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第二話 偵察
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木々の生茂る森を抜け、ルィフメー王国軍学校の見える丘まで、辿り着いたウルフは、懐から望遠鏡を取り出した。
潜入任務として訪れている以上、
他国の痕跡を、一切残すことは出来ない。
故に彼の装備は、望遠鏡以外、全て現地調達であり、
望遠鏡も、ルィフメーで流通している市販の物だった。
ウルフは、茂みに隠れながら、望遠鏡のレンズ越しに、静かに軍学校内を偵察した。
すると校内の野外演習場に、人が集まっているのが見え、
ウルフは注意深く、人集りを確認する。
集っている殆どの生徒が、魔法を扱える女子生徒であり、
少数居る男子生徒は、魔力を持たない故に、女子生徒から散々な扱いを受けていた。
その内の一人である男子生徒が、黒髪の女子生徒と、模擬戦を行っており、
彼女の剣裁きに圧倒され、一方的な試合を、強いられていたのが見て取れた。
女子生徒の剣圧に押され、地面に突き飛ばされる男子生徒。
そんな彼を見て、黒髪の彼女は、厳しい声を送りつけた。
「このくらいで音を上げるな!魔法が扱えない以上、剣技を上達させるしか、お前に生き残る道はない!」
彼女に剣先を向けられ、地面に倒れ込む男子生徒。
ウルフは、望遠鏡越しに彼の顔を見て、懐から取り出した写真と見比べた。
(なるほど、あの男が亡命希望者、ロビン・アダムスカで間違いなさそうだ)
すると黒髪の少女の元に、ガタイの良い赤髪の女子生徒が、腕を組んで顔を出した。
「おいおいクロミネ、あんまやり過ぎんなって。
男はアタシらより貧弱なんだ、少しでも力んだら殺しかねないぜ?」
ロビンを見下ろす二人を見て、周囲の生徒達は、羨望の眼差しと歓声を送った。
「流石、軍学校筆頭の御二方は、格が違うわね!」
「当然よ。剣術の筆頭クロミネ様、体術の筆頭ベティ様、いずれも各分野で、頂点を極められているお方。
私達とは次元が違うわ」
模擬戦が終了し、多くの生徒達が、二人に群がる。
黒髪の少女クロミネは、剣を腰の鞘に納め、赤髪の女子生徒ベティに連れられ、生徒達の群れを他所に、足を進めた。
地面に倒れたロビンが、放置されているのを見て、
ウルフは改めて、この国の女尊男卑社会を実感し、
望遠鏡から目を離すと、再び森の中へ姿を消すのだった。
◇◆◇◆◇◆◇
人集りが消え、地面に倒れ込むロビンの元に、一人の少女が駆けつけた。
「大丈夫ロビンくん!?怪我はない?」
少女は、彼に肩を貸し、近くのベンチに座らせると、体の何処にも異常がないか確認した。
するとロビンは、安心させるように、少女へ語りかける。
「大丈夫だよロア、何ともない。
ただ突き飛ばされただけだ」
静かに微笑むロビンを見て、少女ロアは、心配そうな眼差しを浮かべる。
「もー!そう言っていつも無理するんだから!
ちょっと待ってて、一応治癒魔法をかけてみるから!」
ロアは、掌をロビンに向け、身体の自然治癒力を、向上させる治癒魔法を発動させた。
掠り傷一つ無くなったロビンは、ロアに礼を述べ、言葉を送った。
「ありがとうロア。男の俺にまで気にかけてくれるのは、君しかいないな」
するとロアは、むすっとした顔を浮かべながら、ロビンに向かって言葉を返した。
「男も女も関係ないよ!困ってる人が居たら誰だろうと助ける!
私のお節介魂を甘く見ないでよね!」
ふふんと胸を張るロアを見て、ロビンは小声で呟いた。
「流石、軍学校の医術筆頭だ。
精神力も俺と比べ物にならないな...」
するとロビンは、静かに立ち上がり、野外演習場に再び足を進めた。
そんな彼を見てロアは、静止するように腕を掴む。
「だ、ダメだよ!大人しくしてなくちゃ!まだ稽古するつもりなの!?」
ロビンは、模擬戦用の剣を握りながら、ロアの声に小さく返した。
「クロミネに、お前一人だけ居残りしていろって、釘刺されたんだ。
守らないと何言われるか分からない」
「で、でも...」
すると校舎の方から、呼鈴が鳴り響き、ロビンは優しくロアに微笑んだ。
「大丈夫、すぐ行くさ。先に行ってて」
ロビンは、ロアの元を離れ、演習場の中央まで行くと、一人剣を手に、素振りをし始めた。
未熟な力を養うべく、自身を取り巻く雑念を、払うかのように、
彼は一心不乱に、剣を振り下ろした。
◇◆◇◆◇◆◇
空も暗くなり、夜風が涼しく吹き始める頃。
野外演習場に、姿を現したのは、黒髪を靡かせるクロミネだった。
彼女の視線の先には、一人剣の素振りに勤しむ、ロビンの姿があり、
クロミネは感心しながらも、厳しい言葉をかけた。
「約束通り、稽古に勤しんでいるのはいいが、ベンチに包帯と軽食が置いてあったぞ。
ロアが用意したものだろう?」
二人が別れた後、ロアは、一人稽古するロビンを気遣い、
医療用の包帯と軽食のサンドイッチを、ベンチに置いて行った。
彼女の甘さに、ため息を付き、クロミネはロビンへ苦言を呈す。
「全く、その甘さが戦場では死に直結するというのに。
ロビン、お前も他人に頼ろうとするな。
戦場で頼れるのは、常に己の力のみだということを理解しろ」
するとロビンは、素振りを止め、クロミネに小さく詫びを入れる。
「すまなかった。次からは気をつけるよ」
「次などない、戦場で次があると考えて動く者は...」
次の瞬間、軍学校近辺に、警鐘が鳴り響き、クロミネは顔色を変え、話を中断した。
「近辺に避難指示が出た知らせだ。校舎に急ぐぞ」
クロミネとロビンは、すぐさま軍学校の校内に移動した。
◇◆◇◆◇◆◇
軍学校の教室にて。
ロビンは他の生徒達と共に、教官の指示に耳を傾ける。
「皆、落ち着いて聞いてほしい。
今回、避難指示が出されたのは、軍学校近辺で"魔物"が出没したからだ。
既に、逃げ遅れた生徒達に、被害が及んでいる。
王国軍も救助派遣までに、時間が掛かるらしい。
だからといって、これ以上放置すれば、生徒達への被害は、広がる一方だ。
そこで我々教官達が、魔物に対処する間、生徒達を先導し、
安全な場所に、避難させる者達を募りたい」
すると教室内で、真っ先に手を挙げたのは、真っ直ぐな瞳を浮かべたクロミネだった。
「私が生徒達を先導します。道中の護衛も私が...」
すると姿勢を崩しながら、ベティも手を挙げ、立候補する。
「ホントはアタシが、魔物をぶっ飛ばしてやってもいいんだけどなァ」
ニヤリと笑みを浮かべるベティを見て、クロミネはため息を吐くと、
生徒達の避難先導役は、二人で決定した。
教官が、指示を皆に伝え、魔物の居る現場に赴くと、
二人は、教室に居る生徒達を率い、安全な場所まで避難させようと移動した。
ロビンも、他の生徒達と共に、先導する二人に従い、
校舎の廊下を渡って、校外に出ようとする。
しかしその生徒達の中に、ロアの姿はどこにもなかった。
潜入任務として訪れている以上、
他国の痕跡を、一切残すことは出来ない。
故に彼の装備は、望遠鏡以外、全て現地調達であり、
望遠鏡も、ルィフメーで流通している市販の物だった。
ウルフは、茂みに隠れながら、望遠鏡のレンズ越しに、静かに軍学校内を偵察した。
すると校内の野外演習場に、人が集まっているのが見え、
ウルフは注意深く、人集りを確認する。
集っている殆どの生徒が、魔法を扱える女子生徒であり、
少数居る男子生徒は、魔力を持たない故に、女子生徒から散々な扱いを受けていた。
その内の一人である男子生徒が、黒髪の女子生徒と、模擬戦を行っており、
彼女の剣裁きに圧倒され、一方的な試合を、強いられていたのが見て取れた。
女子生徒の剣圧に押され、地面に突き飛ばされる男子生徒。
そんな彼を見て、黒髪の彼女は、厳しい声を送りつけた。
「このくらいで音を上げるな!魔法が扱えない以上、剣技を上達させるしか、お前に生き残る道はない!」
彼女に剣先を向けられ、地面に倒れ込む男子生徒。
ウルフは、望遠鏡越しに彼の顔を見て、懐から取り出した写真と見比べた。
(なるほど、あの男が亡命希望者、ロビン・アダムスカで間違いなさそうだ)
すると黒髪の少女の元に、ガタイの良い赤髪の女子生徒が、腕を組んで顔を出した。
「おいおいクロミネ、あんまやり過ぎんなって。
男はアタシらより貧弱なんだ、少しでも力んだら殺しかねないぜ?」
ロビンを見下ろす二人を見て、周囲の生徒達は、羨望の眼差しと歓声を送った。
「流石、軍学校筆頭の御二方は、格が違うわね!」
「当然よ。剣術の筆頭クロミネ様、体術の筆頭ベティ様、いずれも各分野で、頂点を極められているお方。
私達とは次元が違うわ」
模擬戦が終了し、多くの生徒達が、二人に群がる。
黒髪の少女クロミネは、剣を腰の鞘に納め、赤髪の女子生徒ベティに連れられ、生徒達の群れを他所に、足を進めた。
地面に倒れたロビンが、放置されているのを見て、
ウルフは改めて、この国の女尊男卑社会を実感し、
望遠鏡から目を離すと、再び森の中へ姿を消すのだった。
◇◆◇◆◇◆◇
人集りが消え、地面に倒れ込むロビンの元に、一人の少女が駆けつけた。
「大丈夫ロビンくん!?怪我はない?」
少女は、彼に肩を貸し、近くのベンチに座らせると、体の何処にも異常がないか確認した。
するとロビンは、安心させるように、少女へ語りかける。
「大丈夫だよロア、何ともない。
ただ突き飛ばされただけだ」
静かに微笑むロビンを見て、少女ロアは、心配そうな眼差しを浮かべる。
「もー!そう言っていつも無理するんだから!
