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第二部【三神院幻想 ―Dawn comes to the girl―】
十一話 曙の少女(記憶世界)
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「おめでとうございます。この部屋もクリアですね」
隣にやって来たエオスがそう告げた。ただ、やはりこの部屋に来てから少し表情が翳っている。
この部屋に留まっていたくないと思っているような感じだ。
「また道ができましたし、先へ進むとしましょうか」
「だね」
促されるまま、私は修復された床の上を通って扉のところまで進んでいく。
それから扉を開こうとノブを回したのだが、今回の扉もきっちり施錠がなされているのだった。
次の鍵はどこにあるのだろう、と早速考えたのだが、扉の上の方に何やら貼り紙があるのを発見する。
そこには幼い女の子っぽい字で『カレンダー』と書かれてあった。
「カレンダー……」
そう言えば、この部屋にあったのを見た気がする。ちょうど反対側だ。
エオスは何も言ってくれないが、とりあえず示す先に行ってみるべきだろう。
南から北まで部屋の中を戻っていき、カレンダーのある場所までやってくる。
安っぽい、小さなカレンダーのようだが、その日付には一つだけ赤色でマルがついていた。
……五月三日。それは私が思い描いたのと同じ日付だった。
「……この部屋は」
記憶の世界。さっきの部屋でも薄々勘付いてはいたけれど、ここは現実の世界を投影したものだ。
私が見た景色がこの世界を形作っている。そして懐かしいこの部屋は、家族として何度も何度も訪れた場所に相違なかった。
ならば、と私は部屋の隅にある勉強机まで近寄っていく。
机の上。懸賞で当たった可愛らしい小箱が置かれていて。
それは四桁のパスワードを入力しなければ開かない仕組みになっていた。
確信を持って、私はさっきの日付にダイヤルを合わせていく。五月三日。0503という数字の並び。
とても懐かしく、そして切ない祝い事の日。
カチリと音が鳴り、取手を掴んで引っ張ると、戸は抵抗なく開いた。
中には……黄色のお守りが入っていた。
「……覚えてるよ、このお守りのこと」
私は、少し距離を離してこちらを見つめていた彼女に声を掛ける。
「あなたが私たちにくれた、大切なお守り」
「……ん」
「三人で元気に過ごしていけるようにって、自分の分も合わせて三つ、買ってくれたんだよね。……末っ子のあなたが贈り物をしてくれるなんてって、私たちは驚いたものだった。あなたのこと見覚えがあって、変だなとは思ってたけど……それはこういうことだったんだね」
記憶が戻り、愛おしさもまた戻ってくる。
私はその愛おしさのまま、彼女の名を――大切な妹の名を呼んだ。
「……明乃」
照れ臭そうに、けれど嬉しそうに。
彼女はしっかりと頷いてくれる。
「……うん。そうだよ、お姉ちゃん。私は遠いところからずっと、二人の幸せを望んでたんだ。私には……あの日からもう、それしかできなかったから」
鮮烈に映り込んだ光景。
学校の踊り場から転落する少女。
それは他ならぬ彼女、明乃のもので。
あの日を最後に、私たちが言葉を交わす機会は、失われてしまったのだった。
――私はもう、駄目だけど……お姉ちゃんたちはどうか、幸せに……なって。
「幸せに。それが二人と交わした最後の言葉だったね。あれから三年が経って……ヨウノお姉ちゃんはマスミさんと。ツキノお姉ちゃんはミオくんと仲良くなって。二人とも、私が願ったように幸せになってくれたって思った。私、すっごく嬉しかったんだよ。私の分まで幸せになってねって、届かなくてもずっと思ってたんだ……」
心なしか、アキノの目には涙が浮かんでいるようにも見えた。
気取られたくないのだろうし、それには敢えて気付かないふりをしながら、私はお礼を言う。
「……ありがとうね、アキノ。貴方はそんな風に思いながら、私たちを見守ってくれていたんだね」
「うん。見守るっていうのとはちょっと違うのかもしれないけど、ずっと見てたよ」
「……ふふ。恥ずかしいな、何だか」
妹に自分たちのその後を見守られていたと思うと、やはり気恥ずかしい。
程度がどこまでかは分からないけれど……恋愛的な部分もあるのだし。
……マスミさんと、ミオくんか。
「この記憶世界じゃ、今がいつなのかも分からないけれど……あの二人は今、一体何をしているんだろうな」
