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第一部【霧夏邸幻想 ―Primal prayer-】
十五話 地下牢
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東廊下まで戻ってきた俺たちは、そのまま地下への階段を下りていった。
ただでさえ暗いのに、地下は更に闇が深くなる。何も見えなくなってはたまらないので、俺とソウシはスマートフォンのライトを点灯させた。これが懐中電灯代わりになるとは。
地下は壁や床の材質が明らかに地上階とは異なっていた。肌寒さすら感じるような石造で、廊下というよりも坑道と呼んだ方が近い雰囲気すらある。
その細い道を歩くとすぐ、目の前に鉄扉が立ち塞がった。
「これが開かなくて、事件前の探索時間は諦めてたんだが。やっぱり、重要なものはこういう所に隠されてるもんだよな」
ソウシが鍵を穴に挿し入れ、グルリと回す。カチリと小気味いい音がしたのでドアノブを握ると、それは抵抗なく下がり、扉がギイィ……と音を立てて開いた。
「……ここは」
扉の先にあったのは、予想とは違って小部屋だった。どうやらここはまだ前室らしく、物置のような使い方をされていたと思われた。
俺たちが入ってきた扉の他に二つの扉があり、横側に札が掛けられている。一つは実験室、一つは牢と記されていて、向こう側に何があるのかが何となく分かった。
しかし、牢とは……。
「やばい雰囲気だな……実験室に、牢屋ときたもんだ。湯越さんはここに実験用の人間を集めて閉じ込め、人体実験でもしてたってのか……?」
「……どうだろうな」
部屋を見回す限り、恐ろしい実験が行われていたらしいことは想像できるのだが、俺はその実験を湯越郁斗が行っていたとまでは断言できなかった。
その理由はと言えば……。
「ソウシ。ここによく分からねえ設計図みたいなのがあるんだけどさ。この紙、相当古いよな?」
「……確かに。古くなってかなり茶色くなってるな。いくら地下にあったからとは言え、ほんの三、四年じゃこうはならないか」
「一階の図書室にあった古い本も、三、四年の放置具合じゃない感じがしたし……湯越さんが全ての元凶とは認め辛いんだよ」
正直な感想を告げると、ソウシはううんと唸って、
「ミツヤの言い分も尤もだな。俺もちらちら違和感はあったが……湯越さんを犯人と決めつけるのは早計か」
伊吹さんに頼まれたこともあり、ソウシもやはり湯越さんが犯罪者でないことを信じたいのだろう。
ともあれ、清めの水だ。湯越郁斗のことではなく、今は自分たちが置かれた状況の打開を考える必要がある。確認すると、実験室の扉には四桁の数字を合わせなければならないダイヤル錠が掛けられており、牢の方は手持ちの鍵で開けられるようだった。
水の在り処を示した図では、牢の方へ進むことになっている。実験室も気にはなるが、調べるにしても後回しにしよう。
「不気味だが、牢屋へ進むか」
「ああ」
解錠し、色褪せた扉を押し開けて。
俺たちは牢屋へ進んだ。
暗闇を、スマートフォンのライトで照らすと。
錆びた鉄格子が等間隔で並ぶ光景が、目に飛び込んできた。
牢という名称に偽りはなかったようだ。
縦に長い部屋の右手側は仕切りで三つに分けられ、こちら側とは鉄格子で隔絶されている。
この中に、かつては人が押し込まれていたというのか。
鎖に繋がれ、痛みと飢えに苛まれながら、実験という名の死を待つ悲しき被験者たち……。
「……酷えな」
ソウシがポツリと呟く。俺は黙ったまま、ただ首を縦に動かした。
室内は息苦しい。それはきっと、埃だけのせいではない。
この場所に縫い止められた暗い過去が、空気を淀ませているように思えた。
鼻と口を手で覆いながら、俺とソウシは真っ直ぐ歩いていく。途中、カサカサという音が聞こえて心臓が飛び跳ねそうになったが、正体はただの鼠だった。……鼠が出るのも結構怖いことではあるけれど。
そして、部屋の奥には再び扉があって。
