男とか女とか

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(βごときが、かぁ……)

 つい最近までαと接触したことなど一度もなかった。
東はΩであったし、事実上ファーストコンタクトとなるαは水城だ。
αも同じ人間であるからには十人十色とわかっているつもりだったが、今日朝桐の本音を聞いてしまってから自分の考えは甘かったのだと知らされた。
世間一般の常識として初めに刷り込まれる第二性別の関係、αはΩを嫌いβも同等とは見做さないというもの。
水城に慣れつつあったせいでそのことを念頭から外してしまっていた。
朝桐のあの一言で一気に現実に引き戻されたようだった。
志帆も同じであったらしく、あの後はほぼ会話もないまま帰宅した。

(もう会わないほうがいいな)

 帰宅してから制服のままベッドに寝そべり考え、導き出された結論がそれだった。
東は当然として、水城とも接触は避けるべきだ。
自分でも薄情とは思うが、念入りな下準備をしてまで直接会って交流したいという気は私にはない。
そうなれば東と話をつける手段は電話かメールくらいだ。電話は即却下した。
文章のほうがお互い落ち着いて考えられるはずだ。
手紙も考えないでもなかったが、セキュリティ面でメールのほうが断然安心できる。
幸いにも水城とアドレスを交換していたし、東の連絡先を入手するのに困ることはなかった。
水城にその旨をメールで伝えれば、頑張れ!という応援と共に東のメールアドレスと電話番号まで添付されたメールが返ってきた。
登録もせず、早速文章を打ち込んでいく。
この話は早い内に決着をつけなければならないとそう思っている。
長引くほど後戻りできなくなりそうな、そんな不安が常に付き纏っていた。
私は早く東との縁を切ってしまいたかった。

(これで、いい加減伝わる……よね)

 今まで言ってきた通り、番う気はないことに加え接触も避けたほうがいい旨を自分なりに丁寧に文章に書き起こした。
これまでことごとく私の話を聞き入れようとしない東への信頼などないに等しい。
しかし今回は対面していないし、文章としてであれば少しは私の考えを理解してもらえるだろう。そのはず。
そんな望みを託しメールを送信した。
結構な長文であったから返信が来るまで勉強でもしていようとベッドから立ち上がったところで、常にサイレントモードの携帯がバイブで震えた。
そんなはずはないと思いつつ嫌な確信を持って画面を見ると、先程送信したアドレスからの返信だった。
暫くアドレスを眺めてから恐る恐るメールを開く。
“嫌だ”、その一言だけだった。

「……何それ」

 長文で返せとは言わない。けどその一言で片付けられたことに腹が立った。
気付いたら先程水城から送られてきたメールを開き、東の電話番号を選択し発信ボタンを押していた。
数コール後に聞こえた声が東であると確信したところで、何の前置きもなく本題に入った。

「東圭、いい加減にして」
「……り、……町宮?」
「そんなに私と番いたいの」
「…………」
「私と番ってどうするの」
「どうするって……」
「その先を考えたことがあるのかって聞いてる」
「……そんなん、考えたとこでわかるもんじゃ、」
「そういういい加減な奴、とても嫌い」
「っ……」
「そうやって深く考えもしないから簡単に番いたいだなんて言えるんだろうね」
「俺と町宮が、一緒になるのに……問題があるのか」
「問題だらけでしょ。まず価値観が違う。あと家柄。それと君が周りにαだと思われてることが大問題。私と一緒になれば自然と周りにバレるんだよ?」
「…………」

 東の態度は相変わらずだが、やっと言いたいことを言い切った気がする。
何より匂いに惑わされる心配がないのが一番大きい。
今度こそ自分の望む終着点へ向けて根気よく話し合おうと決めた矢先だった。

「好きなだけじゃ、駄目なのか」
「は?」
「理々子が、好きだから……俺はずっとそばに……」

 東はどんな顔でそう告げたのか、見えないはずなのに手に取るようにわかる。
東の言葉を脳が理解したと同時に全身に鳥肌が立つ。
そして私の中に何かが芽生えてしまったのを、確かに感じた。
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