22 / 39
22 妹
しおりを挟む
「ナナ? おーい……だめ、全然見つからない」
ネネはきょろきょろと、夕暮れに染まりつつある町を歩く。サシャがイケオジとご飯を食べているところまでは二人で眺めていたのだが、お互いお腹が減って各自で屋台を物色している間にサシャはおろかナナまで見失ってしまった。
(ここまで見つからないなら、図書館に行った方がいいかしら)
サシャは通訳の仕事の時は図書館で依頼人と別れると聞いていた。ナナもそれは知っているから、サシャに確実に会うなら図書館に行くのが一番だ。
ため息を吐き、方向転換しようとすると、腕を生暖かい手に掴まれた。
「でゅふふ、お嬢ちゃん、かわいいねぇ。人探しなら、お兄さんも手伝うよ」
鼻息荒く顔を近づけて、見ず知らずの中年男性がそんなことを言ってきた。前世で大人だった時のネネなら、痴漢だろうと大声を出して撃退したが、体も小さい今のネネは、はるかに力の強い男に恐怖心が芽生え、ふるふると首を横に振ることしかできなかった。
「……だ、だい、じょうぶ、です。て、はなして……」
か細い声に、男はいけると思ったのだろう。有無を言わさずにずるずると引っ張っていく。
(あぁ、どうしよう)
「ちょっと待って。君、この人はお父さん?」
優し気で、それでいて色気を感じる声が耳に届いて、混濁しかけていたネネの意識がはっきりする。
後ろを振り向けば、騎士の制服を身に纏った、亜麻色の長い髪の美しい男がいた。
ネネは心臓が一瞬止まったかと思った。
(初めて見た、こんなにかっこいい人……)
でも、会うのが初めてじゃないと魂が叫んでいる。
「ちっ」
不審者は舌打ちして実力行使に出た。ネネの手を掴んだまま走り出したのだ。
ネネは騎士に向かって声を上げた。
「助けて――!」
騎士は微笑んだ。
「任せて、お姫様」
あっという間に不審者を追い越し、鞘を付けたままの剣で男の足を払う。たまらず男は地面に顔を打ち付けた。ネネも釣られてバランスを崩すが、騎士が軽やかにネネの体を受け止めた。
ネネを片腕に抱えて、騎士は不審者を縛り上げた。
「変質者は俺たちが懲らしめるから、安心してね。お姫様は一人でどうしたの?」
後から来た応援の騎士に不審者を引き渡すと、騎士はネネの目を見て尋ねてきた。
(はわわ、イケメンの顔が、こ、こんな近くに……)
混乱して質問にも答えられずにいると、騎士は何かに気づいたように真剣な顔をした。
「君の琥珀色の目、サシャちゃんにそっくり……」
「お姉ちゃんを知っているの? もしかして、オルド様?」
質問の形をとっているが、魂は確信している。
この人は、わたしがずっと探していた人。
(おかしい。わたしはリアム様推しのはず……何で)
でもこの胸のときめきは、絶対に気のせいなんかじゃない。
ぐちゃぐちゃする思考に戸惑っているネネを他所に、オルドは目を見開く。
「お姉ちゃん、って、もしかしてサシャちゃんの妹なの? しかも俺のこと知ってるってことは、サシャちゃん、家で俺の話してくれてるの?」
「あ、そう、ですね。時々……凄腕の騎士様だって」
どうしようもなく軽い男とも言っていたのは心に秘めておく。
「いや~照れるなぁ。あ、サシャちゃんはもうお家に帰ったと思うよ? 彼女を探してたなら、家まで送ろうか?」
「えっと、わたしは双子の姉と出かけていたので、その子を探さないと。ずっと見つからなかったら、図書館で落ち合う予定なんです」
オルドは訝し気な顔をした。
「今日はやけに図書館に用がある人が多いな……。分かった、図書館まで送るよ」
「え⁉︎ いや、オルド様のお手を煩わせるわけには……」
「君みたいなかわいい子を一人にはできないよ。しがない騎士だけど、少しの間エスコートさせて?」
「……はい」
抱えられたまま、懇願するような上目遣いを受けて、ネネは完全に陥落した。
ネネはきょろきょろと、夕暮れに染まりつつある町を歩く。サシャがイケオジとご飯を食べているところまでは二人で眺めていたのだが、お互いお腹が減って各自で屋台を物色している間にサシャはおろかナナまで見失ってしまった。
(ここまで見つからないなら、図書館に行った方がいいかしら)
サシャは通訳の仕事の時は図書館で依頼人と別れると聞いていた。ナナもそれは知っているから、サシャに確実に会うなら図書館に行くのが一番だ。
ため息を吐き、方向転換しようとすると、腕を生暖かい手に掴まれた。
「でゅふふ、お嬢ちゃん、かわいいねぇ。人探しなら、お兄さんも手伝うよ」
鼻息荒く顔を近づけて、見ず知らずの中年男性がそんなことを言ってきた。前世で大人だった時のネネなら、痴漢だろうと大声を出して撃退したが、体も小さい今のネネは、はるかに力の強い男に恐怖心が芽生え、ふるふると首を横に振ることしかできなかった。
「……だ、だい、じょうぶ、です。て、はなして……」
か細い声に、男はいけると思ったのだろう。有無を言わさずにずるずると引っ張っていく。
(あぁ、どうしよう)
「ちょっと待って。君、この人はお父さん?」
優し気で、それでいて色気を感じる声が耳に届いて、混濁しかけていたネネの意識がはっきりする。
後ろを振り向けば、騎士の制服を身に纏った、亜麻色の長い髪の美しい男がいた。
ネネは心臓が一瞬止まったかと思った。
(初めて見た、こんなにかっこいい人……)
でも、会うのが初めてじゃないと魂が叫んでいる。
「ちっ」
不審者は舌打ちして実力行使に出た。ネネの手を掴んだまま走り出したのだ。
ネネは騎士に向かって声を上げた。
「助けて――!」
騎士は微笑んだ。
「任せて、お姫様」
あっという間に不審者を追い越し、鞘を付けたままの剣で男の足を払う。たまらず男は地面に顔を打ち付けた。ネネも釣られてバランスを崩すが、騎士が軽やかにネネの体を受け止めた。
