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私は自分を常識人だと自負している。
生徒にとって見本になるような大人だとは自信を持って言えないが、良い方向へ導く手助けならできる大人ではあるはずだ。
ただ私も人間だし完璧ではない。欠点の一つや二つあっても何ら不思議ではない。
そんな私の欠点の一つ、思い込みが激しいという面を生きてきた中で一番後悔する日になろうとはこの時は思っていなかった。
きっと今までの不安が解消されるかもしれないと舞い上がってしまったせいもある。
そして私の女としての欲も少なからず混じっていた。
それらは事が終わった後で、後悔と共に思い知らされることとなる。
「東君おはよう。今いいかな」
「は?俺用があんだけど」
「えーと、結構重要な話なんだけど……少しでいいから」
「少しでいいならここで言えばいいだろ」
少しも自重せずに舌打ちをされ怖気づいてしまう。
しかし今日はこのままでは引き下がれない。
それに私もう既に“知っている”から彼を前ほど怖いとは思わない。
彼は普段通りに見えるが、きっと“大きな不安”を抱いているはずだから。
担任である私なら、それを少しでも和らげてあげることができるかもしれない。
彼が望めばいくらにでも相談に乗るし頼って欲しい。
その一心で私は彼に断られる前に先手を打った。
「その、私担任だから知ってるの。東君が後天性Ωだってこと」
近くに人影はなかったが用心して距離を詰め小声でそう囁くと、彼の表情は瞬時に強張り徐々に色をなくしていく。
そんな彼の反応を見て、やはり自分の予想は外れていなかったのだと確信した。
嗚呼、可哀想に。彼は今までずっとαとして育ってきたため、周囲の反応は冷たいものが多いだろう。
両親はどちらもαだと噂で聞いたことがある。
果たしてそんな両親に彼が悩みを打ち明けることができるだろうか。
もしかしたら仲が拗れてしまっているかもしれない。そんな彼には今一人でも味方が必要だ。
すっかりいつもの傲慢さを潜めてしまった彼を促し、ゆっくり話ができる場所、二人きりになれるところへ移動する。
予め鍵を持ってきていた図書準備室へと彼と二人で入る。
「立ち話もなんだから座ろうか」
「…………」
彼は大人しく私の提案に従い、近くの椅子に腰を下ろす。
すぐに俯いてしまったためその表情は伺えないが、きっと不安そうにしているはずだ。
ならば私が味方であると早く知らせてあげるべきだと、そう思った。
「大丈夫だよ東君。不安だろうけど私でよければいつでも相談に乗るし頼っていいんだよ」
「は……何のことだ」
「だから、突然Ωだって分かって混乱してるでしょう?一人で悩むばかりじゃ辛いでしょう?私は東君の味方だからね」
「っんだよいきなり……」
彼は私の言葉が信じられないのか僅かに身を引いた。
今までの彼からは想像もつかないような弱々しいその有様に庇護欲と他の何かを刺激される。
怖がらなくていいんだよと、立ち上がり彼に引き寄せられるように距離を縮めていく。
もう少しで彼の頭を優しくこの胸に抱くところだった。
その強張った表情を私の体温で綻ばせてあげるつもりだった。
しかし彼に私の手が触れる瞬間、ガラッと勢い良く扉が開いた。
大きな音に思わずビクつき振り返り、そこにいた者の目を見て私は一瞬にして悟る。
「先生、東君の味方は私だけで十分です」
彼に、東圭に触れてはいけない。これ以上近づいてはいけない。
彼女の物言わせぬ鋭い目に、私が抱き始めていた微かな想いは握り潰された。
生徒にとって見本になるような大人だとは自信を持って言えないが、良い方向へ導く手助けならできる大人ではあるはずだ。
ただ私も人間だし完璧ではない。欠点の一つや二つあっても何ら不思議ではない。
そんな私の欠点の一つ、思い込みが激しいという面を生きてきた中で一番後悔する日になろうとはこの時は思っていなかった。
きっと今までの不安が解消されるかもしれないと舞い上がってしまったせいもある。
そして私の女としての欲も少なからず混じっていた。
それらは事が終わった後で、後悔と共に思い知らされることとなる。
「東君おはよう。今いいかな」
「は?俺用があんだけど」
「えーと、結構重要な話なんだけど……少しでいいから」
「少しでいいならここで言えばいいだろ」
少しも自重せずに舌打ちをされ怖気づいてしまう。
しかし今日はこのままでは引き下がれない。
それに私もう既に“知っている”から彼を前ほど怖いとは思わない。
彼は普段通りに見えるが、きっと“大きな不安”を抱いているはずだから。
担任である私なら、それを少しでも和らげてあげることができるかもしれない。
彼が望めばいくらにでも相談に乗るし頼って欲しい。
その一心で私は彼に断られる前に先手を打った。
「その、私担任だから知ってるの。東君が後天性Ωだってこと」
近くに人影はなかったが用心して距離を詰め小声でそう囁くと、彼の表情は瞬時に強張り徐々に色をなくしていく。
そんな彼の反応を見て、やはり自分の予想は外れていなかったのだと確信した。
嗚呼、可哀想に。彼は今までずっとαとして育ってきたため、周囲の反応は冷たいものが多いだろう。
両親はどちらもαだと噂で聞いたことがある。
果たしてそんな両親に彼が悩みを打ち明けることができるだろうか。
もしかしたら仲が拗れてしまっているかもしれない。そんな彼には今一人でも味方が必要だ。
すっかりいつもの傲慢さを潜めてしまった彼を促し、ゆっくり話ができる場所、二人きりになれるところへ移動する。
予め鍵を持ってきていた図書準備室へと彼と二人で入る。
「立ち話もなんだから座ろうか」
「…………」
彼は大人しく私の提案に従い、近くの椅子に腰を下ろす。
すぐに俯いてしまったためその表情は伺えないが、きっと不安そうにしているはずだ。
ならば私が味方であると早く知らせてあげるべきだと、そう思った。
「大丈夫だよ東君。不安だろうけど私でよければいつでも相談に乗るし頼っていいんだよ」
「は……何のことだ」
「だから、突然Ωだって分かって混乱してるでしょう?一人で悩むばかりじゃ辛いでしょう?私は東君の味方だからね」
「っんだよいきなり……」
彼は私の言葉が信じられないのか僅かに身を引いた。
今までの彼からは想像もつかないような弱々しいその有様に庇護欲と他の何かを刺激される。
怖がらなくていいんだよと、立ち上がり彼に引き寄せられるように距離を縮めていく。
もう少しで彼の頭を優しくこの胸に抱くところだった。
その強張った表情を私の体温で綻ばせてあげるつもりだった。
しかし彼に私の手が触れる瞬間、ガラッと勢い良く扉が開いた。
大きな音に思わずビクつき振り返り、そこにいた者の目を見て私は一瞬にして悟る。
「先生、東君の味方は私だけで十分です」
彼に、東圭に触れてはいけない。これ以上近づいてはいけない。
彼女の物言わせぬ鋭い目に、私が抱き始めていた微かな想いは握り潰された。
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