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第二章
悪夢再来!?閃光のロング
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――また、あの夢だ。
胸の奥が焼けるように熱い。
目の前で、住み慣れた家がグシャグシャと音を立てて崩れていく。
屋根はバキバキに裂け、壁はドロドロに溶け落ち、まるで巨大なモンスターの足で踏み潰されたみたいだった。
地鳴りが腹の底まで響き、あたしはその場に立ち尽くす。世界がひしゃげ、色が滲む。
「父さん! 母さん! シュン! どこ!? まだ中にいる!」
家族の名前を叫びながら、あたしは瓦礫の山に手を伸ばした。
でも指先は、空を切るばかり。
触れたいのに、誰にも届かない。
熱い。熱すぎて、炎が髪の先を焦がし、煙が喉を締めつける。
肺の奥が焼けるほど息苦しいのに、心臓だけがバクバクと激しく鳴っていた。
――これは夢だ。
あたしは自分にそう言い聞かせる。
――あの夜。あの悪夢が、何度も何度も頭の中で再生される、あの夢。
「サキ……ごめんな……父さん、株で負けちまったよ……」
どこからともなく、父さんの声がする。
かすれて、弱々しく、まるで風に溶けて消えていくみたいな声。
あの日の父さんは、もう父さんじゃなかった。
「父さん! どこ!? 答えてよ!」
その叫びを飲み込むように、
――ドガァァァァン!
地面が裂けた。
瓦礫の隙間から黒い霧がモクモクと立ち上り、
まるで地獄の底から這い出すように、影が姿を現す。
――含み損の化け物、《ロスゴーレム》。
それは、まるで父さんの叫びが形を取ったかのようだった。
「父さんを……家族を、返せ――っ!」
喉が裂けるほど叫ぶ。
叫ばずにはいられなかった。
何度夢を見ても、展開は同じ。
ロスゴーレムの緑色の目が、ギロリとこちらを睨む。
あたしは歯を食いしばる。
「チャート魔法陣展開、チャートブレード、オン!」
光が走る。
あたしの周囲に魔法陣が広がり、
手にした剣がデータの粒子で形を取った。
「もう、あの頃みたいに弱くない……!」
あたしは叫び、ロスゴーレムに駆け寄った。
刃を振り下ろす――だが、ゴーレムはピクリとも動かない。
「ふざけんな、ふざけんな、ふざけんなぁぁ!!」
叫びと共に、涙があふれた。
あたしの声が、虚空のチャートに木霊する。
何度切っても、何度打ち込んでも、数値はゼロのまま。
悔しくて、悲しくて、涙と嗚咽で視界が滲んでいく。
その時。
「サキ! サキ! 大丈夫か!?」
誰かの声。男の声。
遠くから聞こえるその声は、懐かしい――誰だっけ?
「う……うん……」
目を開ける。
冷たい空気。石造りの天井。
薄暗い部屋に、明り取りの小窓からわずかな光が差し込んでいた。
反対側には鉄格子。牢屋だ。
「ここ……どこ?」
身体を起こそうとした瞬間――ズキン!
激痛が背中を走る。
「まだ動かない方がいい。ベア魔獣にやられたダメージが残ってる」
レイの低い声が響いた。
そっか、あたし……ベア魔獣に……。
「よく生きてたなぁ……」
自分で言ったセリフで、心の緊張が切れた。
あたしは床に崩れ落ちた。
岩の冷たさが肌に伝わり、涙が頬を伝ってぽたり、ぽたり。
――おかしいな。あたし、こんなに泣き虫じゃなかったのに。
「ベア魔獣は、メンタルを直接叩くタイプだ。
体は癒せても、心は自分で立て直すしかない。そういう魔獣なんだ。」
レイが静かに言う声が、鉄格子に反響する。
「ここは……?」
「ベア教団の地下牢。捕まっちまったな。」
「そっか……ごめんね、あたしのせいで……」
あたしの声は震えていた。
でもレイは首を振る。
「いや、あれは俺でもきつかった。助けてくれてありがとうな、サキ。」
あたしの頭に手が置かれる。温かい。
無言でうなずいた。
「……ところで、だいぶうなされてたけど大丈夫か? “父さん”とか“ふざけんな”とか言ってたけど」
「ああ……」
あの夢で聞いた声。レイだったんだ。
「昔の夢を、ちょっとね。」
「昔って言っても最近だろ? 前に親父さん破産したって言ってた時のか?」
「大したことじゃないの。よくある話。」
「話したくないなら無理にとは言わんが……」
レイの声がやわらかく響く。
その優しさに、胸が痛んだ。
「父が、“投資サークル”にハマって……。最初は小遣い稼ぎ程度だったのに、
いつの間にか、全部株の話しかしなくなって、仕事も行かなくなって……」
あたしの声は震え、目の奥が熱くなる。
「“もうすぐ爆益が出る”って言って、家の土地まで担保に入れたの。」
笑い飛ばすつもりだったのに、涙がにじんだ。
「結果、全部飛んだ。
母は過労で倒れて、家は火事で焼けた。弟は学校をやめた。
父は破産、いなくなった……」
