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第一章
殿様イナゴ爆誕‼マーケットインフェルノ!<後編>
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翌朝。
鳥の鳴き声とともに、宿屋《えっくす亭》の一日は始まった。
……が。
あたしが目をこすって下に降りると、朝から鎧全開のレイが小型デバイスを操作していた。
「……朝から甲冑で新聞読むとか、肩こらないの?」
「おはよう、サキ。投資家にとって朝の情報収集は呼吸みたいなもんだ」
カチリ、とデバイスが光る。そこに映し出されていたのは、空中に具現化された日経新聞。
なんというか、時代も異世界も進化しすぎてる。
紙じゃなくて、光。情報も魔法化。
これが“経済魔導文明”ってやつか……。
「で、なんかいいニュースあった?」
「相場は今日も軟調だ」
レイは淡々とつぶやき、新聞を消す。
空気がちょっと重くなる。
「昨日のPTSで買った株、朝上がるからその時に手放しとけ」
「えぇぇ!? せっかく買ったのに! 持ってたらもっと上がるかもじゃん!」
「危険だ」
短く、しかし有無を言わせぬ声。
……なんだろう。こういう時のレイ、ちょっとカッコいい。いや、ちょっとどころじゃない。
「PTS闘技場は、闇市場の品。金の亡者が群がる戦場。持ち越した瞬間、足をすくわれる。だから上がったらすぐ売れ」
「……つまり?」
「“寝てる間に爆死する”ってことだ」
「わかりやすい!」
昨日の夜の爆光と戦闘を思い出す。
あの陽線バーストが、ただの“前兆”だったなんて……。
「初心者は、利益より生還を優先しろ。欲を出すな。……いいな?」
「はい」
レイの声が低く響く。
その瞬間、背筋がピンと伸びた。
おそらく、あたしには見えない何かが――相場の波が――彼には見えているのだ。
そして彼は、声を潜めて続けた。
「この町の話の続きだ。……ロイのことだ」
「ロイ?」
「あの宿のスポンサーであり、町長。そして、この町の株の最大ホルダーだ」
「……つまり……?」
「群衆を煽り、上で売り抜ける――悪徳支配者さ」
「っ!」
あたしの喉が鳴った。
昨日まで“英雄”みたいに見えていたロイが、急に――市場を喰らう魔物に思えた。
________________________________________
やがて時刻は午前九時。
――カンカンカンカンカン――!
広場の鐘が鳴り、今日の相場が始まった。
その瞬間――
ゴオオオオオオオオッッ!!!
闘技場の方から轟音が聞こえた。
地面が震え、空を突き抜ける光柱!
まるで市場の神が覚醒したような轟音が、町全体を包んだ!
「な、何っ!?」
「陽線だ……! しかも規格外の大陽線!!」
レイの声が震える。
あたしが顔を上げると、空には真紅の塔――“陽線タワー”が立ち上がっていた。
まるで昨日の余韻が、今になって暴走してるみたい。
「いまだ! サキ! 売れ!」
「え!? でも、待ってればまだ上がるかも――」
「いいから売れ! 売らないと破門だ!!」
「いつの間に一門になったのよ!?」
突っ込みつつも、慌ててデバイスを操作。
売却ボタン、タァァァップッ!!
――《損益+10% 2500円利確》――
「やった……! 久々に黒字……!」
胸が熱くなる。たった2500円。それでも、この勝利は大きい。
だが――群衆が、闘技場に、陽線タワーへ吸い寄せられるように走っていくのが見えた。
「行かなきゃ……! 今行けば、もっと儲かる……!」
足が、勝手に前へ出る。
「やめろ! あれは罠だ!」
「離してっ!」
レイの腕を振りほどこうとするが、岩みたいに動かない。
――その時。
空が裂けた。
「ふははははははははッ!!!」
天地を貫く笑い声!
陽線タワーの頂上に立つ影――ロイ!
