【連作ホラー】伍横町幻想 —Until the day we meet again—

至堂文斗

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最終部【伍横町幻想 ―Until the day we meet again―】

十五話 「そう――六月九日というわけさ」

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「まあとにかく、犬飼真美について分かっていることは以上だね」

 全員が情報を出し合ったところで、マスミが進行役として話を区切る。

「それからもう一つ、六月九日に計画されていることについてはどうも暗号めいたものだったから、ミツヤくんとハルナちゃんに任せたけど……首尾はどうだったんだい?」

 話を振られた二人は苦笑しながら、

「はは……人間ですからね、俺は。まあ、きちんと調べてそれらしい答えは出ました」
「こいつはそういうところでキレますからねー」
「うるさい。……じゃあちょっと、説明するとしますか。こういう役はソウシがすることが多かったんだけどな……」

 そこでミツヤはほんの少しだけ、寂しげな表情を浮かべたが、すぐに切り替えて話を始めた。

「結論から言うと、ドールは六月九日……つまり明日、大規模な降霊術を行おうとしてる筈。マミさんって人の魂を戻して、人形へ固着させるために。それに打ってつけな日付が、六月九日だったというワケだ」
「どうして打ってつけ、なんでしょう?」
「いい合いの手だ、ミイナちゃん。さあ、ここで何故か伍横町の成り立ちについて説明しなきゃならないんだが……」

 と、そこまで言ってミツヤは、ポケットに入れていたらしい紙を取り出して机に広げた。
 それは、この町――伍横町の地図だった。

「まず、伍横町はもともと五行町ごぎょうちょうという名前だったらしい。陰陽五行説って聞いたことがあるかもしれないけど、その五行だな。まだ町の名がその五行町だった頃は、町の各方角に色のついた呼び名があったそうなんだ」

 ミツヤの言によれば、町の北部……霧夏邸が建っていた場所が『赤』の付く地名。西部……三神院が建つ場所が『黄』の付く地名。東部……流刻園の建つ場所が『緑』の付く地名。南部……犬飼家のある辺りが『白』の付く地名。そして中心部……波出家のある辺りが『黒』の付く地名、というようになっていたらしい。

「――だけど、どうやらこの色と方角の組み合わせはいけないということに昔の人は気付いたそうだ」

 五行思想には正しい配置が存在する。
 かつての配置は言ってしまえば滅茶苦茶であり、気の流れが乱れてしまうと住民たちは判断し、修正を加えることにしたそうだ。
 現在の伍横町には、当時の地名は存在しない。色の付いた地名は全て別の名前に変えられてしまっていた。
 その代わりに、町の各方角に像が祀られたのである。
 東部には青龍の像、南には朱雀の像、西部には白虎の像。北部には玄武の像。
 これら四神が、五行思想に照らし合わせると先程の色と同じ意味を持つのだ。
 正しい組み合わせとして。

「そして真ん中には……黄色が来なくちゃならない。日本じゃ四神は有名だけど、黄色に対応する神が何なのかはあまり知られてないんだよな。これには麒麟か黄龍が該当するとされてるんだけど……まあいいや。とにかくそのどちらかが、町の真ん中に祀られているんだろう……と普通は思う」

 思わせぶりにそこで言葉を切ったミツヤは、伍横町の地図のある場所に、ペンで丸を描いた。
 そこは、地図上に『伍横町』と書かれた、ちょうど『横』の部分。
 つまり、ミツヤの言わんとしていることはこうだ。
 伍横町という町の名に、黄という字を含ませたのだと。

「さあ、これで五行思想は出来上がった。なら後は……陰陽思想を付け加えるだけ」

 太極図にもある通り、陰陽思想は勾玉のような図形二つが合わさり円状になっているもので、陽の中にも陰があり、陰の中にもまた陽があることを示す図だ。
 ミツヤは再び伍横町の地図に、その太極図を描いていく。
 図を描き切ったとき、他のメンバーたちは自然に理解することが出来ていた。
 ドールが何故六月九日を儀式の日に選んだのか、その理由を。

「それを付け加える日付が、そう――六月九日というわけさ」

 6と9。
 そこには陽と陰、二つが合わさった図が現れていた。

「陰陽五行思想は全ての事象を説明する論理だ。その陣のようなものが配置された町で、降霊術を行えば、その力はとてつもないものになる……ドールはそう考えているんだろう」
「で、でもそんな滅茶苦茶な……」
「そう、無茶苦茶だ。でも、それがドールの考えってことさ。重要なことは、ドールがそう考えてくれているおかげで、俺たちは計画の実行日が分かったということなんだよ」
「あ……そうか」

 これは、ある種の願掛けだ。
 実際の効力はさておき、少なくともドールはそうした方がいいと信じている。
 ならばドールは、間違いなくその日に行動を起こすだろう。
 でなければ、築き上げてきたこれまでに意味がなくなるのだから。
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