男とか女とか

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「どったの理々子りりこ、そんな急がなくてもまだ朝礼まで時間あるよ?てかおはよう」
「……お、はよう」

 女子トイレに逃げ込むか迷ったが、人も増えてきていたため教室へ駆け込んだ。
普段物静かでやる気のない私の形相と慌てようが意外なのかクラスメイトの視線が突き刺さる。
自席の前にいる友人、軽井かるい 志帆しほも不思議そうな顔をしている。
息を切らしながら志帆に顔を近付けるよう手招きすると、戸惑いながらも距離を詰めてくれた。

「突然、なんだけどさ」
「え?はい」
「東 圭って知ってるよね」
「あぁ、うん東君ね。彼うちの学校の有名人だし知らない人のほうが少ないんじゃない?」
「その東君ってαだったよね」
「ん?そうなんじゃないの?私は本人と面識ないから噂でしか知んないけど」
「…………つまり噂が独り歩きしてる可能性もあると」
「うぇ?え?まぁ無いとは言い切れないだろうけどさ……マジでどうしちゃったの理々子」

 クエスチョンマークを浮かべる志帆には悪いが、返事はせず机に突っ伏した。
頭の中がぐちゃぐちゃでとても説明できるような状態じゃない。
今の自分は誰が見ても混乱中だと分かるだろうと自信を持って言える。
嫌でも察せざるを得ない志帆は、とりあえず落ち着きなよと軽く肩を叩き気遣ってくれる。

「一限目が終わる頃には落ち着くから待って」
「あ、思った以上に立ち直り早い」

 大丈夫そうだねと頷いた志帆に頷き返したところでチャイムが鳴った。
朝礼中、隣席の男子が何かあったのかと声をかけてきたが、志帆が会話料とか何とか言って男子をあしらってくれた。
隣席の男子、伊沼いぬまはクラスのムードメーカー的存在だ。明るくお喋り。
そんな彼に話そうものなら一日で校内に噂が広まってしまいそうだ。
伊沼然り普段男子と交流のない私だ。きっと好奇心九割、心配一割程度で聞いてきたに違いない。

(早速すぎるでしょ。馬鹿じゃないの)

 ヒートダウンするどころか沸々と怒りが湧いてきた。
担任の声も周囲の雑音もことごとく耳をすり抜けていく。
嫌というほどリフレインされる東の顔。熱に浮かされた男の顔なんて知りたくもなかった。
本来なら寒気とか嫌悪のみだろうに、今まで感じたことのない感情も混じっている。
そのせいでさっきから何度も胸を掻き毟りたい衝動に駆られては理性で押し留めての繰り返し。
なんて使えない抑制剤だろうかと薬にあたる始末。
保険医の言った通りどうせ鞄の肥やしになるだろうと思っていた。
費用の無駄であろうとそうであればいいのにと思っていた。なのにコレだ。
怒りでもってしても消えない腹部の熱さに顔が歪む。

(あれは……αの顔じゃない)

 嫌な熱をもたらす東の顔がどうしたって忘れられそうになかった。
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