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第二部【三神院幻想 ―Dawn comes to the girl―】
二十八話 遡行する記憶(記憶世界)
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私の部屋。
チェス盤とぬいぐるみが置かれた、最も思い入れのある部屋。
この部屋が最後に待っていたのは当然のことだろう。
これほどまでに『ツキノ』を意識させられる部屋なのだから。
部屋を抜け、長い廊下へ。
黒き影は、執拗に私を追ってくる。
この人型はきっと、黒木圭そのもの。
私の記憶に強烈に刻み込まれた、最後にして最大の恐怖。
その毒牙に刺し貫かれないよう、私は走る。
長い長い階段を、上っていく。
「はぁ……はぁ……!」
次は、アキノの部屋だ。
私たちの可愛い妹、アキノの部屋。
五月三日の誕生日を、お姉ちゃんとともに祝ってあげようとして。
けれどもそれは結局、事件のせいで叶うことはなかった。
――あれ?
流れゆく思考の中で、妙な引っ掛かりを覚えたけれど……どうにもその正体は掴めず、まあいいかと気にしないようにする。
今は何より、ここまで修復された魂を病室に持っていくことが肝要だから。
「……お守り……」
部屋の片隅にある勉強机を目にして、ふいに思う。
アキノのお守りを持っていたとき、黒き影を退けることができた。
なら、保険としてお守りを持っていれば、今追いかけてきている影たちもやっつけることができるんじゃないか。
試してみる価値はありそうだ、と。
アキノの部屋を抜け、歪な廊下を抜け。
ヨウノお姉ちゃんの部屋まで戻ってくる。
一番最初の部屋であるこの場所で。
私は赤いお守りを見つけたのだ。
「確かここに……!」
ヨウノお姉ちゃんの勉強机。
その引き出しの中に、赤いお守りがちゃんと入っていた。
影たちは私を貫こうとにじり寄って来る。
そんな影たちに私は――思い切りお守りを投げつけた。
「えいッ!」
お守りが影たちに触れた瞬間、またあのときと同じ皮膚の爛れる音がして。
彼らはギイギイと気味の悪い断末魔の悲鳴を上げながら――消滅したのだった。
世界は、静寂に満たされた。
「……追い、払えた」
消えてくれればラッキーという考えだったけれど、思惑通りに影はいなくなった。
これで、病室に戻るまでの危険は取り除くことができたわけだ。
記憶世界の崩落も、今は止まっている。
あとは悠々と病室に向かえばいいだけ。
……それだけ、なのだが。
「……誕生日、か」
落ち着いて考えられるようになると、疑問が頭をもたげてくる。
私はどうしてアキノの誕生日を思い出して、違和感を抱いたのだろう。
私が認識していることと、現実の記憶に……微妙なズレがある。
見落としてはいけない、何らかのズレが。
「……お守り」
机の中に入っていたお守りは、赤色だった。
でも……お姉ちゃんが最初に持っていたのって、黄色じゃなかったっけ?
それをアキノが欲しがって、私が諭して……それで結局、そのままの色で納得したんじゃなかったっけ?
なのに……。
「……あの子は」
あの子はいつも、私たちに憧れて。
色々なものを知りたがって、欲しがって。
それが嘘になることも何度かあって。
だから……。
「ねえ、アキノ?」
返事はない。
また、アキノは私の傍からいなくなっていた。
考えたくないけれど……嫌な予感がする。
彼女がまだ何かを隠しているという、確信めいた予感が。
「病室で、待ってるのかな……」
あの場所でこの旅が終わるなら。
そこにきっと、彼女は待っているはずだ。
あの子に、訊ねてみよう。
この魂を捧げるのは、それからでも遅くはない筈だから。
チェス盤とぬいぐるみが置かれた、最も思い入れのある部屋。
この部屋が最後に待っていたのは当然のことだろう。
これほどまでに『ツキノ』を意識させられる部屋なのだから。
部屋を抜け、長い廊下へ。
黒き影は、執拗に私を追ってくる。
この人型はきっと、黒木圭そのもの。
私の記憶に強烈に刻み込まれた、最後にして最大の恐怖。
その毒牙に刺し貫かれないよう、私は走る。
長い長い階段を、上っていく。
「はぁ……はぁ……!」
次は、アキノの部屋だ。
私たちの可愛い妹、アキノの部屋。
五月三日の誕生日を、お姉ちゃんとともに祝ってあげようとして。
けれどもそれは結局、事件のせいで叶うことはなかった。
――あれ?
流れゆく思考の中で、妙な引っ掛かりを覚えたけれど……どうにもその正体は掴めず、まあいいかと気にしないようにする。
今は何より、ここまで修復された魂を病室に持っていくことが肝要だから。
「……お守り……」
部屋の片隅にある勉強机を目にして、ふいに思う。
アキノのお守りを持っていたとき、黒き影を退けることができた。
なら、保険としてお守りを持っていれば、今追いかけてきている影たちもやっつけることができるんじゃないか。
試してみる価値はありそうだ、と。
アキノの部屋を抜け、歪な廊下を抜け。
ヨウノお姉ちゃんの部屋まで戻ってくる。
一番最初の部屋であるこの場所で。
私は赤いお守りを見つけたのだ。
「確かここに……!」
ヨウノお姉ちゃんの勉強机。
その引き出しの中に、赤いお守りがちゃんと入っていた。
影たちは私を貫こうとにじり寄って来る。
そんな影たちに私は――思い切りお守りを投げつけた。
「えいッ!」
お守りが影たちに触れた瞬間、またあのときと同じ皮膚の爛れる音がして。
彼らはギイギイと気味の悪い断末魔の悲鳴を上げながら――消滅したのだった。
世界は、静寂に満たされた。
「……追い、払えた」
消えてくれればラッキーという考えだったけれど、思惑通りに影はいなくなった。
これで、病室に戻るまでの危険は取り除くことができたわけだ。
記憶世界の崩落も、今は止まっている。
あとは悠々と病室に向かえばいいだけ。
……それだけ、なのだが。
「……誕生日、か」
落ち着いて考えられるようになると、疑問が頭をもたげてくる。
私はどうしてアキノの誕生日を思い出して、違和感を抱いたのだろう。
私が認識していることと、現実の記憶に……微妙なズレがある。
見落としてはいけない、何らかのズレが。
「……お守り」
机の中に入っていたお守りは、赤色だった。
でも……お姉ちゃんが最初に持っていたのって、黄色じゃなかったっけ?
それをアキノが欲しがって、私が諭して……それで結局、そのままの色で納得したんじゃなかったっけ?
なのに……。
「……あの子は」
あの子はいつも、私たちに憧れて。
色々なものを知りたがって、欲しがって。
それが嘘になることも何度かあって。
だから……。
「ねえ、アキノ?」
返事はない。
また、アキノは私の傍からいなくなっていた。
考えたくないけれど……嫌な予感がする。
彼女がまだ何かを隠しているという、確信めいた予感が。
「病室で、待ってるのかな……」
あの場所でこの旅が終わるなら。
そこにきっと、彼女は待っているはずだ。
あの子に、訊ねてみよう。
この魂を捧げるのは、それからでも遅くはない筈だから。
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