ふと気になって、私は取り戻し始めた記憶から、彼らの笑顔を思い浮かべてみるのだった。
…………
……
隣にやって来たエオスがそう告げた。ただ、やはりこの部屋に来てから少し表情が翳っている。
この部屋に留まっていたくないと思っているような感じだ。
「また道ができましたし、先へ進むとしましょうか」
「だね」
促されるまま、私は修復された床の上を通って扉のところまで進んでいく。
それから扉を開こうとノブを回したのだが、今回の扉もきっちり施錠がなされているのだった。
次の鍵はどこにあるのだろう、と早速考えたのだが、扉の上の方に何やら貼り紙があるのを発見する。
そこには幼い女の子っぽい字で『カレンダー』と書かれてあった。
「カレンダー……」
そう言えば、この部屋にあったのを見た気がする。ちょうど反対側だ。
エオスは何も言ってくれないが、とりあえず示す先に行ってみるべきだろう。
南から北まで部屋の中を戻っていき、カレンダーのある場所までやってくる。
安っぽい、小さなカレンダーのようだが、その日付には一つだけ赤色でマルがついていた。
……五月三日。それは私が思い描いたのと同じ日付だった。
「……この部屋は」
記憶の世界。さっきの部屋でも薄々勘付いてはいたけれど、ここは現実の世界を投影したものだ。
私が見た景色がこの世界を形作っている。そして懐かしいこの部屋は、家族として何度も何度も訪れた場所に相違なかった。
ならば、と私は部屋の隅にある勉強机まで近寄っていく。
机の上。懸賞で当たった可愛らしい小箱が置かれていて。
それは四桁のパスワードを入力しなければ開かない仕組みになっていた。
確信を持って、私はさっきの日付にダイヤルを合わせていく。五月三日。0503という数字の並び。
とても懐かしく、そして切ない祝い事の日。
カチリと音が鳴り、取手を掴んで引っ張ると、戸は抵抗なく開いた。
中には……黄色のお守りが入っていた。
「……覚えてるよ、このお守りのこと」
私は、少し距離を離してこちらを見つめていた彼女に声を掛ける。
「あなたが私たちにくれた、大切なお守り」
「……ん」
「三人で元気に過ごしていけるようにって、自分の分も合わせて三つ、買ってくれたんだよね。……末っ子のあなたが贈り物をしてくれるなんてって、私たちは驚いたものだった。あなたのこと見覚えがあって、変だなとは思ってたけど……それはこういうことだったんだね」
記憶が戻り、愛おしさもまた戻ってくる。
私はその愛おしさのまま、彼女の名を――大切な妹の名を呼んだ。
「……明乃」
照れ臭そうに、けれど嬉しそうに。
彼女はしっかりと頷いてくれる。
「……うん。そうだよ、お姉ちゃん。私は遠いところからずっと、二人の幸せを望んでたんだ。私には……あの日からもう、それしかできなかったから」
鮮烈に映り込んだ光景。
学校の踊り場から転落する少女。
それは他ならぬ彼女、明乃のもので。
あの日を最後に、私たちが言葉を交わす機会は、失われてしまったのだった。
――私はもう、駄目だけど……お姉ちゃんたちはどうか、幸せに……なって。
「幸せに。それが二人と交わした最後の言葉だったね。あれから三年が経って……ヨウノお姉ちゃんはマスミさんと。ツキノお姉ちゃんはミオくんと仲良くなって。二人とも、私が願ったように幸せになってくれたって思った。私、すっごく嬉しかったんだよ。私の分まで幸せになってねって、届かなくてもずっと思ってたんだ……」
心なしか、アキノの目には涙が浮かんでいるようにも見えた。
気取られたくないのだろうし、それには敢えて気付かないふりをしながら、私はお礼を言う。
「……ありがとうね、アキノ。貴方はそんな風に思いながら、私たちを見守ってくれていたんだね」
「うん。見守るっていうのとはちょっと違うのかもしれないけど、ずっと見てたよ」
「……ふふ。恥ずかしいな、何だか」
妹に自分たちのその後を見守られていたと思うと、やはり気恥ずかしい。
程度がどこまでかは分からないけれど……恋愛的な部分もあるのだし。
……マスミさんと、ミオくんか。
「この記憶世界じゃ、今がいつなのかも分からないけれど……あの二人は今、一体何をしているんだろうな」
ふと気になって、私は取り戻し始めた記憶から、彼らの笑顔を思い浮かべてみるのだった。
…………
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