80 / 176
第二部【三神院幻想 ―Dawn comes to the girl―】
二十九話 眠り姫(記憶世界)
しおりを挟む
モノクロの病室は、奥に進むにつれ闇が深く垂れ込めている。
誰かが眠っているらしいベッドは、その闇の中へ呑み込まれて全体を目視できない。
誰が眠っているのかが、私には分からない。
「……アキノ」
姿を見せない妹に呼びかける。
そのまましばらく待っていると、やがて部屋の隅にアキノの姿が現れた。
「ツキノお姉ちゃん……」
アキノは苦渋の表情を浮かべ。
私から目を逸らしたまま、立ち尽くしている。
「……あのね?」
彼女を傷つけないように、私はなるべく優しい声を心掛けながら、語りかける。
「私、さっきヨウノお姉ちゃんの部屋にある机の引き出しから、赤いお守りを見つけたんだ。それに助けられた。ヨウノお姉ちゃんの色がいいって泣いた貴方は、私に諭されて我慢するって言ってくれたはずだったけど……あの引き出しに赤いお守りが入ってたってことは、結局お守りを交換してもらったってことだよね」
赤と黄色のお守り。
私の言葉を聞き入れた後、結局我慢できずにヨウノお姉ちゃんと交換のお願いをしたことを、私は知らなかった。
アキノは嘘を隠し続けていた。
「……ねえ、アキノはきっと、自分の気持ちと誰かの気持ちの間で折合いがつかなくなったとき、嘘を吐くのが癖になってしまっていた。……そして、今もそうなんだ」
アキノは……俯いたまま、震えていた。
唇を噛み、拳を痛ましいほど拳を握りながら……震えていた。
「……お願い。何も言わずに、このまま祈って」
「アキノ……泣いてるの?」
つう、とその頬に雫が流れる。
彼女は……声を殺して泣いていた。
許されないことをした。
彼女の涙は、そのことを如実に物語っていて。
「私の考えていることは……じゃあ」
「聞かないでッ!」
アキノが叫ぶ。
溢れる涙を隠すことも止めて、私に訴えかける。
でも。
「嫌だよ! 私、嘘吐かれたまま消えたくないもん!」
私も必死になって、彼女の言葉に反駁した。
「何も分からないまま全てが終わってしまったら……私だけじゃない、アキノだって絶対に後悔することになる。そんなの、嫌なんだよ……!」
「お姉、ちゃん……」
涙でぐしゃぐしゃになった彼女を。
私は、そっと抱き締めた。
抵抗せずにその抱擁を受け入れた彼女に。
私は、そっと囁いた。
「……アキノ。この病室で眠ってるのは、私でもなければヨウノお姉ちゃんでもないんだね」
ほんの僅か。
ベッドの上に眠る人物の顔が、闇の中から浮かび上がった気がした。
「私たち姉妹の、最後の生き残りは――アキノだったんだ」
誰かが眠っているらしいベッドは、その闇の中へ呑み込まれて全体を目視できない。
誰が眠っているのかが、私には分からない。
「……アキノ」
姿を見せない妹に呼びかける。
そのまましばらく待っていると、やがて部屋の隅にアキノの姿が現れた。
「ツキノお姉ちゃん……」
アキノは苦渋の表情を浮かべ。
私から目を逸らしたまま、立ち尽くしている。
「……あのね?」
彼女を傷つけないように、私はなるべく優しい声を心掛けながら、語りかける。
「私、さっきヨウノお姉ちゃんの部屋にある机の引き出しから、赤いお守りを見つけたんだ。それに助けられた。ヨウノお姉ちゃんの色がいいって泣いた貴方は、私に諭されて我慢するって言ってくれたはずだったけど……あの引き出しに赤いお守りが入ってたってことは、結局お守りを交換してもらったってことだよね」
赤と黄色のお守り。
私の言葉を聞き入れた後、結局我慢できずにヨウノお姉ちゃんと交換のお願いをしたことを、私は知らなかった。
アキノは嘘を隠し続けていた。
「……ねえ、アキノはきっと、自分の気持ちと誰かの気持ちの間で折合いがつかなくなったとき、嘘を吐くのが癖になってしまっていた。……そして、今もそうなんだ」
アキノは……俯いたまま、震えていた。
唇を噛み、拳を痛ましいほど拳を握りながら……震えていた。
「……お願い。何も言わずに、このまま祈って」
「アキノ……泣いてるの?」
つう、とその頬に雫が流れる。
彼女は……声を殺して泣いていた。
許されないことをした。
彼女の涙は、そのことを如実に物語っていて。
「私の考えていることは……じゃあ」
「聞かないでッ!」
アキノが叫ぶ。
溢れる涙を隠すことも止めて、私に訴えかける。
でも。
「嫌だよ! 私、嘘吐かれたまま消えたくないもん!」
私も必死になって、彼女の言葉に反駁した。
「何も分からないまま全てが終わってしまったら……私だけじゃない、アキノだって絶対に後悔することになる。そんなの、嫌なんだよ……!」
「お姉、ちゃん……」
涙でぐしゃぐしゃになった彼女を。
私は、そっと抱き締めた。
抵抗せずにその抱擁を受け入れた彼女に。
私は、そっと囁いた。
「……アキノ。この病室で眠ってるのは、私でもなければヨウノお姉ちゃんでもないんだね」
ほんの僅か。
ベッドの上に眠る人物の顔が、闇の中から浮かび上がった気がした。
「私たち姉妹の、最後の生き残りは――アキノだったんだ」
0
あなたにおすすめの小説
聖者の愛はお前だけのもの
いちみりヒビキ
BL
スパダリ聖者とツンデレ王子の王道イチャラブファンタジー。
<あらすじ>
ツンデレ王子”ユリウス”の元に、希少な男性聖者”レオンハルト”がやってきた。
ユリウスは、魔法が使えないレオンハルトを偽聖者と罵るが、心の中ではレオンハルトのことが気になって仕方ない。
意地悪なのにとても優しいレオンハルト。そして、圧倒的な拳の破壊力で、数々の難題を解決していく姿に、ユリウスは惹かれ、次第に心を許していく……。
全年齢対象。
男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜
春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!>
宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。
しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——?
「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!
✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
新しい家族は保護犬きーちゃん
ゆきむらさり
エッセイ・ノンフィクション
〔あらすじ〕📝初めて🐶保護犬ちゃんを迎え入れる我が家。
過去の哀しい実情のせいで人間不信で怯える保護犬きーちゃん。
初日から試行錯誤の日々と保護犬きーちゃんがもたらす至福の日々。
◇
🔶保護犬ちゃん達の過去・現在の実情の記述もあります🐾
🔶日々の些細な出来事を綴っています。現在進行形のお話となります🐾
🔶🐶挿絵画像入りです。
🔶拙いエッセイにもかかわらず、HOTランキングに入れて頂き(2025.7.1、最高位31位)ありがとうございます🙇♀️
~春の国~片足の不自由な王妃様
クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。
春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。
街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。
それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。
しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。
花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる