東証バトルロワイヤル

人妻あず。

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第三章

悪夢来訪!?復活のロイ

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 ゴォォォォォォ……!
 耳を裂くような轟音とともに、風が止んだ。
 砂ぼこりが舞い、あたしは思わず目を閉じた。
恐る恐るまぶたを開けると、そこは……見知らぬ闘技場だった。
 円形の石造り。天井は高く、光の代わりに巨大なスクリーンが浮かんでいる。ひんやりとした空気に鳥肌が立つ。
「ったく……メシ中になんだよ……俺のローストビーフがぁぁぁ!」
 ソウマが涙目で叫ぶ。
「あんた、それ今言う?」
思わずつっこむあたし。
「ガルルルルルルル……!」
 横で、ベア魔獣が牙をむく。やな予感しかしない。
「……」
 リン先生は黙って周囲を警戒している。普段の明るさが一切ない。
「サキ、俺から離れるな」
 レイが低く言った。声が、妙に落ち着いてる。
 ――そのときだった。
「ようこそ……ナイトメアの城へ!」
 どこかで聞いた声が、闘技場に響きわたる。
 視線を向けるとその先にいたのは、あの豚魔獣仮面の男。その横に――見覚えのある顔。
 「ロ、ロイ町長……⁉」
 目が合った。
「また会えましたね、サキさん。」
 ロイ町長が、ゆっくりと笑った。
 けど、目の奥はまったく笑ってない。嫌な汗が背筋をつたう。
「お前ら……まさかグルか……?」
 レイが怒気をはらんだ声でつぶやいた。
「グル? 人聞きの悪いことをおっしゃる。」
 ロイ町長が口角を吊り上げた。
 その声は妙に響きがよく、まるで演説でもしているみたいだ。
「ただ――思想と利害が一致しただけですよ。」
 町長は高らかに宣言した。
「高すぎる希望は悪。そして、利益を得られぬ者は淘汰される。東証とは――そういう世界……」
仮面の男が静かに語り掛ける。。
 「私の求心力で希望を集め、ナイトメアの力でそれを叩き壊す。買いでも売りでも、莫大な利益が生まれる……。市場も人心も、すべては我らの思いのまま。」
 ロイ町長がゆっくりと左手を上げる。
 掌の中心――赤黒いリンゴの形の痣が浮かび上がる。
「お前も……知恵の実を……」
 レイが低く唸るように言った。
「求心力。それが私の得た力です。」
 ロイ町長の声が静かに響く。
「代わりに――共感性を代償として失いましたが……些細なことです。得られた利益に比べれば。」
 彼の笑みは、まるで冷たいガラスみたいだった。
「リスクを制し、利益を掴んだ者同士。我々が組めば、市場の王になれる。前にもお話ししましたね、サキさん。」
 ゆっくりと視線があたしに向けられる。
 笑ってるけど、まったく笑ってない。
 その目は、完全に獲物を見つけた爬虫類----
「お断りだ。」
 レイが吐き捨てるように言い放った。
 その声は、氷みたいに冷たい。
「弱者は養分。強者こそが正義。これがこの世界の真実だ。」
 仮面の男が低い声で語りかける。
「なぜ弱い者同士で群れたがるのか……私には理解できませんねぇ。」
ロイ町長が笑いながら首をかしげる。
「共感性を代償にしたお前には、一生わからんだろうがな。」
 レイが応じる。その声に、わずかにプレッシャーが混じった。
 空気がピリッと張り詰める。
「痛いところを突きますねぇ……“閃光のロング”。」
「その名で呼ぶな。」
 レイの声が一段低くなる。
 闘技場の空気が、みるみる温度を下げた。
 あたしの背中に、冷たいものが走る。
 この空気――ただの口論じゃない。
「三年前の暴落、仕掛けたのはお前らだろうが。」
 レイが静かに言った。
 仮面の男は動じない。
「過熱した相場は冷やす。高すぎる楽観は悪。それが我ら《ナイトメア》の信念。」
「その“信念”で、大勢の人間が犠牲になったんですよ……」
 リン先生がため息まじりに呟く。
 でも、その瞳の奥には――怒りの光。
 「我らは恐怖を糧に成長する存在。夢が崩れる瞬間、人の心が最も脆くなる。その悲観と絶望が我々を強くする。」
 仮面の男が、まるで教義でも朗読するように淡々と語った。
 その声が響くたび、闘技場の空気がわずかに歪む。光が波打つ。まるで言葉そのものが呪いのようだ。
「あなたも知恵の実を食べて強くなれたでしょう? 悲観と絶望が人間を一番強くする……身をもって知ったのではないですか? サキさん」
 ロイ町長が、まっすぐあたしを見つめながら語りかけてくる。
 ――爬虫類のようなぬるりとした目。見透かされてるようで、息が詰まる。

 ちがう、と言いかけた。けど言葉が出ない。
 確かにあたしは、この世界に来たのは復讐のためだ。
 レイに、そして相場に。
 知恵の実を齧ったのも、その力が欲しかったから。
 ……だから、ロイの言葉は間違ってない。悔しいけど。
「あなたは閃光のロングよりずっとこちらに近い存在……ナイトメアに与すれば、あなたの復讐を真の意味で遂げられますよ」
 ロイ町長の声が甘く響く。
 けど、そこにあるのは単なる誘惑じゃない。氷のような支配欲だ。
 足元から、自分の意志がじわじわと崩れていく感覚がする。
「サキ、吞まれるな」
 レイの声が低く響いた。
 その一言で、張りつめた糸がビシリと震える。
 ……そうだ、呑まれてたまるか。
「悲観や絶望は確かに力としては強い。だが俺は希望を握る」
 レイがまっすぐロイ町長を見据えて宣言した。
 その声に、一瞬空気が熱を帯びる。
 ……レイらしい、単純で、でも強い言葉。
「閃光のロングにしては論理的じゃないご判断……、これを見てもですか?」
 ロイ町長が片手を上げる。
 次の瞬間、闘技場のモニターが光り、町の惨状が映し出された。
 落雷と豪雨の中を逃げ惑う人々。瓦礫の中を闊歩するロスゴーレム。
 まるで“絶望”の見本市だ。
「日経平均今日だけで1000円落ちたそうですよ……日銀砲の威力はすごいですねぇ」
「……国家魔導省ともつながってやがるのか」
 レイが吐き捨てるように言う。
「想像はご自由に。我々はただ悲観と絶望で利益を取る……それだけです」
 ロイ町長は微笑んで、あたしの首輪を指さした。
 その指先に、冷たい光が走る。
「あなたの悲観と絶望も市場の養分に」
「首輪をはずせ!」

 レイが怒鳴る。
 声が闘技場の壁を震わせた。

「私を倒せたら、外せますよ。ただあなたにとって私を倒すことは何もメリットはない……何度も言いますが、私たちの仲間になった方が得です」

「断る」
 レイの声が、鋼みたいに硬く響いた。
 ――その瞬間、空気が一変する。
「チャート魔法陣展開、チャートブレードオン!」

 レイの足元に赤色の魔法陣が広がり、光が奔る。
 熱と風がぶつかり合い、あたしの髪がふわりと浮いた。
 ロイ町長がわずかに目を細める。
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