東証バトルロワイヤル

人妻あず。

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第二章

雷鳴閃光!?突入!ベア魔獣

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 あれからどれくらい経ったんだろう。
 レイは……無事なのかな。

 教団の最上階にあるこの部屋に閉じ込められて、もう何日も経った気がする。
 でも、体感ではもっと――ずっと長い時間を過ごしたような気がした。

「……寒い」

 あたしは膝を抱えて部屋を見回した。
 絨毯もカーテンも、目に痛いくらいの深いグリーン。
 高そうなテーブルに、ソファ。壁際には古そうな魔導書の棚まである。
 ギルドの研究室なんて比じゃない豪華さ――のはずなのに、どこか空っぽ。
 まるで“誰もここで生きていない”みたいに。

 窓の外では、今日も雨。
 ざあざあ。雷も鳴って、遠くから誰かの悲鳴まで聞こえてくる。
 
 ――ガチャ。

 重たい扉が開き、奴が入ってきた。
 ロイ町長。にやけ顔、相変わらず。

「サキさん、あなたの“悲観の力”は素晴らしい。見てください、利益もほら」

 そう言って、あたしの小型デバイスを操作する。
 ホログラムが浮かび上がった。

 “損益プラス100%、含み益50万”

 赤い光があたしの顔を照らす。
 ――儲かってる。なのに、全然嬉しくない。

「悲観の感情を、こうして市場に流せば……世界は動く。まさに狙い通りですよ」
 ロイ町長はうっとりしたようにあたしの首輪に触れた。
 首輪にはめられた石が光る。感情を増幅し市場に流す力がある。
これはあの後ロイ町長につけられたものだ。どうでもいいけど。

 ぞくっ。背筋を氷の針で刺されたみたいに寒気が走る。
触れられた瞬間、あたしの感情が誰かの資産に換金される気がした。

「この力があれば、儲けなど思いのまま……。さて、どうします? 利確しますか?」

「……好きにして」

 あたしは投げやりに答える。
 彼は満足げに笑うと、軽い足取りで出ていった。
 部屋にはまた、雨音と雷鳴だけ。

 あたしはぐったりと窓辺によりかかる。
 悲観の力だの、利益だの――そんなのどうでもいい。
 世界を覆って、お金を増やして、それであたしは何をしたいんだろう。

「……奨学金は、返せるなぁ」

 
 その瞬間――

 ドドドドドドッ!!


 ドドドドドドドドドッ!!

 床がビリビリと震えた。
 何、地震!? いや、違う――こっちに何か突っ込んでくる!

「な、なに!?」

 叫ぶより早く――

 ――ドガァァァァァンッ!!

 部屋のドアが、爆発した。
 破片が弾丸みたいに四方八方へ飛び散り、衝撃波があたしの髪を逆立てる。
 高級そうなソファが宙を舞い、カーテンが裂け、ホコリと火花が渦を巻いた。

「うわっ!」

 思わず腕で顔をかばう。
 目の前を、焦げた木片がシュンッと飛び抜けていった。鼻をつく焦げ臭い匂い。
 煙の向こうで――何か巨大な影が動いた。

 どかっ!!

 扉の残骸を踏みつぶして、現れたのは――

 ふさふさ、モフモフ、筋肉もりもり。
 見覚えのあるその丸っこい輪郭。
「ベアちゃん!?!?」

「ガウッ!」

 力強い咆哮。
 その背中から――

「サキ! 助けに来たぞ!」

 ソウマがひょいっと顔を出した。
 

「もう大丈夫! 帰りましょう!」

 リン先生まで後ろから顔をのぞかせる。
 
「ソウマ、リン先生、どうやって……」

「こいつで強行突破してきたんだ! なぁ、ベア!」

 ソウマがベア魔獣のあごをなでると、「ぐるるる」と嬉しそうな声。
 
「帰ろう、サキ」

 ――帰る? どこに?

「おやおや、困りますねぇ。勝手に教団を荒らしては」

 背筋が凍る声。
 ロイ町長が戻ってきた。背後には信者たちがずらりと並び、チャートブレードを構えている。

「ロイ町長……いえ、“ロイ・イヴァノビッチ”。あなたに逮捕状が出ているわ」
 リン先生が鋭い声を出す。
「罪状は、知恵の実のハッキング、監禁、誘拐。魔導警察も下まで来てるわよ!」

 ロイ町長は肩をすくめ、口元に笑みを浮かべる。

「困りましたねぇ。まったくその罪状に心当たりがありませんが……」

「チャートブレード、オン!」

 ソウマが構えた。赤い光が刀身を走る。

「やれやれ、こんな狭い場所で暴れる気ですか」

「うっせぇ!!」

 ソウマの一撃!
 ロイ町長が片手をかざす。

「――障壁」

 ガンッ!

 目の前に緑の壁が現れ、ソウマの攻撃を弾いた。
 爆風で家具が吹き飛び、ソウマは床に転がる。

「ぐっ……!」

 ロイ町長は冷ややかに笑った。

「まぁ、今日はこのへんで。すぐにまた会えますよ、サキさん」

 そう言って、あたしに微笑む。
 ぞくり――血の気が引いた。

「転送」

 緑の魔法陣が彼の足元に展開され、風が蛇のように渦を巻く。
 次の瞬間――消えた。

「消えた……」
 リン先生が呆然とつぶやく。

「よし、こいつらまとめて片づけて帰るぞ!」

 ソウマが立ち上がった。
 その動き――まるで風が形を取ったみたいに、滑らかで、速い。

「チャートブレード――オンッ!!」
ヴィィィィンッ!!
 赤い光刃が一瞬で伸び、部屋の空気がビリビリと震えた。
 瞬間――ソウマの姿が、掻き消えた。

「な、なに!?」「どこ行った!?」
「上か!? 後ろだ、後ろォッ!!」

 ザシュッ! ガキン! ヒュンッ!

 ――声が、音が、次々と途切れていく。
 風が駆け抜けるたび、誰かが膝をつき、チャートブレードが床を転がった。

「くっ……見えねえ!」「速すぎるッ!」
「バカな、チャート同期すら――!」

 床を走る赤い残光。
 壁をえぐる衝撃波。
 誰も、斬られた瞬間すら理解できない。

 ひとり、またひとり。
 叫びは断末魔に変わり、光は軌跡を描いて消えていく。

「――終わりだ。」

 最後の一閃。
 鋭い閃光が、空気を裂いて走った。
 遅れて、ドサドサと音が重なる。信者たちが一斉に崩れ落ちた。

 あたしは思わず息を呑んだ。
 目が追いつかない。今、何が起きたのか――全然わからない。

「は、速い……!」

 声が震える。
 見渡せば、部屋のあちこちに焦げ跡。
 赤い残光がまだ尾を引いて、空気が焼けるような匂いが漂っていた。

 その中で――ソウマがゆっくりと背を向ける。
 剣先から煙を上げながら、肩越しに振り返った。

 どこか少年らしい笑み。
 でも、その目は――戦場を生き抜いた獣のそれだった。

「ほらな、やっぱり俺、天才!」
「サキ、ベア魔獣に乗って! ……って、あなたすごい熱よ!?!」

 リン先生があたしの額に触れた。
 
そんなわけない……今だって寒くてたまらないのに……

「魔導警察だ!」

 白いローブ姿の男たちがドアを蹴破って突入してくる。

「ちっ、おっせーよ」

 ソウマが舌打ちする。
 あたしは、ベア魔獣の背に支えられながら――
 ようやく、息をついた。

 寒さの中に、ほんの少しだけ、温かいものを感じた。
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