「貴様らの欲望……この俺が喰らってやる!!」
光が爆ぜ、彼の身体が変貌する。
筋肉が膨張し、皮膚が黄金の殻へと変わり、背から巨大な翅が生えた。
顔が割れ、無数の複眼がぎらつく!
「な、なにあれ!?」
「“殿様イナゴ”だ……!」
レイの顔が蒼ざめる。
「群衆の欲を糧に進化する、相場界最悪のモンスターだ!」
殿様イナゴ――ロイは羽音を響かせ、金色の空を舞う。
「ハハハハハハハ!! 飛べぇぇぇイナゴども! 天まで買い上げろぉぉぉ!!!」
群衆が叫び、デバイスが赤く輝く。
無数の買い注文が空へ放たれ、塔がさらに伸びていく!
「これが……群衆心理の暴走……」
あたしは息を呑む。
まるで、世界そのものが“欲望”で燃えている。
「サキ、下がってろ!」
レイがデバイスを掲げる。
「チャート魔法陣・展開!!」
バシュウウウウッ!!!
眩い光が炸裂し、空間全体に**無数のローソク足が浮かび上がった!
それらがぐるぐると回転し、線が交錯し、火花を散らしながら――やがて、巨大な魔法陣を形成する!
バチバチバチバチィィィン!!
「な、何これ!? お祭りのネオン看板!? いや違う、チャート!? 魔法チャートだこれぇ!!」
「ふっ……俺の十八番、《移動平均陣》だ。あらゆる短期・中期・長期の流れを束ね、市場の波を制御する防陣!」
レイが剣を振りかざすと、青い光の筋が地面を這い――ズズズズズッッ!!
広場全体を覆い尽くすように、魔法のラインが展開された!
「――《移動平均陣・発動ッ!!》」
ゴゴゴゴゴッ!!!
青白い魔力が一気に噴き出し、地を揺るがすほどの風圧が襲う!
「な、なんかカッコいいけど! え、これ株の話だよね!? 今、魔法陣出てるけど!?」
「市場とは戦場だ、サキ! 魔法が出てもおかしくはないッ!!」
「理屈はおかしいけど説得力はすごい!!!」
その時――。
ドゴォォォォォォォォォンッ!!!
空から巨大な影が落ちてくる!
――殿様イナゴ。
群衆の“欲”を糧に進化した怪物が、金色の翅を広げ、絶叫を放つ!!
「ヒャハハハハハ!! 欲こそ力! 俺が天を制する時が来たァァァァッ!!!」
「来るぞサキ! 身を低くしろッ!!!」
ブワァァァァァァッ!!!
殿様イナゴが羽ばたくたび、暴風が吹き荒れ、チャートの光が揺れる!
地面が裂け、建物が吹き飛び、周囲の投資家が次々にデバイスごと吹き飛ばされていく!
「うわあああああ!?!? な、何この値動き暴風!! ストップ高どころかストップ嵐ぃぃぃ!!!」
「小賢しいトレーダー風情がぁぁぁぁ!!!」
殿様イナゴの巨大な爪が振り下ろされる!
ズドォォォォォォンッ!!!
「ぐぬぅっ……っ!!!」
レイが咄嗟に剣で受け止める! ギィィィィンッッ!!!
火花が散る、爆圧が弾ける!
ドガァァァァァァン!!!
宿屋の外壁が吹き飛び、瓦礫が宙を舞う!
レイのブーツが地を滑る! 砂煙の中で、光るチャートラインがひび割れていく!
「ちょっ!? ちょっと!? 宿屋《えっくす》燃えてるんだけど!?!?」
「えっくすに炎上は付き物だ! 宿などまた建てればいいッ!!!」
「そういうもんなの!?」
レイは息を吐き、剣に魔力を集中させる!
ゴゴゴゴゴ……剣の刃先に赤い線が走り、交差する二本の軌跡が現れる!
「喰らえ――《MACDクロス・バァァァァァァァァァストッ!!!》」
ビュオオオオオオオッ!!!
二本の赤と青の光線が空を切り裂き、中央で交差する!
瞬間――ドッガァァァァァァァァァァァァン!!!!
