男とか女とか

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 目の前の光景にカッとして思うがままの台詞を吐き出してしまっていた。
教師相手にやってしまったと少し肝が冷えたが後悔はない。
吐き出した言葉に嘘はない。東が一番に頼る相手は私ただ一人だけでいい。
現実的に考えると未成年が何をほざいているのかと思うが、割りと本気でそう思っている。
田中先生から東へと目を移すと当然のように視線が交わる。

(ああ……あぁ、)

 すぐそこに東が居る。私を見ている。様々な感情が全身に渦巻く。
わけもない言葉が口から漏れそうになる。
それは東も同じようで、強く唇を噛み締めるも表情は全く繕えていない。
通じ合った、そう思った。私と東の気持ちは同じだと確信を得た。
呆然と立ち尽くす田中先生が視界に入ってはいたが、もう意識の外へ放り出されてしまっていた。
言いたいことは沢山あるはずなのに、何と声をかけるべきか分からず無言で東に手を差し出す。

「……っ理々子」

 まるで感動の再開と言わんばかりに、東が短い距離を駆けて私の手を取った。
東の温もりを感じた瞬間、どこかのスイッチが入る、いや、壊れる音を聞いた気がした。
気がついたら目の前に東の顔があって、額はジンジンと緩く痛みを訴えている。
考えるより先に体が動くとはこういうことかと他人事のように思った。
そのまま掠めるように鼻頭にキスをし、再度東の手を強く引き寄せ足で扉を閉めた。
東は顔を真赤にし口をパクつかせている。

「理々子、俺、俺はっ!あっ、」

 東も言いたいことが色々あるらしい。話なら後でいくらでも聞いてあげよう。
今はとにかく二人きりになれる場所へ行きたかった。誰にも邪魔されたくない。
今度こそケリをつける、その一心で東の手を引き屋上へと足早に向かった。
最中、東は必死に言葉を紡ごうとするも尽く失敗していた。
そうしている内に屋上へと辿り着き、扉の裏手の影になっている場所で立ち止まった。
東に背を向け一つ静かに息を吐きだしてみたが、まるで気は落ち着かない。
恐らく今までで一番強い匂いが東から発せられている。
頭が焼き切れそうなほど濃厚で、甘い、蜜のような匂いが。

「理々子、理々子……こっち向けよ……」
「……少し、待って」
「嫌だ!何でだ?俺を見たくもないのか?それならさっきの思わせぶりなキスは何だよっ!!」

 震え声で訴える東だが、振り返らない私に痺れを切らしたのか腕を掴んできた。
ふわり、なんて優しいものじゃない。脳髄を揺らす匂いに私の本能は負けた。
どうせ言葉ではもう説明しきれないだろう。だから身を持って知るといい。
振り返りざま、私は東の唇にかぶり付いた。
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