喉が詰まる。
あの緑の陰線が、まぶたの裏に焼き付いて離れない。
「それで、私は東京に逃げた。
でも結局、父と同じことしてる。
“株で取り返す”って笑ってたけど、本当は怖い。
相場って、人を狂わせるの、知ってたから。」
レイがゆっくり息を吐く。
「……それでも、お前はチャートブレードを握るんだな。」
「ええ。」
涙を拭ってうなずいた。
「だって、負けっぱなしじゃ終われない。
父を、家族を壊した“市場”を、この手でぶっ飛ばしてやりたい。
――それが、あたしのケジメ。」
静寂。
カチャ、と金属音。
見ると、レイがフルアーマーを外していた。
Tシャツにデニム姿――戦士ではなく、一人の人間の姿。
「アーマー脱いだの初めて見た」
「そうだろうな」
レイがふっと笑った。
その微笑みに安心して、また涙がこぼれた。
「っつ……なにこれ、泣くつもりじゃ……」
「ベア魔獣のメンタルダメージの影響だ。っと。」
レイがそっとあたしを抱きしめた。
「ちょっ! なにするの!?」
「いいからいいから。こういう時はな、人肌が一番の薬だ。」
「バカ……」
でも、あたたかかった。
レイの体温が、凍りついた心を少しずつ溶かしていく。
おっさんのくせに、なんでこんないい匂いするのよ。
胸に顔をうずめると、レイの心臓の音が“どくん、どくん”と聞こえた。
「せっかくだから、俺も秘密を教えてやる」
レイが背中をぽんぽん叩きながら言う。
「俺はかつて“閃光のロング”と呼ばれた。
俺の買う銘柄はすべて上がり、皆が群がった。
でもな、上がり続ける相場なんてない。
遅れて入った連中は値崩れに巻き込まれて爆死した。
結果、俺は何人もの人間を不幸にした。」
その腕に、わずかに力がこもった。
「サキ。お前は誰も不幸にしてない。
いくらでもやり直せる。」
レイの表情は見えない。
でも、その声はやさしかった。
「相棒がこの世界を退場した時、決めたんだ。
もう群れない。一人で戦うってな。」
何か言ってあげたかった。
でも、言葉が出なかった。
「だからサキ。教団から抜け出せたら、俺が戦い方を教える。
お前が飽きるまで、傍にいてやる。
――だから、負けるな。自分に。」
うん、と言いたかった。
でも、涙があふれすぎて声にならなかった。
子どものように泣きじゃくるあたしを、
レイは何も言わず、ただ抱きしめ続けた。
やがて、涙が枯れ、あたしが眠りに落ちるまで――。
胸の奥が焼けるように熱い。
目の前で、住み慣れた家がグシャグシャと音を立てて崩れていく。
屋根はバキバキに裂け、壁はドロドロに溶け落ち、まるで巨大なモンスターの足で踏み潰されたみたいだった。
地鳴りが腹の底まで響き、あたしはその場に立ち尽くす。世界がひしゃげ、色が滲む。
「父さん! 母さん! シュン! どこ!? まだ中にいる!」
家族の名前を叫びながら、あたしは瓦礫の山に手を伸ばした。
でも指先は、空を切るばかり。
触れたいのに、誰にも届かない。
熱い。熱すぎて、炎が髪の先を焦がし、煙が喉を締めつける。
肺の奥が焼けるほど息苦しいのに、心臓だけがバクバクと激しく鳴っていた。
――これは夢だ。
あたしは自分にそう言い聞かせる。
――あの夜。あの悪夢が、何度も何度も頭の中で再生される、あの夢。
「サキ……ごめんな……父さん、株で負けちまったよ……」
どこからともなく、父さんの声がする。
かすれて、弱々しく、まるで風に溶けて消えていくみたいな声。
あの日の父さんは、もう父さんじゃなかった。
「父さん! どこ!? 答えてよ!」
その叫びを飲み込むように、
――ドガァァァァン!
地面が裂けた。
瓦礫の隙間から黒い霧がモクモクと立ち上り、
まるで地獄の底から這い出すように、影が姿を現す。
――含み損の化け物、《ロスゴーレム》。
それは、まるで父さんの叫びが形を取ったかのようだった。
「父さんを……家族を、返せ――っ!」
喉が裂けるほど叫ぶ。
叫ばずにはいられなかった。
何度夢を見ても、展開は同じ。
ロスゴーレムの緑色の目が、ギロリとこちらを睨む。
あたしは歯を食いしばる。
「チャート魔法陣展開、チャートブレード、オン!」
光が走る。
あたしの周囲に魔法陣が広がり、
手にした剣がデータの粒子で形を取った。
「もう、あの頃みたいに弱くない……!」
あたしは叫び、ロスゴーレムに駆け寄った。
刃を振り下ろす――だが、ゴーレムはピクリとも動かない。
「ふざけんな、ふざけんな、ふざけんなぁぁ!!」
叫びと共に、涙があふれた。
あたしの声が、虚空のチャートに木霊する。
何度切っても、何度打ち込んでも、数値はゼロのまま。
悔しくて、悲しくて、涙と嗚咽で視界が滲んでいく。
その時。
「サキ! サキ! 大丈夫か!?」
誰かの声。男の声。
遠くから聞こえるその声は、懐かしい――誰だっけ?
