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第二章
悪夢来襲!?禁断の果実
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――宴はまだ続いていた。
リン先生は上機嫌でワイン片手に、「サキちゃんも飲みなさいってば~」と笑い、
ソウマは「姐さん!飲みすぎ注意っすよ!」と笑い返す。
ベア魔獣はポテトを抱えて爆睡中。
あたしは、笑いながらも、心のどこかでレイの姿を探していた。
あの真剣な表情。最後に言いかけた言葉。
『サキ……な……』
――あれ、なんて言おうとしたんだろう。
宴が終わったのは、真夜中。
「ふわぁ……疲れたなぁ……」
ふわふわの布団に顔をうずめて、あたしは小さくつぶやいた。
「レイ……大丈夫かな……」
まぶたを閉じると、あの夜の出来事が脳裏によみがえる。
レイの、あの真剣な目。
答えが出ないままあたしは、深い眠りに落ちた。
* * *
ザザザ……
あたしは雨音で目を覚ました。
見回せば、古い木製家具に、ちょっと埃っぽい部屋。
「そっか……ギルドに保護されてたんだ」
顔を洗うと、冷たい水が気持ちを少しすっきりさせてくれた。
「よし、がんばろう!」
階段を降りると、包みを抱えたリン先生が待っていた。
「おはようサキ、今日は雨よ~。おかげでずぶ濡れ。」
ハンカチで濡れた腕を拭くリン先生。
「朝ごはん、食べるでしょ?これだけは雨から死守したわ」
手渡された包みを開けると、香ばしいサンドイッチと暖かい紅茶。
「うわぁ、何から何までありがとうございます!」
「あーサキばっかり良いの持っててずるい!俺にも!」
ドタドタとソウマが二階から飛び降りてきた。
「はいはい、ソウマの分もちゃんとあるわよ」
先生が笑顔で包みをもう一つ取り出す。
「ちゃんと顔と手洗ってくるのよ?」
「また子ども扱い!」
「子どもでしょ」
――そのやり取りに、自然と笑みがこぼれる。
ここにレイがいたら、もっと賑やかだったのに。
「いっただきまーす!」
ソウマがサンドイッチにかぶりつく。
あたしもパクリと一口。ふわふわのパンに、ベーコンとトマトの香り。
酸味の効いたドレッシングも絶妙。
「朝はあったかいのが一番よ」
リン先生が笑顔で差し出したのは、湯気の立つティーカップだった。
琥珀色の紅茶から、ほんのり柑橘とハーブの香りが漂う。
あたしは両手で包み込むようにカップを持った。
指先がじんわりと温まり、冷えていた胸の奥まで、ぽうっと灯がともるようだった。
一口すすると、やさしい渋みと甘みが舌の奥に広がり、心がゆるむ。
窓の外では雨が静かに降り続いているのに、この部屋の中だけあったかかった。
「うわぁ……おいしい……」
「でしょ?特製のブレンドなのよ。戦いの前には、まず心をほぐさなきゃね」
先生がウインクをする。
「姐さん、俺にもそれ!」
「はいはい、ちゃんとあるわよ」
ベア魔獣もお皿につがれた牛乳を一生懸命舐めている。
その舌の音がやけに可愛くて、思わず笑ってしまった。
「姐さん!美味いです!」
「ほんと、美味しい!」
「ガウ!」
「喜んでもらってうれしいわ。食べたらご神体の解析結果、見せてあげる。勉強にもなるでしょ?」
リン先生の持つカップから、コーヒーの香りがふわりと広がった。
* * *
「じゃ、行きますか」
食べ終わって、あたしたちは隣の分析室へ。
壁一面の魔導書棚、中心にはご神体を固定した分析機。
青白い光がホログラムを映し出している。
「これ……リンゴ?」
