男とか女とか

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「ね、三組の町宮さんの話聞いた?」
「聞いた聞いた!後天性αなんでしょ?聞いたことはあるけど後天性の人って初めて」
「ほとんどの人がそうだって。私αの友達いるんだけど、αの中には後天性にプレミア感じてる人もいるらしいよ」
「プレミア?何それ?」
「うろ覚えだけど……まず後天性ってところが珍しいくて稀少、まぁレアってことね。そんで後天性だとαの子が生まれやすいんだって」
「へぇ~初めて聞いた。それだとα至上主義の人とかにとって最高な人材って感じ?」
「そうそう。αってちょっと憧れるけどそこまでいくと怖いよね」
「確かに……そう思うと町宮さんこれから大変そうだね」
「あっ!ねぇ水城さん後天性の人について詳しい?」
「ごめんけど私も聞いたことあるくらいで大して知らないかな~」
「そっか、やっぱり後天性って珍しいんだね」

 三年一組にはαが多い。そのせいかαと接する機会が自然と増えるクラスメイト達はαについて他より知識があるし、中には憧れから自ら調べ当人達よりも事情を深く知る者もいるくらいだ。

(うわぁ……早速広まっちゃってるよ)

 理々子が三組でサラッと暴露してからまだ数時間しか経っていない。
水城のいる一組でも今やその話題で持ちきりだった。
当然、全員というわけではないが半数以上は似たような内容で盛り上がりを見せていた。
しかし自身を含めαの者は気になりはしても進んで話に乗る者はいない。
普段からαというだけでそれなりに好奇の目を向けられるためどうしても同情心が湧いてしまう。

(っていうかそれどころじゃないしね!)

 水城の視線の先には自席に着いている圭の姿。
机に足を乗せ携帯を構っているだらしない姿を見慣れている身としては、今のように普通に席に着いて黙って俯いている圭は異様でしかない。
それは水城に限ったことではなく、クラスメイトも先に上げたような圭の普段の姿を見慣れているため今の様子を訝しんでいる者も何人か見受けられる。
今の状況、つまり理々子が後天性αとして完全に転性に至ったそもそもの原因が圭のため周囲の反応が気になるは仕方がないだろう。なんと言ったって運命の番のことだ。
しかしながら今の圭は理々子の名が出るたびに動揺を隠しきれず顔に現れたりソワソワと落ち着きがない。
こんな状態では、周囲が圭をαだと思い込んでいるという最たるアドバンテージを失いかねない。

(気持ちはわからなくもないけど……多分自分がどんな顔してんのかわかってないんだろうなぁ)

 水城は溜息を飲み込み圭の元へ向かった。
普段から水城は圭に話し掛けるているしいつもの事ではあるが、今は気のせいではなく確実にクラスメイトの意識はαである自分達に向けられていた。
それを証明するかのように、自分が席を立っただけで視線が集中したのがわかる。
内心ひやひやしつつ、水城はいつも通りに圭に話し掛けた。

「東、昨日ジュース奢ってくれるって約束だったでしょ」
「……は?んな約束、」
「はいはい男に二言はなーし」

 訝しむ圭を急き立て、一瞬迷ったが腕を掴み教室を出た。
そのまま人気の少ない場所へ行こうとしたが、すぐに圭が歩みを止めてしまう。

「ちょっと、あず、ま……」

 振り返った瞬間、甘いニオイに鼻を侵された。そして悟る。
自分など微塵も見ていない蕩けた顔の圭の視線を追う。

「理々、」
「おはよう水城。ちょっといい?東君はごめんけど外してね」

 名を呼ぼうとした圭を遮り水城に話し掛けてきたのはまさに噂の渦中にある理々子だった。
あくまで自然に、理々子は圭の腕を掴む水城の手を取った。
その仕草に乱暴さなど微塵もない。なのに腕を押さえ微かによろける圭。

(わ、わぁ……これは…………)

 水城は視界の端で見た。
水城の手を取る瞬間に圭の腕をなぞる理々子の指を。
なんてないはずのその仕草がいやに官能的に見えてしまうのはきっとこの二人のせいだ。
見てはいけないものを見てしまった気がする。
そんな気まずさを紛らわすように水城は圭を振り返ることなく理々子の手を握り返した。
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