衝撃波が空間を貫き、殿様イナゴの胴体を直撃!
爆光!閃光!爆風!もう何が起きてるのか分からないレベルの大混乱!
「うおおおお!?!? な、何この視覚的ボラティリティ!?!? 目がぁぁぁ!!」
「これがMACDのクロスだ――トレンドが変わる瞬間を力に変える!!!」
「なんかすごいこと言ってるけど専門用語で全然わかんない!!!」
しかし殿様イナゴは、狂気の笑みを浮かべながら再び立ち上がる。
「甘いな……欲望を抑えられる者など、この相場には存在しないッ!!!」
ビカァァァァァァァァァァ!!!
黄金のオーラが彼の全身を包み込む!
「《欲望バリア・オープン!!》」
ボゴォォォォォォォンッ!!!
光が弾け、空気が歪む! レイの次弾がバリアに弾かれ、閃光が跳ね返る!
ズガァァァァァァァァァァァァン!!!
「ぐっ!? チィッ! 攻撃が……通らねぇ!?!?」
「くっ……防御力までインフレしてるって、どういうことよぉぉぉぉ!!!」
「奴のバリアは“欲”で形成されている! 群衆の買い欲が、そのまま防御力になってるんだ!!!」
なるほど、群衆がまだ“上がる”と信じてる限り、殿様イナゴの防御は無限。
つまり――。
「サキ!! 今だ、考えろ! 市場の理を、逆手に取るんだ!!!」
「理!? いや、そんなの知らないよぉ!!!」
「なら感じろッ!! チャートの流れを!!!」
レイが剣を地に突き立てた。
バチバチバチィィィィッ!!!
青い閃光が地を走り、チャートが反転する!
「リバーストレンド・スラァァァァァァッシュ!!!」
ズオオオオオオオオッ!!!
逆流する風が吹き荒れ、青い炎が天を裂く!
殿様イナゴの黄金の殻が、バリバリッ!! バキバキッ!! と音を立てて割れていく!
「なっ……!? ま、待て……! 俺はまだ……売り抜けてな……!!!」
バシュウウウウウウウウウッ!!!
青い光が爆ぜ、殿様イナゴの身体が弾け飛んだ。
無数のコインが宙に散り、陽線タワーが音を立てて崩れ落ちる。
ドォォォォォォォォォォォンッ!!!
閃光が空を裂き、広場を真昼のように照らす。
静寂――。
ただ、風の音だけが残った。
レイは膝をつき、肩で息をしながら剣を地に突き立てた。
「……終わったか。」
背中から、かすかに蒸気が立ち上る。
「ロイさんは……?」
「消えた。だが、またどこかで……群衆を煽る奴は現れる。」
あたしは空を見上げた。
赤く燃えていたチャートが、ゆっくりと緑に変わっていく。
まるで、市場が息を吹き返すみたいに。
「レイさん……次はどこへ?」
「東の方角、東証の中心地《1570》。――日経平均レバレッジ上場投信、通称“日経レバ”。初心者の修行にはちょうどいい場所だ。」
「なんか名前からしてデンジャーな香りしかしないんだけど!!?」
レイがふっと笑い、チャートブレードを肩に担ぐ。
「危険と利益は表裏一体だ――相場の基本だ。」
「うっ……名言っぽいけど怖い!!!」
朝日が昇る。
宿屋《えっくす亭》の残骸をあとに、あたしたちは東の地平へ向かう。
風が吹き抜け、砂塵の中で光がきらめく。
その音はまるで、次なる戦いのチャートを描く音のように――。
「……あ、そういえば最初のポジションの決済してなかった。」
デバイスを開く。
――《損益 -5,000円》
「ぎゃあああああああああああ!?!?」
「損切りは素早く、だ。」
ウィンクするレイ。おっさんなのに、なぜかキラッと光る。
「うぅぅぅ……次こそ、絶対に爆益掴んでみせるんだからぁぁぁ!!!」
朝の光が、ふたりの影を長く伸ばす。
それはまるで、新しいチャートの始まりのようだった――。
鳥の鳴き声とともに、宿屋《えっくす亭》の一日は始まった。
