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友と残映 前編
しおりを挟む下校途中、子どもの声が背後から聞こえた。
猫西は重いランドセルを背負い直したあと、かかとを浮かせると、足音を殺して走りだす。そうして通学路ではない道の角を曲がったとき、慌てて立ち止まった。
灰青の影が道の真ん中にいた。小石よりも大きく、コンクリートブロックよりも小さく、濃い影だった。
その影が、雷のごとき鋭さで迫ってきた。
狭く、薄暗い道。
得体の知れない影。
――ぼろり。
給食で残したパンが手からこぼれ落ちる音に驚いて後ろに転ぶ。
(怖い……!)
とっさに目を瞑った。だが、しばらくしても痛みは感じない。おそるおそる目を開けると、地面にあったはずのパンが消えていた。辺りを見回せば、ブロック塀に登って颯爽と去っていく影。その影はパンを咥えるように見えた。
「猫か」
この町では、かつて多頭飼いに悩まされた老婆が飼い猫を放ったことがある。そのため、ご飯を探し求めている野良猫が多いのだ。
今しがた出会ったのは、しかし、ほかと違う。立ち姿は気高く、灰青の垂れ耳や長毛はファーのついた鞄のようで、黄金の瞳は稲穂畑を思わせる輝きを持っていた。
(また、会えるかな?)
願いに応えるように、放課後になると決まって灰青の猫が姿を現した。猫西も決まって給食の残りを与えた。この関係は、一週間ほど続いていた。
今日も灰青の猫を前に屈み、給食のパンの欠片を撒く。
灰青の猫は左右に行ったり来たりして、はじめは警戒するものの徐々に歩み寄り、足もとでパンを食べはじめるのだった。
「僕、猫が好きじゃないんだ。目つき怖いし、親も外の猫には触るなって言うし。でも君は平気。君に会いたくて、先週から毎日学校に行ってるんだ」
グルグルと鳴く声は低く、品がある。
「僕たち、友達になれるかもね。なんてね、さすがに図々しいよね」
月のように淡い光を持つ瞳がまっすぐ見つめてくる。
「……僕たち、友達だ」
パンを口に含む猫の仕草が愛おしく、自然と笑顔になった。
手を伸ばすと、灰青の猫に噛みつかれた。
「食べやすいように千切ってるだけだよ」
脂汗が滲んでも微笑を崩さず、明るい声音を努めた。痛みは、友達に見せたくない。
「放して」
双方の睨みあいは続いた。涙が流れる頃、ようやく灰青の猫が走り去った。
帰宅後、母に引っ張られながら病院に向かった。涙を目にいっぱい溜めながら叱る母の声が罪悪感を抱かせた。
それでも診察を待つ間、猫西は灰青の猫に思いを巡らせていた。友達になったのだから、あの子を守らなければならない。敵ではないと伝えなければいけない。友達のことを考えると痛みも空腹も遠ざかっていった。
後日、親を説得し、ついに灰青の猫を保護する許可をもらった。しかしながら噛まれた日以降、灰青の猫に会うことはなかった。
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