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最終部【伍横町幻想 ―Until the day we meet again―】
三十話 「ほっとけなくなるじゃねえか」
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「黒木って奴は、幼い頃に嫌な思い出があったんだってね。まあ、どう考えても逆ギレみたいなものなんだけどさ。でも、幼少期の経験って多分、どんなことであっても大きく感じられると思うんだ。黒木にとって、それはとっても大きなことだった……」
マヤの話は、そこで締めくくられた。
少年刑務所で、彼と黒木圭が邂逅していたというのは全員にとって驚きだったが、ミツヤとハルナがなお驚いたのは、マヤがケイを諭したという事実だ。
おまけに、ケイと話す中で彼の人物像を掘り下げ、悪の萌芽した原因まで探ろうとしたというのは、マヤの成長というか、更生が感じられるものだった。
「黒木は、父親に強い男であることを常に求められていたそうだしね」
「みたいですね。強くあれって、言われてたみたいでした。ただの教育方針だったのに……」
「それが……幼い彼の、言わば拠り所だった」
この中では唯一ケイの詳細を知るアキノと、マヤは意見を述べ合う。
「ある意味、黒木圭は純粋だったんだろうね。純粋すぎて、拠り所が壊れたときに彼も壊れてしまったんだ。幼いまま……」
「……幼いまま、ですか」
「ふふ、これは僕の勝手な推測だよ。だけど、僕も同じような感じだったからさ。何となく……それが黒木圭っていう人なんじゃないかなあって思ったんだよね」
マヤがナツノを手にかけたとき。
きっとそのときの心も同じようなものだったと、彼は思っていた。
純粋なのが、悪いことだとは言わない。けれど、その純粋さが途方もない残酷さに豹変することもあるのだと、マヤはよく知っているのだ。
拠り所を失ったとき、彼は全てを否定し、壊そうとしたから。
「……共感はすんなよ? もうお前は、昔のお前じゃないって思ってるんだろ」
「うん、しないしない。だから……止めなきゃって思ったんだもの。ハルナちゃんが僕を救ってくれたようにね」
「マヤくん……」
そこで照れ臭くなったのか、マヤは負傷した足をパンパンと叩いて、
「やっぱり、僕じゃあちょっと格好悪い結果になったけど。ま、一回防げただけでも、見事なもんだよね」
「どこが見事だよ、バカマヤ。おかげでほっとけなくなるじゃねえか……ったく」
「はは……手厳しいなあ、ミツヤは」
……ありがとう。
殆ど聞き取れぬほどの声量だったが、マヤは確かに、ミツヤにそう感謝を告げた。
「……仕方ねえな。ちょっとハルナもソウシも、マヤについててやってくれ。行こうと思ってた場所があるんだが、俺だけで行ってこよう」
頭をわしわしと掻きながら、ミツヤは突然、二人に指示をした。
ハルナもソウシも、彼の行きたい場所がどこなのかが気になり、すぐに問いを投げかける。
「ちょっと、どこに行くつもりなの?」
「町が閉じた今なら、どこへ侵入したって問題ないだろ? だから、侵入しようと思ってたんだよ……犬飼真美の家にさ」
「おいおい、そんな面白そうなことなら俺も連れてけよ」
待機させられるのが我慢ならないようで、ソウシが即座に同行を求める。
面白そう、という表現にミツヤは遊びじゃないんだぞと注意しようとしたが、
「一人でなんか行かせられねえしよ」
という、自分を心配しての進言であることが分かると、文句は言えなくなってしまった。
「……すまねえ、ハルナ。大丈夫か?」
「んー、すぐ帰ってきてほしいけどね? ちょっとだけなら、待っとくよ」
「了解、なるべく早く戻る」
霊体であるソウシが付いてくるのは、解錠や索敵などの面で便利ではあるが、ハルナたちの守りが手薄になる。あまり時間をかけるわけにはいかなかった。
「じゃ、残念だけど連れてくか。行くぞ、ソウシ」
「あいよ」
ミツヤとソウシの二人は、かつてのように肩を並べ、調査に出向く。
ハルナはそれを、やっぱり素敵な相棒だなと思いながら見送るのだった。
マヤの話は、そこで締めくくられた。
少年刑務所で、彼と黒木圭が邂逅していたというのは全員にとって驚きだったが、ミツヤとハルナがなお驚いたのは、マヤがケイを諭したという事実だ。
おまけに、ケイと話す中で彼の人物像を掘り下げ、悪の萌芽した原因まで探ろうとしたというのは、マヤの成長というか、更生が感じられるものだった。
「黒木は、父親に強い男であることを常に求められていたそうだしね」
「みたいですね。強くあれって、言われてたみたいでした。ただの教育方針だったのに……」
「それが……幼い彼の、言わば拠り所だった」
この中では唯一ケイの詳細を知るアキノと、マヤは意見を述べ合う。
「ある意味、黒木圭は純粋だったんだろうね。純粋すぎて、拠り所が壊れたときに彼も壊れてしまったんだ。幼いまま……」
「……幼いまま、ですか」
「ふふ、これは僕の勝手な推測だよ。だけど、僕も同じような感じだったからさ。何となく……それが黒木圭っていう人なんじゃないかなあって思ったんだよね」
マヤがナツノを手にかけたとき。
きっとそのときの心も同じようなものだったと、彼は思っていた。
純粋なのが、悪いことだとは言わない。けれど、その純粋さが途方もない残酷さに豹変することもあるのだと、マヤはよく知っているのだ。
拠り所を失ったとき、彼は全てを否定し、壊そうとしたから。
「……共感はすんなよ? もうお前は、昔のお前じゃないって思ってるんだろ」
「うん、しないしない。だから……止めなきゃって思ったんだもの。ハルナちゃんが僕を救ってくれたようにね」
「マヤくん……」
そこで照れ臭くなったのか、マヤは負傷した足をパンパンと叩いて、
「やっぱり、僕じゃあちょっと格好悪い結果になったけど。ま、一回防げただけでも、見事なもんだよね」
「どこが見事だよ、バカマヤ。おかげでほっとけなくなるじゃねえか……ったく」
「はは……手厳しいなあ、ミツヤは」
……ありがとう。
殆ど聞き取れぬほどの声量だったが、マヤは確かに、ミツヤにそう感謝を告げた。
「……仕方ねえな。ちょっとハルナもソウシも、マヤについててやってくれ。行こうと思ってた場所があるんだが、俺だけで行ってこよう」
頭をわしわしと掻きながら、ミツヤは突然、二人に指示をした。
ハルナもソウシも、彼の行きたい場所がどこなのかが気になり、すぐに問いを投げかける。
「ちょっと、どこに行くつもりなの?」
「町が閉じた今なら、どこへ侵入したって問題ないだろ? だから、侵入しようと思ってたんだよ……犬飼真美の家にさ」
「おいおい、そんな面白そうなことなら俺も連れてけよ」
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「一人でなんか行かせられねえしよ」
という、自分を心配しての進言であることが分かると、文句は言えなくなってしまった。
「……すまねえ、ハルナ。大丈夫か?」
「んー、すぐ帰ってきてほしいけどね? ちょっとだけなら、待っとくよ」
「了解、なるべく早く戻る」
霊体であるソウシが付いてくるのは、解錠や索敵などの面で便利ではあるが、ハルナたちの守りが手薄になる。あまり時間をかけるわけにはいかなかった。
「じゃ、残念だけど連れてくか。行くぞ、ソウシ」
「あいよ」
ミツヤとソウシの二人は、かつてのように肩を並べ、調査に出向く。
ハルナはそれを、やっぱり素敵な相棒だなと思いながら見送るのだった。
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