……が。
あたしが目をこすって下に降りると、朝から鎧全開のレイが小型デバイスを操作していた。
「……朝から甲冑で新聞読むとか、肩こらないの?」
「おはよう、サキ。投資家にとって朝の情報収集は呼吸みたいなもんだ」
カチリ、とデバイスが光る。そこに映し出されていたのは、空中に具現化された日経新聞。
なんというか、時代も異世界も進化しすぎてる。
紙じゃなくて、光。情報も魔法化。
これが“経済魔導文明”ってやつか……。
「で、なんかいいニュースあった?」
「相場は今日も軟調だ」
レイは淡々とつぶやき、新聞を消す。
空気がちょっと重くなる。
「昨日のPTSで買った株、朝上がるからその時に手放しとけ」
「えぇぇ!? せっかく買ったのに! 持ってたらもっと上がるかもじゃん!」
「危険だ」
短く、しかし有無を言わせぬ声。
……なんだろう。こういう時のレイ、ちょっとカッコいい。いや、ちょっとどころじゃない。
「PTS闘技場は、闇市場の品。金の亡者が群がる戦場。持ち越した瞬間、足をすくわれる。だから上がったらすぐ売れ」
「……つまり?」
「“寝てる間に爆死する”ってことだ」
「わかりやすい!」
昨日の夜の爆光と戦闘を思い出す。
あの陽線バーストが、ただの“前兆”だったなんて……。
「初心者は、利益より生還を優先しろ。欲を出すな。……いいな?」
「はい」
レイの声が低く響く。
その瞬間、背筋がピンと伸びた。
おそらく、あたしには見えない何かが――相場の波が――彼には見えているのだ。
そして彼は、声を潜めて続けた。
「この町の話の続きだ。……ロイのことだ」
「ロイ?」
「あの宿のスポンサーであり、町長。そして、この町の株の最大ホルダーだ」
「……つまり……?」
「群衆を煽り、上で売り抜ける――悪徳支配者さ」
「っ!」
あたしの喉が鳴った。
昨日まで“英雄”みたいに見えていたロイが、急に――市場を喰らう魔物に思えた。
________________________________________
やがて時刻は午前九時。
――カンカンカンカンカン――!
広場の鐘が鳴り、今日の相場が始まった。
その瞬間――
ゴオオオオオオオオッッ!!!
闘技場の方から轟音が聞こえた。
地面が震え、空を突き抜ける光柱!
まるで市場の神が覚醒したような轟音が、町全体を包んだ!
「な、何っ!?」
「陽線だ……! しかも規格外の大陽線!!」
レイの声が震える。
あたしが顔を上げると、空には真紅の塔――“陽線タワー”が立ち上がっていた。
まるで昨日の余韻が、今になって暴走してるみたい。
「いまだ! サキ! 売れ!」
「え!? でも、待ってればまだ上がるかも――」
「いいから売れ! 売らないと破門だ!!」
「いつの間に一門になったのよ!?」
突っ込みつつも、慌ててデバイスを操作。
売却ボタン、タァァァップッ!!
――《損益+10% 2500円利確》――
「やった……! 久々に黒字……!」
胸が熱くなる。たった2500円。それでも、この勝利は大きい。
だが――群衆が、闘技場に、陽線タワーへ吸い寄せられるように走っていくのが見えた。
「行かなきゃ……! 今行けば、もっと儲かる……!」
足が、勝手に前へ出る。
「やめろ! あれは罠だ!」
「離してっ!」
レイの腕を振りほどこうとするが、岩みたいに動かない。
――その時。
空が裂けた。
「ふははははははははッ!!!」
天地を貫く笑い声!
陽線タワーの頂上に立つ影――ロイ!
「貴様らの欲望……この俺が喰らってやる!!」
光が爆ぜ、彼の身体が変貌する。
筋肉が膨張し、皮膚が黄金の殻へと変わり、背から巨大な翅が生えた。
顔が割れ、無数の複眼がぎらつく!
