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95.返してくれ ※一部別視点

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「おい! 恵美えみ大丈夫か!」
 必死に声をかけるが彼女の体は冷たい。胸に耳を当ててみるが心臓が動いている気配はない。

 俺は何かが起きたのだと思いスマホを取り出したが手が震えて救急車を呼ぶことができなかった。

「そういえば空は海は!?」
 急いで居間に向かうとそこには知らない男が立っていた。

「ははは、お前らの父親が帰ってきたぞ」
 振り返った男の足元には動かなくなった空と海の姿があった。俺は急いで男にぶつかり2人を抱えるが恵美と一緒で体は冷たい。

「あああああぁぁぁぁ」
 口からは声にならないような叫び声が出ていた。

「ふふふ、こいつらお前が帰ってきたと勘違いして急いで玄関を開けてきてな。 必死に泣き叫ぶ母親にナイフを刺した時の叫び声は最高だったな!」
 目の前で起きている現実が受け入れられなかった。今日はみんなで子ども達の誕生日を祝う予定だった。

「俺の足を掴んで子どもの名前を叫んでいた時はうるさかったからこうやって指を一本ずつ折り曲げると子どもに逃げるように叫ぶ姿は感動的だったな?」
 男は自分の指を掴み反対方向に曲げるジェスチャーをした。

「あまりの美しい姿に何度もナイフを刺しては抜いたら動かなくなってしまった。 ああ、次はその子達を芸術作品にしようと思ったらすぐに動かないからつまらないよ」
 男はなぜかなんとも言えない表情で俺の方を見ている。その顔はどこか笑っているのか悲しんでいるのか俺にはわからなかった。

「返してくれよ……。 俺の愛する人達を返してくれよ!」

「ははは、それが見たかったんだよ! 芸術って素晴らしいな」
 男は手を大きく広げて叫んでいた。男が何を言っているのか理解ができなかった。ただ言えるのはこの男が俺の大事な家族を殺したということだ。

「じゃあ次は君の番だね?」
 ニヤリと笑った男は近くにあったリモコンを俺に目掛けて投げてきた。俺は咄嗟に目を閉じた。

「ははは、目を閉じたら面白くないよ?」
 耳元に囁かれた声に俺はゾッとした。目を開けた瞬間に男の顔は俺の目の前にあったのだ。

――グサッ!

「あああぁぁぁー!」
 急な腹部の痛みとともに叫んだ。痛みを感じたところに目を向けるとお腹にナイフが刺さっている。

「これだけじゃつまらないな」
 男はおもいっきり俺の腹に刺さったナイフを引き抜くと腹からは血が溢れていた。

 あまりの痛みに動けない。すると、男は空と海のところまで歩いた。

「さぁ? どうする?」
 動かなくなった子ども達にナイフを刺すジェスチャーをしている。

 痛みを堪えながら立ち上がり男の元へ走った。男の振り上げた腕はまた空を刺そうとしていたのだ。

「やめろー!!」
 そのままの勢いで空を庇うと再び背中に痛みを感じた。

「ははは、これが芸術だ!」

 俺は男を押し返すとそのままふらつき倒れた。何かにぶつかったのか鈍い音が響いた。

「空、大丈夫か?」
 空の顔を見ると涙でぐちゃぐちゃになっていた。

 ああ、もう死んでいたんだ。俺の心にある何かがストンと落ちた。

 俺は倒れた男の近くに落ちていたナイフを手に取ると男の元へ向かった。

「大事な家族を返してくれ」
 俺は男の腹に向かって勢いよくナイフを突き刺す。

「痛い痛い……やめてくれ!」
 男は何かを言っていたが何度も何度も俺は男にナイフ刺した。恵美、空、海の痛みはこんなものではないはずだ。

「ははは、これが芸術だったのか……」
 ぴくりとも動かなくなった男の瞳にはナイフを必死に刺す俺の姿が映っていた。

「終わったのか」
 動かなくなった男から離れると痛みで意識が朦朧とする中、子ども達を抱きかかえた。

 そしてそのまま恵美の元へ向かった。

 彼女だけ玄関に倒れたままなのだ。

「これでみんなと一緒だな」
 倒れている恵美を玄関の上り框に凭れるように座らせると隣に空と海も座らせた。

「せっかく誕生日なのにごめんな」
 俺もそのまま座ると家族全員で一緒に並んだ。

「俺もお前達といつまでも一緒だぞ」
 俺そのまま目を閉じると意識が薄れ俺はこの世を去った。

  
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