【連作ホラー】伍横町幻想 —Until the day we meet again—

至堂文斗

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第二部【三神院幻想 ―Dawn comes to the girl―】

二十九話 眠り姫(記憶世界)

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 モノクロの病室は、奥に進むにつれ闇が深く垂れ込めている。
 誰かが眠っているらしいベッドは、その闇の中へ呑み込まれて全体を目視できない。
 誰が眠っているのかが、私には分からない。

「……アキノ」

 姿を見せない妹に呼びかける。
 そのまましばらく待っていると、やがて部屋の隅にアキノの姿が現れた。

「ツキノお姉ちゃん……」

 アキノは苦渋の表情を浮かべ。
 私から目を逸らしたまま、立ち尽くしている。

「……あのね?」

 彼女を傷つけないように、私はなるべく優しい声を心掛けながら、語りかける。

「私、さっきヨウノお姉ちゃんの部屋にある机の引き出しから、赤いお守りを見つけたんだ。それに助けられた。ヨウノお姉ちゃんの色がいいって泣いた貴方は、私に諭されて我慢するって言ってくれたはずだったけど……あの引き出しに赤いお守りが入ってたってことは、結局お守りを交換してもらったってことだよね」

 赤と黄色のお守り。
 私の言葉を聞き入れた後、結局我慢できずにヨウノお姉ちゃんと交換のお願いをしたことを、私は知らなかった。
 アキノは嘘を隠し続けていた。

「……ねえ、アキノはきっと、自分の気持ちと誰かの気持ちの間で折合いがつかなくなったとき、嘘を吐くのが癖になってしまっていた。……そして、今もそうなんだ」

 アキノは……俯いたまま、震えていた。
 唇を噛み、拳を痛ましいほど拳を握りながら……震えていた。

「……お願い。何も言わずに、このまま祈って」
「アキノ……泣いてるの?」

 つう、とその頬に雫が流れる。
 彼女は……声を殺して泣いていた。
 許されないことをした。
 彼女の涙は、そのことを如実に物語っていて。

「私の考えていることは……じゃあ」
「聞かないでッ!」

 アキノが叫ぶ。
 溢れる涙を隠すことも止めて、私に訴えかける。
 でも。

「嫌だよ! 私、嘘吐かれたまま消えたくないもん!」

 私も必死になって、彼女の言葉に反駁した。

「何も分からないまま全てが終わってしまったら……私だけじゃない、アキノだって絶対に後悔することになる。そんなの、嫌なんだよ……!」
「お姉、ちゃん……」

 涙でぐしゃぐしゃになった彼女を。
 私は、そっと抱き締めた。
 抵抗せずにその抱擁を受け入れた彼女に。
 私は、そっと囁いた。

「……アキノ。この病室で眠ってるのは、私でもなければヨウノお姉ちゃんでもないんだね」

 ほんの僅か。
 ベッドの上に眠る人物の顔が、闇の中から浮かび上がった気がした。

「私たち姉妹の、最後の生き残りは――アキノだったんだ」
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