東証バトルロワイヤル

人妻あず。

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第二章

暴落召喚!?現れしベア教団!

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「サキ・トウジョウさんですね。これで全ての手続きが終わりました」
受付嬢がにこやかに微笑む。
「よしっ、これで登録完了っと!」  
あたしは勢いよく小型デバイスを閉じた。
パシン、と乾いた音が広がる。ここは“ブルズ・アイ”――トレーダーズギルドの総本部だ。
 壁には金色の額縁で飾られた信条が掲げられている。
 ――『自由と上昇を信条とする冒険者(トレーダー)集団。金を追うものは奪われる。価値を見抜くものは生き残る。』
 そして、受付の壁には牡牛に似た魔獣のイラスト。どことなく誇らしげで、どことなく狂気を孕んでいた。
「……なんか、宗教っぽいね」
 「まあ、信仰に近いものはあるな。上昇への祈り、ってやつだ」  
レイが肩をすくめる。
「サキって苗字トウジョウっていうんだな」
「そうですよ、めずらしい?」
「いや、知り合いに一人いる」
「まあたまにいますよね。そうそう、一人で戦い(トレード)を始めたけど、やっぱりこういうのって入った方が良かったのかな?」 
「ああ。定期的に勉強会もあるし、仲間もできる。情報も入ってきやすくなる」  
レイがくしゃっと笑う。
くそう、このおっさん、笑うと可愛いのがずるい。
 その時だった。
「レイ!!」
 遠くから、地鳴りのような声とともに、ぶるんぶるんと揺れる白衣姿の巨乳の美女が突進してきた!
ギルドの照明にに金髪がきらめく。重力を裏切る豊満ボディ
「えっ⁉ リン!」
 レイが目を丸くする。
「やっぱり!ここで待ってれば会えると思ってた!」
 「リン……なぜここに?」
 「あなたがあの暴落のあと、姿を消したのが気になって……ちょうどこのギルドでセミナー講師を募集してたの! 応募してみたら採用されたのよ!」
 そして、ようやくあたしの存在に気づいたらしい。
 「……あれ、この子は?」
「この子はサキ。初心者トレーダーで、俺がいろいろ教えてる」
「レイ……あなた、こじらせてるからって……パパ活に手を出すなんて……」
「パパ活ちゃうわ!!」
「パパかぁ⋯⋯」
 つっこむあたしと何故か照れるレイ。
 おい、この場合のパパは多分そういう意味じゃない。
「私はリン・マブチ。リン先生ってみんな呼んでるわ。このギルドでセミナー講師をしているの。この世界の仕組みを初心者にもわかりやすく教えてるから、よかったら受講してね!」  
あたしのツッコミをひらりとかわし、リンさん――いや、リン先生が完璧な笑顔で自己紹介する。
「リンはこう見えて博識だぞ。東大理学部を出て、マサチューセッツ工科大学の大学院を経て博士号も取ってる。国の機関でも働いていたから、この世界の仕組みにも詳しい。……俺も何度も助けられた」
「レイ……」
 二人の間に、なんか甘酸っぱい空気が漂う。 
 やめてくれ、ギルド中の目線が痛い! 視線であたしが焼かれる!!
「サキ・トウジョウです。初心者ですがよろしくお願いします!」  耐えきれず、あたしはぺこりと頭を下げた。
 その時だった。
「ベア魔獣の骨と皮、買い取り頼む」
 ドンッと受付に大きな麻袋が置かれた。  声の主は黒いローブを纏い、フードを深くかぶった男。ローブに描かれた蛇をモチーフにした紋様にどこか見覚えがあった。
