【連作ホラー】伍横町幻想 —Until the day we meet again—

至堂文斗

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第一部【霧夏邸幻想 ―Primal prayer-】

四十話 全ての幸せと、全ての不幸の始まり

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 小学校での最初の一日が終わって。
 人気の無くなった教室に、三人の子どもだけが残っていた。
 一人の男の子と、二人の女の子。
 それは、出会いの光景だった。

「なつのちゃん、だよね? はじめまして。私、のりづきはるなっていうの。友だち百人作りたいんだ、仲良くしてね」
「うん! よろしくね、はるなちゃん」
「うーん……はるちゃんって呼んでもいい?」
「もちろん。好きなように呼んでいいよ。その代わり……私もなっちゃんって呼ぶね?」
「はるちゃん、なっちゃんだね。春と夏みたいで仲良くなれそう」
「ほんとだねー」

 無垢なやりとり。それを微笑ましく見つめながらも、自分が入るタイミングを掴めない男の子は立ち尽くしている。
 だから、そんな男の子をフォローするように、ハルナは彼をナツノの前に押し出した。

「あっ……あの、ぼくもはじめまして。今日から……よろしくね」
「うん、よろしくね!」

 男の子が戸惑っているのを面白がりながら、ナツノは手を差し出す。
 彼はその行動にもっと戸惑ってしまったが、やがておずおずと握手を交わした。

「この子とは、幼稚園で一緒だったの。大人しい子だけど、この子とも仲良くしてあげてね!」
「そうなんだ。でも、私はそういうこの方が好きだよ。男の子ってうるさい子が多いもん」
「え……えっと、あの。ありがと、なつのちゃん」
「うん。ええっとー……まやくん、だよね!」

 ナツノはどこかで目にしたのだろう、彼の名前を呼ぶ。
 しかし、まやくんと呼ばれた男の子は悲しそうに俯いた。

「あう……よお」
「あれれ? マキおじさんと同じ漢字だったのになあ」

 おかしいな、と言う風にナツノは大げさに首を傾げる。そこでハルナが自慢げになって、

「ふふ、同じ漢字でも、読み方が違うんだよー」
「ううん、漢字って難しいね。覚えていけるかな? ……まあ、それより。あなたのお名前教えてよ!」

 間違えられたことはショックだったけれど。
 本当の名前を覚えてもらうために、男の子は勇気を振り絞って、大きな声で告げる。

「うん。僕の名前はね――」


 ――それが、全ての始まりだった。
 全ての幸せと、そしてまた、全ての不幸の始まり。
 ……もしも、あのとき彼女がその名を呼ぶことがなければ。
 今日のこの悲劇が幕を上げることもまた、なかったのだろうか――。
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