東証バトルロワイヤル

人妻あず。

文字の大きさ
16 / 33
第二章

魔獣激走!?ソウマの理由

しおりを挟む
 どどどどどっ!!

 あたしたちは全力疾走中だった。
 背後からは教団の黒ローブ集団が、光弾と呪詛の嵐をぶっ放してくる。
 ひゅんっ! 
どがあああん!! 

景気のいい音が森に響く

「サキ! 左!」
「わかってるっ!!」

 あたしは右手にチャートブレードを構えた。
 刀身が赤く輝き、雷のようなノイズが走る。
 ――バチンッ!!
 放たれた光弾を真っ二つに斬り裂き、地面に叩き落とす。

 「ちょっ……あの教団員たちの攻撃何!?」
 「“売りの呪式”だ! 悲観の力で心を折るやつ!」
 「性格悪いにもほどがある----」

 言いかけた瞬間、煙の中から一体の巨大な影が現れた。
 黒い熊のような異形、大型のベア魔獣だ!

 「はぁぁぁ!? まだ出てくるのぉ!?」
 「そいつは俺の“旧上司”だ!」
 「人材関係めんどくさっ!!」

 こっちのベア魔獣とあっちのベア魔獣が衝突。
 どごぉぉん、と衝撃波が森を駆け抜け、木々がバラバラに倒れていく。
 その隙に、ソウマが叫んだ。

 「今だ、ベア! “逃げ足モード”だ!!」

 ベア魔獣が一声吠えて地を蹴る。
 ものすごい速度で森を駆け抜け、風景が滝のように後ろへ流れていく。
 木々の間を縫うように疾走し、火の玉をいなし、崖を跳び越え――

 ――そして、ようやく音が遠のいた。



「……なんとか振り切ったみたいだな」

 ソウマが息を吐いた。
 あたしたちがやっと一息つけたのは、もう昼過ぎ。
 森の奥、小川のせせらぎが涼しく響く、まるで休憩ポイントって感じの河原だった。


 「一回休憩するか」

 ぴゅういっ、と指笛。
 ソウマの呼びかけに、先頭を走っていたベア魔獣がぴたりと足を止めた。
 とん、とん。軽い身のこなしでソウマが背中から飛び降りる。
 「ほら、サキも」
 下から手を差し出す。

 「ありがと」

 素直にその手を取って降りる。
 ふわっと草の匂いと風の音。
 ベア魔獣はあくびをしながら川の水をちろちろ舐めてる。
 ……こうして見ると、案外かわいい。
 あんた、さっきまであんな轟音出してたのに。

 「さてと……そろそろ、事情話してくれてもいいんじゃない?」
 あたしは腕を組んでソウマを見た。
 「あなたが何者で、なんでこんな面倒くさいことしてるのか」

 ソウマは苦笑した。ちょっとだけ、子どもっぽさの抜けた顔。
 「そうだな。サキもレイさんも、充分巻き込んじゃったし。話す義理はあるか」

 「じゃ、まず聞くけど――あなた、何者?」

 「俺? 俺の名はソウマ・イノウエ。戦い方の軸はショーター。最年少天才デイトレーダーとして、この世界(東証)じゃそこそこ知られてる方だよ。ま、あの“閃光のロング”には負けるけどね」

 ソウマは少し真面目な声になった。
 「で、なんで俺が教団にいたか、だよな」

 「うん。そこ一番大事」

 「……俺、姉ちゃんがいるんだ」

 唐突に出てきた“姉ちゃん”ワード。
 「三年前、研究者になるって言って旅立ったんだけど、音信不通になった。母さんも父さんも探してた。で、一年前に偶然見つけたんだよ。教団のパンフレットに姉ちゃんの写真が載ってるのを」

 「え、それ……ヤバくない?」

 「ヤバいから入会した」

 「思い切ったなぁ!? 普通そういう時は警察とかに――」

 「成人女性の宗教入会なんて個人の自由だろ、警察も動かない」

 「た、確かに」

 ソウマは草をいじりながら苦笑する。
 「入ってみたけど、姉ちゃんはいなかった。でも、手掛かりは掴めた。そのデータを俺の小型デバイスに入れたんだ」

 「うんうん」

 「そしたら、一緒に教団のヤバい情報まで吸い上げちゃって、デバイスごと没収された」

 「お約束展開ねぇ……で、データは?」

 「消されてねぇ。俺がプロテクトかけた。数字と波動の組み合わせで数億通り。奴らでも解けねぇよ」

 「なんかこう、かわいい顔して策士なんだね、ソウマ」

 「ふふん、史上最年少でベア魔獣召喚できた天才ですから~」

 「自分で言うか! しかも誇らしげ!」

 「ま、そんな俺を教団も利用しようとしたわけ。“敵にするより味方に”って。だから取引した。教団に居続けることと“閃光のロング”を捕まえる代わりに、デバイスを返せって」

