貞操逆転国の亡命代行

空の小説マン

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第一話 始動

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遥か古の時代、かつて大陸は一つだった。
時を重ね、各地に様々な特色、文化、思想が根付き始めると、次第に地方で国が建ち、互いに国境を引いた。
ある国は魔法を極め、ある国は軍術を学んだ。
この物語は、大陸にある国の一つ。
"軍事国家ニカルクア"から幕を開ける。

◇◆◇◆◇◆◇

軍事国家ニカルクア 国防軍基地 作戦会議室にて。

軍服を着た白髪の軍人が、一人椅子に座る男に語りかけた。
「突然の招集すまなかったな、ウルフ。
国防戦線に出ていた君を、呼び戻すのは気が引けたんだが...」
ウルフと呼ばれた男は、椅子に腰掛けながら、
静かに白髪の軍人へ答える。
「いいさ。丁度、前線も落ち着いてきた所だ。
俺が居ても居なくても変わらない。
それより新しい任務があって、俺を呼んだんじゃないのか?大佐」
ウルフが親しげに、大佐と呼ぶ白髪の軍人は、
手に持った資料をテーブルの上に広げると、任務の詳細を語った。
「実は先日、隣国のルィフメー王国から、亡命申請があった。
我が国へ亡命を望むのは、ルィフメー王国軍学校に所属する男子生徒一名だ。
名をロビン・アダムスカという」
資料に目を通したウルフは、少佐に問い返した。
「亡命理由は?国からの亡命を望むってことは、
相応の理由があるんだろう?」
ウルフの問いに対し、大佐は真剣な眼差しで答える。
「魔法の発展したルィフメー王国は、我々ニカルクアと、社会構造が根本的に違う。
魔力を有する女性が、絶対的な権力を握り、
魔力を持たない男性は、奴隷のように扱われる。
亡命希望者は、祖国の女尊男卑社会に、不満を持っていたのだろう」
大佐の話を通し、ルィフメー王国の内情を把握したウルフは、静かに口を開いた。
「まさに貞操観念が逆転した国というわけだ。
俺達の住むニカルクアと勝手が違うようだ」
大佐は頷いた後、ウルフに話を続ける。
「亡命代行任務は、こちらとしても有益だ。
亡命希望者を通じて、ルィフメー王国の内情を、詳しく知ることが出来る。
従って、今回の任務の作戦を説明しよう」
すると大佐は、懐から何かを取り出し、テーブルの上に置いた。
「ウルフ、君はルィフメー王国に単独潜入し、亡命希望者と接触後、
"この薬"を服用して対象と成り替わるんだ」
テーブルに置かれたフラスコを見て、怪訝な顔をするウルフに、大佐は作戦の説明を続けた。
「この薬は、我が国で開発した"整形薬"だ。
亡命希望者の姿に成り替われるよう、調合を済ませてある。
専用の中和剤を飲むことによって、元の姿に戻れるようになっている。
ウルフ、君は亡命希望者に成り替わり、対象が国境を越え、安全な場所へ辿り着くまで、時を稼いでくれ。
それが今回の君の任務だ」
ウルフは、大佐から作戦概要を耳に入れ、考え込んだ後、言葉を呟いた。
「デコイトラップだな。亡命希望者が安全な場所まで逃亡する間、
俺が対象に成り代わって、彼から注意を逸らすわけだ」
大佐はウルフの言葉に対し、深刻な声で応える。
「今回の任務、リスクのある単独潜入任務になるだろう。
並程度の兵士じゃ完遂することは難しい。
だから君に頼んでいるのだ、ウルフ。
どうかこの任務、引き受けてくれないだろうか?」
するとウルフは、上官である大佐の手を取り、迷いなく頷いてみせた。
「大佐、俺は貴方の部下だ。
従軍する兵士である以上、上官の命には必ず従う。
貴方は、俺にお願いなんてする必要ないんだぜ」
大佐はウルフの真っ直ぐな瞳に対し、信頼を置いた瞳で返した。