「な、なにあれ!?」
「“殿様イナゴ”だ……!」
レイの顔が蒼ざめる。
「群衆の欲を糧に進化する、相場界最悪のモンスターだ!」
殿様イナゴ――ロイは羽音を響かせ、金色の空を舞う。
「ハハハハハハハ!! 飛べぇぇぇイナゴども! 天まで買い上げろぉぉぉ!!!」
群衆が叫び、デバイスが赤く輝く。
無数の買い注文が空へ放たれ、塔がさらに伸びていく!
「これが……群衆心理の暴走……」
あたしは息を呑む。
まるで、世界そのものが“欲望”で燃えている。
「サキ、下がってろ!」
レイがデバイスを掲げる。
「チャート魔法陣・展開!!」
バシュウウウウッ!!!
眩い光が炸裂し、空間全体に**無数のローソク足が浮かび上がった!
それらがぐるぐると回転し、線が交錯し、火花を散らしながら――やがて、巨大な魔法陣を形成する!
バチバチバチバチィィィン!!
「な、何これ!? お祭りのネオン看板!? いや違う、チャート!? 魔法チャートだこれぇ!!」
「ふっ……俺の十八番、《移動平均陣》だ。あらゆる短期・中期・長期の流れを束ね、市場の波を制御する防陣!」
レイが剣を振りかざすと、青い光の筋が地面を這い――ズズズズズッッ!!
広場全体を覆い尽くすように、魔法のラインが展開された!
「――《移動平均陣・発動ッ!!》」
ゴゴゴゴゴッ!!!
青白い魔力が一気に噴き出し、地を揺るがすほどの風圧が襲う!
「な、なんかカッコいいけど! え、これ株の話だよね!? 今、魔法陣出てるけど!?」
「市場とは戦場だ、サキ! 魔法が出てもおかしくはないッ!!」
「理屈はおかしいけど説得力はすごい!!!」
その時――。
ドゴォォォォォォォォォンッ!!!
空から巨大な影が落ちてくる!
――殿様イナゴ。
群衆の“欲”を糧に進化した怪物が、金色の翅を広げ、絶叫を放つ!!
「ヒャハハハハハ!! 欲こそ力! 俺が天を制する時が来たァァァァッ!!!」
「来るぞサキ! 身を低くしろッ!!!」
ブワァァァァァァッ!!!
殿様イナゴが羽ばたくたび、暴風が吹き荒れ、チャートの光が揺れる!
地面が裂け、建物が吹き飛び、周囲の投資家が次々にデバイスごと吹き飛ばされていく!
「うわあああああ!?!? な、何この値動き暴風!! ストップ高どころかストップ嵐ぃぃぃ!!!」
「小賢しいトレーダー風情がぁぁぁぁ!!!」
殿様イナゴの巨大な爪が振り下ろされる!
ズドォォォォォォンッ!!!
「ぐぬぅっ……っ!!!」
レイが咄嗟に剣で受け止める! ギィィィィンッッ!!!
火花が散る、爆圧が弾ける!
ドガァァァァァァン!!!
宿屋の外壁が吹き飛び、瓦礫が宙を舞う!
レイのブーツが地を滑る! 砂煙の中で、光るチャートラインがひび割れていく!
「ちょっ!? ちょっと!? 宿屋《えっくす》燃えてるんだけど!?!?」
「えっくすに炎上は付き物だ! 宿などまた建てればいいッ!!!」
「そういうもんなの!?」
レイは息を吐き、剣に魔力を集中させる!
ゴゴゴゴゴ……剣の刃先に赤い線が走り、交差する二本の軌跡が現れる!
「喰らえ――《MACDクロス・バァァァァァァァァァストッ!!!》」
ビュオオオオオオオッ!!!
二本の赤と青の光線が空を切り裂き、中央で交差する!
瞬間――ドッガァァァァァァァァァァァァン!!!!