 「……つまり、最初からスパイ兼囮役だったってこと?」

 「そう。でも本当は、姉ちゃんを探したかっただけなんだ」

 その声には、少しだけ震えがあった。
 ……なるほどね。裏切り者、って切り捨てるのは簡単だけど。
 そんな事情があったなら、あの裏切りも完全に黒じゃない。

 「で、それで満足したの?」

 ソウマがニヤリと笑う。
 「満足どころか、ムカついたからさ。これ、かっぱらってきた」

 懐から取り出したのは、掌サイズの木彫りの像。
 熊の形――なにこれ。

 「これ、ベア教団で“ご神体”って呼ばれてるやつ!」

 「はああああああああ!? あんた何やってんのバカショタァァァァァ!!!」

 あたしの絶叫が森にこだました。
 ベア魔獣がびくっとしてお座りする。

 「特別なパワーがあるって話だし、ギルドで鑑定してもらおうぜ? ワンチャンこれが教団の弱点とかあるかも」

 「ワンチャンじゃないのよ! そりゃあたしたち、教団全員に追いかけられるでしょ!!」

 「ま、追われる身ってのも、悪くないスリルだよな」

 「悪いに決まってるでしょおおおお!!!」

 「まあまあ、落ち着けよ。レイさんを教主が欲しがってたのも事実だし、こいつを解析すれば、逆に教団を追い詰められるかもしれねぇ」

 「うぅ……もう知らない。どうなっても知らないから!」

 あたしが頭を抱える横で、ソウマは気楽に立ち上がる。
 「町はもうすぐだ。ギルドに着いたらリンさんに相談しよう。あの人、頭脳派だし」

 「……ほんと、レイに似てきたね、ソウマも」

 「そりゃ、俺、弟子入りする気満々だし」

 「勝手に弟子入りすんな!!」

 言いながらも、あたしの口元は笑ってた。
 なんだろう……この子、根っからの悪ガキなのに、どこか憎めない。
 多分、目の奥にある“諦めない光”のせいだ。

 「よし、出発だ!」

  ソウマの指笛に、ベア魔獣がのそのそ立ち上がる。
 ふたたびあたしはその背中に乗り、毛にしがみついた。

 「ベアちゃん、お願いね。転ばないでよ?」

 「名前つけてるし……」

 「いいでしょ別に!」

 ベア魔獣がぐるると喉を鳴らし、川原を蹴って駆け出した。
 風が髪を揺らす。森の木々が流れるように後ろへ飛んでいく。

 ――教団の追っ手、レイの安否、そしてソウマの姉ちゃん。
 まだ何も解決してないけど、少なくとも今は、生きてる。
 そしてこの背中の温もりが、それをちゃんと実感させてくれる。

 「ねえソウマ」
 「ん?」
 「次、あんたの姉ちゃん見つけたら、ちゃんと捕まえときなさいよ!」
 「うるせーよ、説教くさいな!」

 あたしは笑いながら、遠ざかる神殿の方向を一瞬だけ振り返った。
 あの黒い塔の中では、たぶんもう新しい嵐が渦巻いてる。
 でも――

 負けない。
 あたしたち、トレーダーであり、戦士だもの。

 ベア魔獣の背に乗って、あたしは空を仰いだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

無属性魔法使いの下剋上~現代日本の知識を持つ魔導書と契約したら、俺だけが使える「科学魔法」で学園の英雄に成り上がりました~

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は今日から、俺の主(マスター)だ」――魔力を持たない“無能”と蔑まれる落ちこぼれ貴族、ユキナリ。彼が手にした一冊の古びた魔導書。そこに宿っていたのは、異世界日本の知識を持つ生意気な魂、カイだった! 「俺の知識とお前の魔力があれば、最強だって夢じゃない」 主従契約から始まる、二人の秘密の特訓。科学的知識で魔法の常識を覆し、落ちこぼれが天才たちに成り上がる! 無自覚に甘い主従関係と、胸がすくような下剋上劇が今、幕を開ける!

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

追放された俺、悪魔に魂を売って全属性魔法に覚醒。悪魔契約者と蔑まれるが、まぁ事実だ。勇者? ああ、俺を見下してたやつな

自ら
ファンタジー
灰原カイトのスキルは【魔力親和】。評価F。 「外れスキル」の烙印を押された彼は、勇者パーティで三年間、荷物を運び、素材を剥ぎ、誰よりも早く野営の火を起こし続けた。 そして、捨てられた。 「お前がいると、俺の剣が重くなる」 勇者が口にした追放の理由は、侮蔑ではなかった。恐怖だった。 行き場を失ったカイトの前に、一人の悪魔が現れる。 「あなたの魂の、死後の行き先をちょうだい。代わりに、眠っている力を起こしてあげる」 病弱な妹の薬代が尽きるまで、あと十日。 カイトは迷わなかった。 目覚めたのは、全属性魔法――歴史上、伝説にしか存在しない力。 だがその代償は、使うたびに広がる魔印と、二度と消えない「悪魔契約者」の烙印。 世界中から蔑まれる。教会に追われる。かつての仲間には化け物と呼ばれる。 ――まぁ、その通りだ。悪魔に魂を売ったのは事実だし。 それでも。没落貴族の剣姫と背中を預け合い、追放された聖女と聖魔の同時詠唱を編み出し、契約した悪魔自身と夜空の下で笑い合う日々は、悪くない。 これは、世界の「調律者」だった男が、その座を追われてなお、自分の手で居場所を作り直す物語。

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

処理中です...