愛恋の呪縛

サラ

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第90話

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 背後から聞こえたのは、聞きなれた低い声。
 そして感じる、だけが放つ威圧。
 日向は恐る恐る、後ろを振り返った。



「っ!!」



 そこには、昼寝から起きた魁蓮が立っていた。
 魁蓮はまだ眠そうな顔をしながら、じっと日向を見つめている。
 そんな魁蓮の姿に、龍牙たちも目を見開いていた。
 あまりにも、状況が悪すぎる。



「随分と、愉しそうだな」

「か、かかかか魁蓮っ……いつからそこにっ……」

「今だ…………ん?」



 その時、魁蓮は目を擦りながら、あるものに目が止まった。
 それは、日向たちが囲んでいる1枚の紙。
 蓮蓉餡の饅頭の、作り方が書かれた紙だ。
 魁蓮はそれに気づくと、拾いあげようと手を伸ばす。



「何だ?その紙っ」

「「「「ああああああああ!!!!!!!!」」」」



 魁蓮が手を伸ばした直後、全員が大声を張り上げる。
 そして瞬時に、それぞれ構え始める。
 
 日向はサッと紙を手に取り、見えないように隠す。
 忌蛇はそんな日向を持ち前の速さで抱えあげ、魁蓮から少し距離を離した。
 虎珀は瞬時に妖力で槍を作り、バンッと白虎の姿に変わって、日向と忌蛇を背後に隠した。
 龍牙は虎珀が作ってくれた槍を手に取り、持ったまま魁蓮の前に立つ。

 違和感だらけの、隠し方だ。
 だが、4人全員必死の形相。



 ((((絶対、バレちゃ駄目っ!!!))))



 作り方の紙を見られないようにと、構えるばかり。



「……おい、何のつもりだ?」



 あまりにも分かりやすく隠す4人に、魁蓮は半分キレ気味だ。
 その態度がじわじわと伝わってくるが、全員苦笑いを浮かべて無理やり誤魔化している。
 魁蓮の圧に耐えるのは、正直言って恐ろしい。
 それでも、日向は必死に紙を隠し続けた。
 すると、魁蓮はすぐにそれに気づき、日向へと視線を向ける。



「おい、こぞっ」

「ちょちょちょちょ!魁蓮、どうどう……」

「あ?」



 日向に向かって顔を覗こうとする魁蓮に、龍牙は無理やり止めに入った。
 槍を片手に、暴れ出そうとする馬を宥めるような仕草で立ち向かう。
 無理やり止められたことに、魁蓮はこめかみに怒りの昇り龍が浮かび上がっていた。
 龍牙はそれに気づき、青ざめながら口を開く。



「な、何でもないよ!ほんと!」

「……退け」

「い、いやぁ、それはちょっと無理かな~……?」

「龍牙」

「ほ、ほら!人には言えない事情ってものがっ」

「………………」

「あああ!か、魁蓮見て!あそこに肉が飛んでっ
 イダダダダダダダダ!!!!!!!!!!!」



 直後、龍牙の言葉を遮るように、魁蓮がガシッと片手で龍牙の頭を掴んだ。
 そして、ギリギリと握りしめながら、ゆっくりと龍牙を目の前から退かす。



 (バカ龍っ!何のための槍だコノヤローー!!!
  というか、肉が飛んでるって何だ!!!!!)



 簡単に引き剥がされている龍牙に、虎珀は心の中でツッコんでいた。
 龍牙の頭を掴んだまま、魁蓮は白虎と化した虎珀の前に立ちはだかる。



「虎珀、説明しろ」

「え、えっと……か、魁蓮様!これには少々、深い訳がございまして……その……」

「ほう……お前が拒むか……
 それならば……」



 直後、魁蓮はギラッと目を光らせた。
 その時。



 ピィッ!



