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38 主従
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水色の髪の少女は、パタパタと部室棟の階段を上る。三階にたどり着くと、目的の部屋に飛び込んだ。
突然の侵入者に、甘い声が響く部屋が静まり返る。空気をぶち壊したことなど全く気にも留めず、メイドは主人がいるベッドに駆け寄った。
「レオ様、緊急事態」
「……はぁ。メル、少し待ってろ」
嘆息した裸の男は、ベッドから出てメルと呼ばれたメイドの首根っこを掴むと、無慈悲に部屋から放り出した。
メルは不本意そうに体育座りをして、廊下で待つ。
道行く生徒会の構成員が一瞬ぎょっとした顔でメルを見るが、よくあることでもあるので特に触れずに生徒会室に入っていく。
そのまま一時間ほど経って、ようやく蕩けた表情の女子生徒が覚束ない足取りで部屋から出てきた。座っているメルに気づくと、気まずそうに階段を下りていく。
「おい、入っていいぞ」
扉を開けて、メルの主人が頭を覗かせた。だいぶ着崩してはいるが、今は制服を着ている。
部屋に入るなり、レオはソファに座って足を組み、頬杖をついた。
「それで、主人が楽しんでいるところを邪魔して何のつもりだ?」
不機嫌そうなレオに構わず、メルはその膝の上に乗った。少し乱れた黒髪に頬ずりをする。
「これ」
メルはスカートの裾をめくる。露わになった足を見て、レオはピクリと眉を動かした。
「レオ様の愛情、消えちゃった」
メルは名残惜しそうに痣があった肌をなぞる。
ぽん、とレオはメルの頭に触れた。
「んだよ、そんなことか。心配しなくても、またいくらでもつけてやる。にしても誰にやられた?」
「園芸部の金髪縦ロール」
「あぁ、紅眼の嬢ちゃんか。あの嬢ちゃんの魔法でも、この傷は消えねぇんだな」
金髪縦ロールという情報ですぐにリリアのことだと理解したレオは、感心したように痛々しい切り傷を見つめた。
「バークレイの坊ちゃんも、優しげな顔してえげつねぇ武器使うよなぁ。魔法耐性に特化した剣で、ある程度の魔法は跳ね返せるし、つけた傷は回復魔法でも完治しねぇときた。逃がしても一生消えない傷を残すっていう執念が見えるよなぁ」
メルはきゅ、とレオの首に抱きついた。
「レオ様以外に傷物にされた、悲しい」
「てめぇがしくじったのが悪い。初仕事とはいえ、あんなおっさん一人仕留められねぇとは思わなかったぞ」
「邪魔が入らなければ殺せた」
頬を膨らませて反論するメルの額を、「プロは邪魔が入ろうと仕事をこなすんだよ」と小突いた。
「まぁ依頼主の組織は昨日の今日で何者かに壊滅させられたっぽいし、失敗の責任は取らされずに済んだからいいけどよ。次はちゃんとやれよ」
小突かれた額を押さえながらメルはこくりと頷いた。その態度に満足したレオは大きな欠伸をする。
「ふぁ……あとの問題はここの騎士団だが、痕跡はちゃんと消せてたし見つかることはないだろ」
レオは「ひと眠りしたいからもう降りろ」とメルを下ろそうとするが、メルはシャツの袖を掴んで留めた。
「この傷、赤髪の女にも見られた」
「赤髪?」
「ターゲットと一緒にいた女」
レオの眠たげな目が、一気に剣吞なものになる。肉食獣のような気迫があふれ出て、メルは少しぞくぞくした。
「……それは、ちぃとまずくないか? 何でもっと早く言わなかった」
「メルは緊急事態って言った」
淡々と返すメルに、レオは気まずそうに髪をかき上げた。
「あー、それは悪かった。……どうすっかなぁ」
「誰かに話される前に殺す?」
「王立学園の生徒が殺されたってなったら大騒ぎだろ。しかも被害者が例の事件の現場に立ち会った生徒なんて口封じなのが丸わかりだ。うやむやになりそうな捜査が厳しくなっちまうのも面倒だし……穏便に誤魔化せるならそうしてぇ」
逸るメルを諭しながら、レオは指を鳴らして魔法陣を展開した。
「とりあえず、その女がどこまで勘づいているか調べねぇとな」
突然の侵入者に、甘い声が響く部屋が静まり返る。空気をぶち壊したことなど全く気にも留めず、メイドは主人がいるベッドに駆け寄った。
「レオ様、緊急事態」
「……はぁ。メル、少し待ってろ」
嘆息した裸の男は、ベッドから出てメルと呼ばれたメイドの首根っこを掴むと、無慈悲に部屋から放り出した。
メルは不本意そうに体育座りをして、廊下で待つ。
道行く生徒会の構成員が一瞬ぎょっとした顔でメルを見るが、よくあることでもあるので特に触れずに生徒会室に入っていく。
そのまま一時間ほど経って、ようやく蕩けた表情の女子生徒が覚束ない足取りで部屋から出てきた。座っているメルに気づくと、気まずそうに階段を下りていく。
「おい、入っていいぞ」
扉を開けて、メルの主人が頭を覗かせた。だいぶ着崩してはいるが、今は制服を着ている。
部屋に入るなり、レオはソファに座って足を組み、頬杖をついた。
「それで、主人が楽しんでいるところを邪魔して何のつもりだ?」
不機嫌そうなレオに構わず、メルはその膝の上に乗った。少し乱れた黒髪に頬ずりをする。
「これ」
メルはスカートの裾をめくる。露わになった足を見て、レオはピクリと眉を動かした。
「レオ様の愛情、消えちゃった」
メルは名残惜しそうに痣があった肌をなぞる。
ぽん、とレオはメルの頭に触れた。
「んだよ、そんなことか。心配しなくても、またいくらでもつけてやる。にしても誰にやられた?」
「園芸部の金髪縦ロール」
「あぁ、紅眼の嬢ちゃんか。あの嬢ちゃんの魔法でも、この傷は消えねぇんだな」
金髪縦ロールという情報ですぐにリリアのことだと理解したレオは、感心したように痛々しい切り傷を見つめた。
「バークレイの坊ちゃんも、優しげな顔してえげつねぇ武器使うよなぁ。魔法耐性に特化した剣で、ある程度の魔法は跳ね返せるし、つけた傷は回復魔法でも完治しねぇときた。逃がしても一生消えない傷を残すっていう執念が見えるよなぁ」
メルはきゅ、とレオの首に抱きついた。
「レオ様以外に傷物にされた、悲しい」
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「邪魔が入らなければ殺せた」
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「まぁ依頼主の組織は昨日の今日で何者かに壊滅させられたっぽいし、失敗の責任は取らされずに済んだからいいけどよ。次はちゃんとやれよ」
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「ふぁ……あとの問題はここの騎士団だが、痕跡はちゃんと消せてたし見つかることはないだろ」
レオは「ひと眠りしたいからもう降りろ」とメルを下ろそうとするが、メルはシャツの袖を掴んで留めた。
「この傷、赤髪の女にも見られた」
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「あー、それは悪かった。……どうすっかなぁ」
「誰かに話される前に殺す?」
「王立学園の生徒が殺されたってなったら大騒ぎだろ。しかも被害者が例の事件の現場に立ち会った生徒なんて口封じなのが丸わかりだ。うやむやになりそうな捜査が厳しくなっちまうのも面倒だし……穏便に誤魔化せるならそうしてぇ」
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