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第二章
白日暴露!?秘密と知恵の実
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静寂。
音が――やんだ。
目を開けると、そこは薄暗い室内闘技場。
壁の照明が弱々しく灯り、濡れた床が光を反射している。
湿った空気が肺を刺し、鉄の匂いが鼻をかすめた。
「ここは……?」
「教団の地下闘技場ですよ。サキさん」
ロイ町長の声。
あの、柔らかくも底の見えない声だった。
ゆっくりと振り向くと、彼はいつものように、薄く笑っていた。
笑みの奥の瞳だけが、妙に静かだった――まるで光を拒む鏡のように。
反対側の壁。
そこに、人影が立っていた。
あれは―――。
「……レイ!」
長身、黒髪、年季の入ったベアアーマー。
そして――あの優しい目。
間違いなく、レイだった。
「サキ! なんでここに……」
驚いた顔で目を見開くレイ。
「もう騙されてはいけませんよ。彼は、あなたの“敵”です」
ロイ町長が、耳元で囁いた。
声はやわらかいのに、音の温度がまるでない。
「騙されるな、サキ!」
レイの叫びが空気を震わせた。
「騙していたのは……どっち?」
喉から、搾り出すように声が出た。
胸の奥が焼ける。指先が冷たい。
「いつから気づいてたの……? あたしがケンジ・トウジョウの娘って」
「ギルドに登録したとき……まさかとは思ったが……牢で確信したよ」
レイの声には、痛みが滲んでいた。
「知らないふりですか……悪い男ですねぇ」
ロイ町長が、あいかわらず薄く笑った。
「私は最初に会った時すぐ分かりましたよ。その目――お父様にそっくりですから。
サキ・トウジョウさん」
“トウジョウ”の響きが、刃のように空気を切り裂く。
心臓が跳ねた。
「ロイ町長も……全部、知って……」
あたしは目を見開いた。
「お父様の仇を討つには――絶好の舞台ですよ。ここは。
邪魔なお仲間も来ませんし」
「バカなことを言うな、ロイ!」
レイの怒声が飛ぶ。
「仇を……討つ?」
「そう。あなたはそのためにこの世界に来たんでしょう? サキさん」
胸の奥で、何かが軋んだ。
……そうか。ここでレイを討てば、あたしの復讐は終わる。
一瞬、世界が止まった。
「――チャートブレード、オン!」
あたしの声に応じ、デバイスが光を放つ。
右手に、小さな剣――だけど、その刃は震えるあたしの心みたいに尖っていた。
「サキ! バカな真似はよせ!」
「バカにすんなぁッ!」
あたしはレイに切りかかった。
風を裂く音。火花。
レイはひらりとかわす。
「やめろ! ロイの言うことなんか聞くな!」
「うるさい! あたしはもうだまされない!」
めちゃくちゃに切りつける。
けれど、一つも当たらない。
レイは攻撃を避けるたび、悲しそうに眉を歪めていた。
「はぁっ……はぁっ……」
肩で大きく息をつく。
「なかなかすばしっこいですねぇ……」
ロイ町長の声が背中にまとわりつく。
「仮に捉えても、サキさんのミニ剣じゃ――傷をつけるのが精いっぱいでしょう」
「うるさい!」
叫ぶ声が掠れる。
「ふふ……頑張っているサキさんに、プレゼントがありますよ」
ロイ町長は不敵に微笑んだ。
その右手の上に、赤と緑が交互に瞬く――小さなリンゴ。
「それ……!」
まさか――。
「ロイ! やめろ! サキ! それに触るな!」
レイの声が、悲鳴のように響いた。
「“知恵の実”――ご存じでしょう?」
ロイ町長が、穏やかに笑う。
しかしその目は、底なしの闇を湛えていた。
「あなたに、過去に復讐する力を」