「そう。これが“知恵の実”。ヴィジュアルだけ再構成させたわ」
「へぇ……」
まるで無害なリンゴ。でも、これが世界を動かす禁呪の一端だなんて。
「知恵の実の件は、魔導警察に通報済み。少し手続きに時間がかかるけどロイ町長も事情聴取されるわ。
そうなれば、レイも助けられる」
「さすがです!姐さん!」
「これが大人の戦い方よ」
ふふっと笑うリン先生。
「でもね、念のため。この建物から出ないように。教団が何か仕掛けてくるかもしれないから」
「はい! 姐さん、昼飯も楽しみにしてます!」
「調子いいんだから」
先生がデバイスを操作しながら、にやりと笑う。
「せっかくだし、この世界の歴史でも見てみる? 暴騰暴落は繰り返される――勉強になるわよぉ~」
「あ!俺、“三年前のトリプルスコープ暴落事件”が見たいっす!」
「ああ、あれねぇ……」
先生がデバイスを操作すると、立体映像が展開された。
三年前の暴落事件――。
なぜだろう。あたしの胸がざわつく。
「ソウマ、三年前の暴落事件って何?」
自分でも理由がわからない。ただ――聞かずにはいられなかった。
「サキは初心者だから知らないのか」
ソウマはホログラムのパネルを操作しながら言った。
「“トリプルスコープ”っていうマイナー銘柄があってさ。“閃光のロング”――アニキが大量に買い注文を出したことで一躍有名になったんだ」
レイの名前に、あたしの心臓が小さく跳ねた。
“閃光のロング”。その響きに、胸の奥がチリッと痛む。
「それで……?」
「“トリプルスコープ”、大人気になっちゃってさ。町中が連日お祭り騒ぎ! 買っても買っても儲かるって、みんな笑ってた」
ソウマの声が軽い。けど、その奥に何か沈んだものが混じっていた。
「……そこを“ナイトメア”に狙われたのよ」
リン先生が、淡々と続ける。
その声には、いつもの陽気さが欠片もなかった。
「高すぎる“希望”は“悲観”によって崩される。結果、ケガ人や――消滅者が続出した」
ホログラムの光が、リン先生の頬を淡く照らす。
雨上がりのような静けさが、部屋に広がった。
「しかも当時は、この事件を仕組んだのがレイなんじゃないかって噂まで流れてたのよ。ナイトメアと裏でつながってたって。犠牲者が多かったからね」
その言葉が、頭の奥に深く突き刺さる。
レイが……ナイトメアと?
いや、そんなはずない。……ない、はずなのに。
「”閃光のロング”、買う銘柄は光の速さで上がる。だけど失速したら一瞬、だから”閃光”。かっこいいよなぁ」
ソウマがうなずきながらいう。
ホログラムの光が一瞬だけ、雷みたいに部屋を照らした。
自分の心臓が脈打つのがわかる。
「前も言ってた……“ナイトメア”って何ですか?」
自分の声が、驚くほどかすれていた。
「悲観の力で世界の均衡を保つことを目標にしている集団ね」
リン先生は視線を落とす。
「『高すぎる希望は悪』だと信じてるの」
ホログラムが切り替わり、戦場の記録映像が映し出された。
赤いチャートブレードを振るう――レイ。
鋭く、冷たく、まるで炎そのものを操るような動き。
「奴らの主張もわかるんだよ」
ソウマが肩をすくめる。
「階段を一段踏み外してもちょっと痛いくらいで済むだろ? だけどビルの屋上から突き落とされたら……死ぬ」
あたしは言葉を失った。
ソウマは淡々と続ける。
「そうやって“調整”して、均衡を保つこと自体は悪いことじゃない。ま、俺たちの敵ってことには変わりないけどな」
「ソウマはショーターだから、ナイトメア側じゃないの?」
リン先生がからかうように言う。
「俺、ショート得意だけどロングもやるよ! 天才だから二刀流~」
