愛恋の呪縛

サラ

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第13話

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「─────」

「───」

「───── 、─────?」

「─── 、─────!!!!」



 遠くの方で、誰かが話している声がした。
 まだ重たい頭のまま、日向はゆっくりと目を開ける。
 ぼやける視界、頭はまだハッキリしなかった。
 何度か瞬きを繰り返すと、ようやく視界がハッキリしてくる。
 見たことの無い天井、少し痛む頭。
 そして。





「あ、起きた」





 間近にある、顔面。



「うわあああああああ!!!!!!!!!!」



 ドガッ!!!!!!



「ぶへあああっっっっっっ!!!!!!!!!!!」



 こんな目覚め、あっていいのだろうか。
 いや、驚いてしまったのだ。
 不可抗力なのだ。
 と、思えたならば、どれだけ楽だっただろう。

 目の前に顔面があったことに驚いた拍子で、日向は思い切りブンっと手を振ってしまい、その手が間近にあった顔面に直撃。
 結果、ぶたれた張本人は、部屋の壁に激突。
 最悪だ。



「え、え!?なに!?ご、ごめん!え、誰!?」



 謝罪だけでは済まないものだ。
 見知らぬ顔に驚きはするものの、日向は自分のしてしまったことを自覚して青ざめる。
 初めましての挨拶をするには、少々激しいものだ。
 顔面を殴られ壁に激突した人物は、殴られた頬に手を当てながら、ゆっくりと立ち上がる。
 殴られた本人は、青い衣を来ていた。
 そして、



「おい……何してくれてんだよクソがっ……」



 (ですよね……!!!!!!!!!)



 殴られた怒りが、じわじわと伝わってくる。
 日向は目覚めたばかりだが、死ぬ未来が見えた。
 何故こんなことにならなければいけないのか、そう小さく嘆いていると



「言わんこっちゃない、人間に殴られるなど」

「えっ」



 殴ってしまった人物とは、別の声。
 日向は我に返り、ふと別の方向へと視線を向けると、そこには2人立っていた。
 1人は、白い衣のしかめっ面をした人物。
 1人は、緑の衣に鬼の面を被っている。

 見知らぬ人物が、3人もいた。



「えっ、えっ……なに、え?」



 日向は、困惑するばかり。
 そもそも、ここはどこなのだろうか。
 知らない人物どころか、日向が目覚めたのは知らない場所だった。
 和風の少し広めの部屋に、大きめの寝台。
 寝台の傍には、水が置かれた机があった。



「ここ……どこ?」

「おい!クソガキ!!!!」

「はいっ!!!!!!」



 どこに来たのかと理解する前に、先程殴ってしまった男からの怒声に、日向は間抜けな声で返事をする。
 まずは、この状況をどうにかしなければいけなかった。
 青い衣の男は、怒りを含んだ笑みで日向を見つめる。



「よくも殴ってくれたなぁ、おおん?????」

「え、えっと……あのぉ……」



 逃げ場がない。
 と、思ったその時だった。




「なんの騒ぎです?」

「っ……!」





 部屋の外から、声が聞こえた。
 日向が扉の方へと視線を移すと、なにやら影が映っていた。
 そして、ゆっくりと扉が開く。



「騒がしいですよ、どうしたというのですか」

「っ……」



 部屋に入ってきたのは、赤い衣をきた美しい男だった。



 (すげぇ美人だな、この人……)



 腰まである長く淡い茶髪に、紳士な雰囲気を感じる立ち振る舞い。
 優しい顔立ちをしたその男は、少し困ったように3人を見ていた。
 すると、先程まで怒っていた青い衣の男が、ビシッと日向を指さしながら、赤い衣の男に投げかける。



「コイツが俺のこと殴ったんだよ!!!人間に殴られるなんて初めてだ!クソっ!!!」

「えっ?」



 話を聞いたあと、男は日向へと視線を移した。
 日向は男と目が合ってしまい、ビクッと肩が跳ねる。
 殺されるのだろうか、何をされるのか分からない。
 心臓が、ドクドクと早く脈を打つ。
 と、思っていたのだが



「良かった、お目覚めになられたようですね」



 飴と鞭と言うのだろうか。
 この場にいた他の3人とは違い、男は優しい笑みで安堵していた。
 あまりにも予想外の反応に、日向は開いた口が塞がらない。
 すると日向の反応に気づいたのか、男は「あっ」と声を出し、日向の寝台に近づいて日向の前に跪く。



「申し遅れました。私は、司雀しさくといいます。後ろにいるのは、仲間の妖魔たちです。
 青い衣が、龍牙りゅうが
 白い衣が、虎珀こはく
 緑の衣が、忌蛇きじゃです」



