忘れてしまえたらいいのに(旧題「友と残映」)

佐藤朝槻

文字の大きさ
1 / 15

友と残映 前編

しおりを挟む
 
 下校途中、子どもの声が背後から聞こえた。
 猫西ねこにしは重いランドセルを背負い直したあと、かかとを浮かせると、足音を殺して走りだす。そうして通学路ではない道の角を曲がったとき、慌てて立ち止まった。

 灰青の影が道の真ん中にいた。小石よりも大きく、コンクリートブロックよりも小さく、濃い影だった。
 その影が、雷のごとき鋭さで迫ってきた。
 狭く、薄暗い道。
 得体の知れない影。
 ――ぼろり。
 給食で残したパンが手からこぼれ落ちる音に驚いて後ろに転ぶ。

(怖い……!)

 とっさに目をつむった。だが、しばらくしても痛みは感じない。おそるおそる目を開けると、地面にあったはずのパンが消えていた。辺りを見回せば、ブロック塀に登って颯爽さっそうと去っていく影。その影はパンを咥えるように見えた。


「猫か」


 この町では、かつて多頭飼いに悩まされた老婆が飼い猫を放ったことがある。そのため、ご飯を探し求めている野良猫が多いのだ。

 今しがた出会ったのは、しかし、ほかと違う。立ち姿は気高く、灰青の垂れ耳や長毛はファーのついたかばんのようで、黄金きんの瞳は稲穂畑を思わせる輝きを持っていた。

(また、会えるかな?)

 願いに応えるように、放課後になると決まって灰青の猫が姿を現した。猫西も決まって給食の残りを与えた。この関係は、一週間ほど続いていた。

 今日も灰青の猫を前に屈み、給食のパンの欠片をく。
 灰青の猫は左右に行ったり来たりして、はじめは警戒するものの徐々に歩み寄り、足もとでパンを食べはじめるのだった。


「僕、猫が好きじゃないんだ。目つき怖いし、親も外の猫には触るなって言うし。でも君は平気。君に会いたくて、先週から毎日学校に行ってるんだ」


 グルグルと鳴く声は低く、品がある。


「僕たち、友達になれるかもね。なんてね、さすがに図々しいよね」


 月のように淡い光を持つ瞳がまっすぐ見つめてくる。


「……僕たち、友達だ」


 パンを口に含む猫の仕草が愛おしく、自然と笑顔になった。
 手を伸ばすと、灰青の猫にみつかれた。


「食べやすいように千切ってるだけだよ」


 脂汗がにじんでも微笑を崩さず、明るい声音を努めた。痛みは、友達に見せたくない。


「放して」


 双方のにらみあいは続いた。涙が流れる頃、ようやく灰青の猫が走り去った。

 帰宅後、母に引っ張られながら病院に向かった。涙を目にいっぱい溜めながらしかる母の声が罪悪感を抱かせた。

 それでも診察を待つ間、猫西は灰青の猫に思いを巡らせていた。友達になったのだから、あの子を守らなければならない。敵ではないと伝えなければいけない。友達のことを考えると痛みも空腹も遠ざかっていった。

 後日、親を説得し、ついに灰青の猫を保護する許可をもらった。しかしながらまれた日以降、灰青の猫に会うことはなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

現実とサキュバスのあいだで ――夢で告白した相手が、同居を始めた話

そう
青春
ある日家に突然現れた謎のサキュバスのホルさん! 好感度はMAXなようで流されるがまま主人公はホルさんと日常を過ごします。 ほのぼのラブコメというか日常系小説 オチなどはなく、ただひたすらにまったりします 挿絵や文章にもAIを使用しております。 苦手な方はご注意ください。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...