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第二部【三神院幻想 ―Dawn comes to the girl―】
七話 懐かしき部屋で(遠野真澄)
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「また、この部屋に来ることになるなんてね。あいつが起こした事件があってから……考えないようにとすら思ってた」
「……それも当然だと思うわ」
僅かに無人の家らしい臭いというか、埃っぽさのようなものを感じたが、そのことで感傷に浸っている場合でもない。部屋に入った僕は早速、彼女に指示を乞う。
「……それで、僕はどうすれば?」
「そうね……色々と思いつくことはあるんだけど」
彼女は呟き、腕組みをしながらううんと唸る。
「とりあえず、思い入れのあるもの全て、手に取っていくしかないかしらね」
「手に取る………ねえ。正直不安しかないけど、まあやってみるしかないか」
手に取ってみたところで、それがどう作用するのかなど想像もつかなかったが、指示通りにやることしか今の僕には寄る方がない。
部屋をざっと見回してみる。改めて見ると、家族との思い出の品はあちこちに置かれているようだった。
写真立てには三姉妹が笑顔で映った写真が嵌められているし、壁には妹が描いたであろう彼女の似顔絵が掛けられている。本棚には彼女の趣味以外の本も並んでいるし、帽子も交換したりしていたのだろう。
勉強机の引き出しを開けてみると、そこには小さな赤いお守りがあった。確か、姉妹仲良く持っていたものだ。他の子は違う色のお守りを持っていた気がする。
「色んな思い出があるんだね」
「……そうね」
幽霊も、手を触れられないわけではない。
けれど、その手で新しい思い出を紡ぐことはもうできない。
悲しげな横顔が、彼女の心情をそのまま映しているようだった。
「……おや」
彼女から目を背けたとき、ふいに本棚の上に置かれたものが目に留まった。
ちょっと高級なお菓子の箱? とにかくそんな雰囲気の小さな木箱が置かれているのだった。
「あ、それは見なくてもいいわ!」
僕が木箱を見つけるとすぐ、彼女が慌てて制止をかけた。
普段の彼女らしからぬ態度に、僕は少し悪戯心が働いてしまう。
「こんな高いところに……見られたくないものでもあったのかい?」
「……それ、聞く?」
「いや、はは。ごめんごめん」
笑いながら、僕は本棚の方へ近づいていく。
「君は僕と同じくらいの身長だったね」
「それもどうして聞くのよ」
「取れなかったら恥ずかしいと思って……まあ大丈夫そうだ」
少し背伸びをしなくてはならなかったが、木箱はちゃんと指先に届いた。
それを手繰り寄せ、棚の上から下ろしてくる。
「ええと……必要そうなものだけにしてくれるかしら」
「了解」
必要そうなもの、というのが曖昧で難しいが、何かしら記憶や意識に働きかけるようなキーアイテムがあればいいのかもしれない。
簡単に中を改めると、イヤリングなどの装飾品の他に、この部屋の鍵も見つかった。一応、この家は部屋の扉にも鍵がついているのだ。
「鍵か……それに、写真が幾つか」
「え、ええ。そういうものを探すことがきっと役に立つはず」
確かに写真は思い出を蘇らせるアイテムの最たるものと言えるだろう。
例えばこれが触媒のような働きをして、眠りについているあの子の活力にでも変わるのだろうか。
やはり実感は湧かなかったが、これら一つ一つがエネルギーに変わるというならいくらでも探そう。
――と。
「……ねえ、何を見てるのかしら」
後ろから、彼女が声を掛けてくる。僕は今手にしたばかりのそれを彼女にも見えるようにした。
「ほら、日記があって……」
「あッそんなところにしまってたんだ……! マスミくん、できれば見ないでほしいんだけど」
「ご、ごめん。ちょっと気になっちゃってね」
「そこに書かれてるのはなんというか……妄想みたいなものよ。だから、あんまり気にしないで」
「妄想、か」