◇◆◇◆◇◆◇

数日後 魔導国家ルィフメー 海岸沿いの港町にて。

様々な交易船が行き交う、活気の溢れたルィフメーの港に、一隻の貨物船が停泊する。
船乗り達が貨物船から、次々と荷物を降ろしていくと、
木箱の一つが、人気の無い路地裏に置かれ、
仕事を終えた船乗りは、静かにその場を離れていった。
そしてしばらくすると、中から何者かが姿を現した。
「ふぅ、やはり箱詰めにされて渡航するのは、体の節々を痛めるな...」
木箱から姿を現したのは、紛れもなくウルフだった。
ルィフメー王国へ、潜入任務で訪れている彼が、正規の手順で来国出来るわけもなく、
貨物船からの密入国を余儀なくされるのは、当然の帰結であった。

違和感のないよう、現地の服に身を包んだウルフは、路地裏から静かに街道へと移るのだった。

◇◆◇◆◇◆◇

街道を渡り、人里離れた森の中に、足を踏み入れウルフは、地図を見ながら、目的地へと距離を縮めた。
目的地は、亡命希望者ロビン・アダムスカの居る、ルィフメー王国軍学校。
ウルフは、近辺から学校を偵察した後、対象との接触を試みようとしていた。
彼が、茂みをかき分けながら、森の中を進んでいくと、前方から人の駆ける音が聞こえてきた。
ウルフが、茂みに隠れ様子を伺うと、一人の金髪の少女が、暴漢三人に追われているのが見て取れた。
必死に逃げる少女は、木に足をかけ転倒し、暴漢達に追い詰められる。
暴漢の一人が、懐にある短剣をギラつかせ、少女に不敵な笑みを見せた。
「なんだぁ?コイツ女なのに、魔法を使ってこねえじゃねえか」
すると彼の仲間が、斧を手に倒れ込む少女へ迫る。
「丁度いいや。今まで俺達、男を蔑んできた罰を、受けてもらおうかァ!!」
暴漢は斧を振り上げ、少女へ刃を振り下ろそうとする。
すると金髪の少女は、震えた声を喉から捻り出した。
「た、助け...!」
ウルフは彼女の様子を見て、迷わず手を差し述べようとした。
彼は、地面に転がる石を拾い上げると、
茂みから暴漢の目の前へ、静かに投げつけた。
石の方へ注意を向けた、暴漢達の背後から、
ウルフは音も無く襲いかかる。
暴漢の一人の腕と首を抑えた彼は、足をかけ、敵を地面に投げ飛ばした。
「な、なんだテメエは!?」
敵が戦闘態勢に入る前に、ウルフは、暴漢から短剣を取り上げ、首を両手で抑え、後方の地面に叩き伏せる。
最後の一人へ、瞬時に肉薄したウルフは、
胸ぐらを掴み上げ、足をかけて、勢いよく地面に投げ飛ばすと、一瞬で暴漢三人を無力化した。
勢いよく地面に投げ飛ばされ、呻き声を上げる暴漢達を他所に、
ウルフは短剣を地面に捨て、その場から去ろうとした。
すると倒れ込んでいた少女は、顔を上げ、ウルフに対し礼を述べた。
「あ、あの!助けて頂きありがとうございました!
どうかお名前を...」
彼女が目線を上げる頃には、ウルフは森の中へ、姿を消しており、
少女の視界の中に、彼の顔が映ることはなかった。
一人静かに、目的地へと足を進めるウルフは、脳裏に思考を巡らせる。
(聞いていた話と違うな。
女性は魔法を扱える分、男性より強いと思っていたが。
それとも暴漢の口振りからして、先程の少女側に、特筆した特徴があるのか?)

ウルフは長考しながらも、見知らぬ土地、
ルィフメー王国で、単独潜入任務を遂行するのだった。
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