「サキ! それだけはダメだ! 呪われるぞ!」
「あたし……」
「チャートブレード、オン!」
レイがデバイスを変形させ、紅蓮の大剣を構える。
闘気が空気を裂いた。
「ロイ――ッ!!」
斬りかかるレイ。
だがロイ町長は、ただ一歩。
滑るようにかわした。
次の瞬間、まるで手品のように――〈知恵の実〉が、あたしの手に渡っていた。
赤と緑の光が、あたしの指先をなぞる。
心臓の鼓動と同じリズムで、脈打っていた。
「……一口齧るだけで、あなたは目的を遂げられます」
ロイ町長の声がやさしく響く。だけど瞳はまるで爬虫類のように光っていた。
「ダメだサキ! そいつを捨てろ!」
レイの声が震えている。
その震えが、あたしの胸の奥にまで響いた。
あたしの指先も――震えてる。
寒い。怖い。
止められないなにかが心の奥でひび割れて、
そこからこぼれた熱が、涙と笑いを一緒に連れてきた。
「……ははっ」
声が漏れた瞬間、頬を伝うのは熱いのか冷たいのか、もうわからない。
涙があふれるたび、唇が勝手に笑みの形を作る。
ぐちゃぐちゃだ。自分でも、わけがわからない。
でも――笑うしかなかった。
人を信じて傷つくのも、無力さを憎んで苦しむのも、
どっちももう、限界だった。
「あたし……強くなりたい」
声が掠れた。
嗚咽の間から、無理やり押し出した言葉。
弱い自分はもう嫌だ。
泣いて、笑って、壊れて――それでも前に進みたかった。
――シャリ。
一口、齧った。
歯に当たった果肉が、不気味に柔らかい。
果汁が舌の上に広がった瞬間、胸の奥で何かが弾けた。
熱が、光が、音が、あたしの中で暴れ出す。
ぶわっ――。
その瞬間、あたしの全身を青白い光が包み込む。
痛み。熱。冷気。すべてが同時に流れ込む。
骨の一つ一つが軋み、視界が反転する。
「サキィィィィィィィィ――――ッ!!」
レイの絶叫が、闘技場の壁を震わせた。
ロイ町長の笑みだけが、
最後まで――崩れなかった。
音が――やんだ。
目を開けると、そこは薄暗い室内闘技場。
壁の照明が弱々しく灯り、濡れた床が光を反射している。
湿った空気が肺を刺し、鉄の匂いが鼻をかすめた。
「ここは……?」
「教団の地下闘技場ですよ。サキさん」
ロイ町長の声。
あの、柔らかくも底の見えない声だった。
ゆっくりと振り向くと、彼はいつものように、薄く笑っていた。
笑みの奥の瞳だけが、妙に静かだった――まるで光を拒む鏡のように。
反対側の壁。
そこに、人影が立っていた。
あれは―――。
「……レイ!」
長身、黒髪、年季の入ったベアアーマー。
そして――あの優しい目。
間違いなく、レイだった。
「サキ! なんでここに……」
驚いた顔で目を見開くレイ。
「もう騙されてはいけませんよ。彼は、あなたの“敵”です」
ロイ町長が、耳元で囁いた。
声はやわらかいのに、音の温度がまるでない。
「騙されるな、サキ!」
レイの叫びが空気を震わせた。
「騙していたのは……どっち?」
喉から、搾り出すように声が出た。
胸の奥が焼ける。指先が冷たい。
「いつから気づいてたの……? あたしがケンジ・トウジョウの娘って」
「ギルドに登録したとき……まさかとは思ったが……牢で確信したよ」
レイの声には、痛みが滲んでいた。
「知らないふりですか……悪い男ですねぇ」
ロイ町長が、あいかわらず薄く笑った。
「私は最初に会った時すぐ分かりましたよ。その目――お父様にそっくりですから。
サキ・トウジョウさん」
“トウジョウ”の響きが、刃のように空気を切り裂く。
心臓が跳ねた。
「ロイ町長も……全部、知って……」
あたしは目を見開いた。
「お父様の仇を討つには――絶好の舞台ですよ。ここは。
邪魔なお仲間も来ませんし」