すぐ横には、さっきの札よりも真新しいプレートが取り付けられていて、『清めの水保管室』という文字が記されていた。
ようやく……目的地へ辿り着けたようだ。
ただでさえ暗いのに、地下は更に闇が深くなる。何も見えなくなってはたまらないので、俺とソウシはスマートフォンのライトを点灯させた。これが懐中電灯代わりになるとは。
地下は壁や床の材質が明らかに地上階とは異なっていた。肌寒さすら感じるような石造で、廊下というよりも坑道と呼んだ方が近い雰囲気すらある。
その細い道を歩くとすぐ、目の前に鉄扉が立ち塞がった。
「これが開かなくて、事件前の探索時間は諦めてたんだが。やっぱり、重要なものはこういう所に隠されてるもんだよな」
ソウシが鍵を穴に挿し入れ、グルリと回す。カチリと小気味いい音がしたのでドアノブを握ると、それは抵抗なく下がり、扉がギイィ……と音を立てて開いた。
「……ここは」
扉の先にあったのは、予想とは違って小部屋だった。どうやらここはまだ前室らしく、物置のような使い方をされていたと思われた。
俺たちが入ってきた扉の他に二つの扉があり、横側に札が掛けられている。一つは実験室、一つは牢と記されていて、向こう側に何があるのかが何となく分かった。
しかし、牢とは……。
「やばい雰囲気だな……実験室に、牢屋ときたもんだ。湯越さんはここに実験用の人間を集めて閉じ込め、人体実験でもしてたってのか……?」
「……どうだろうな」
部屋を見回す限り、恐ろしい実験が行われていたらしいことは想像できるのだが、俺はその実験を湯越郁斗が行っていたとまでは断言できなかった。
その理由はと言えば……。
「ソウシ。ここによく分からねえ設計図みたいなのがあるんだけどさ。この紙、相当古いよな?」
「……確かに。古くなってかなり茶色くなってるな。いくら地下にあったからとは言え、ほんの三、四年じゃこうはならないか」
「一階の図書室にあった古い本も、三、四年の放置具合じゃない感じがしたし……湯越さんが全ての元凶とは認め辛いんだよ」
正直な感想を告げると、ソウシはううんと唸って、
「ミツヤの言い分も尤もだな。俺もちらちら違和感はあったが……湯越さんを犯人と決めつけるのは早計か」
伊吹さんに頼まれたこともあり、ソウシもやはり湯越さんが犯罪者でないことを信じたいのだろう。
ともあれ、清めの水だ。湯越郁斗のことではなく、今は自分たちが置かれた状況の打開を考える必要がある。確認すると、実験室の扉には四桁の数字を合わせなければならないダイヤル錠が掛けられており、牢の方は手持ちの鍵で開けられるようだった。
水の在り処を示した図では、牢の方へ進むことになっている。実験室も気にはなるが、調べるにしても後回しにしよう。
「不気味だが、牢屋へ進むか」
「ああ」
解錠し、色褪せた扉を押し開けて。
俺たちは牢屋へ進んだ。
暗闇を、スマートフォンのライトで照らすと。
錆びた鉄格子が等間隔で並ぶ光景が、目に飛び込んできた。
牢という名称に偽りはなかったようだ。
縦に長い部屋の右手側は仕切りで三つに分けられ、こちら側とは鉄格子で隔絶されている。
この中に、かつては人が押し込まれていたというのか。
鎖に繋がれ、痛みと飢えに苛まれながら、実験という名の死を待つ悲しき被験者たち……。
「……酷えな」
ソウシがポツリと呟く。俺は黙ったまま、ただ首を縦に動かした。
室内は息苦しい。それはきっと、埃だけのせいではない。
この場所に縫い止められた暗い過去が、空気を淀ませているように思えた。
鼻と口を手で覆いながら、俺とソウシは真っ直ぐ歩いていく。途中、カサカサという音が聞こえて心臓が飛び跳ねそうになったが、正体はただの鼠だった。……鼠が出るのも結構怖いことではあるけれど。
そして、部屋の奥には再び扉があって。
すぐ横には、さっきの札よりも真新しいプレートが取り付けられていて、『清めの水保管室』という文字が記されていた。
ようやく……目的地へ辿り着けたようだ。
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