ネネを片腕に抱えて、騎士は不審者を縛り上げた。
「変質者は俺たちが懲らしめるから、安心してね。お姫様は一人でどうしたの?」
後から来た応援の騎士に不審者を引き渡すと、騎士はネネの目を見て尋ねてきた。
(はわわ、イケメンの顔が、こ、こんな近くに……)
混乱して質問にも答えられずにいると、騎士は何かに気づいたように真剣な顔をした。
「君の琥珀色の目、サシャちゃんにそっくり……」
「お姉ちゃんを知っているの? もしかして、オルド様?」
質問の形をとっているが、魂は確信している。
この人は、わたしがずっと探していた人。
(おかしい。わたしはリアム様推しのはず……何で)
でもこの胸のときめきは、絶対に気のせいなんかじゃない。
ぐちゃぐちゃする思考に戸惑っているネネを他所に、オルドは目を見開く。
「お姉ちゃん、って、もしかしてサシャちゃんの妹なの? しかも俺のこと知ってるってことは、サシャちゃん、家で俺の話してくれてるの?」
「あ、そう、ですね。時々……凄腕の騎士様だって」
どうしようもなく軽い男とも言っていたのは心に秘めておく。
「いや~照れるなぁ。あ、サシャちゃんはもうお家に帰ったと思うよ? 彼女を探してたなら、家まで送ろうか?」
「えっと、わたしは双子の姉と出かけていたので、その子を探さないと。ずっと見つからなかったら、図書館で落ち合う予定なんです」
オルドは訝し気な顔をした。
「今日はやけに図書館に用がある人が多いな……。分かった、図書館まで送るよ」
「え⁉︎ いや、オルド様のお手を煩わせるわけには……」
「君みたいなかわいい子を一人にはできないよ。しがない騎士だけど、少しの間エスコートさせて?」
「……はい」
抱えられたまま、懇願するような上目遣いを受けて、ネネは完全に陥落した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
氷のメイドが辞職を伝えたらご主人様が何度も一緒にお出かけするようになりました
まさかの
恋愛
「結婚しようかと思います」
あまり表情に出ない氷のメイドとして噂されるサラサの一言が家族団欒としていた空気をぶち壊した。
ただそれは田舎に戻って結婚相手を探すというだけのことだった。
それに安心した伯爵の奥様が伯爵家の一人息子のオックスが成人するまでの一年間は残ってほしいという頼みを受け、いつものようにオックスのお世話をするサラサ。
するとどうしてかオックスは真面目に勉強を始め、社会勉強と評してサラサと一緒に何度もお出かけをするようになった。
好みの宝石を聞かれたり、ドレスを着せられたり、さらには何度も自分の好きな料理を食べさせてもらったりしながらも、あくまでも社会勉強と言い続けるオックス。
二人の甘酸っぱい日々と夫婦になるまでの物語。
逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子
ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。
(その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!)
期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。
モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します
みゅー
恋愛
乙女ゲームに、転生してしまった瑛子は自分の前世を思い出し、前世で培った処世術をフル活用しながら過ごしているうちに何故か、全く興味のない攻略対象に好かれてしまい、全力で逃げようとするが……
余談ですが、小説家になろうの方で題名が既に国語力無さすぎて読むきにもなれない、教師相手だと淫行と言う意見あり。
皆さんも、作者の国語力のなさや教師と生徒カップル無理な人はプラウザバック宜しくです。
作者に国語力ないのは周知の事実ですので、指摘なくても大丈夫です✨
あと『追われてしまった』と言う言葉がおかしいとの指摘も既にいただいております。
やらかしちゃったと言うニュアンスで使用していますので、ご了承下さいませ。
この説明書いていて、海外の商品は訴えられるから、説明書が長くなるって話を思いだしました。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
混血の私が純血主義の竜人王子の番なわけない
三国つかさ
恋愛
竜人たちが通う学園で、竜人の王子であるレクスをひと目見た瞬間から恋に落ちてしまった混血の少女エステル。好き過ぎて狂ってしまいそうだけど、分不相応なので必死に隠すことにした。一方のレクスは涼しい顔をしているが、純血なので実は番に対する感情は混血のエステルより何倍も深いのだった。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
悪役令嬢のビフォーアフター
すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。
腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ!
とりあえずダイエットしなきゃ!
そんな中、
あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・
そんな私に新たに出会いが!!
婚約者さん何気に嫉妬してない?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる