貞操逆転国の亡命代行

空の小説マン

文字の大きさ
3 / 20

第三話 一変

しおりを挟む
クロミネとベティの先導の元、生徒達は、安全な場所への避難を急ぐ。
ロビンも、他の生徒達と共に、校内の廊下を渡って、避難を試みるも、
廊下を進む途中、階段の下に、異様な光景を目にし、静かに足を止めた。
階段の陰へと、引き摺られて行く"それ"は、まるで伸ばした腕の様に見え、
引き摺られた床に、濃い血がべっとりと跡になって付着していた。
異常事態を感じ取ったロビンは、生徒達の隊列を抜け、階段を降りて、様子を確認する。
するとそこには、想像を絶する光景が広がっていた。
目を青白く光らせた、熊のような魔物が、血塗れになり倒れるロアを足元に、今にも捕食しようとしていた。
ロアの右手周辺には、剣が転がっており、必死で抵抗しようとしたのが見て取れる。
瀕死のロアは、ロビンの姿を視界に入れ、息絶え絶えで言葉を伝えた。
「に...にげ...て...」

鮮血に染まるロアの顔を見て、今にも捕食を始める魔物の形相を見て、
ロビンは、内なる導線をプツンと切断させた。

「や、やめろおおおお!!!」
ロビンは、剣を懐から引き抜き、魔物へと肉薄する。
距離を詰めるロビンを、魔物は大きな前足で薙ぎ払い、彼を勢いよく壁に激突させた。
「ぐはぁっ!!」
背後に強い衝撃をもらい、ロビンは、胃液を逆流しそうになる。
しかし寸前、剣の刀身で、防御が間に合っていた彼は、魔物に向かって思い切り、
唯一の武器である剣を投げつけた。
剣先を向け、飛翔する剣は、魔物の腕に命中するも、致命傷に至ることはない。
だがロビンは駆けた。
未だ怯むことのない、魔物に向かって駆ける彼は、すかさず地面に落ちた、ロアの剣を掴み取り、跳び上がって魔物の眉間に突き刺した。
悲痛な雄叫びを上げる魔物を、ロビンは、剣を引き抜きながら蹴飛ばし、
後方に、大きな音を立てて転倒させた。
腕と眉間から、血を流す魔物を足元に、ロビンは血塗れで倒れた、ロアに視線を向ける。
「よくも、彼女を...!」
ロビンは、高く剣を振り上げ、慈悲もなく魔物の首へと振り下ろした。

大量の返り血で、真っ赤に染まったロビンに、もはや気弱な青年の印象はなく、
彼は、何年も修羅場を潜り抜けたような、戦士の顔つきを浮かべていた。

すかさずロビンは、倒れ込むロアの元へ駆け寄り、意識があるか、彼女に呼びかける。
「おい!しっかりしろ!おい!」
ロビンがロアに触れると、彼女の心臓が、まだ動いているのを感じ取った。
すると、隊列から離れたロビンを探し、クロミネが階段の下へと降りてくる。
「ロビン!勝手に隊列を離れるなど...」
クロミネの視界の中には、重傷で倒れるロアと、首を切り落とされた魔物。
そして真っ赤に染まり、戦士の覇気を漂わせるロビンの姿があり、彼女は言葉を失った。
ロビンは、ロアの出血箇所に、包帯を巻きながら、クロミネに対し、大きな声で言葉を伝える。
「説明は後だ!クロミネ!今すぐ医務員を!彼女の出血が深刻だ!
これ以上流れたら手遅れになるぞ!」
ロビンの気迫に押され、クロミネは頷いて応えた。
「わ、分かった!この先の避難場所に、医務員が集まっているはずだ。
ひとまず彼女をそこへ移そう」
ロビンはロアを抱え、先導するクロミネと共に、生徒達が集まる避難場所まで、足を進めた。

◇◆◇◆◇◆◇

ルィフメー王国校外 軍学校避難場所にて。

安全な避難場所まで訪れたロビンと、軍学校の生徒達。
そこでロビンは、ロアの搬送された医務室の前で、待機していた。
すると中から、クロミネが姿を現し、ロビンに向けて語り始める。
「ロアの容態を見てきた。幸い命に別状はないようだ。
あと少しでも運ばれるのが遅かったら、危うかったかもしれない」
その言葉を聞き、ロビンは肩を撫で下ろし、安堵の息を付く。
そんな彼を見て、血塗れた現場に遭遇したクロミネは、当時の出来事を、ロビンに問いかけた。
「あの場で何が起こったのか、聞かせてくれないか?
私は生徒達の避難先導役として、把握しておく義務がある」
するとロビンは、医務室の方に目を向けながら、静かに口を開いた。
「魔物に襲われ、重傷で倒れたロアを助ける為、一心不乱に戦った。
自分でも咄嗟のことで、何が起こったのか、正直分からない」
自分の手に染み込んだ、血の跡を見つめながら、暗い表情を浮かべるロビンに対し、
クロミネは考え込んだ後、小さく呟いた。
「つまりお前の話が本当なら、お前は魔法を使わずに、
獰猛化した魔物を、撃破したということになる。
実際、現場の状況から考えて、間違いはないだろう」
ロアが襲われているのを見て、自身の本能を剥き出しにしたロビン。
彼の秘められた戦闘力を感じ取り、クロミネは驚かざるを得なかった。
するとロビンは、拳を握りしめ、瞼を閉じて、一人思う。
「ロアは、自身が血塗れになり、瀕死に追い詰められているにも関わらず、
俺が逃げて生き残る事を考えてくれた。自身が殺される間際だというのに」
ロビンは、ゆっくりと瞼を開いた。
「ロアが助かったのは、俺が戦ったからじゃない。
彼女の持つ精神力のお陰なんだ。
俺がもっと強ければ、もっと見つけるのが早ければ、
彼女は、怖い思いをしなくて済んだかもしれない」
ロビンは深く息を付き、空を見上げ、言葉を吐いた。
「だから俺は、もっと強くなるよ。
より早く、より力強く、魔法が使えなくてもいい。
守れるものを増やす為に」
死地を超え、成長したロビンを見て、クロミネは初めて、彼の前で微笑んだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

貞操逆転世界に転生したのに…男女比一対一って…

美鈴
ファンタジー
俺は隼 豊和(はやぶさ とよかず)。年齢は15歳。今年から高校生になるんだけど、何を隠そう俺には前世の記憶があるんだ。前世の記憶があるということは亡くなって生まれ変わったという事なんだろうけど、生まれ変わった世界はなんと貞操逆転世界だった。これはモテると喜んだのも束の間…その世界の男女比の差は全く無く、男性が優遇される世界ではなかった…寧ろ…。とにかく他にも色々とおかしい、そんな世界で俺にどうしろと!?また誰とも付き合えないのかっ!?そんなお話です…。 ※カクヨム様にも投稿しております。内容は異なります。 ※イラストはAI生成です

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

処理中です...