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「ソーマ」
「うん?」
「お願いがあるの」
「ん? 何か持ってきてほしいものとか?」
「ちがう」
私は首を横に振って、少しふふっと笑う。
「……私、血を吐いちゃったこと、レンには内緒にしておいてほしいの」
ソーマが目を丸くする。
「え、なんで?」
「だって、きっと心配してギルド辞めろって言われるから」
「なるほどな。あの男、確かに過保護だからな」
ソーマはにやりと笑った。
「わかった、マリアにも口止めしておくわ」
「お願いね~」
私は手を小さく握って、軽く安心する。
「でも、無理しちゃダメだぞ」
「うん、わかった。ありがとう、ソーマ」
部屋にふわっと静かな空気が戻る。
その夜、私は部屋に戻らず、そのまま医務室に泊まることにした。
一人用のベッドが、やたらと広く感じる。
(……最近ずっとレンと一緒に寝てたから、かな)
妙に落ち着かず、ゴロリと寝返りを打ったその時――
ふっと、気配がした。
(ギルド医……?)
目を開けると、暗闇の中にローブ姿の人影が立っていた。
「だ、誰……?」
「――っ」
言い終わる前に口を塞がれる。
(なにこれっ⁉ やばいっ!)
ガッ!
反射的に相手の腹を蹴り飛ばした。
ローブの人物がぐらりと後退する。
カンカンカンカン‼
「誰か来てっ!」
枕元のベルを全力で鳴らすと、人影は慌てて逃げていった。
「リーナ、どうした!」
ソーマが転がり込むように入ってくる。
「い、今……誰かに口塞がれて……」
「マジか?……でも見た感じ誰もいねぇな」
ソーマは眉をしかめて室内をひと回りする。
「寝ぼけたとかじゃねぇのか?」
「違う!絶対いた!」
私が食い気味に返すと、ソーマはぽりぽり頭をかいた。
「わかった。じゃあ俺が見張っててやるよ。……ほら、寝てろ」
「あ、そういえば……ソーマ、どうしてこの時間に?」
聞くと、ソーマはもっと激しく頭をかいた。
「隣の仮眠室にいたんだよ。リーナに何かあったら、レンに俺マジで殺されるからな……」
「ふふ……ありがとう、ソーマ」
「……まぁ、いいけどよ」
照れたように目をそらすソーマが、なんだか可愛くて
怖かったはずなのに、ちょっとだけ安心して目を閉じた。
――ドガアアアアアアアアアンッ!!
世界が揺れたような衝撃で、私はベッドからほぼ跳ね飛ばされた。
「な、なに……っ!?」
窓の外から、真っ赤な光がまぶしく部屋に差し込む。 覗きこむと、町の中心街の方角で――
火柱が夜空を食いちぎるように立ち上っていた。
「リーナ!!」
ドアが乱暴に開き、ソーマが半ば転がるように飛びこんできた。
彼の頬にも、すでに外の炎の赤が反射している。
「今の爆音、やべぇぞ!起きてるか!?」
「起きてる!」
私は寝間着のまま上着を引っつかむと、ソーマと一緒にギルドの階段を駆け下りた。
外に出た瞬間、熱気が肌を刺した。
「なっ……!」
中心街に近づけば近づくほど、
空気そのものが熱でゆがんで見える。
焼け焦げた木材の匂い、遠くから聞こえる瓦礫の崩れる音。
そして――
「うわ、なにこれ……」
爆心地にたどりついた瞬間、私は思わず後ずさった。
家が一軒、文字通り“吹き飛んで”いた。
壁は跡形もなく、地面はクレーターのようにえぐれている。
炎が噴き上がり、破片がバチバチと燃え続けていた。
まるで巨大な獣が暴れ回って、町を噛み砕いたみたいだ。
「けが人だッ!誰か手ぇ貸せ!」
「こっちにも倒れてる!腕が……!」
「水属性の魔導士は!?なんでまだ来ねえんだ!」
怒号と泣き声が入り混じった混沌の渦。
走り回る町人たち、泣き叫ぶ子ども、駆けつけた戦士たちの焦げ臭い匂い。
ソーマが顔をしかめた。
「……これ、ただの火事じゃねぇな」
爆発の中心には、黒く焼け焦げた大きな痕。
「リーナ、感じるか?この魔力の残り香……爆発魔法だ」
「でも……規模がおかしいよ。こんな強い魔法、誰が……」
私の問いに答えるように――
クレーターの縁に、ひとりの男の姿が転がっていた。
「誰か!この人、生きてます!!」
その叫びに、私の背筋が凍る。
だってその人物は、
――見覚えのある、ギルドのローブを着ていたから。
「……ギルド員?どうしてこんな場所に……」
「どいて!」
聞き覚えのある澄んだ声がした
「うん?」
「お願いがあるの」
「ん? 何か持ってきてほしいものとか?」
「ちがう」
私は首を横に振って、少しふふっと笑う。
「……私、血を吐いちゃったこと、レンには内緒にしておいてほしいの」
ソーマが目を丸くする。
「え、なんで?」
「だって、きっと心配してギルド辞めろって言われるから」
「なるほどな。あの男、確かに過保護だからな」
ソーマはにやりと笑った。
「わかった、マリアにも口止めしておくわ」
「お願いね~」
私は手を小さく握って、軽く安心する。
「でも、無理しちゃダメだぞ」
「うん、わかった。ありがとう、ソーマ」
部屋にふわっと静かな空気が戻る。
その夜、私は部屋に戻らず、そのまま医務室に泊まることにした。
一人用のベッドが、やたらと広く感じる。
(……最近ずっとレンと一緒に寝てたから、かな)
妙に落ち着かず、ゴロリと寝返りを打ったその時――
ふっと、気配がした。
(ギルド医……?)
