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第二章
黒煙眼窩!?ロスゴーレムとチキンスープ
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――――また、あの夢だ。
「チャートブレード、オンッ!!」
あたしは叫びながら、光る刃を構える。
目の前には――黒煙をまとったロス・ゴーレム。
眼窩の奥で、チャートがうねるように蠢いていた。
「サキ……ごめんな……父さん、株で負けちまったよ……」
父さんの声が聞こえる。
胸が痛い。あたしのせいじゃないのに。あたしのせいみたいで。
「あたしは負けない! 負けたくないのよぉッ!!」
おおおおおおおお!!
ロス・ゴーレムが咆哮し、ビルの影みたいな拳を振り上げた。
あたしはチャートブレードを振りかざし、光の波を放つ――!
――その時。
「リバース・インフェルノォォォォ!!!」
空間が裂けた。
紅蓮の炎が走り、ロス・ゴーレムの巨体を一刀両断!
あたしは思わず目を見開く。
「あなたは……誰……?」
火の粉の向こうから歩み出た男の顔は――
「レイ!」
その名を叫んだ瞬間、視界が白くはじけた。
「――サキ、サキ!」
声がする。
目を開けると、見覚えのある天井があった。
「……ギルドの、研究棟?」
白いカーテン、薬草の匂い、古びた木の壁。
あたしが飛び出したあの場所に、また戻ってきたのか。
「やっと目が覚めたみたいね、サキ」
優しい声。リン先生がベッドの脇に座っていた。
「覚えてる? あなたすごい高熱だったのよ。ここに着いた時はもう意識が朦朧としててね。三日間、ずっと眠りっぱなしだったの」
先生の手がまたおでこに触れる。
ひんやりして、気持ちいい。
「まだ少し熱があるわね。薬、飲める?」
「……はい」
上体を起こすと、全身がズキンと痛んだ。
喉は焼けるみたいに乾いていて、腕が自分のものじゃないみたいに重い。
リン先生が渡してくれた粉薬を水で流し込む。
苦い。でも、妙に懐かしい味だった。
「レイは……?」
「あの後、無事に解放されたわ。今は“えっくす亭”に泊まってる。ソウマもね」
「……そっか。よかった」
本当によかった。やっと息ができた気がした。
「レイに聞いたわ。”知恵の実”齧ったんですって?」
リン先生があたしをじっと見た。
「ずいぶん無茶したわね。……で、才能は?」
「……チャート魔法陣の解読、です」
「ふぅん。で、代償は?」
「……家族の、楽しかったころの記憶です」
あたしは小さく笑ってみせた。
笑ってるのに、胸の奥が冷たくなっていく。
「全部なくなったわけじゃないのね?」
「はい……でも、中途半端で、余計に辛いです」
リン先生は腕を組んで小さく唸った。
「失くしたものは取り戻せない。でも――前には進めるかもしれないわ」
「え?」
その言葉の意味を聞く前に、彼女はにっこり笑った。
「まずは、しっかり食べなきゃ。食欲は?」
「全然……ないです」
「もう、これだから若い子は! 女の子は少しくらいお肉ついてた方が可愛いのに」
「それジェンダー差別です」
「そう?」
ふっと笑うリン先生。その笑顔に、少しだけ心が和らいだ。
「ちょっと待っててね」
ぱたぱたと部屋を出ていった先生が、しばらくして鍋を抱えて戻ってきた。
ふわっ――と湯気が広がる。
鼻をくすぐる香り。
黄金色のスープの中で、チキンとショウガ、香草がほろほろと揺れていた。
「ほら、これならいけるでしょ」
スプーンで一口すくって、口に運ぶ。
……あたたかい。
舌の上でとろけるチキンの旨味。
ショウガの香りが喉を抜けて、空っぽの胃にじんわり広がっていく。
それが、冷え切ってた心まで溶かしてくれるみたいで――
「これ……おいしいです」
「ふふ、よかった」
リン先生がほっと息をつく。
その笑顔が、少しだけ母親みたいで。胸がぎゅっと締めつけられた。
「これねぇ……レイが作ったのよ」
「……えっ?」
あたしはスプーンを落としそうになった。
「看病も自分がやるって言い張ってたんだけどね、あんなことがあった後じゃ混乱するだろうと思って、私が付くことにしたの。レイは“サキが目を覚ましたらこれを”ってえっくす亭の厨房借りてスープ煮込んでたわ」
「レイが……」
信じられなかった。
あたしの仇のはずなのに。あたし、あの人を――
「愛されてるのねぇ」
リン先生が冗談めかして笑った。
どうして。
そんな優しさを向けられる資格なんて、あたしに――
「すぐに会えとは言わないわ。でも、動けるようになったら真実を見たほうがいい。前に進むためにね」
先生がウインクする。
「……はい」
「さ、もう少し寝なさい。まだ熱、下がってないんだから」
「はぁい」
あたしはベッドに身を沈めた。
体の芯がまだじんじん熱い。
でも、スープの温かさがその熱を優しく包み込むみたいで――
まぶたが重くなっていく。
あたしは、もう一度、深い夢の底へ落ちていった。
「チャートブレード、オンッ!!」
あたしは叫びながら、光る刃を構える。
目の前には――黒煙をまとったロス・ゴーレム。
眼窩の奥で、チャートがうねるように蠢いていた。
「サキ……ごめんな……父さん、株で負けちまったよ……」
父さんの声が聞こえる。
胸が痛い。あたしのせいじゃないのに。あたしのせいみたいで。
「あたしは負けない! 負けたくないのよぉッ!!」
おおおおおおおお!!
