくるからね」

「ああ、無理はしちゃんかんぞ」

 メジストはデレデレしながら二人を撫でている。初めての依頼だからか元気よく店から飛び出して行った。

「あの子達を頼むぞ。もし怪我でもさせたら、ただじゃすまないぞ」

 二人を孫と言っているなら関係上だと俺も孫になるはずだが、どこか俺には優しくないのだ。世の中理不尽だらけだ。

「じゃあ行ってきます」

 俺も店から出ると依頼に書いてあるマンドラゴラの生息地に向かうことにした。

「ロビンあいつらを頼むぞ」

「あいつにあんなこと言って一番の心配はウォーレンのくせに」

「うっさい! お前も早くいけ」

「はいはい」





 マンドラゴラの生息地は森の中でも川の近くに生息しており、自然豊かなところにしかいないらしい。

 そもそも川に行ったことない俺達はどこかウキウキとしていた。

「マン・マン・マンドラ・ゴラゴラ」

 ロンは何か訳の分からない歌を口ずさみながら歩いていた。

「お兄ちゃんしっかりしてよね!」

 逆にニアはどこかキビキビとしている。全く正反対の二人だが仲は相変わらず良い。

「マンドラゴラって確かうるさいやつだよな」

 事前の情報ではマンドラゴラは土の中におり、人の形をした植物の魔物らしい。引っこ抜くと痛みなのか耳に響く声で叫ぶのが特徴だ。

 そのため抜いた瞬間に攻撃しないと、鼓膜が破れるという地味に怖い魔物と言われている。

「おい、お前達川だぞ!」

 歩いていると川をみつけた。子供達…….いや、俺のテンションは最高に上がっていた。

「お兄ちゃん少し落ち着いたら?」

「そうだよ。にいちゃ危ないよ?」

 ウキウキしていたのは俺だけだったらしい。どうやら俺は二人に心配をかけたようだ。

 俺が住んでいた故郷にも、森はあったけど草原が近いため川は存在していない。

「じゃあ、マンドラゴラを探すか」

 俺達は目を凝らしてマンドラゴラを探すことにした。

「マン・マン・マンドラ・ゴラゴラ」

「マン・マン・マンドラ・ゴラゴラ・マンドラ」

「ゴラ・ゴラ・マンドラ・マンマン」

 ロンがずっと変な歌を口ずさんでいたため、いつのまにか俺とニアも釣られて歌っていた。すると足元から声が聞こえていた。

「ウェーイ! マン・マン・マンドラ! 俺もお前もマンドラ! マンドラ!」

 俺達は突然地中から出てきた謎の生物に驚いた。

「にいちゃ、あれがマンドラゴラか?」

 まさかマンドラゴラが自分から出てくるとは思いもしなかった。ロンの歌の影響か、スキルの影響かは分からないが何か惹きつけられたのだろう。

 ちなみにマンドラゴラはスキル【音操作】を持っていた。以前鑑定を魔物にも使ってみたところ、人間と同様にスキルを持っていることに気づいた。

「マン・マン・マンドラ・ゴラゴラ・マンドラ」

 ロンがさらに歌ってみるとマンドラゴラもノリに乗っている。

「ウェーイ! 昨日も今日もマンドラ――」

 今がチャンスだと、マンドラゴラが歌っている最中に、容赦なく短剣を刺した。マンドラゴラの歌を聞くと、なぜか無性にイライラする。

 何が"ウェーイ"だ。こっちは初めて見た川にも入れずイライラしている。

 ただの八つ当たりだって思われるかも知れないが、そんなことは関係ない。

 その後もロンとニアが歌っていると、ボコボコとマンドラゴラ達が出てくる。

 俺はマンドラゴラをストレス発散するかのように倒すと、気づけばマンドラゴラの山ができていた。

 一応マンドラゴラも魔物のため、体からは鮮やかな黄緑色の魔石が出てきた。

「ねぇ、お兄ちゃん川に入ってもいい?」

 討伐が終わり帰ろうとすると、突然ニアが川に入りたいと言い出したのだ。

「オラも川に入る!」

 それに乗ってロンも川に入りたいと言ってきたのだ。

「じゃあ、少し遊んでから帰るか!」

 俺は少し服とズボンを捲ると川の中へ入っていく。初めての感触と冷たさに俺は感動していた。

「ふふふ、なんかお兄ちゃんって私達より子供だよね?」

「それが良いところだな」

「いつも頑張っているからご褒美だね」

「おーい、ロンとニアもおいでー!」

 俺は何かを話している二人を呼んだ。ロンとニアは耳と尻尾を立たせて俺のところまで走ってきた。

 一言あるとすれば人生初の川は最高でした。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!

枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕 タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】 3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!

自力で帰還した錬金術師の爛れた日常

ちょす氏
ファンタジー
「この先は分からないな」 帰れると言っても、時間まで同じかどうかわからない。 さて。 「とりあえず──妹と家族は救わないと」 あと金持ちになって、ニート三昧だな。 こっちは地球と環境が違いすぎるし。 やりたい事が多いな。 「さ、お別れの時間だ」 これは、異世界で全てを手に入れた男の爛れた日常の物語である。 ※物語に出てくる組織、人物など全てフィクションです。 ※主人公の癖が若干終わっているのは師匠のせいです。 ゆっくり投稿です。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

処理中です...