最弱の荷物持ちは謎のスキル【証券口座】で成り上がる〜配当で伝説の武器やスキルやアイテムを手に入れた。それでも一番幸せなのは家族ができたこと〜

84.幽霊

　倒れた男をアイテムボックスにある薬草を束ねる紐で縛ると俺は檻に向かって短剣を構えた。

「少し離れてて」
　俺は雷属性を発動させるとそのまま檻に向かって短剣で切りつけた。やはり素材自体は手元にある金属よりは柔らかいため短剣で檻を開けることができた。

「すげーな」
　少年は俺を見て目を輝かせていた。普通に考えて短剣で鉄格子を切るって以前の俺でも驚きだからな。

「少しここで待ってて」
　俺は子ども達に待つように伝えると部屋を後にした。逃げるにも部屋の外には人が監視のために歩いているのだ。

　そのため他の部屋に残された獣人がいないか確認するとともに人を陽動できるものを探していた。

「なんで俺がこんなところで働かないといけないんだよ」
　声がする方に向かうとそこには調理場のような部屋があった。中にいる男は文句を言いながら肉を切り分けていた。

――ガチャン！

　俺は調理場を通り抜けようとすると何か物に当たってしまい調理台から包丁を落としてしまった。

「ふぇ！？」
　男はこちらを振り向くがどうやらバレていないようだ。

　男が作業に戻ったタイミングで俺は落とした包丁を手に取ると調理台に戻した。

――カラン！

　俺は調理場から離れようしたが、音がする方に目をやるとそこには包丁を落とした男がこちらを見ていた。

「やっぱり幽霊がいるじゃねーかー！」
　外套で俺の姿が見えない男には拾った包丁が空中に浮かんでるように見えただろう。

　男はそのまま全速力で扉に向かって走って行った。

「ああ、怖がらせたようだな」
　どうやら俺を幽霊と勘違いしたのだろう。

　俺はそのまま調理場から出ようと扉に手をかけるといつのまにか扉が開かなくなっていた。

「おい、まさか……」
　どうやら俺はさっき逃げた男のせいで調理場に閉じ込められたようだ。

　俺は扉を押してもびくともしない扉に少し不安になっていた。男が逃げる間際に言った言葉が脳裏に過ぎっているからだ。

　"やっぱり幽霊がいるんじゃねーかー！"この言葉がなぜか引っかかった。

「やっぱりって……」
　俺は振り返るとさっきまでついていなかったはずのコンロの火が大きく燃えていた。

「うあぁぁぁ！」
　俺は短剣を構えるときっといるだろうと思われるところに向かって短剣を切りつけた。

　それと同時に切り刻まれた鍋の破片と謎の液体は周囲に飛び散りさらに火は燃え上がっていた。

「これはもう……いや、ドアを切り刻めばいいのか！」
　俺は逃げるために必死にドアを切り刻むとそこには小さく引くと書いてあるのを俺は知らなかった。

「幽霊が出るなら早く逃げないとだめだ！　呪われでもしたらロンとニアに会えねーぞ！」
　俺はそのまま必死に逃げようと走ると反対側からさっきまで調理場にいた男を掴んだ大柄な男が戻ってきた。

「幽霊なんているはずないだろ！　お前は酒の飲みすぎなんだよ」

「勝手に包丁が浮かんだんだよ！　それにまだ今日は盗み飲んでないぞ」

「おまっ……」

「やばっ！？」

「ほぉ、やっと酒を盗み飲んだのを認めたな」

「いや、俺は……おい！　調理場が燃えているぞ！」

「なに！？」
　俺は横を通り抜けるとそのまま獣人の子ども達がいる部屋に戻ることにした。

　幽霊に捕まったらそのまま家には帰れなくなると小さい頃に教えてもらったからな。

　俺は子ども達が待っている部屋に戻るとみんなで固まって座っていた。

「おい、お前ら幽霊が出たぞ！」

「はぁん！？」
　俺の声に獣人達は唖然としていた。いきなり幽霊って言われてもびっくりするのは仕方ない。

「いや、だから幽霊が――」

「なんか外が騒がしくなってきたわよ」

「逃げるなら今がチャンスってことか」

「そうだ！　逃げるなら今がチャンスだ」
　幽霊に捕まる前に逃げるのが得策だろう。俺は匠の外套を広げると子ども達は俺の体にくっついた。

　これはウサギの獣人を男達から逃すために使った方法と同じだ。事前に逃げる時にどうするか少女と決めていたのだ。

「よし、お前ら逃げるぞ！」
　俺は半分の子ども達を部屋に残してそのまま扉を開けるとなぜか外には誰もいなかった。

　俺は幽霊から逃れるためにその後も必死に獣人の子ども達を船から下ろすと、いつのまにか騒ぎを聞きつけた人達が船の周りに集まっていた。