ソウマが得意げに笑ってみせる。
けれど、笑い声の奥で――少しだけ、沈黙が鳴った。
「ただな、奴らのムカつくところは、世界の均衡を言い訳にして――俺たちみたいな個人の戦士を“養分”にして儲けてるところだ」
「養分……?」
思わず聞き返すあたし。
ホログラムが再び変わる。
陽線タワーを登る戦士たち。
その下で、豚を象った魔獣の仮面をかぶった男たちが緑のチャートブレードを構えている。
一閃。
戦士たちが次々と光の尾を引きながら墜ちていく。
「そう、“ナイトメア”は個人の悲観の力を吸収して成長する。ベア教団より、ずっとタチが悪い」
リン先生の声が低く響く。
そのときだった。
映像の中に――見えた。
一瞬。
落ちていく戦士の中に――見覚えのある顔。
「……父さん……!?」
言葉がこぼれた瞬間、心臓が止まった。
映像の中で、父が光の中へ吸い込まれていく。
あたしの世界が、音を立ててひび割れた。
「え? 父さんって?」
ソウマの声が、遠く聞こえる。
「今の映像に……父さんが!」
喉が焼けるように痛い。声が震えて止まらない。
違う、そんなわけない――そんなはず、ない。
でも――見た。
確かに、あの顔を。
あの目を。
人ごみの中でも、夢の中でも、絶対に見間違えようがない。
鼓動が喉の奥で暴れ出す。
頭の奥が真っ白になって、世界の音が遠のいていく。
ホログラムの光が瞬くたびに、心の奥を針で刺されたような痛みが走る。
記憶の奥から、父の声が蘇った。
『サキ、夜更かしするなよ。風邪ひくぞ』
笑いながら、いつもそう言っていた。
あの手の温もり。
肩越しに聞こえた声。
それが――なぜ、こんな映像の中に。
「うそ……」
呟いた瞬間、ホログラムがまた切り替わる。
赤い光が一瞬にして消え、青白いノイズがざらりと走った。
電子音が、心臓の鼓動みたいに静寂の中で響く。
――そして。
無数の名前が光の粒となって、空中に流れ出す。
ひとつひとつの文字が淡く脈動しながら、犠牲者の名を告げていく。
――ガイ・オオハシ、ジョージ・タナカ、ケンジ・トウジョウ。
その瞬間、時間が止まった。
指先が凍りついた。
視界の色が抜けていく。
世界の音が消えて、心臓だけが遠くでどくどくと脈打っていた。
でも目を逸らせなかった。
――ケンジ・トウジョウ。
父さんの名が、そこにあった。
ホログラムの淡い光が、まるで魂の残り火のように揺れている。
その光が、あたしを見ていた。
声が出ない。
口の中がカラカラに乾いている。
先生が、信じられないという目であたしを見る。
「トウジョウって……」
「あれは……父の名前です」
「まじか……世の中、狭いな」
ソウマの声がかすれる。
「サキ……顔、真っ青よ?大丈夫?」
リン先生が駆け寄る。
「……ちょっと、失礼します」
あたしは、声を絞り出して部屋を飛び出した。
「サキ!待てよ!外は危険だ!」
ソウマの叫びが背後で響いた。
「サキ、戻りなさい!」
リン先生の声が遠くで聞こえた。
――それでも、あたしは走った。
がむしゃらに。
ただ前へ、前へ。考えるより先に、足が勝手に動いていた。
――ざあああああっ!!
外はどしゃ降りだった。
滝みたいな雨が一気に降り注ぐ。
屋根を叩き、石畳を打ち、頬に突き刺さるような冷たさ。
木造の床を蹴り、濡れた石畳を駆け抜け、
人混みをすり抜けるたびに、胸の奥で何かが軋んだ。
すれ違う人々の顔が、みんなレイに見えた。
頭の中では、同じ言葉が何度も反響していた。
――レイが、父を消滅させた?
あの事件の首謀者? まさか……そんな……!
