東証バトルロワイヤル

人妻あず。

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第二章

悲観楽観!?ショーターソウマ

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夜。
闘技場での騒ぎが終わったあと、あたしたちは宿屋「えっくす亭」の食堂にいた。

コインの町と同じ名前だけど、こっちは別の店。
チェーン展開してるのかな……株式上場してたりして。

食堂の中は夜の喧騒でにぎやかだった。
鉄板の上でじゅうじゅう焼けるステーキの音。
香ばしいソースの匂い。
そしてテーブルには、黄金色に輝くジョッキ――!

「ぷはぁ~~っ、生き返るぅ~!」
リン先生が一気にビールをあおって、頬を上気させる。
昼間、赤ワイン一本空けてたのに……また飲んでる!?
先生、アルコール燃費悪すぎでは!?

「今日はお疲れ様! アニキたち!」
ぱっとテーブルの横から顔を出したのは――昼間の美少年、ソウマだった。

「ソウマ……だっけ? なんでここにいるの?」
「そりゃあこの町に宿はここだけだからだよ! いいじゃん混ぜてよぉ! 俺一人なんだよぉ」
ぐいぐいテーブルに割り込んでくるソウマ。
こいつ、完全に“居座り型”だ。

「サキ、誰……その子」
戻ってきたリン先生が眉をひそめる。

「昼間アニキたちと闘技場で出会ったソウマでっす! よろしく、美人な姐さん!」
「ね、姐さん……?」
褒められたのかどうか微妙な表情のリン先生。
ビール片手に
「まあ、悪い気はしないけど……」
と小声でつぶやいていた。

「まあいいじゃないか。俺はレンだ。よろしくな、ソウマ」
「ありがとうございます! アニキの噂は前から知ってますよ! 有名人と会えて嬉しいです!」

ソウマは満面の笑みでレイとがっちり握手。
……いや、そんな握りしめなくても。筋トレか。

「レイって……有名なの?」
「え、知らないで一緒にいるの? アニキはあの“閃光のロング”――」
「やめろ」
ソウマの言葉にかぶせて、レイが低く遮る。
声のトーンがちょっと怖い。

「ま、長くやってりゃ名前くらい知られるさ」
レイは苦笑いを浮かべてジョッキを持ち上げた。
その横顔に、なんか“過去を知る人”っぽい哀愁が漂う。
そうだ、見た目が若いから忘れてたけどこの人おっさんだった。

「サキちゃんって言ったっけ? いくつなの?」
「え? 十八だけど」
「ええっ!? 俺と同い年!? 見えないね、中学生くらいかと思ったわ!」

ぶっ!!
思いっきりオレンジジュース吹いた!

「な、なにを言うのよこの失礼ショタ!!」
「ショタじゃねぇ! ショーターだ!」
「だから、ショタでしょ?」
「違うっ!」
「違いませんっ!」

横を見ると、リン先生が笑いをこらえながらジョッキをぐびぐび。
「若いっていいわねぇ~ふふっ」
完全に酒場の姉御だ。

ソウマは笑顔を引っ込め、急に真面目な顔になる。
その変化が、ちょっとだけ空気を変えた。

「……冗談はさておき、アニキたちに協力してほしいことがあるんだ」
「ベア教団か」
レンの低い声がテーブルに落ちる。

「さっすがアニキ。察しがいい」
「お前……教団と、どういう関係だ?」
レイが鋭い視線を向ける。
その目は昼間と同じ、氷みたいに冷たい。

「俺、元ベア教団。逃げてきた」
「逃げてきた?」
リン先生の声が低くなる。

ソウマはうつむいたまま、苦笑した。
「ノルマきついし、お布施多いし……あと、方向性の違い?」
「芸能人かお前は」
思わず突っ込むあたし。

「でもな、それだけじゃないんだ。教主が――やばい」
「やばいって、何が?」
「つながってるんだよ。ベア教団の教主と“ナイトメア”が」

その名前を聞いた瞬間、レイの目が鋭く光った。
空気が一気に重くなる。
……なにその“黒幕感MAX”な名前。

「ナイトメア、ですって?」
リン先生の笑顔がすっと消える。
ジョッキの泡だけが静かに弾けた。

ソウマはうなずく。
「俺がベア教団に入ったのもさ、戦い(相場)で勝つ方法を知りたくて……。でもあの教主、ただの教祖じゃない。世界を……闇に」

「世界を……闇にか」
レイが呟く。
「その力を金に変えてる。信者を利用して」

あたしはぞっとした。
よくわからないけどこの世界の“闇”の匂いがする。

「それで、お前はショーターなのか?」
「え?」
あたしの頭の上にクエスチョンマークが浮かぶ。

「ショーターってのは、ベア魔獣の“悲観”の力を扱う戦士のことだ」
レンが説明してくれる。
「俺たちロングが“希望”を武器にするのに対して、ショートは“悲観”を力に変える。光と闇の関係だな」
「希望……と悲観……」
「別にどっちが悪いとかはねぇ。戦い方は自由だ」
レイが静かに言う。

こっそりデバイスにメモするあたし。
(ショーター=悲観の闇。ロング=希望の光。覚えた)

「で、ソウマ。俺たちに何を頼みたい?」
レイの声が低く落ちる。

ソウマはテーブルの上で手を合わせた。
「実は……逃げるときに、うっかり“小型デバイス”置いてきちゃって……」
「ええええええっ!?」

レイとリン先生の声がハモった。
食堂の隣の席の客まで振り向くレベル。

「置いてきたって……どうやって生活してるの?」
リン先生が心配そうに尋ねる。

「ギルドに貸出デバイス借りてるから、最低限は大丈夫。でも……今までの取引データとか口座情報とか、全部あっちの中にあるんだ」
「そ、それは致命的……!」
頭を抱えるレイ。

「だから! 取り返すの、手伝ってくださいよぉ! アニキたちと一緒なら、教団も手荒なことしないだろうし!」

「お前なぁ……」
レイが深いため息をつく。

リン先生が無言でジョッキをテーブルに置いた。
その顔、すでに“飲みすぎたからもう行くしかない”モード。
「……どうする?」
あたしはレンの方を覗き込む。

レンはステーキを一切れ頬張り、もぐもぐ咀嚼してから――にやりと笑った。

「乗りかかった船だ。行ってみるか!」
「ありがとう、アニキぃぃ!」

勢いよく頭を下げるソウマ。
その背後で、リン先生が「おかわりー!」と叫んでいた。

……えっくす亭の夜は、にぎやかに更けていく。
焼き鳥の煙とビールの泡の向こうで、
新たな戦いの匂いが、確かに立ち上っていた。
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