「ありがとうございます! 奥で計算しますので、こちらへどうぞ!」  受付のスタッフが頭を下げる。
 男がゆっくり歩き出す。その瞬間、フードの隙間から――ちらりと見えた。
「……ロイ町長!?」
 思わず声を上げた。
 レイとリンが同時にこちらを向く。 
「え? どうした?」
 「今の人……ロイ町長じゃなかった!?」 
「いや……俺は見てなかったけど、まさか……」 
「ロイ町長って、あの“コインの町”の? 最近、行方不明になったってニュースになってたけど……」
 リンが眉をひそめる。
 ギルド内がざわつき始める。どうやらこの町でも、ロイは“伝説のトレーダー”として有名らしい。
  もちろん、“いい意味で”だ。
 だがあたしたちは知っている。  あの人が――殿様イナゴとして、人々の欲望を喰らった怪物だったことを。
 その時――ギルドの床が震えた。
「な、なんだ!? 地震か!?」
「きゃあああああ!?」
 受付嬢の悲鳴と同時に、壁に飾られた“上昇チャート”の額縁がガタガタと揺れる。
 いや、違う。これは――市場の震えだ。
 レイが即座に小型デバイスを起動する。
「チャート魔法陣・展開!!」
 空間に展開されたホログラムチャートの魔法陣が、緑に点滅していた。
「レイ、これって……」
「……トレンドが崩れた。ベアの波が来る!」
 ベアの波――それは、市場全体を飲み込む“下落の呪い”だ。
 外から響く、ドドドドッという地鳴り。
 扉が吹き飛び、遠くに巨大な影が姿を現した。
  全身を漆黒の毛で覆い、背中に折れたチャートの矢を突き刺したような異形。
 目は血のように赤く、口からは冷たい数字の霧を吐き出している。
「 思わず小型デバイスから剣を抜きかけたあたしに、レイが叫ぶ。
「待て、サキ! あれは強い! “市場の悲鳴”が具現化した存在だ!!」
「市場の……悲鳴?」
「そうだ。暴落への恐怖が臨界を超えると、感情が形を持つ。――あれが、ベア魔獣だ!」
 ベア魔獣が吠えた。
 ガアアアアアァァン!!!
 音波だけで窓ガラスが砕け、ギルドの建物が軋む!
「リン、避難を!」
「だめ! 足がすくんでうごけない!」
 リンの声が響いた瞬間、私は決意した。
「よし、戦うしかないね!」
「サキ、リン、下がってろ!」
「チャートブレード・オン!!」
 ――それは、まるで大地が泣き叫ぶような音だった。
 ドオォォォンッ!!
 ギルド“ブルズ・アイ”の床が爆ぜ、土煙が吹き上がる!
 机も、端末も、壁のチャートモニターも、一瞬で吹き飛んだ!
「な、なんだ!?」
「地震!? いや、違う!」
 ギルド中のトレーダーたちが叫ぶ。
土埃の奥――そこから現れたのは、黒い毛皮と赤いチャートの瞳をもつ巨大な獣だった。
 ――ベア魔獣。
 背には折れたローソク足の欠片が刺さり、口からは黒煙のような“悲鳴のチャートデータ”が漏れている。
 その一歩ごとに、周囲の板情報が“下方向”へ崩れていく!
「なにあれぇ!? 相場を喰ってる!?」
「やつは“ベア教団”の召喚獣だ!」レイが叫んだ。
「ベア教団?」
「ああ、“下落こそ救い”って唱える連中だ。世界をゼロに戻すとかぬかして、暴落を神聖視してる!」
「最悪じゃん!」
 そのとき、黒いローブの男の集団がベア魔獣の背からぬるりと降り立った。
 振り向くと、崩れた壁の向こうからローブ姿の集団が現れた。
 全員、胸に逆さまのチャートマークをつけている。

