東証バトルロワイヤル

人妻あず。

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第二章

抱腹絶倒!?愛の告白は突然に

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――翌朝。
 気づけば熱はすっかり下がってた。
 リン先生曰く「念のため安静にしてなさい」とのことだけど……正直、じっとしてるのも性に合わない。

 夜になって、先生がどこかに出かけていったと思ったら――

「サキ~! 熱下がったんだってな!」

 勢いよくドアを開けて飛び込んできたのは、我らがトラブル製造機・ソウマだった。

「ソウマ! この前は本当に助けてくれてありがと――」

「いいっていいって! それより今から出かけよーぜ! 見せたいもんがあんだ!」

 出た、嫌な予感しかしないテンション。
 にやにや笑いながらローブを投げてくる。
「これ着て。変装。」

「ちょっ……変装って何よ!?」

「いいからいいから! 俺たちってバレないようにな!」

 まったくもう……と文句を言いつつも、結局ついていくあたし。
 で、着いた先は――

「……酒場?」

 看板には大きく「びぃびぃえす」。
 いかにも怪しい。いや、もう名前からして一騒動の予感しかしない。

「二名で。端の方の席がいいな」
「オレンジジュース二つで」

 ソウマが妙に慣れた様子で注文する。
 で、にやり。

「……サキ、よーく見てみろ」

 カウンターを指さすソウマの顔が、もはや悪魔的。
 視線の先を見て、あたしは思わず口を押さえた。

「――リン先生と、レイ!?」

 なんでその組み合わせなのよ!?
 慌てて声を潜めるあたしに、ソウマがゲラゲラ笑いながら言った。

「いいからいいから、今ちょうど面白くなるとこだから!」

 カウンター席では、レイが真っ赤な顔でジョッキを抱えていた。
「リン……まだサキに会わせてもらえないのか……? どうしても、会いたいんだ……!」

 リン先生が苦笑しつつため息。
「だから言ったでしょ、まだ本調子じゃないの。心も体も」

 そこへ店主がにやにや顔で乱入。
「おおお、フラれた兄ちゃん今日も来たか! 飲めや飲めや、飲んで忘れろ!」

「誤解なんだ! フラれたんじゃない! 首を切られかけただけなんだ!」

「兄ちゃん……命がけの恋してんな!!」
「首切られかけて“誤解”って言葉使えるのすげぇな!!」
「それ恋じゃなくて戦場だろ!!」

 どっ、と笑いが弾ける。
 レイは両手を振って必死に弁明する。

「ち、違う! ちゃんと誤解を解けば、きっと――」
「解く前に首落ちてたら意味ねぇだろ!!」
「いや、むしろそれで惚れられたらそっちが怖ぇ!!」

 バカ笑いが止まらない中、カウンターの店主がにやにや顔で登場した。

「おう、兄ちゃん、飲め飲め! うちの嫁だって昔、郵便屋に走ったんだ!」

「……郵便屋!?」
「マスター、またその話!? 五回目だぞ!」

 店主は胸を張って語り出す。
「そうよ! 雨の日も風の日も配達するあの姿に惚れたんだとよ! 俺のラブレターは返送されちまったけどな!」

「うまいこと言ってんじゃねー!!」
「“受取拒否の男”って異名が似合うぜマスター!」
「やかましいわぁ!!」

 大爆笑の渦。
 ジョッキを叩く音、笑い声、誰かの「詩にしろよ!」という無責任な叫びが飛ぶ。

 レイは赤い顔でその中に巻き込まれながらも、まだ真剣だ。
「でも……俺は諦めない! サキに、もう一度会って、ちゃんと話したいんだ!」

「兄ちゃん……その根性嫌いじゃねぇ!」
「だがな、首切られた時点で脈ナシ確定だぞ!」
「そうそう、女は首筋を狙う時、本気で怒ってる証拠だ!」

「え、そんな統計あんの!?」
「俺、三回斬られたけど全部本気だった!」
「お前それ、もう恋じゃなくて刑事事件だろ!!」

 再び爆笑。ソウマが涙を拭きながら腹を抱える。
「アニキ……ここ、完全に“失恋経験者の集い”になってるっスよ……」

「いや、なんならお悩み相談バーだな」
肩を震わせ笑いを噛み殺すソウマ。
「“びぃびぃえす”=ビール・ビター・セラピーの略なの?」
 あたしも肩を震わせて言う。

「兄ちゃん、俺なんか鍛冶屋に走られたぞ!」
「火花が情熱的だとか言ってよぉ!」
「それ金属愛だろ! 愛より鉄優先か!!」

「おれはトレーダーに走られたな!」
「“新しい銘柄が見つかったの”って置き手紙だけ残してよ!」
「おまえ損切りされてんじゃねえかじゃねぇか!」

 誰かが卓上の皿を叩き、また誰かが「失恋ビンゴ始めようぜ!」と叫ぶ。

 店主が大声で号令をかけた。
「はい! 本日のテーマは“恋に敗れし勇者たち”! 飲めー! 語れー! 叫べー!!」

「おおおおおおっ!!!」
 ジョッキが一斉に掲げられ、泡が飛ぶ。

 その中央で――レイが高らかに宣言した。
「俺は諦めねぇ! たとえサキが郵便屋に走っても!!」

「走ってねえええええ!!!」
 ソウマとリン先生、即ツッコミ。
 あたしは両手で顔を覆って机に突っ伏した。

 店主は笑い転げながら拍手。
「兄ちゃん最高! 今日の看板メニュー“恋と配達と涙のシチュー”決定だぁ!!」

「そんなの出すなぁぁぁ!!」
あたしが小声で叫ぶ
「注文一丁! イケメンの涙入りで!!」
「余計なトッピングすんな!!」
ソウマも笑いながら突っ込む
 笑いの渦の中、グラスが何度も打ち鳴らされる。
 店の外まで聞こえるほどの大爆笑。

 リン先生がくすっと笑いながらつぶやく。
「……ふふ、ほんとこの男……残念すぎて、逆に愛しいわね」
 隣のソウマが小声で爆笑。
「アニキ、ほんと自分でギャグ量産してんの気づいてないよね」

 あたしは頭を抱えた。
「……なんかもう、悩んでたのがバカらしくなってきた」

 その時、常連の一人が琥珀色のグラスを差し出した。
「兄ちゃん、フラれた上にほかの男に取られたのか? 気持ちわかるぜ、俺のおごりだ!」

「ありがとう……!」
 ぐいっ、と一気飲みするレイ。

 ソウマ、ついに声を殺してお腹抱えて爆笑。
「サキ! アニキをフッた上にロイ町長に寝取られたことになってるよ!」

「もう、やめて……笑いすぎて涙出る……!」

 常連たちの声が飛び交う。
「兄ちゃん! 女は世の中にいっぱいいるぞ!」
「諦められるかぁぁぁぁ!!」

 レイ、絶叫。
 店中、大爆笑。

 その横で、ワインをくぴっと飲み干すリン先生。
「……ま、ある意味この男らしさは嫌いじゃないけどね」

「サキ~仕方なかったんだ!許してくれ~」
カウンターに突っ伏して泣き出すレイ

 あたしがそっと覗くと、レイはカウンターに突っ伏したまま寝息を立てていた。

「……サキ……」

 寝言が聞こえた。
 そして次の瞬間――

「サキ~~好きだぁ~~……!」

 ……爆弾、落ちた。

 三人同時に固まる。

 ソウマ:「アニキ……寝言で告白した……」
 リン先生:「あらあら、ギャグ漫画でも見ないわねこれは」
 あたし:「やめてぇぇぇぇぇぇ!!」

 顔真っ赤。心臓バクバク。
 ソウマはテーブルに突っ伏して爆笑。
「……アニキ、残念イケメンの称号、今日で永久保存版だな」

 その瞬間――先生と目が合った。

「……ん?」

 リン先生の視線が鋭くなる。
 つかつかとこちらへ近づき――

「こらぁ! ソウマ! 病み上がりのサキ連れまわしちゃダメでしょ!!」

 ぎくぅっ!

「い、いやぁ~これはサキにぜひ見せたい光景でして~」
「“光景”って何よ!!」

「それにしても……」
 リン先生は腕を組み、あたしをじろり。
「サキ、こんな格好して……まさか変なことされてないでしょうね?」

「へ、変なこと!? そ、そんなことされてません!!」

「ほんとに~? ソウマ、アンタまさか――」
「してません!!!」(即答)

 ソウマとあたし、声をそろえて全力否定。
 リン先生、にやり。

「……ま、今回は見逃してあげるわ。でも次やったら“教育的指導”よ?」

 ひぇぇぇぇぇ!!

 その後。
 レイはカウンターでスヤスヤ寝息を立てたまま。
 店の中は静かに笑いの余韻が残っていた。

「……まったく、どいつもこいつも手がかかるんだから」
 そう言ってリン先生がワインをくいっと飲み干す。

 あたしとソウマは顔を見合わせて――

 ――残念イケメンの寝顔を見ながら、
 あたしたちは静かに笑った。
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