衝撃波が空間を貫き、殿様イナゴの胴体を直撃!
爆光!閃光!爆風!もう何が起きてるのか分からないレベルの大混乱!
「うおおおお!?!? な、何この視覚的ボラティリティ!?!? 目がぁぁぁ!!」
「これがMACDのクロスだ――トレンドが変わる瞬間を力に変える!!!」
「なんかすごいこと言ってるけど専門用語で全然わかんない!!!」
しかし殿様イナゴは、狂気の笑みを浮かべながら再び立ち上がる。
「甘いな……欲望を抑えられる者など、この相場には存在しないッ!!!」
ビカァァァァァァァァァァ!!!
黄金のオーラが彼の全身を包み込む!
「《欲望バリア・オープン!!》」
ボゴォォォォォォォンッ!!!
光が弾け、空気が歪む! レイの次弾がバリアに弾かれ、閃光が跳ね返る!
ズガァァァァァァァァァァァァン!!!
「ぐっ!? チィッ! 攻撃が……通らねぇ!?!?」
「くっ……防御力までインフレしてるって、どういうことよぉぉぉぉ!!!」
「奴のバリアは“欲”で形成されている! 群衆の買い欲が、そのまま防御力になってるんだ!!!」
なるほど、群衆がまだ“上がる”と信じてる限り、殿様イナゴの防御は無限。
つまり――。
「サキ!! 今だ、考えろ! 市場の理を、逆手に取るんだ!!!」
「理!? いや、そんなの知らないよぉ!!!」
「なら感じろッ!! チャートの流れを!!!」
レイが剣を地に突き立てた。
バチバチバチィィィィッ!!!
青い閃光が地を走り、チャートが反転する!
「リバーストレンド・スラァァァァァァッシュ!!!」
ズオオオオオオオオッ!!!
逆流する風が吹き荒れ、青い炎が天を裂く!
殿様イナゴの黄金の殻が、バリバリッ!! バキバキッ!! と音を立てて割れていく!
「なっ……!? ま、待て……! 俺はまだ……売り抜けてな……!!!」
バシュウウウウウウウウウッ!!!
青い光が爆ぜ、殿様イナゴの身体が弾け飛んだ。
無数のコインが宙に散り、陽線タワーが音を立てて崩れ落ちる。
ドォォォォォォォォォォォンッ!!!
閃光が空を裂き、広場を真昼のように照らす。
静寂――。
ただ、風の音だけが残った。
レイは膝をつき、肩で息をしながら剣を地に突き立てた。
「……終わったか。」
背中から、かすかに蒸気が立ち上る。
「ロイさんは……?」
「消えた。だが、またどこかで……群衆を煽る奴は現れる。」
あたしは空を見上げた。
赤く燃えていたチャートが、ゆっくりと緑に変わっていく。
まるで、市場が息を吹き返すみたいに。
「レイさん……次はどこへ?」
「東の方角、東証の中心地《1570》。――日経平均レバレッジ上場投信、通称“日経レバ”。初心者の修行にはちょうどいい場所だ。」
「なんか名前からしてデンジャーな香りしかしないんだけど!!?」
レイがふっと笑い、チャートブレードを肩に担ぐ。
「危険と利益は表裏一体だ――相場の基本だ。」
「うっ……名言っぽいけど怖い!!!」
朝日が昇る。
宿屋《えっくす亭》の残骸をあとに、あたしたちは東の地平へ向かう。
風が吹き抜け、砂塵の中で光がきらめく。
その音はまるで、次なる戦いのチャートを描く音のように――。
「……あ、そういえば最初のポジションの決済してなかった。」
デバイスを開く。
――《損益 -5,000円》
「ぎゃあああああああああああ!?!?」
「損切りは素早く、だ。」
ウィンクするレイ。おっさんなのに、なぜかキラッと光る。
「うぅぅぅ……次こそ、絶対に爆益掴んでみせるんだからぁぁぁ!!!」
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それはまるで、新しいチャートの始まりのようだった――。
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これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
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