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いたたまれなくなった私は、
ほとんど逃げ出すように資料室を後にし、
早歩きで受付へ戻った。
「リーナ遅い~。何してたの? っていうか顔真っ赤なんだけど?」
マリアがむくれ顔で身を乗り出してくる。
「ちょ、ちょっと資料室に……ね……」
言葉を濁すしかない。
言葉にした瞬間、顔がさらに熱くなるのが自分でもわかった。
マリアはじぃ~~っと私の顔を覗き込み、
「……ふぅん?」
とだけ言い、にやりと笑った。
「そうだ、ギルド長が呼んでたよ。早く行った方がいいって」
「ギルド長が? え、なんだろ?」
(今この顔でギルド長室は嫌だ……!)
もう半泣きの気持ちで私は首をごまかすように傾げ、
足早にギルド長室へ向かった。
コンコン――。
扉を叩くと、
すぐに落ち着いた声が返ってきた。
「どうぞ」
ゆっくり扉を開ける。
山のように積みあがった書類の向こうで、
ギルド長がペンを走らせながら顔を上げた。
横にギルド医もいる。
「リーナ、もう体調はいいの?」
「は、はい。大丈夫です」
(顔赤いのバレてないよね……!?)
と、心の中で祈りながら。
「この間の爆発の件なんだけど――
禁忌の儀式の教団の仕業っていうのは、あなたも知ってるわよね?」
「はい……」
ギルド長は深く深く、ふぅ……とため息をついた。
「あなたも大人だから、やっぱり知っておいた方がいいと思ってね」
「……何の話ですか?」
ギルド長はペンを置き、まっすぐ私を見る。
「あなた、この間“自分は何者か”って私に聞いたわね。そのことよ」
胸が一度だけ高く跳ねた。
「あなたの名前は――リーナ・フェリエ。
フェリエ男爵の、一人娘よ」
「……なんとなく、気づいてました」
「そう」
ギルド長は眼鏡をクィ、と押し上げる。
「アリシア――フェリエ夫人。つまりあなたのお母さんと私は、昔からの仲でね。
あなたのことも、小さい頃から知ってるのよ」
懐かしそうに目を細めたその表情が、なんだか胸に刺さる。
「そう……だったんですね。
初めて……知りました」
「あなたは小さい頃から体が弱くて、ほとんど寝たきりだった。
主治医には『二十歳までは生きられない』って言われていてね」
ごくり、と喉が鳴った。
「その頃よ。フェリエ家に“怪しげな教団”が出入りするようになったのは」
「怪しげな……教団」
「フェリエ夫妻はなんとかリーナを生かそうとしたの。医者や薬も効かないと分かったら、呪術にも手を出してね」
苦い調子で目を伏せる。
「そして最終的にはフェリエ夫妻は殺害され、
禁忌の儀式に関わったとしてフェリエ家の財産はすべて没収された。
あなたは一命をとりとめたものの……ヴェノムストーンの中毒に苦しむことになった」
「……はい」
「……あまり驚かないのね?」
「なんとなく……覚悟してました」
ギルド長は目を丸くし、そしてふっと息を漏らした。
「リーナ……
貴族の子女が、家も財産も全部奪われて一人で放り出されるなんて、
普通なら耐えられないのよ?」
ぽん、と胸に何かが落ちた感覚がした。
「貴族だったころの記憶がないとはいえ、あなたは、文句ひとつ言わず、
毎日真面目に働いて……」
ギルド長は目頭をそっと押さえた。
「……ほんとうに、強い子ね」
「ギルドは、私にとって居場所ですから。元々貴族だった頃の記憶はありませんし……それに、ここで毎日働けるのが本当に幸せなんです」
「……そう。小さい頃のあなたを見ているみたいだわ」
ギルド長は懐かしむように微笑んだ。
「子どものあなた、よく言ってたのよ。『大きくなったらギルドで働きたい』って。だから――あなたが本当に面接に来たとき、熱で記憶を失ったなんて嘘じゃないかと思ったわ。」