ちょっと待ってて、一応治癒魔法をかけてみるから!」
ロアは、掌をロビンに向け、身体の自然治癒力を、向上させる治癒魔法を発動させた。
掠り傷一つ無くなったロビンは、ロアに礼を述べ、言葉を送った。
「ありがとうロア。男の俺にまで気にかけてくれるのは、君しかいないな」
するとロアは、むすっとした顔を浮かべながら、ロビンに向かって言葉を返した。
「男も女も関係ないよ!困ってる人が居たら誰だろうと助ける!
私のお節介魂を甘く見ないでよね!」
ふふんと胸を張るロアを見て、ロビンは小声で呟いた。
「流石、軍学校の医術筆頭だ。
精神力も俺と比べ物にならないな...」
するとロビンは、静かに立ち上がり、野外演習場に再び足を進めた。
そんな彼を見てロアは、静止するように腕を掴む。
「だ、ダメだよ!大人しくしてなくちゃ!まだ稽古するつもりなの!?」
ロビンは、模擬戦用の剣を握りながら、ロアの声に小さく返した。
「クロミネに、お前一人だけ居残りしていろって、釘刺されたんだ。
守らないと何言われるか分からない」
「で、でも...」
すると校舎の方から、呼鈴が鳴り響き、ロビンは優しくロアに微笑んだ。
「大丈夫、すぐ行くさ。先に行ってて」
ロビンは、ロアの元を離れ、演習場の中央まで行くと、一人剣を手に、素振りをし始めた。
未熟な力を養うべく、自身を取り巻く雑念を、払うかのように、
彼は一心不乱に、剣を振り下ろした。
◇◆◇◆◇◆◇
空も暗くなり、夜風が涼しく吹き始める頃。
野外演習場に、姿を現したのは、黒髪を靡かせるクロミネだった。
彼女の視線の先には、一人剣の素振りに勤しむ、ロビンの姿があり、
クロミネは感心しながらも、厳しい言葉をかけた。
「約束通り、稽古に勤しんでいるのはいいが、ベンチに包帯と軽食が置いてあったぞ。
ロアが用意したものだろう?」
二人が別れた後、ロアは、一人稽古するロビンを気遣い、
医療用の包帯と軽食のサンドイッチを、ベンチに置いて行った。
彼女の甘さに、ため息を付き、クロミネはロビンへ苦言を呈す。
「全く、その甘さが戦場では死に直結するというのに。
ロビン、お前も他人に頼ろうとするな。
戦場で頼れるのは、常に己の力のみだということを理解しろ」
するとロビンは、素振りを止め、クロミネに小さく詫びを入れる。
「すまなかった。次からは気をつけるよ」
「次などない、戦場で次があると考えて動く者は...」
次の瞬間、軍学校近辺に、警鐘が鳴り響き、クロミネは顔色を変え、話を中断した。
「近辺に避難指示が出た知らせだ。校舎に急ぐぞ」
クロミネとロビンは、すぐさま軍学校の校内に移動した。
◇◆◇◆◇◆◇
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ロビンは他の生徒達と共に、教官の指示に耳を傾ける。
「皆、落ち着いて聞いてほしい。
今回、避難指示が出されたのは、軍学校近辺で"魔物"が出没したからだ。
既に、逃げ遅れた生徒達に、被害が及んでいる。
王国軍も救助派遣までに、時間が掛かるらしい。
だからといって、これ以上放置すれば、生徒達への被害は、広がる一方だ。
そこで我々教官達が、魔物に対処する間、生徒達を先導し、
安全な場所に、避難させる者達を募りたい」
すると教室内で、真っ先に手を挙げたのは、真っ直ぐな瞳を浮かべたクロミネだった。
「私が生徒達を先導します。道中の護衛も私が...」
すると姿勢を崩しながら、ベティも手を挙げ、立候補する。
「ホントはアタシが、魔物をぶっ飛ばしてやってもいいんだけどなァ」
ニヤリと笑みを浮かべるベティを見て、クロミネはため息を吐くと、
生徒達の避難先導役は、二人で決定した。
教官が、指示を皆に伝え、魔物の居る現場に赴くと、
二人は、教室に居る生徒達を率い、安全な場所まで避難させようと移動した。
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