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第63話
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「本当に、よろしいのですか?せめて、お茶くらいはっ」
「うふふっ、いいのよ。今日は魁蓮ちゃんに、さっきのメモを渡すために来たんだから」
それから司雀は、要を別室へ案内しようとしたのだが、要はすぐに帰ると言って誘いを断っていた。
城の門まで見送ると、ふと要が振り返る。
「ねえ司雀ちゃん。貴方って、随分前から魁蓮ちゃんの傍にいるみたいだけど……何かあるの?」
「えっ?」
要の質問に、司雀は首を傾げた。
だが、そんな司雀の反応も、要はニヤッと笑っている。
「言っとくけど、貴方は魁蓮ちゃん以上に謎が多いわよ?皆が知らないような昔のことも、結構知ってるし。でも、魁蓮ちゃんには凄く従順」
「……………………」
「何か、魁蓮ちゃんの傍にいなければいけない大きな理由でもあるのかしら?
何か……企んでたりする?」
要は、良くも悪くも他人のことをよく見ている。
そのため要の勘というものは、よく当たるのだ。
司雀も痛いところをつかれているのか、要の質問にすぐには答えなかった。
要がじっと司雀の様子を伺っていると、ふと司雀が笑みをこぼす。
「いいえ、企んでなどいませんよ。全て私の意思です」
「っ……」
「私はただ、魁蓮の傍に居たいだけです。何があっても、もう離れない。そう誓っただけ……」
司雀は、胸に手を当ててそう言った。
魁蓮の側近である司雀は、妖魔の世界ではそこそこ有名な男だ。
あの鬼の王が認めた妖魔として、傍にいる。
その肩書きだけでも、司雀がいかに大物かが伺えた、
なにより、司雀の強みは知識の多さ。
頭脳を使うことならば、魁蓮より得意だ。
「……魁蓮ちゃんもそうだけど、貴方も自分のことは何一つ言わないのよね。秘密主義って感じなの?」
「そんなことはありませんよ。ただ……
今はまだ、言う必要が無いだけです」
「……ふ~ん?まっ、深く聞かないことにするわ?あんまりしつこくすると、魁蓮ちゃんに怒られちゃう」
「おや、それは困りますね」
「まあいいわ?それじゃあね!また遊びに来るわ~♡
あ、それと……魁蓮ちゃんに言っておいて?日向ちゃんのこと、束縛しすぎちゃダメよ!って」
「ふふっ、かしこまりました」
そういうと要は、そのまま城を離れていった。
司雀は要の姿が見えなくなるまで見送ると、魁蓮たちがいる食堂へと向かう。
┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈
「大変お待たせしました」
司雀が食堂に戻ってくると、既に魁蓮たちは席に座っていた。
司雀も魁蓮の近くに座ると、魁蓮は改めて全員に向き直る。
「要から、異型妖魔に関する情報が来た。
どうやら、出処を特定したそうだ」
「「「「「っ!!!!!!」」」」」
魁蓮の言葉に、全員が目を見開く。
すると魁蓮は、要から貰ったメモに視線を落としながら、詳細を説明した。
「特定出来たのは、1箇所のみ。だが、此度の異型妖魔の件から推測するに、出処は複数あるはずだ。正直、これはまだ序盤に過ぎん」
今まで手がかりすらあまり掴めなかった異型妖魔の実態。
その出処を掴んだとなると、全てを暴く絶好の機会となる。
今起きている異型妖魔の問題も、解決への近道になる可能性があった。
だが、そんな嬉しい情報だというのに、魁蓮は喜ぶどころか眉間に皺を寄せている。
「魁蓮、どうしたのですか?」
司雀が聞くと、魁蓮は視線を上げた。
「問題は、その出処の場……名は、瑞杜。
かつて、志柳と呼ばれていた土地だ」
「っ!!!!!!」
魁蓮の言葉に、ずっと黙って聞いていた虎珀が、突然立ち上がった。
日向が視線を向けると、虎珀は目を見開き、その表情は青ざめている。
そして虎珀だけでなく、土地の名前を聞いた肆魔の皆も驚いていた。
「ね、ねぇ……志柳って?」
日向が尋ねると、司雀が口を開く。
「花蓮国の北側にある、無主地の土地のことです。
そこは、虎珀の故郷だった場所でもあります」
「っ!」
瑞杜。かつての名を志柳。
そこは、どこの国にも属さない無主地の土地。
花蓮国が誕生して数百年後、ある先住民が占領されていない土地を見つけ出し、その土地に人里を築き上げたことが始まりとされている。
当時人々を仕切っていた男の名が「志柳」だったため、そこから土地の名が付けられた。