息が苦しい。
胸が焼けるように痛い。
視界の端がじわりと滲んで、涙なのか、雨なのか、もう分からなかった。
『サキ……な……』
昨日の夜の、レイの声が脳裏に蘇る。
あの優しい目。あの、何かを言いかけた唇。
――『サキ、ごめんな』。
そうか。
あの時、レイはもう気づいてたんだ。
あたしが――犠牲者の娘だって。
だとしたら、どうして何も言わなかったの!?
あの夜、真剣な目であたしを見つめてたくせに。
信じてたのに……! あたしは……!
靴底が水たまりを蹴る。泥がはねて、足元がぐちゃぐちゃになる。
冷たい雨が髪を重くし、視界がどんどん狭くなっていく。
でも止まれなかった。
「はぁっ……はぁっ……」
息が続かない。
胸の奥で鼓動が暴れる。
走っても走っても、胸の奥にこびりついた苦しさが消えない。
レイの声が何度も耳に蘇る。
『サキ、ごめんな』
世界が揺れて見えた。
まるで、自分の存在ごと崩れていくみたいに。
そして――町の入り口。
雨が、滝のように地面を叩いていた。
足が止まる。
「あたし……どうしたら……」
膝が崩れ、泥の上に手をつく。
指先に冷たい雨水が流れ込み、身体がびくっと震えた。
雨音に混じって、嗚咽がこぼれる。
頭が痛い。胃がねじれて吐きそうだ。
――寒い。
雨が肌を刺す。濡れた服が体に張りついて、さっきまでの紅茶のぬくもりを奪っていく。
まるで“あの時間”が夢だったみたいに。
歯が勝手にカチカチ鳴り、息を吸うたび胸の奥まで凍りつくみたいだった。
体中冷たいのに、頬だけが熱い。大粒の雨が頬を伝い流れ落ちていく。
――その時。
ざり、と。
背後で、何かが砂を踏む音。
顔を上げると、雨のカーテンの向こう――
そこに、ロイ町長が立っていた。傘もささずに。
なのに、不思議と濡れた服が肌に貼りつく気配がない。
その姿は、まるで雨そのものが避けて通っているようだった。
稲光が閃き、ロイ町長の顔を照らす。
静かに微笑んでいる。
その笑みは優しいはずなのに、どこか……人の形をした影みたいだった。
「ずいぶん……傷ついておられるようですね」
低く、ねっとりとした声。
雨音を押しのけて、耳にまとわりつく。
聞いているだけで、皮膚の下を何か冷たいものが這い回るような感覚がする。
「私なら……あなたの力になれますよ」
その瞳は笑っているのに、まったく温度を感じなかった。
黒曜石のように光るその奥に、
何か別のもの――獲物を見つけた爬虫類の光が、ぎらりと閃く。
あたしは、喉を詰まらせて一歩、後ずさる。
「……あなた、なにを……」
ロイ町長は静かに、あたしの目を覗き込む。
雨の中なのに、その瞳だけはくっきりと見えた。
「強く、なりたいですか?」
その言葉が胸を貫いた。
あたしは弱くて、無力で、何も守れなかった。
だからこの世界に来たのに――まだ何もできない。
……こんな自分が大嫌いだ。
唇を噛んで、ゆっくり頷いた。
ロイ町長は何も言わず、右手を掲げた。
掌に嵌められたデバイスが、不気味な緑色の光を放つ。
「――転送」
その一言と同時に、足元の泥がうねり、
まるで巨大な蛇が雨の中を這い上がるように、螺旋を描いて立ち上がる。
緑の魔法陣が、音もなくあたしと町長を包み込んだ。
空気が一瞬で重くなり、雨音が遠ざかる。
「あなたの悲観を――戦う力に」
囁きは、雨よりも静かで、
けれど雷よりも深く、頭の奥に突き刺さった。
ロイ町長の唇がゆっくりと、歪む。
笑っているのか、牙をむいているのか分からない、不気味な曲線で。
静寂。
世界が呼吸を止めた。
そして次の瞬間――
耳をつんざくような轟音。
雷鳴とともに、世界がひっくり返った。