「お前ら、誰だ!」
「我ら、ベア教団。下落こそ浄化、暴落こそ救済……」
 リーダー格の男がフードを取ると、顔に“-30%”のタトゥーが刻まれていた。
「え、宗教なの!? 投資って宗教なの!?あとそのタトゥー親泣くよ!?」
思わず声をあげる。困ったような顔をするレイ。
「まあ……信仰は自由だからなあ……」
「信仰なき者は爆益できぬ……さあ、ベア魔獣よ、彼らを試練に導け」
 声が冷たい。
「貴様らブル派こそ、この世界を歪めた罪人だ」
 レイが小型デバイスを変形させた剣を抜く。
「お前らの理屈で誰が救われる? 暴落で泣くのは庶民だろうが!」
「泣くことこそ浄化……」
 グラフトの足元で魔法陣が広がり、ベア魔獣の体毛が金属のように変化していく。
「来るぞ! サキ、下がれ!!」
 ベア魔獣が咆哮した。
 ――ガアアアアアアアァァァン!!
 音の波が爆発し、ギルドの天井が砕け散る!
「チャート魔法陣、展開!!」
 あたしのデバイスが光り、空中に魔法陣が展開される。
 緑が溢れる。
 まるで地獄の海のように、緑の線が下へ、下へと伸びていく。
「くっ……完全に下降トレンドッ!」
うろたえるあたし。
「損切……!」
「ダメだ、今は早い!」
 レイが叫ぶ。
「ベアの牙は“恐怖”に反応する! 動揺した瞬間に喰われるぞ!」
「じゃ、じゃあどうすれば!」
「心を鎮めろ――メンタルの炎を絶やすな!」
 レイの剣が青白く輝き始める。
「マインド・ブースト!!」
 パァァァァァッ!!
 光の波があたしを包み、全身に温かい何かが流れ込んだ。
 震えが止まる。
 心臓の音がゆっくりと落ち着く。
 その瞬間、チャート魔法陣の緑が少しずつ赤に戻っていく。
「おお……これが……」
「メンタル増幅魔法だ! 恐怖を消して、冷静を取り戻せ!」
 レイが構える。
「いくぞ……ブル・ライン・スラァァァッシュ!!」
 剣から放たれた青の光が一直線に走り、ベア魔獣の影を切り裂いた!
 ドガァァァァァァァァァン!!
「グアアアアアアアア!!」
 魔獣が呻き、暴落チャートの炎が弾け飛ぶ。
 けれどすぐに、その裂け目から黒い手が伸びた。
「ヒトの恐怖は尽きぬ……ベアは再生する……」
「ならば――」
 レイが目を細めた。
「尽きるまで叩き切るまでだッ!!!」
 レイが跳ぶ!
 ベア魔獣の背に踏み込み、チャートラインを踏み台にして宙へ!
「リバーストレンド・スラァァァァァァッシュ!!!」
 ズガアアアアアァァァァァァァァァン!!
 赤の閃光がベア魔獣の頭上を貫き、天井ごと吹き飛ばす!
 空から光の雨が降り注ぎ、影が裂ける。
「グ……ぅ……おおおおおお……」
 黒煙がベアの体から噴き上がる。
「損切は――今じゃない! ホールドだッ!!」

 光のチャートが収束し、一本の巨大な赤い線
となって空へ――。
 ――ズドォォォォォォン!!
 光の爆風がギルドを包み、音が消える。
 次の瞬間、ベア魔獣の巨体が砕け、無数のコインの欠片となって散っていった。
 静寂。
 ただ、崩れ落ちた壁の向こうで、日の光が差し込んでいた。
「……やった、の……?」
 サキが震える声で尋ねる。
 レイはチャートブレードを肩に担ぎ、苦笑した。
「今のところは、な」
 ふと見ると――さっきまでいたはずのローブの男、ベア教団の使徒の姿が消えていた。
「待って! あの男は!?」
 レイが周囲を見渡す。
 瓦礫の中に転がる黒い布切れ。その端には、熊の爪を模した紋章。
「ベア教団……」
「ロイ町長のこと、関係あるのかな」
 あたしはぼそり、とつぶやいた。
 レイは黙って空を見上げた。
 煙を突き抜ける陽光の中、微かに黒い影が揺れる。
 まるで、次なる暴落の前兆のように――。


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