日向が驚いていると、魁蓮は司雀の言葉に続いた。
「かつて志柳は、この世で唯一人間と妖魔が共存していた過去がある。居場所も無く、生きる意味も無くした半端者共が集き、人と妖の境界を超えた。
理を崩したその土地を数多の国は欲し、先占を目論んだが、元来志柳は何処にも属さないことを理念としていた故、先占を一切認めなかったそうだ」
「どこかの国の領地になることを、志柳は断っていたってこと?」
「そうだ。万一どこかの国に属したとて、志柳の風習が理解されることは無い。志柳は土地の豊かさより、風習を優先したのだ。
だが……志柳は、過去に一度壊滅している」
「えっ……」
「どういう訳か、別の名で復興したようだな……
はぁ……全く、面倒だな」
どうやら虎珀を筆頭に、魁蓮たちは志柳と過去に何か関係があるようだった。
誰一人としてそれを口にはしないが、そこが出処と言われ否定する者もいない。
それほど問題視されているということ。
「魁蓮様」
すると、虎珀が突然口を開いた。
魁蓮が視線を向けると、虎珀は覚悟を決めた表情で見つめ返す。
「その調査、自分に任せていただけませんか」
虎珀は、手をぎゅっと握った。
虎珀の決意の眼差しを、魁蓮は眉間に皺を寄せて見つめ返す。
「お前なら、そう言うと思っていた。
構わん……と言いたいところだが、ここはかつての志柳とは違う。要の情報によれば、ここはもう人間しか居ないようだ」
「っ!」
「妖魔の居ない土地で、我ら妖魔がどう情報を調達するか……一番の問題はそこだ」
一番の問題は、この事だった。
無主地であり、仙人の手もあまり行き届かない場所。
人間しか居なくなった土地で、妖魔である魁蓮たちが潜入できるはずも無い。
踏み込めたとしても、この土地は妖魔と共存していた過去があるのだ。
霊力以外で感知する何かがあるとすれば、一瞬で妖魔だと気づかれる。
万が一この土地に妖魔がいた所で、恐らく魁蓮たちに手を貸してくれることは無いだろう。
土地に住まう全ての者が、敵の可能性がある。
「どう足掻いても、我々が妖魔だということは決して隠せない。人間に気づかれれば、集中攻撃を受ける可能性がある。外からの助太刀は難しいぞ」
「…………………………」
「……あ、あのぉ……」
その時、日向が恐る恐る手を挙げた。
魁蓮たちが日向に視線を集中させると、日向は少し戸惑いながら口を開く。
「僕で良ければ、行くよ?」
「「「「「っ!!!!!」」」」」
「うふふっ、いいのよ。今日は魁蓮ちゃんに、さっきのメモを渡すために来たんだから」
それから司雀は、要を別室へ案内しようとしたのだが、要はすぐに帰ると言って誘いを断っていた。
城の門まで見送ると、ふと要が振り返る。
「ねえ司雀ちゃん。貴方って、随分前から魁蓮ちゃんの傍にいるみたいだけど……何かあるの?」
「えっ?」
要の質問に、司雀は首を傾げた。
だが、そんな司雀の反応も、要はニヤッと笑っている。
「言っとくけど、貴方は魁蓮ちゃん以上に謎が多いわよ?皆が知らないような昔のことも、結構知ってるし。でも、魁蓮ちゃんには凄く従順」
「……………………」
「何か、魁蓮ちゃんの傍にいなければいけない大きな理由でもあるのかしら?
何か……企んでたりする?」
要は、良くも悪くも他人のことをよく見ている。
そのため要の勘というものは、よく当たるのだ。
司雀も痛いところをつかれているのか、要の質問にすぐには答えなかった。
要がじっと司雀の様子を伺っていると、ふと司雀が笑みをこぼす。
「いいえ、企んでなどいませんよ。全て私の意思です」
「っ……」
「私はただ、魁蓮の傍に居たいだけです。何があっても、もう離れない。そう誓っただけ……」
司雀は、胸に手を当ててそう言った。
魁蓮の側近である司雀は、妖魔の世界ではそこそこ有名な男だ。
あの鬼の王が認めた妖魔として、傍にいる。
その肩書きだけでも、司雀がいかに大物かが伺えた、
なにより、司雀の強みは知識の多さ。
頭脳を使うことならば、魁蓮より得意だ。
「……魁蓮ちゃんもそうだけど、貴方も自分のことは何一つ言わないのよね。秘密主義って感じなの?」
「そんなことはありませんよ。ただ……
今はまだ、言う必要が無いだけです」
「……ふ~ん?まっ、深く聞かないことにするわ?あんまりしつこくすると、魁蓮ちゃんに怒られちゃう」
「おや、それは困りますね」
「まあいいわ?それじゃあね!また遊びに来るわ~♡
あ、それと……魁蓮ちゃんに言っておいて?日向ちゃんのこと、束縛しすぎちゃダメよ!って」
「ふふっ、かしこまりました」