風も、光も、音も、すべてが――
雨に溶けるように、ねじれながら消えていった。
リン先生は上機嫌でワイン片手に、「サキちゃんも飲みなさいってば~」と笑い、
ソウマは「姐さん!飲みすぎ注意っすよ!」と笑い返す。
ベア魔獣はポテトを抱えて爆睡中。
あたしは、笑いながらも、心のどこかでレイの姿を探していた。
あの真剣な表情。最後に言いかけた言葉。
『サキ……な……』
――あれ、なんて言おうとしたんだろう。
宴が終わったのは、真夜中。
「ふわぁ……疲れたなぁ……」
ふわふわの布団に顔をうずめて、あたしは小さくつぶやいた。
「レイ……大丈夫かな……」
まぶたを閉じると、あの夜の出来事が脳裏によみがえる。
レイの、あの真剣な目。
答えが出ないままあたしは、深い眠りに落ちた。
* * *
ザザザ……
あたしは雨音で目を覚ました。
見回せば、古い木製家具に、ちょっと埃っぽい部屋。
「そっか……ギルドに保護されてたんだ」
顔を洗うと、冷たい水が気持ちを少しすっきりさせてくれた。
「よし、がんばろう!」
階段を降りると、包みを抱えたリン先生が待っていた。
「おはようサキ、今日は雨よ~。おかげでずぶ濡れ。」
ハンカチで濡れた腕を拭くリン先生。
「朝ごはん、食べるでしょ?これだけは雨から死守したわ」
手渡された包みを開けると、香ばしいサンドイッチと暖かい紅茶。
「うわぁ、何から何までありがとうございます!」
「あーサキばっかり良いの持っててずるい!俺にも!」
ドタドタとソウマが二階から飛び降りてきた。
「はいはい、ソウマの分もちゃんとあるわよ」
先生が笑顔で包みをもう一つ取り出す。
「ちゃんと顔と手洗ってくるのよ?」
「また子ども扱い!」
「子どもでしょ」
――そのやり取りに、自然と笑みがこぼれる。
ここにレイがいたら、もっと賑やかだったのに。
「いっただきまーす!」
ソウマがサンドイッチにかぶりつく。
あたしもパクリと一口。ふわふわのパンに、ベーコンとトマトの香り。
酸味の効いたドレッシングも絶妙。
「朝はあったかいのが一番よ」
リン先生が笑顔で差し出したのは、湯気の立つティーカップだった。
琥珀色の紅茶から、ほんのり柑橘とハーブの香りが漂う。
あたしは両手で包み込むようにカップを持った。
指先がじんわりと温まり、冷えていた胸の奥まで、ぽうっと灯がともるようだった。
一口すすると、やさしい渋みと甘みが舌の奥に広がり、心がゆるむ。
窓の外では雨が静かに降り続いているのに、この部屋の中だけあったかかった。
「うわぁ……おいしい……」
「でしょ?特製のブレンドなのよ。戦いの前には、まず心をほぐさなきゃね」
先生がウインクをする。
「姐さん、俺にもそれ!」
「はいはい、ちゃんとあるわよ」
ベア魔獣もお皿につがれた牛乳を一生懸命舐めている。
その舌の音がやけに可愛くて、思わず笑ってしまった。
「姐さん!美味いです!」
「ほんと、美味しい!」
「ガウ!」
「喜んでもらってうれしいわ。食べたらご神体の解析結果、見せてあげる。勉強にもなるでしょ?」
リン先生の持つカップから、コーヒーの香りがふわりと広がった。
* * *
「じゃ、行きますか」
食べ終わって、あたしたちは隣の分析室へ。
壁一面の魔導書棚、中心にはご神体を固定した分析機。
青白い光がホログラムを映し出している。
「これ……リンゴ?」
「そう。これが“知恵の実”。ヴィジュアルだけ再構成させたわ」
「へぇ……」
まるで無害なリンゴ。でも、これが世界を動かす禁呪の一端だなんて。
「知恵の実の件は、魔導警察に通報済み。少し手続きに時間がかかるけどロイ町長も事情聴取されるわ。
そうなれば、レイも助けられる」
