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「マリア!!」
振り返った瞬間、夜風を割って現れた彼女の姿に、私は思わず息をのんだ。
寝間着の上から羽織った薄紫のローブが炎の赤を反射して揺らめき、
手には魔導士用の長杖――
先端の宝珠が、燃え盛る夜の中で青白く脈動していた。
「治癒《ヒーリング》!」
マリアが杖を前へ突き出すと、
宝珠から放たれた光が弧を描き、倒れているギルド員の身体を包みこんだ。
青白い魔力が花びらのように舞い、
その光が肌に触れるたび、傷口がゆっくり閉じていく。
「マリア……魔法、そんなに使えたの?」
「おいおい、知らなかったのか?」
ソーマが目を丸くする。
「マリアって本職は魔導士だぞ?」
「だって……いつもカウンターでぼーっとしてるだけじゃん……」
「泥まみれのクエスト行くより、受付で新米戦士くん眺めてるほうが楽しいんだもん。なんか弟見てるみたいで」
マリアはペロッと舌を出して笑った。
(マリアって弟いたんだ……)
その軽さとは裏腹に、杖先の光はどんどん強くなっていく。
「……よし。ここからは本気で行くよ!」
――空気が、一瞬で変わった。
さっきまで炎と煙で熱を帯びていたはずの場所に、
冷たい風のような魔力の流れが走り抜ける。
マリアが高く杖を掲げると、足元から青い魔法陣が展開した。
幾重にも重なる紋様が地面を這うように広がり、
炎に包まれた建物の周囲を光の輪が取り囲んでいく。
夜闇に浮かぶ巨大な魔法陣。
その中心に立つマリアのローブが、風もないのに揺れた。
「消し飛べ――
水流魔法《アクア・トルネード》!!」
ドンッ、と空気が爆ぜる。
次の瞬間――
魔法陣の中心から、天へ突き上がるような水柱が立ち上がった。
「うわっ……!」
轟音とともに水が渦を巻きながら噴出し、
夜空に向かって蒼い竜のようにねじれ、
そのまま炎を飲み込むように落下する。
火柱がバシッと音を立てて弾け、
蒸気の霧が一気に現場を覆った。
炎の赤と、水柱の蒼。
ぶつかり合う光の反射で、夜の街が一瞬だけ昼のように明るくなる。
「……すご……」
私の声は、蒸気の中へ吸い込まれた。
マリアがこちらを振り返り、少し得意げに笑う。
「これでもギルドのトップヒーラーなのよ?
本気出したら、このくらいはね」
蒼い魔力の残光が、彼女の頬を淡く照らしていた。
「爆発の原因は魔法石の魔力暴走、ねえ……」
ギルド長が受付カウンターでマグを掲げるみたいに持ったまま、深々とため息をついた。
ギルドの中は、朝の爆発の後処理依頼で大渋滞状態。
あっちで怒号、こっちで悲鳴、向こうでは新人戦士が書類を落として泣きそうになっている。
「ギルド長、顔が死んでますよ……?」
私が声をかけると、
「死ぬわよ。むしろ何度か死んだわよ。今日三回くらい魂抜けたわよ」
「ギルド長、それ過労死の症状だからな……」
ソーマが横からぼそっと突っ込む。
「うるさいわね、あなたたちも働きなさい。ほら、書類詰んでるわよ」
「あ、はいっ」
そんな中、ギルド長はマグをくいっと飲み干し、さらに肩を落とした。
「ったく……あの家、禁忌の儀式してた教団の隠れ家だったのよ? 近々踏み込む予定だったってのに、証拠もろとも“どっかーん”よ」
「“どっかーん”ってギルド長が言うとリアルですね」
ソーマがニヤリ。
「笑いごとじゃないわよ! あれ、私が二週間寝ずに作った捜査資料だったんだから!」
「寝てくださいよ!? ギルド長!」
「寝たかったわよ!? あんたのせいで書類増えるんだからね!? この前の報告書、誤字八十カ所よ!?」
「あれは誤字じゃなくて、字が汚くて読めなかっただけだって!」
「もっと悪いわよ!」
わーわーしている二人を横目に、マリアがひょいと顔を出した。
「ギルド長、治療の人手足りないって聞いたんですけどー」
「あ、マリア。ちょうどよかったわ。治療の方もお願い。人手不足で私ハゲそうなのよ」
「えっ、ギルド長ハゲるの?」
ソーマが真顔で聞く。
「ハゲないわよ!!」
マリアはくすっと笑い、
「はいはい、了解でーす。じゃあリーナも受付任せたからねー」
「はいっ!」
ギルド長は三つ目のため息をつきながら、マグをもう一度持ち上げた。
「……もういっそ、このマグが酒だったらいいのに」
「入れましょうか?」
ソーマが小声で。
「勤務中に酒飲んだらあなたも道連れにするわよ?」
「やっぱやめときます!」
(この2人、意外といいコンビ?)