 司雀しさくと名乗った美しい男は、分かりやすく淡々と自己紹介を始めた。
 司雀が優しく説明してくれるものの、紹介された3人は顔色ひとつ変えずに、ただ日向を見つめている。
 ただ、今の日向には何一つ理解が出来ていない。
 紹介されたとはいえ、情報が頭に入ってこないのだ。
 ポカン、と日向がとぼけた顔をしていると、日向の表情を見た司雀がふふっと小さく微笑む。



「とにかく、目が覚めて良かったです。3日も眠り続けていましたから」

「はっ!?3日!?」



 さすがの日向も驚きだ。
 どのくらい眠っていたのか気にはなっていたが、まさか3日も寝ているなど思ってもいなかった。
 日向の最後の記憶は、瀧と凪と離れ、魁蓮に気絶させられたところまで。
 あの日から、既に3日経っている。



「無理もありません。魁蓮に2回も気絶させられたのですから」

「っ……」



 司雀の言葉に、日向はドクッと心臓が高鳴る。
 当たり前のように出てきた魁蓮という名前は、日向に現実を叩きつける。
 あの時起こったことは夢では無い、現実なのだと。
 もう分かりきっていたことだが、やはりあの男が伝説で語られる、史上最悪の鬼の王。
 そして、日向は鬼の王に命を握られてしまった。
 今更になって、恐怖が募る。



「で?本当にそいつが魁蓮を復活させたのか?」

「っ!」



 恐怖で俯いていた日向に投げかける、憎ったらしいような声。
 日向が顔を上げると、先程殴ってしまった龍牙りゅうがという妖魔が、ドカッと近くにあった椅子に腰掛けて睨みつけていた。
 龍牙は肘をついて、大柄な態度で日向を見つめる。
 そして、「はっ」と鼻で笑った。



「霊力も無ぇ、ただの雑魚じゃん~」

「……っ……」



 煽るように嘲笑う龍牙の態度は、あまりにも不躾なものだった。
 流石に引っかかったのか、司雀も眉を顰める。



「龍牙、なんですかその態度は。失礼ですよ?」

「はぁ?失礼だぁ?殺さないだけ偉いだろ」

「ですが、その発言はどうかと思いますよ」

「客人様を敬ってくださいってか?
 はっ!雑魚相手に気持ち悪ぃ、オ゛エ゛ェェ」



 龍牙は舌を出して、吐く態度を示す。
 なんなんだ、この妖魔は。
 他人を見下すのが当たり前なのか、その慣れたような態度は生意気な人物だと思わせる。
 日向も少し引き気味だ。
 もちろん、注意した司雀も黙ってはおられず、その場に立ち上がって龍牙に向き直る。



「いい加減にしなさい!龍牙!」

「相手は霊力の無い人間だぜ司雀?礼儀正しくしなさいって方がしんどいわ~」

「だとしても、少しはっ」


「無理ですよ、司雀様」



 すると、ずっと黙り続けていた白い衣の虎珀こはくが、呆れたようにそう呟いた。
 腕を組んで、気だるげそうに言葉を続ける。



「戦うことしか頭に無い脳筋バカに、挨拶も礼儀もあるわけないですよ。言うだけ無駄です」

「あ?」



 直後、空気が張り付く感覚がした。
 龍牙と虎珀は互いに睨みつけ合い、今にも殴り合いが始まりそうな雰囲気だ。



「おい、言葉は慎重に選べよ?」

「知能が低い者でも分かるように言ったつもりだが、まだ噛み砕いた方が良かったか?」

「テメェこそ、自分の弱さと無能さを自覚するべきだぜ?喧嘩を売る相手は間違えない方が身のためだぞ?」

「ははっ、安心しろ。お前ほどバカではない」

「どうしても殺して欲しくて仕方ないみてぇだなぁ?せっかくだから相手してやるよ、クソ虎」

「お前こそ、泣き言でも考えてろ。バカ龍」



 2人の言い争いが激化してきたその時。





 バンッ!!!!!!!!!!!!!





 部屋の扉が、けたたましく開かれた。
 その大きな音に、その場にいた全員が驚く。
 そして、全員の視線は扉に集中した。



「っ……!」



 開かれた扉の前にいたのは、冷たい眼差しをした魁蓮が立っていた。
 魁蓮が姿を現した途端、その場の空気が重くなる。
 先程の龍牙と虎珀の喧嘩など、比にもならない。
 町で感じたあの恐怖が、再び日向を襲う。



「魁蓮、戻ってきていたのですか」

「……ああ……」



 司雀の問いかけに、魁蓮は流すように適当に返す。
 そして、魁蓮は日向へと視線を向けた。



「起きたか」
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