「さすがです!姐さん!」
「これが大人の戦い方よ」
ふふっと笑うリン先生。
「でもね、念のため。この建物から出ないように。教団が何か仕掛けてくるかもしれないから」
「はい! 姐さん、昼飯も楽しみにしてます!」
「調子いいんだから」
先生がデバイスを操作しながら、にやりと笑う。
「せっかくだし、この世界の歴史でも見てみる? 暴騰暴落は繰り返される――勉強になるわよぉ~」
「あ!俺、“三年前のトリプルスコープ暴落事件”が見たいっす!」
「ああ、あれねぇ……」
先生がデバイスを操作すると、立体映像が展開された。
三年前の暴落事件――。
なぜだろう。あたしの胸がざわつく。
「ソウマ、三年前の暴落事件って何?」
自分でも理由がわからない。ただ――聞かずにはいられなかった。
「サキは初心者だから知らないのか」
ソウマはホログラムのパネルを操作しながら言った。
「“トリプルスコープ”っていうマイナー銘柄があってさ。“閃光のロング”――アニキが大量に買い注文を出したことで一躍有名になったんだ」
レイの名前に、あたしの心臓が小さく跳ねた。
“閃光のロング”。その響きに、胸の奥がチリッと痛む。
「それで……?」
「“トリプルスコープ”、大人気になっちゃってさ。町中が連日お祭り騒ぎ! 買っても買っても儲かるって、みんな笑ってた」
ソウマの声が軽い。けど、その奥に何か沈んだものが混じっていた。
「……そこを“ナイトメア”に狙われたのよ」
リン先生が、淡々と続ける。
その声には、いつもの陽気さが欠片もなかった。
「高すぎる“希望”は“悲観”によって崩される。結果、ケガ人や――消滅者が続出した」
ホログラムの光が、リン先生の頬を淡く照らす。
雨上がりのような静けさが、部屋に広がった。
「しかも当時は、この事件を仕組んだのがレイなんじゃないかって噂まで流れてたのよ。ナイトメアと裏でつながってたって。犠牲者が多かったからね」
その言葉が、頭の奥に深く突き刺さる。
レイが……ナイトメアと?
いや、そんなはずない。……ない、はずなのに。
「”閃光のロング”、買う銘柄は光の速さで上がる。だけど失速したら一瞬、だから”閃光”。かっこいいよなぁ」
ソウマがうなずきながらいう。
ホログラムの光が一瞬だけ、雷みたいに部屋を照らした。
自分の心臓が脈打つのがわかる。
「前も言ってた……“ナイトメア”って何ですか?」
自分の声が、驚くほどかすれていた。
「悲観の力で世界の均衡を保つことを目標にしている集団ね」
リン先生は視線を落とす。
「『高すぎる希望は悪』だと信じてるの」
ホログラムが切り替わり、戦場の記録映像が映し出された。
赤いチャートブレードを振るう――レイ。
鋭く、冷たく、まるで炎そのものを操るような動き。
「奴らの主張もわかるんだよ」
ソウマが肩をすくめる。
「階段を一段踏み外してもちょっと痛いくらいで済むだろ? だけどビルの屋上から突き落とされたら……死ぬ」
あたしは言葉を失った。
ソウマは淡々と続ける。
「そうやって“調整”して、均衡を保つこと自体は悪いことじゃない。ま、俺たちの敵ってことには変わりないけどな」
「ソウマはショーターだから、ナイトメア側じゃないの?」
リン先生がからかうように言う。
「俺、ショート得意だけどロングもやるよ! 天才だから二刀流~」
ソウマが得意げに笑ってみせる。
けれど、笑い声の奥で――少しだけ、沈黙が鳴った。
「ただな、奴らのムカつくところは、世界の均衡を言い訳にして――俺たちみたいな個人の戦士を“養分”にして儲けてるところだ」
「養分……?」
思わず聞き返すあたし。
ホログラムが再び変わる。