私は笑いながら依頼票をまとめた。
振り返った瞬間、夜風を割って現れた彼女の姿に、私は思わず息をのんだ。
寝間着の上から羽織った薄紫のローブが炎の赤を反射して揺らめき、
手には魔導士用の長杖――
先端の宝珠が、燃え盛る夜の中で青白く脈動していた。
「治癒《ヒーリング》!」
マリアが杖を前へ突き出すと、
宝珠から放たれた光が弧を描き、倒れているギルド員の身体を包みこんだ。
青白い魔力が花びらのように舞い、
その光が肌に触れるたび、傷口がゆっくり閉じていく。
「マリア……魔法、そんなに使えたの?」
「おいおい、知らなかったのか?」
ソーマが目を丸くする。
「マリアって本職は魔導士だぞ?」
「だって……いつもカウンターでぼーっとしてるだけじゃん……」
「泥まみれのクエスト行くより、受付で新米戦士くん眺めてるほうが楽しいんだもん。なんか弟見てるみたいで」
マリアはペロッと舌を出して笑った。
(マリアって弟いたんだ……)
その軽さとは裏腹に、杖先の光はどんどん強くなっていく。
「……よし。ここからは本気で行くよ!」
――空気が、一瞬で変わった。
さっきまで炎と煙で熱を帯びていたはずの場所に、
冷たい風のような魔力の流れが走り抜ける。
マリアが高く杖を掲げると、足元から青い魔法陣が展開した。
幾重にも重なる紋様が地面を這うように広がり、
炎に包まれた建物の周囲を光の輪が取り囲んでいく。
夜闇に浮かぶ巨大な魔法陣。
その中心に立つマリアのローブが、風もないのに揺れた。
「消し飛べ――
水流魔法《アクア・トルネード》!!」
ドンッ、と空気が爆ぜる。
次の瞬間――
魔法陣の中心から、天へ突き上がるような水柱が立ち上がった。
「うわっ……!」
轟音とともに水が渦を巻きながら噴出し、
夜空に向かって蒼い竜のようにねじれ、
そのまま炎を飲み込むように落下する。
火柱がバシッと音を立てて弾け、
蒸気の霧が一気に現場を覆った。
炎の赤と、水柱の蒼。
ぶつかり合う光の反射で、夜の街が一瞬だけ昼のように明るくなる。
「……すご……」
私の声は、蒸気の中へ吸い込まれた。
マリアがこちらを振り返り、少し得意げに笑う。
「これでもギルドのトップヒーラーなのよ?
本気出したら、このくらいはね」
蒼い魔力の残光が、彼女の頬を淡く照らしていた。
「爆発の原因は魔法石の魔力暴走、ねえ……」
ギルド長が受付カウンターでマグを掲げるみたいに持ったまま、深々とため息をついた。
ギルドの中は、朝の爆発の後処理依頼で大渋滞状態。
あっちで怒号、こっちで悲鳴、向こうでは新人戦士が書類を落として泣きそうになっている。
「ギルド長、顔が死んでますよ……?」
私が声をかけると、
「死ぬわよ。むしろ何度か死んだわよ。今日三回くらい魂抜けたわよ」
「ギルド長、それ過労死の症状だからな……」
ソーマが横からぼそっと突っ込む。
「うるさいわね、あなたたちも働きなさい。ほら、書類詰んでるわよ」
「あ、はいっ」
そんな中、ギルド長はマグをくいっと飲み干し、さらに肩を落とした。
「ったく……あの家、禁忌の儀式してた教団の隠れ家だったのよ? 近々踏み込む予定だったってのに、証拠もろとも“どっかーん”よ」
「“どっかーん”ってギルド長が言うとリアルですね」
ソーマがニヤリ。
「笑いごとじゃないわよ! あれ、私が二週間寝ずに作った捜査資料だったんだから!」
「寝てくださいよ!? ギルド長!」
「寝たかったわよ!? あんたのせいで書類増えるんだからね!? この前の報告書、誤字八十カ所よ!?」
「あれは誤字じゃなくて、字が汚くて読めなかっただけだって!」
「もっと悪いわよ!」
わーわーしている二人を横目に、マリアがひょいと顔を出した。
「ギルド長、治療の人手足りないって聞いたんですけどー」
「あ、マリア。ちょうどよかったわ。治療の方もお願い。人手不足で私ハゲそうなのよ」
「えっ、ギルド長ハゲるの?」
ソーマが真顔で聞く。
「ハゲないわよ!!」
マリアはくすっと笑い、
「はいはい、了解でーす。じゃあリーナも受付任せたからねー」
「はいっ!」
ギルド長は三つ目のため息をつきながら、マグをもう一度持ち上げた。
「……もういっそ、このマグが酒だったらいいのに」
「入れましょうか?」
ソーマが小声で。
「勤務中に酒飲んだらあなたも道連れにするわよ?」
「やっぱやめときます!」
(この2人、意外といいコンビ?)
私は笑いながら依頼票をまとめた。
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