(そんな過去が……オリジナルの“リーナ”が……)
胸が少しだけ締めつけられた。
「話を戻すけれどね」
ギルド長の声が僅かに低くなる。
「爆発事件を起こした教団と、あなたの両親を殺した教団……同じ可能性は高いわ。ギルドも魔導警察もその線で動いている」
「……はい」
私がゆっくり頷くと、ギルド長は穏やかだが真剣な眼差しで私を見る。
「犯人が捕まらない以上、あなた自身も十分に気をつけて。何か変わったことがあったら、すぐ報告するのよ」
「わかりました」
「それと――ちょっと突っ込んだことを聞くけど」
ギルド長が眼鏡の位置を指先で整えながら、わざとらしく視線を逸らした。
「レンとは……恋人なの?」
その瞬間、心臓が跳ねた。
「……はい」
「そう」
ギルド長は目を細め、なぜか少し安心したような、それでいて呆れたような表情をした。
「……いけませんか?」
「いけないわけじゃないわ。ただ――ある意味安心で、ある意味心配なの」
「安心で、心配……?」
「レンはギルド最強だし、真面目で芯も強い。あなたを命を張って守るでしょうね。でも……あの子、時々暴走するじゃない?」
「ああ……」
私たちは同時にふっと笑った。
「とにかく、あなたが元気に生きていてくれればいいのよ。ただし、当分外出は一人じゃダメ。必ず誰かと一緒に」
「わかりました」
「よろしい。じゃあ戻って。あまり無理しないようにね」
一礼してギルド長室を出た。
受付に戻るとマリアが待ち構えていた。
「ギルド長なんだって~?」
腕を組んで身を乗り出してくる。
「えっと……大した話じゃなかったわ。ちょっと確認みたいなものよ」
なるべく平然を装ったつもりだったけど、きっと顔に出ていた。
マリアはじーっと私の顔を覗き込む。
「……ふーん? なんか目が赤いし、ちょっとしんみりしてるし……泣いた?」
「泣いてない!」
慌てて否定する私に、マリアは「まぁいいけど~」と肩をすくめた。
「ねね、レンたち今お風呂屋さん行ってるらしいよ。汗だくで帰ってきてさ、『あとでみんなでご飯いこう』ってソーマが言ってた」
「そ、そうなの」
「うん。なんかレン、今日は妙にテンション高かったけど……なんかした?」
「な、何もしてないわよ!?」
声が裏返り、マリアがにやりと口元をゆがめる。
「ふぅん……まぁ、リーナが元気ならそれでいいけど~」
どう見ても納得してない顔。
でも、深くは追及しないのがマリアの優しさでもある。
私は胸を撫でおろしながら、そっと視線をカウンターの奥へ向けた。
(……レン、戻ってきたらどんな顔するんだろ)
ほんの少し、頬が熱くなる。
ほとんど逃げ出すように資料室を後にし、
早歩きで受付へ戻った。
「リーナ遅い~。何してたの? っていうか顔真っ赤なんだけど?」
マリアがむくれ顔で身を乗り出してくる。
「ちょ、ちょっと資料室に……ね……」
言葉を濁すしかない。
言葉にした瞬間、顔がさらに熱くなるのが自分でもわかった。
マリアはじぃ~~っと私の顔を覗き込み、
「……ふぅん?」
とだけ言い、にやりと笑った。
「そうだ、ギルド長が呼んでたよ。早く行った方がいいって」
「ギルド長が? え、なんだろ?」
(今この顔でギルド長室は嫌だ……!)
もう半泣きの気持ちで私は首をごまかすように傾げ、
足早にギルド長室へ向かった。
コンコン――。
扉を叩くと、
すぐに落ち着いた声が返ってきた。
「どうぞ」
ゆっくり扉を開ける。
山のように積みあがった書類の向こうで、
ギルド長がペンを走らせながら顔を上げた。
横にギルド医もいる。
「リーナ、もう体調はいいの?」
「は、はい。大丈夫です」
(顔赤いのバレてないよね……!?)