「……え?」



 虎珀の後ろに隠れていた日向の近くで、何やら鳥の声が聞こえた。
 だがその声は、日向が1度耳にした事のある声。
 まさかと思いながら、日向が視線を落とすと……



「や、楊!!!!!!」



 日向の隣には、魁蓮の黒い鷲・楊がいた。
 よく見れば、楊の赤い目が光っている。
 そしてその目の視線が、日向が持っている紙に向けられていた。



「楊、見ろ」



 魁蓮はそう呟きながら、更にギラッと光らせる。
 日向はその視線に気づき、魁蓮と楊を交互に見比べる。
 そして気づいた。



 (まさかっ、視覚共有してんのか!?!?!?)



 楊は、魁蓮の妖力が込められている。
 そんな中、魁蓮と楊の目が同時に光った。
 考えられるのは、それしか無かった。
 日向はオドオドしながら、どうにかして楊からも見えなくしようと頑張る。



「ちょっ、見ないで!」

「ピィッ」

「こら!こっち来んな!」

「ピィィ」

「ピィじゃねえよ!!!あああ!!覗き込むな!!!」



 日向は体を捻ったり、紙を抱きしめるなどをして、必死に抵抗した。
 そして、日向の反応を見た忌蛇も、何が起きているのかに気づく。
 このままでは、楊を通して魁蓮に見られるのも時間の問題。
 忌蛇はぐるっと辺りを見渡す。



「ごめん!日向!」

「おわっ!!!!」



 忌蛇はそう言うと、スっと日向の背中と膝の下に腕を通し、横抱きで抱き上げた。
 そして、持ち前の素早さで楊から離れる。
 なんとか楊の目から逃れることが出来た。
 だが、ずっと壁になってくれていた虎珀から離れてしまい、今度は魁蓮の視界に入ってしまう。

 その隙を、魁蓮が見逃すはずもない。



「っ!!!」



 忌蛇が逃げ出した途端、足元に黒い影が現れた。
 そして、影から一瞬で鎖が姿を現す。
 魁蓮の技、「ジア」の鎖だ。



「やばいっ……」



 完全に囲まれてしまった。
 左右前後、全ての方位に鎖が姿を現している。
 忌蛇が日向を抱えたまま逃げる方法を考えていると、後ろからゆっくりと足音が聞こえてきた。
 忌蛇はその音に気づき、ぐるっと振り返る。

 直後。



「……えっ?」



 突然、忌蛇の腕から重みが消えた。
 後ろを振り返って視線を外した瞬間、日向の気配も無くなっている。
 バッと視線を戻すと、抱えていたはずの日向の姿がない。



「詰めが甘いな、忌蛇」

「っ!!!!!」



 前から聞こえた声に、忌蛇は顔を上げる。
 するとそこには、日向を片腕で抱えていた魁蓮の姿があった。
 一体、どうやって忌蛇から日向を奪ったのか。
 あまりの強さと速さに、忌蛇は目を見開いた。



 (っ!まずいっ!紙がっ)



 作り方の紙は、魁蓮の手中と言っても過言では無い。
 日向を奪われ、龍牙たち3人はどうしようかと懸命に頭を動かす。

 その間、魁蓮は視線を落としてじっと日向を睨む。



「小僧、何故逃げる」

「いや、あのっ」

「その紙は何だ。何を隠している」

「そ、そのっ……えっと……」



 完全にお怒り状態だ。
 頭上から感じる重圧に、日向は言い訳すら出来なくなる。
 でも、紙を見られるわけには行かなかった。

 出来れば完成するまで、魁蓮にはバレたくない。
 どんな反応をするのかも楽しみだが、しっかりとしたものを渡したい。
 中途半端になるのは、嫌だった。
 色々な思いが頭を巡り、日向は必死に考える。



 (ヤバい、ヤバい……何か、何か方法……!)



 魁蓮が紙を見ない方法。
 興味を無くすような、見たく無いと思うような。
 その時。



「見せろ」

「っ!」



 魁蓮の手が、紙に伸ばされた瞬間。





「……こ、恋文なんだ!!!!!!!!!!!」





 日向は、大声でそう答えた。
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