目を開けると、暗闇の中にローブ姿の人影が立っていた。
「だ、誰……?」
「――っ」
言い終わる前に口を塞がれる。
(なにこれっ⁉ やばいっ!)
ガッ!
反射的に相手の腹を蹴り飛ばした。
ローブの人物がぐらりと後退する。
カンカンカンカン‼
「誰か来てっ!」
枕元のベルを全力で鳴らすと、人影は慌てて逃げていった。
「リーナ、どうした!」
ソーマが転がり込むように入ってくる。
「い、今……誰かに口塞がれて……」
「マジか?……でも見た感じ誰もいねぇな」
ソーマは眉をしかめて室内をひと回りする。
「寝ぼけたとかじゃねぇのか?」
「違う!絶対いた!」
私が食い気味に返すと、ソーマはぽりぽり頭をかいた。
「わかった。じゃあ俺が見張っててやるよ。……ほら、寝てろ」
「あ、そういえば……ソーマ、どうしてこの時間に?」
聞くと、ソーマはもっと激しく頭をかいた。
「隣の仮眠室にいたんだよ。リーナに何かあったら、レンに俺マジで殺されるからな……」
「ふふ……ありがとう、ソーマ」
「……まぁ、いいけどよ」
照れたように目をそらすソーマが、なんだか可愛くて
怖かったはずなのに、ちょっとだけ安心して目を閉じた。
――ドガアアアアアアアアアンッ!!
世界が揺れたような衝撃で、私はベッドからほぼ跳ね飛ばされた。
「な、なに……っ!?」
窓の外から、真っ赤な光がまぶしく部屋に差し込む。 覗きこむと、町の中心街の方角で――
火柱が夜空を食いちぎるように立ち上っていた。
「リーナ!!」
ドアが乱暴に開き、ソーマが半ば転がるように飛びこんできた。
彼の頬にも、すでに外の炎の赤が反射している。
「今の爆音、やべぇぞ!起きてるか!?」
「起きてる!」
私は寝間着のまま上着を引っつかむと、ソーマと一緒にギルドの階段を駆け下りた。
外に出た瞬間、熱気が肌を刺した。
「なっ……!」
中心街に近づけば近づくほど、
空気そのものが熱でゆがんで見える。
焼け焦げた木材の匂い、遠くから聞こえる瓦礫の崩れる音。
そして――
「うわ、なにこれ……」
爆心地にたどりついた瞬間、私は思わず後ずさった。
家が一軒、文字通り“吹き飛んで”いた。
壁は跡形もなく、地面はクレーターのようにえぐれている。
炎が噴き上がり、破片がバチバチと燃え続けていた。
まるで巨大な獣が暴れ回って、町を噛み砕いたみたいだ。
「けが人だッ!誰か手ぇ貸せ!」
「こっちにも倒れてる!腕が……!」
「水属性の魔導士は!?なんでまだ来ねえんだ!」
怒号と泣き声が入り混じった混沌の渦。
走り回る町人たち、泣き叫ぶ子ども、駆けつけた戦士たちの焦げ臭い匂い。
ソーマが顔をしかめた。
「……これ、ただの火事じゃねぇな」
爆発の中心には、黒く焼け焦げた大きな痕。
「リーナ、感じるか?この魔力の残り香……爆発魔法だ」
「でも……規模がおかしいよ。こんな強い魔法、誰が……」
私の問いに答えるように――
クレーターの縁に、ひとりの男の姿が転がっていた。
「誰か!この人、生きてます!!」
その叫びに、私の背筋が凍る。
だってその人物は、
――見覚えのある、ギルドのローブを着ていたから。
「……ギルド員?どうしてこんな場所に……」
「どいて!」
聞き覚えのある澄んだ声がした
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