【連作ホラー】伍横町幻想 —Until the day we meet again—

至堂文斗

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最終部【伍横町幻想 ―Until the day we meet again―】

一話 「君が、犬飼真美さんだよね?」

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 これは、私の記憶。
 二度とは戻らない、懐かしきあの頃の記憶である。





「……って感じじゃね? あれってさ」
「ちょっと、声が大きいわよ……」

 教室の喧騒。
 流刻園の記憶は、ただただそれに尽きる。
 束の間の休み時間に生徒たちが交わす幾つもの言葉。
 その中に、私たちへ向けられたものがあることは、いつも意識していた。

「確かに可愛いけどさあ……」
「近づきにくいわよねえ、あれじゃ」

 教室の端の席。
 誰からも話しかけられず、一人座り続ける彼女。
 その隣で、ただ彼女の孤独を埋めるように。
 私はいつも傍にいて、時折声を掛けていた。

「高嶺の花ってやつかしら……?」
「ちょっとその使い方はおかしいと思うけど……」

 私たちは、ずっと二人で寄り添っていた。
 それは、彼女の辛く苦しい過去のせい。
 誰にも知られない、いやむしろ知られるわけにはいかない過去のせいだった。
 犬飼真美いぬかいまみ。それが、彼女の名前。
 仁行通にぎょうとおる。それが、私の名前だった。
 そうだ……私たちは、ずっと二人で寄り添っていた。
 それを平穏だと、思うようにしていた。
 けれどその平穏が突然終わりを告げたのが、あの日。
 あの男が現れた日だった。

「――君が、犬飼真美さんだよね?」

 ……あの男、波出守なみいでまもるが現れた日――。





 大学へ進学した私とマミは、高校生活と同じように、殆どの時間を孤立して過ごしていた。
 けれど、やはり大学というものは高校とは違い、孤立することが周囲から浮いて見えることはなかった。
 自由な孤立。それがマミの心を落ち着かせていたのは事実だ。
 けれどそれより、彼女の心を動かすものがあったのもまた事実だった。

「ねえ、マミ」

 大学の中庭。昼下がりにぼんやりとベンチで座り込んでいる彼女に、私は話しかけていた。

「……うん?」
「最近、考え事が多いよ?」
「そうかな」

 いつだって、私は彼女の傍にいるのに。
 彼女が私を見る時間は、いつしか減ってしまっていた。

「……そうかもね」

 彼女が考えているのが何なのか、私には分かっていた。
 それでも意地悪く、聞きたくなったのだ。
 マミに訊ねている間くらいは、彼女も私のことを意識してくれていたから。
 今にして思えば、卑怯な手ではあった。

「……ああ、あいつだ」

 話している内に、奴が来た。
 マミの心の中で、その存在を強めている男。
 私とマミの間に、彼が割って入ったときから。
 二人の平穏は終わりを告げてしまっていた。

「じゃあ……俺は行くよ」

 今までの人生で、このようなことはなかったけれど。
 奴とマミが会っている間は、私は求められていなかった。
 普通の人にしてみれば、それが当然なのだろうが……マミと私の関係は、特別だったのだ。
 特別な二人の、筈だったのだ。

「……うん。またね、トオル」

 私は、次第に求められなくなっていた。
 そのことを、気付かぬふりは出来なかった。
 ……私がそっと、マミの元を去ってから。
 奴は彼女の前に立ち止まり、気障ったらしい声で話しかける。

「……こんにちは、マミちゃん。今日も一人?」

 マミはそこで笑顔を浮かべて――私に見せない笑顔を浮かべて、こう返すのだ。

「……はい、そうですけど――」
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