「そう、妄想。それも随分昔の妄想なのよ。必要もなくなって、そうして木箱の中にしまわれた……」
けれども今はきっと、それをまた欲しているのかもしれないと。
僕は何となくだが、そんな予感がするのだった。
…………
……
「……それも当然だと思うわ」
僅かに無人の家らしい臭いというか、埃っぽさのようなものを感じたが、そのことで感傷に浸っている場合でもない。部屋に入った僕は早速、彼女に指示を乞う。
「……それで、僕はどうすれば?」
「そうね……色々と思いつくことはあるんだけど」
彼女は呟き、腕組みをしながらううんと唸る。
「とりあえず、思い入れのあるもの全て、手に取っていくしかないかしらね」
「手に取る………ねえ。正直不安しかないけど、まあやってみるしかないか」
手に取ってみたところで、それがどう作用するのかなど想像もつかなかったが、指示通りにやることしか今の僕には寄る方がない。
部屋をざっと見回してみる。改めて見ると、家族との思い出の品はあちこちに置かれているようだった。
写真立てには三姉妹が笑顔で映った写真が嵌められているし、壁には妹が描いたであろう彼女の似顔絵が掛けられている。本棚には彼女の趣味以外の本も並んでいるし、帽子も交換したりしていたのだろう。
勉強机の引き出しを開けてみると、そこには小さな赤いお守りがあった。確か、姉妹仲良く持っていたものだ。他の子は違う色のお守りを持っていた気がする。
「色んな思い出があるんだね」
「……そうね」
幽霊も、手を触れられないわけではない。
けれど、その手で新しい思い出を紡ぐことはもうできない。
悲しげな横顔が、彼女の心情をそのまま映しているようだった。
「……おや」
彼女から目を背けたとき、ふいに本棚の上に置かれたものが目に留まった。
ちょっと高級なお菓子の箱? とにかくそんな雰囲気の小さな木箱が置かれているのだった。
「あ、それは見なくてもいいわ!」
僕が木箱を見つけるとすぐ、彼女が慌てて制止をかけた。
普段の彼女らしからぬ態度に、僕は少し悪戯心が働いてしまう。
「こんな高いところに……見られたくないものでもあったのかい?」
「……それ、聞く?」
「いや、はは。ごめんごめん」
笑いながら、僕は本棚の方へ近づいていく。
「君は僕と同じくらいの身長だったね」
「それもどうして聞くのよ」
「取れなかったら恥ずかしいと思って……まあ大丈夫そうだ」
少し背伸びをしなくてはならなかったが、木箱はちゃんと指先に届いた。
それを手繰り寄せ、棚の上から下ろしてくる。
「ええと……必要そうなものだけにしてくれるかしら」
「了解」
必要そうなもの、というのが曖昧で難しいが、何かしら記憶や意識に働きかけるようなキーアイテムがあればいいのかもしれない。
簡単に中を改めると、イヤリングなどの装飾品の他に、この部屋の鍵も見つかった。一応、この家は部屋の扉にも鍵がついているのだ。
「鍵か……それに、写真が幾つか」
「え、ええ。そういうものを探すことがきっと役に立つはず」
確かに写真は思い出を蘇らせるアイテムの最たるものと言えるだろう。
例えばこれが触媒のような働きをして、眠りについているあの子の活力にでも変わるのだろうか。
やはり実感は湧かなかったが、これら一つ一つがエネルギーに変わるというならいくらでも探そう。
――と。
「……ねえ、何を見てるのかしら」
後ろから、彼女が声を掛けてくる。僕は今手にしたばかりのそれを彼女にも見えるようにした。
「ほら、日記があって……」
「あッそんなところにしまってたんだ……! マスミくん、できれば見ないでほしいんだけど」
「ご、ごめん。ちょっと気になっちゃってね」
「そこに書かれてるのはなんというか……妄想みたいなものよ。だから、あんまり気にしないで」
「妄想、か」
「そう、妄想。それも随分昔の妄想なのよ。必要もなくなって、そうして木箱の中にしまわれた……」
けれども今はきっと、それをまた欲しているのかもしれないと。
僕は何となくだが、そんな予感がするのだった。
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