「バカなことを言うな、ロイ!」
レイの怒声が飛ぶ。
「仇を……討つ?」
「そう。あなたはそのためにこの世界に来たんでしょう? サキさん」
胸の奥で、何かが軋んだ。
……そうか。ここでレイを討てば、あたしの復讐は終わる。
一瞬、世界が止まった。
「――チャートブレード、オン!」
あたしの声に応じ、デバイスが光を放つ。
右手に、小さな剣――だけど、その刃は震えるあたしの心みたいに尖っていた。
「サキ! バカな真似はよせ!」
「バカにすんなぁッ!」
あたしはレイに切りかかった。
風を裂く音。火花。
レイはひらりとかわす。
「やめろ! ロイの言うことなんか聞くな!」
「うるさい! あたしはもうだまされない!」
めちゃくちゃに切りつける。
けれど、一つも当たらない。
レイは攻撃を避けるたび、悲しそうに眉を歪めていた。
「はぁっ……はぁっ……」
肩で大きく息をつく。
「なかなかすばしっこいですねぇ……」
ロイ町長の声が背中にまとわりつく。
「仮に捉えても、サキさんのミニ剣じゃ――傷をつけるのが精いっぱいでしょう」
「うるさい!」
叫ぶ声が掠れる。
「ふふ……頑張っているサキさんに、プレゼントがありますよ」
ロイ町長は不敵に微笑んだ。
その右手の上に、赤と緑が交互に瞬く――小さなリンゴ。
「それ……!」
まさか――。
「ロイ! やめろ! サキ! それに触るな!」
レイの声が、悲鳴のように響いた。
「“知恵の実”――ご存じでしょう?」
ロイ町長が、穏やかに笑う。
しかしその目は、底なしの闇を湛えていた。
「あなたに、過去に復讐する力を」
「サキ! それだけはダメだ! 呪われるぞ!」
「あたし……」
「チャートブレード、オン!」
レイがデバイスを変形させ、紅蓮の大剣を構える。
闘気が空気を裂いた。
「ロイ――ッ!!」
斬りかかるレイ。
だがロイ町長は、ただ一歩。
滑るようにかわした。
次の瞬間、まるで手品のように――〈知恵の実〉が、あたしの手に渡っていた。
赤と緑の光が、あたしの指先をなぞる。
心臓の鼓動と同じリズムで、脈打っていた。
「……一口齧るだけで、あなたは目的を遂げられます」
ロイ町長の声がやさしく響く。だけど瞳はまるで爬虫類のように光っていた。
「ダメだサキ! そいつを捨てろ!」
レイの声が震えている。
その震えが、あたしの胸の奥にまで響いた。
あたしの指先も――震えてる。
寒い。怖い。
止められないなにかが心の奥でひび割れて、
そこからこぼれた熱が、涙と笑いを一緒に連れてきた。
「……ははっ」
声が漏れた瞬間、頬を伝うのは熱いのか冷たいのか、もうわからない。
涙があふれるたび、唇が勝手に笑みの形を作る。
ぐちゃぐちゃだ。自分でも、わけがわからない。
でも――笑うしかなかった。
人を信じて傷つくのも、無力さを憎んで苦しむのも、
どっちももう、限界だった。
「あたし……強くなりたい」
声が掠れた。
嗚咽の間から、無理やり押し出した言葉。
弱い自分はもう嫌だ。
泣いて、笑って、壊れて――それでも前に進みたかった。
――シャリ。
一口、齧った。
歯に当たった果肉が、不気味に柔らかい。
果汁が舌の上に広がった瞬間、胸の奥で何かが弾けた。
熱が、光が、音が、あたしの中で暴れ出す。
ぶわっ――。
その瞬間、あたしの全身を青白い光が包み込む。
痛み。熱。冷気。すべてが同時に流れ込む。
骨の一つ一つが軋み、視界が反転する。
「サキィィィィィィィィ――――ッ!!」
レイの絶叫が、闘技場の壁を震わせた。
ロイ町長の笑みだけが、
最後まで――崩れなかった。
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