男とか女とか

N

文字の大きさ
28 / 48

28

しおりを挟む
 私は自分を常識人だと自負している。
生徒にとって見本になるような大人だとは自信を持って言えないが、良い方向へ導く手助けならできる大人ではあるはずだ。
ただ私も人間だし完璧ではない。欠点の一つや二つあっても何ら不思議ではない。
そんな私の欠点の一つ、思い込みが激しいという面を生きてきた中で一番後悔する日になろうとはこの時は思っていなかった。
きっと今までの不安が解消されるかもしれないと舞い上がってしまったせいもある。
そして私の女としての欲も少なからず混じっていた。
それらは事が終わった後で、後悔と共に思い知らされることとなる。

「東君おはよう。今いいかな」
「は?俺用があんだけど」
「えーと、結構重要な話なんだけど……少しでいいから」
「少しでいいならここで言えばいいだろ」

 少しも自重せずに舌打ちをされ怖気づいてしまう。
しかし今日はこのままでは引き下がれない。
それに私もう既に“知っている”から彼を前ほど怖いとは思わない。
彼は普段通りに見えるが、きっと“大きな不安”を抱いているはずだから。
担任である私なら、それを少しでも和らげてあげることができるかもしれない。
彼が望めばいくらにでも相談に乗るし頼って欲しい。
その一心で私は彼に断られる前に先手を打った。

「その、私担任だから知ってるの。東君が後天性Ωだってこと」

 近くに人影はなかったが用心して距離を詰め小声でそう囁くと、彼の表情は瞬時に強張り徐々に色をなくしていく。
そんな彼の反応を見て、やはり自分の予想は外れていなかったのだと確信した。
嗚呼、可哀想に。彼は今までずっとαとして育ってきたため、周囲の反応は冷たいものが多いだろう。
両親はどちらもαだと噂で聞いたことがある。
果たしてそんな両親に彼が悩みを打ち明けることができるだろうか。
もしかしたら仲が拗れてしまっているかもしれない。そんな彼には今一人でも味方が必要だ。
すっかりいつもの傲慢さを潜めてしまった彼を促し、ゆっくり話ができる場所、二人きりになれるところへ移動する。
予め鍵を持ってきていた図書準備室へと彼と二人で入る。

「立ち話もなんだから座ろうか」
「…………」

 彼は大人しく私の提案に従い、近くの椅子に腰を下ろす。
すぐに俯いてしまったためその表情は伺えないが、きっと不安そうにしているはずだ。
ならば私が味方であると早く知らせてあげるべきだと、そう思った。

「大丈夫だよ東君。不安だろうけど私でよければいつでも相談に乗るし頼っていいんだよ」
「は……何のことだ」
「だから、突然Ωだって分かって混乱してるでしょう?一人で悩むばかりじゃ辛いでしょう?私は東君の味方だからね」
「っんだよいきなり……」

 彼は私の言葉が信じられないのか僅かに身を引いた。
今までの彼からは想像もつかないような弱々しいその有様に庇護欲と他の何かを刺激される。
怖がらなくていいんだよと、立ち上がり彼に引き寄せられるように距離を縮めていく。
もう少しで彼の頭を優しくこの胸に抱くところだった。
その強張った表情を私の体温で綻ばせてあげるつもりだった。
しかし彼に私の手が触れる瞬間、ガラッと勢い良く扉が開いた。
大きな音に思わずビクつき振り返り、そこにいた者の目を見て私は一瞬にして悟る。

「先生、東君の味方は私だけで十分です」

 彼に、東圭に触れてはいけない。これ以上近づいてはいけない。
彼女の物言わせぬ鋭い目に、私が抱き始めていた微かな想いは握り潰された。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

肉食御曹司の独占愛で極甘懐妊しそうです

沖田弥子
恋愛
過去のトラウマから恋愛と結婚を避けて生きている、二十六歳のさやか。そんなある日、飲み会の帰り際、イケメン上司で会社の御曹司でもある久我凌河に二人きりの二次会に誘われる。ホテルの最上階にある豪華なバーで呑むことになったさやか。お酒の勢いもあって、さやかが強く抱いている『とある願望』を彼に話したところ、なんと彼と一夜を過ごすことになり、しかも恋人になってしまった!? 彼は自分を女除けとして使っているだけだ、と考えるさやかだったが、少しずつ彼に恋心を覚えるようになっていき……。肉食でイケメンな彼にとろとろに蕩かされる、極甘濃密ラブ・ロマンス!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

処理中です...