と、心の中で祈りながら。
「この間の爆発の件なんだけど――
禁忌の儀式の教団の仕業っていうのは、あなたも知ってるわよね?」
「はい……」
ギルド長は深く深く、ふぅ……とため息をついた。
「あなたも大人だから、やっぱり知っておいた方がいいと思ってね」
「……何の話ですか?」
ギルド長はペンを置き、まっすぐ私を見る。
「あなた、この間“自分は何者か”って私に聞いたわね。そのことよ」
胸が一度だけ高く跳ねた。
「あなたの名前は――リーナ・フェリエ。
フェリエ男爵の、一人娘よ」
「……なんとなく、気づいてました」
「そう」
ギルド長は眼鏡をクィ、と押し上げる。
「アリシア――フェリエ夫人。つまりあなたのお母さんと私は、昔からの仲でね。
あなたのことも、小さい頃から知ってるのよ」
懐かしそうに目を細めたその表情が、なんだか胸に刺さる。
「そう……だったんですね。
初めて……知りました」
「あなたは小さい頃から体が弱くて、ほとんど寝たきりだった。
主治医には『二十歳までは生きられない』って言われていてね」
ごくり、と喉が鳴った。
「その頃よ。フェリエ家に“怪しげな教団”が出入りするようになったのは」
「怪しげな……教団」
「フェリエ夫妻はなんとかリーナを生かそうとしたの。医者や薬も効かないと分かったら、呪術にも手を出してね」
苦い調子で目を伏せる。
「そして最終的にはフェリエ夫妻は殺害され、
禁忌の儀式に関わったとしてフェリエ家の財産はすべて没収された。
あなたは一命をとりとめたものの……ヴェノムストーンの中毒に苦しむことになった」
「……はい」
「……あまり驚かないのね?」
「なんとなく……覚悟してました」
ギルド長は目を丸くし、そしてふっと息を漏らした。
「リーナ……
貴族の子女が、家も財産も全部奪われて一人で放り出されるなんて、
普通なら耐えられないのよ?」
ぽん、と胸に何かが落ちた感覚がした。
「貴族だったころの記憶がないとはいえ、あなたは、文句ひとつ言わず、
毎日真面目に働いて……」
ギルド長は目頭をそっと押さえた。
「……ほんとうに、強い子ね」
「ギルドは、私にとって居場所ですから。元々貴族だった頃の記憶はありませんし……それに、ここで毎日働けるのが本当に幸せなんです」
「……そう。小さい頃のあなたを見ているみたいだわ」
ギルド長は懐かしむように微笑んだ。
「子どものあなた、よく言ってたのよ。『大きくなったらギルドで働きたい』って。だから――あなたが本当に面接に来たとき、熱で記憶を失ったなんて嘘じゃないかと思ったわ。」
(そんな過去が……オリジナルの“リーナ”が……)
胸が少しだけ締めつけられた。
「話を戻すけれどね」
ギルド長の声が僅かに低くなる。
「爆発事件を起こした教団と、あなたの両親を殺した教団……同じ可能性は高いわ。ギルドも魔導警察もその線で動いている」
「……はい」
私がゆっくり頷くと、ギルド長は穏やかだが真剣な眼差しで私を見る。
「犯人が捕まらない以上、あなた自身も十分に気をつけて。何か変わったことがあったら、すぐ報告するのよ」
「わかりました」
「それと――ちょっと突っ込んだことを聞くけど」
ギルド長が眼鏡の位置を指先で整えながら、わざとらしく視線を逸らした。
「レンとは……恋人なの?」
その瞬間、心臓が跳ねた。
「……はい」
「そう」
ギルド長は目を細め、なぜか少し安心したような、それでいて呆れたような表情をした。
「……いけませんか?」
「いけないわけじゃないわ。ただ――ある意味安心で、ある意味心配なの」
「安心で、心配……?」
「レンはギルド最強だし、真面目で芯も強い。あなたを命を張って守るでしょうね。でも……あの子、時々暴走するじゃない?」
「ああ……」
私たちは同時にふっと笑った。
「とにかく、あなたが元気に生きていてくれればいいのよ。ただし、当分外出は一人じゃダメ。必ず誰かと一緒に」
「わかりました」
「よろしい。じゃあ戻って。あまり無理しないようにね」
一礼してギルド長室を出た。
受付に戻るとマリアが待ち構えていた。
「ギルド長なんだって~?」
腕を組んで身を乗り出してくる。
「えっと……大した話じゃなかったわ。ちょっと確認みたいなものよ」
なるべく平然を装ったつもりだったけど、きっと顔に出ていた。
マリアはじーっと私の顔を覗き込む。
「……ふーん? なんか目が赤いし、ちょっとしんみりしてるし……泣いた?」
「泣いてない!」
慌てて否定する私に、マリアは「まぁいいけど~」と肩をすくめた。
「ねね、レンたち今お風呂屋さん行ってるらしいよ。汗だくで帰ってきてさ、『あとでみんなでご飯いこう』ってソーマが言ってた」
「そ、そうなの」
「うん。なんかレン、今日は妙にテンション高かったけど……なんかした?」
「な、何もしてないわよ!?」
声が裏返り、マリアがにやりと口元をゆがめる。
「ふぅん……まぁ、リーナが元気ならそれでいいけど~」
どう見ても納得してない顔。
でも、深くは追及しないのがマリアの優しさでもある。
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