陽線タワーを登る戦士たち。
その下で、豚を象った魔獣の仮面をかぶった男たちが緑のチャートブレードを構えている。
一閃。
戦士たちが次々と光の尾を引きながら墜ちていく。
「そう、“ナイトメア”は個人の悲観の力を吸収して成長する。ベア教団より、ずっとタチが悪い」
リン先生の声が低く響く。
そのときだった。
映像の中に――見えた。
一瞬。
落ちていく戦士の中に――見覚えのある顔。
「……父さん……!?」
言葉がこぼれた瞬間、心臓が止まった。
映像の中で、父が光の中へ吸い込まれていく。
あたしの世界が、音を立ててひび割れた。
「え? 父さんって?」
ソウマの声が、遠く聞こえる。
「今の映像に……父さんが!」
喉が焼けるように痛い。声が震えて止まらない。
違う、そんなわけない――そんなはず、ない。
でも――見た。
確かに、あの顔を。
あの目を。
人ごみの中でも、夢の中でも、絶対に見間違えようがない。
鼓動が喉の奥で暴れ出す。
頭の奥が真っ白になって、世界の音が遠のいていく。
ホログラムの光が瞬くたびに、心の奥を針で刺されたような痛みが走る。
記憶の奥から、父の声が蘇った。
『サキ、夜更かしするなよ。風邪ひくぞ』
笑いながら、いつもそう言っていた。
あの手の温もり。
肩越しに聞こえた声。
それが――なぜ、こんな映像の中に。
「うそ……」
呟いた瞬間、ホログラムがまた切り替わる。
赤い光が一瞬にして消え、青白いノイズがざらりと走った。
電子音が、心臓の鼓動みたいに静寂の中で響く。
――そして。
無数の名前が光の粒となって、空中に流れ出す。
ひとつひとつの文字が淡く脈動しながら、犠牲者の名を告げていく。
――ガイ・オオハシ、ジョージ・タナカ、ケンジ・トウジョウ。
その瞬間、時間が止まった。
指先が凍りついた。
視界の色が抜けていく。
世界の音が消えて、心臓だけが遠くでどくどくと脈打っていた。
でも目を逸らせなかった。
――ケンジ・トウジョウ。
父さんの名が、そこにあった。
ホログラムの淡い光が、まるで魂の残り火のように揺れている。
その光が、あたしを見ていた。
声が出ない。
口の中がカラカラに乾いている。
先生が、信じられないという目であたしを見る。
「トウジョウって……」
「あれは……父の名前です」
「まじか……世の中、狭いな」
ソウマの声がかすれる。
「サキ……顔、真っ青よ?大丈夫?」
リン先生が駆け寄る。
「……ちょっと、失礼します」
あたしは、声を絞り出して部屋を飛び出した。
「サキ!待てよ!外は危険だ!」
ソウマの叫びが背後で響いた。
「サキ、戻りなさい!」
リン先生の声が遠くで聞こえた。
――それでも、あたしは走った。
がむしゃらに。
ただ前へ、前へ。考えるより先に、足が勝手に動いていた。
――ざあああああっ!!
外はどしゃ降りだった。
滝みたいな雨が一気に降り注ぐ。
屋根を叩き、石畳を打ち、頬に突き刺さるような冷たさ。
木造の床を蹴り、濡れた石畳を駆け抜け、
人混みをすり抜けるたびに、胸の奥で何かが軋んだ。
すれ違う人々の顔が、みんなレイに見えた。
頭の中では、同じ言葉が何度も反響していた。
――レイが、父を消滅させた?
あの事件の首謀者? まさか……そんな……!
息が苦しい。
胸が焼けるように痛い。
視界の端がじわりと滲んで、涙なのか、雨なのか、もう分からなかった。
『サキ……な……』
昨日の夜の、レイの声が脳裏に蘇る。
あの優しい目。あの、何かを言いかけた唇。
――『サキ、ごめんな』。
そうか。
あの時、レイはもう気づいてたんだ。
あたしが――犠牲者の娘だって。
だとしたら、どうして何も言わなかったの!?