「う……うん……」
目を開ける。
冷たい空気。石造りの天井。
薄暗い部屋に、明り取りの小窓からわずかな光が差し込んでいた。
反対側には鉄格子。牢屋だ。
「ここ……どこ?」
身体を起こそうとした瞬間――ズキン!
激痛が背中を走る。
「まだ動かない方がいい。ベア魔獣にやられたダメージが残ってる」
レイの低い声が響いた。
そっか、あたし……ベア魔獣に……。
「よく生きてたなぁ……」
自分で言ったセリフで、心の緊張が切れた。
あたしは床に崩れ落ちた。
岩の冷たさが肌に伝わり、涙が頬を伝ってぽたり、ぽたり。
――おかしいな。あたし、こんなに泣き虫じゃなかったのに。
「ベア魔獣は、メンタルを直接叩くタイプだ。
体は癒せても、心は自分で立て直すしかない。そういう魔獣なんだ。」
レイが静かに言う声が、鉄格子に反響する。
「ここは……?」
「ベア教団の地下牢。捕まっちまったな。」
「そっか……ごめんね、あたしのせいで……」
あたしの声は震えていた。
でもレイは首を振る。
「いや、あれは俺でもきつかった。助けてくれてありがとうな、サキ。」
あたしの頭に手が置かれる。温かい。
無言でうなずいた。
「……ところで、だいぶうなされてたけど大丈夫か? “父さん”とか“ふざけんな”とか言ってたけど」
「ああ……」
あの夢で聞いた声。レイだったんだ。
「昔の夢を、ちょっとね。」
「昔って言っても最近だろ? 前に親父さん破産したって言ってた時のか?」
「大したことじゃないの。よくある話。」
「話したくないなら無理にとは言わんが……」
レイの声がやわらかく響く。
その優しさに、胸が痛んだ。
「父が、“投資サークル”にハマって……。最初は小遣い稼ぎ程度だったのに、
いつの間にか、全部株の話しかしなくなって、仕事も行かなくなって……」
あたしの声は震え、目の奥が熱くなる。
「“もうすぐ爆益が出る”って言って、家の土地まで担保に入れたの。」
笑い飛ばすつもりだったのに、涙がにじんだ。
「結果、全部飛んだ。
母は過労で倒れて、家は火事で焼けた。弟は学校をやめた。
父は破産、いなくなった……」
喉が詰まる。
あの緑の陰線が、まぶたの裏に焼き付いて離れない。
「それで、私は東京に逃げた。
でも結局、父と同じことしてる。
“株で取り返す”って笑ってたけど、本当は怖い。
相場って、人を狂わせるの、知ってたから。」
レイがゆっくり息を吐く。
「……それでも、お前はチャートブレードを握るんだな。」
「ええ。」
涙を拭ってうなずいた。
「だって、負けっぱなしじゃ終われない。
父を、家族を壊した“市場”を、この手でぶっ飛ばしてやりたい。
――それが、あたしのケジメ。」
静寂。
カチャ、と金属音。
見ると、レイがフルアーマーを外していた。
Tシャツにデニム姿――戦士ではなく、一人の人間の姿。
「アーマー脱いだの初めて見た」
「そうだろうな」
レイがふっと笑った。
その微笑みに安心して、また涙がこぼれた。
「っつ……なにこれ、泣くつもりじゃ……」
「ベア魔獣のメンタルダメージの影響だ。っと。」
レイがそっとあたしを抱きしめた。
「ちょっ! なにするの!?」
「いいからいいから。こういう時はな、人肌が一番の薬だ。」
「バカ……」
でも、あたたかかった。
レイの体温が、凍りついた心を少しずつ溶かしていく。
おっさんのくせに、なんでこんないい匂いするのよ。
胸に顔をうずめると、レイの心臓の音が“どくん、どくん”と聞こえた。
「せっかくだから、俺も秘密を教えてやる」
レイが背中をぽんぽん叩きながら言う。
「俺はかつて“閃光のロング”と呼ばれた。
俺の買う銘柄はすべて上がり、皆が群がった。
でもな、上がり続ける相場なんてない。
遅れて入った連中は値崩れに巻き込まれて爆死した。
結果、俺は何人もの人間を不幸にした。」
その腕に、わずかに力がこもった。
「サキ。お前は誰も不幸にしてない。
いくらでもやり直せる。」
レイの表情は見えない。
でも、その声はやさしかった。
「相棒がこの世界を退場した時、決めたんだ。
もう群れない。一人で戦うってな。」
何か言ってあげたかった。
でも、言葉が出なかった。
「だからサキ。教団から抜け出せたら、俺が戦い方を教える。
お前が飽きるまで、傍にいてやる。
――だから、負けるな。自分に。」
うん、と言いたかった。
でも、涙があふれすぎて声にならなかった。
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