そういうと要は、そのまま城を離れていった。
司雀は要の姿が見えなくなるまで見送ると、魁蓮たちがいる食堂へと向かう。
┈┈┈┈┈┈┈ ❁ ❁ ❁ ┈┈┈┈┈┈┈┈
「大変お待たせしました」
司雀が食堂に戻ってくると、既に魁蓮たちは席に座っていた。
司雀も魁蓮の近くに座ると、魁蓮は改めて全員に向き直る。
「要から、異型妖魔に関する情報が来た。
どうやら、出処を特定したそうだ」
「「「「「っ!!!!!!」」」」」
魁蓮の言葉に、全員が目を見開く。
すると魁蓮は、要から貰ったメモに視線を落としながら、詳細を説明した。
「特定出来たのは、1箇所のみ。だが、此度の異型妖魔の件から推測するに、出処は複数あるはずだ。正直、これはまだ序盤に過ぎん」
今まで手がかりすらあまり掴めなかった異型妖魔の実態。
その出処を掴んだとなると、全てを暴く絶好の機会となる。
今起きている異型妖魔の問題も、解決への近道になる可能性があった。
だが、そんな嬉しい情報だというのに、魁蓮は喜ぶどころか眉間に皺を寄せている。
「魁蓮、どうしたのですか?」
司雀が聞くと、魁蓮は視線を上げた。
「問題は、その出処の場……名は、瑞杜。
かつて、志柳と呼ばれていた土地だ」
「っ!!!!!!」
魁蓮の言葉に、ずっと黙って聞いていた虎珀が、突然立ち上がった。
日向が視線を向けると、虎珀は目を見開き、その表情は青ざめている。
そして虎珀だけでなく、土地の名前を聞いた肆魔の皆も驚いていた。
「ね、ねぇ……志柳って?」
日向が尋ねると、司雀が口を開く。
「花蓮国の北側にある、無主地の土地のことです。
そこは、虎珀の故郷だった場所でもあります」
「っ!」
瑞杜。かつての名を志柳。
そこは、どこの国にも属さない無主地の土地。
花蓮国が誕生して数百年後、ある先住民が占領されていない土地を見つけ出し、その土地に人里を築き上げたことが始まりとされている。
当時人々を仕切っていた男の名が「志柳」だったため、そこから土地の名が付けられた。
日向が驚いていると、魁蓮は司雀の言葉に続いた。
「かつて志柳は、この世で唯一人間と妖魔が共存していた過去がある。居場所も無く、生きる意味も無くした半端者共が集き、人と妖の境界を超えた。
理を崩したその土地を数多の国は欲し、先占を目論んだが、元来志柳は何処にも属さないことを理念としていた故、先占を一切認めなかったそうだ」
「どこかの国の領地になることを、志柳は断っていたってこと?」
「そうだ。万一どこかの国に属したとて、志柳の風習が理解されることは無い。志柳は土地の豊かさより、風習を優先したのだ。
だが……志柳は、過去に一度壊滅している」
「えっ……」
「どういう訳か、別の名で復興したようだな……
はぁ……全く、面倒だな」
どうやら虎珀を筆頭に、魁蓮たちは志柳と過去に何か関係があるようだった。
誰一人としてそれを口にはしないが、そこが出処と言われ否定する者もいない。
それほど問題視されているということ。
「魁蓮様」
すると、虎珀が突然口を開いた。
魁蓮が視線を向けると、虎珀は覚悟を決めた表情で見つめ返す。
「その調査、自分に任せていただけませんか」
虎珀は、手をぎゅっと握った。
虎珀の決意の眼差しを、魁蓮は眉間に皺を寄せて見つめ返す。
「お前なら、そう言うと思っていた。
構わん……と言いたいところだが、ここはかつての志柳とは違う。要の情報によれば、ここはもう人間しか居ないようだ」
「っ!」
「妖魔の居ない土地で、我ら妖魔がどう情報を調達するか……一番の問題はそこだ」
一番の問題は、この事だった。
無主地であり、仙人の手もあまり行き届かない場所。
人間しか居なくなった土地で、妖魔である魁蓮たちが潜入できるはずも無い。
踏み込めたとしても、この土地は妖魔と共存していた過去があるのだ。
霊力以外で感知する何かがあるとすれば、一瞬で妖魔だと気づかれる。
万が一この土地に妖魔がいた所で、恐らく魁蓮たちに手を貸してくれることは無いだろう。
土地に住まう全ての者が、敵の可能性がある。
「どう足掻いても、我々が妖魔だということは決して隠せない。人間に気づかれれば、集中攻撃を受ける可能性がある。外からの助太刀は難しいぞ」
「…………………………」
「……あ、あのぉ……」
その時、日向が恐る恐る手を挙げた。
魁蓮たちが日向に視線を集中させると、日向は少し戸惑いながら口を開く。
「僕で良ければ、行くよ?」
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