ロス・ゴーレムが咆哮し、ビルの影みたいな拳を振り上げた。
あたしはチャートブレードを振りかざし、光の波を放つ――!
――その時。
「リバース・インフェルノォォォォ!!!」
空間が裂けた。
紅蓮の炎が走り、ロス・ゴーレムの巨体を一刀両断!
あたしは思わず目を見開く。
「あなたは……誰……?」
火の粉の向こうから歩み出た男の顔は――
「レイ!」
その名を叫んだ瞬間、視界が白くはじけた。
「――サキ、サキ!」
声がする。
目を開けると、見覚えのある天井があった。
「……ギルドの、研究棟?」
白いカーテン、薬草の匂い、古びた木の壁。
あたしが飛び出したあの場所に、また戻ってきたのか。
「やっと目が覚めたみたいね、サキ」
優しい声。リン先生がベッドの脇に座っていた。
「覚えてる? あなたすごい高熱だったのよ。ここに着いた時はもう意識が朦朧としててね。三日間、ずっと眠りっぱなしだったの」
先生の手がまたおでこに触れる。
ひんやりして、気持ちいい。
「まだ少し熱があるわね。薬、飲める?」
「……はい」
上体を起こすと、全身がズキンと痛んだ。
喉は焼けるみたいに乾いていて、腕が自分のものじゃないみたいに重い。
リン先生が渡してくれた粉薬を水で流し込む。
苦い。でも、妙に懐かしい味だった。
「レイは……?」
「あの後、無事に解放されたわ。今は“えっくす亭”に泊まってる。ソウマもね」
「……そっか。よかった」
本当によかった。やっと息ができた気がした。
「レイに聞いたわ。”知恵の実”齧ったんですって?」
リン先生があたしをじっと見た。
「ずいぶん無茶したわね。……で、才能は?」
「……チャート魔法陣の解読、です」
「ふぅん。で、代償は?」
「……家族の、楽しかったころの記憶です」
あたしは小さく笑ってみせた。
笑ってるのに、胸の奥が冷たくなっていく。
「全部なくなったわけじゃないのね?」
「はい……でも、中途半端で、余計に辛いです」
リン先生は腕を組んで小さく唸った。
「失くしたものは取り戻せない。でも――前には進めるかもしれないわ」
「え?」
その言葉の意味を聞く前に、彼女はにっこり笑った。
「まずは、しっかり食べなきゃ。食欲は?」
「全然……ないです」
「もう、これだから若い子は! 女の子は少しくらいお肉ついてた方が可愛いのに」
「それジェンダー差別です」
「そう?」
ふっと笑うリン先生。その笑顔に、少しだけ心が和らいだ。
「ちょっと待っててね」
ぱたぱたと部屋を出ていった先生が、しばらくして鍋を抱えて戻ってきた。
ふわっ――と湯気が広がる。
鼻をくすぐる香り。
黄金色のスープの中で、チキンとショウガ、香草がほろほろと揺れていた。
「ほら、これならいけるでしょ」
スプーンで一口すくって、口に運ぶ。
……あたたかい。
舌の上でとろけるチキンの旨味。
ショウガの香りが喉を抜けて、空っぽの胃にじんわり広がっていく。
それが、冷え切ってた心まで溶かしてくれるみたいで――
「これ……おいしいです」
「ふふ、よかった」
リン先生がほっと息をつく。
その笑顔が、少しだけ母親みたいで。胸がぎゅっと締めつけられた。
「これねぇ……レイが作ったのよ」
「……えっ?」
あたしはスプーンを落としそうになった。
「看病も自分がやるって言い張ってたんだけどね、あんなことがあった後じゃ混乱するだろうと思って、私が付くことにしたの。レイは“サキが目を覚ましたらこれを”ってえっくす亭の厨房借りてスープ煮込んでたわ」
「レイが……」
信じられなかった。
あたしの仇のはずなのに。あたし、あの人を――
「愛されてるのねぇ」
リン先生が冗談めかして笑った。
どうして。
そんな優しさを向けられる資格なんて、あたしに――
「すぐに会えとは言わないわ。でも、動けるようになったら真実を見たほうがいい。前に進むためにね」
先生がウインクする。
「……はい」
「さ、もう少し寝なさい。まだ熱、下がってないんだから」
「はぁい」
あたしはベッドに身を沈めた。
体の芯がまだじんじん熱い。
でも、スープの温かさがその熱を優しく包み込むみたいで――
まぶたが重くなっていく。
あたしは、もう一度、深い夢の底へ落ちていった。
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