あの夜、真剣な目であたしを見つめてたくせに。
信じてたのに……! あたしは……!
靴底が水たまりを蹴る。泥がはねて、足元がぐちゃぐちゃになる。
冷たい雨が髪を重くし、視界がどんどん狭くなっていく。
でも止まれなかった。
「はぁっ……はぁっ……」
息が続かない。
胸の奥で鼓動が暴れる。
走っても走っても、胸の奥にこびりついた苦しさが消えない。
レイの声が何度も耳に蘇る。
『サキ、ごめんな』
世界が揺れて見えた。
まるで、自分の存在ごと崩れていくみたいに。
そして――町の入り口。
雨が、滝のように地面を叩いていた。
足が止まる。
「あたし……どうしたら……」
膝が崩れ、泥の上に手をつく。
指先に冷たい雨水が流れ込み、身体がびくっと震えた。
雨音に混じって、嗚咽がこぼれる。
頭が痛い。胃がねじれて吐きそうだ。
――寒い。
雨が肌を刺す。濡れた服が体に張りついて、さっきまでの紅茶のぬくもりを奪っていく。
まるで“あの時間”が夢だったみたいに。
歯が勝手にカチカチ鳴り、息を吸うたび胸の奥まで凍りつくみたいだった。
体中冷たいのに、頬だけが熱い。大粒の雨が頬を伝い流れ落ちていく。
――その時。
ざり、と。
背後で、何かが砂を踏む音。
顔を上げると、雨のカーテンの向こう――
そこに、ロイ町長が立っていた。傘もささずに。
なのに、不思議と濡れた服が肌に貼りつく気配がない。
その姿は、まるで雨そのものが避けて通っているようだった。
稲光が閃き、ロイ町長の顔を照らす。
静かに微笑んでいる。
その笑みは優しいはずなのに、どこか……人の形をした影みたいだった。
「ずいぶん……傷ついておられるようですね」
低く、ねっとりとした声。
雨音を押しのけて、耳にまとわりつく。
聞いているだけで、皮膚の下を何か冷たいものが這い回るような感覚がする。
「私なら……あなたの力になれますよ」
その瞳は笑っているのに、まったく温度を感じなかった。
黒曜石のように光るその奥に、
何か別のもの――獲物を見つけた爬虫類の光が、ぎらりと閃く。
あたしは、喉を詰まらせて一歩、後ずさる。
「……あなた、なにを……」
ロイ町長は静かに、あたしの目を覗き込む。
雨の中なのに、その瞳だけはくっきりと見えた。
「強く、なりたいですか?」
その言葉が胸を貫いた。
あたしは弱くて、無力で、何も守れなかった。
だからこの世界に来たのに――まだ何もできない。
……こんな自分が大嫌いだ。
唇を噛んで、ゆっくり頷いた。
ロイ町長は何も言わず、右手を掲げた。
掌に嵌められたデバイスが、不気味な緑色の光を放つ。
「――転送」
その一言と同時に、足元の泥がうねり、
まるで巨大な蛇が雨の中を這い上がるように、螺旋を描いて立ち上がる。
緑の魔法陣が、音もなくあたしと町長を包み込んだ。
空気が一瞬で重くなり、雨音が遠ざかる。
「あなたの悲観を――戦う力に」
囁きは、雨よりも静かで、
けれど雷よりも深く、頭の奥に突き刺さった。
ロイ町長の唇がゆっくりと、歪む。
笑っているのか、牙をむいているのか分からない、不気味な曲線で。
静寂。
世界が呼吸を止めた。
そして次の瞬間――
耳をつんざくような轟音。
雷鳴とともに、世界がひっくり返った。
風も、光も、音も、すべてが――
雨に溶けるように、ねじれながら消えていった。
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