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Tenth Chapter...7/28
窓に映るのは
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その夜。
風呂を済ませて、ベッドに横たわった僕は、半ば条件反射的にスマホを手に取って、画面を開いていた。
「……ん……」
チャットアプリを確認した僕は、午前中に龍美へ送信したメッセージがまだ既読になっていないことに気付く。半日経っているのだから、いつもの彼女なら、もう見ていて当然だと思うのだが。
休みの日は、稀に遠方へ出かけることも勿論ある。この村の住民にとって、それは本当に稀と言うべき程度なのだけれど。もしかしたら、龍美も家族でどこかへ行っているのかな、と考えたが、外へ出る唯一の道は土砂崩れで塞がれているのだから、それは違うなと思い直した。
スマホの画面上で、時刻が十時になるのを眺める。もうあと二時間で、一日が終わる。どうしてだろうか、こうやって時間が経っていくことに、焦りというか、怖れを抱いてしまっているのは。少しずつ軋んでいく日常。取り返しのつかない何かが起きるような、勝手な予感。僕はこんなことをしていていいのか。何か、成すべきことはないのだろうか。答えが出るわけもないのに、頭の中はぐるぐると、そんなことばかりが巡り、巡る。
無駄に考えすぎているせいか、鈍い頭痛がした。気分転換をしなくてはと、ベッドから起き上がって、窓際まで向かう。雨は霧のように細かく、窓を開けて風に当たっても平気だろうと、僕は引手に指を伸ばした。
そのとき、突然稲光が起きて。
白く染まった視界の中に――それが、見えた。
「ひっ……!?」
窓から弾かれるように、慌てて後退る。心臓の鼓動が跳ね上がるのが分かる。
気のせいだ。見間違いだ。常識的に考えたら、当たり前のことじゃないか。
窓に映ったのは、僕の顔に決まっている。
鬼の顔であるわけがないんだ。
「……」
恐る恐る、窓に近づく。映るのは、間違いなく自分の顔だ。恐怖に引き攣った、情けない表情。
頭が痛む。足が震えてくる。数日前の夜と同じ、いやそれ以上に、重く、鈍い。耐えきれなくなって、頭を押さえながらしゃがみこんでしまう。
何故、こんなことが起きるんだ。僕が何か、罰当たりなことをしたとでも? そんなことはない。ないはずなのだ。
鬼。その存在に近づくことすら、禁忌だというのか。まさか。そもそも鬼なんて、架空の存在に決まっているのだ……。
理性は鬼の存在を否定する。それでももっと奥深いところで、本能のような、或いはそう、集合的無意識のような深層で、鬼という概念への怖れを感じてしまっているかのような。
そして、握り潰されそうな頭痛の中で、次第に拡大されていく音、音、音。
それはあるところで意味のある言葉へと変わって聞こえてきた。
――殺す。
――殺す。
恐怖に身が凍る。
あまりにも現実離れした、濁ったその声は。
やはり鬼のそれに相違なかった。
風呂を済ませて、ベッドに横たわった僕は、半ば条件反射的にスマホを手に取って、画面を開いていた。
「……ん……」
チャットアプリを確認した僕は、午前中に龍美へ送信したメッセージがまだ既読になっていないことに気付く。半日経っているのだから、いつもの彼女なら、もう見ていて当然だと思うのだが。
休みの日は、稀に遠方へ出かけることも勿論ある。この村の住民にとって、それは本当に稀と言うべき程度なのだけれど。もしかしたら、龍美も家族でどこかへ行っているのかな、と考えたが、外へ出る唯一の道は土砂崩れで塞がれているのだから、それは違うなと思い直した。
スマホの画面上で、時刻が十時になるのを眺める。もうあと二時間で、一日が終わる。どうしてだろうか、こうやって時間が経っていくことに、焦りというか、怖れを抱いてしまっているのは。少しずつ軋んでいく日常。取り返しのつかない何かが起きるような、勝手な予感。僕はこんなことをしていていいのか。何か、成すべきことはないのだろうか。答えが出るわけもないのに、頭の中はぐるぐると、そんなことばかりが巡り、巡る。
無駄に考えすぎているせいか、鈍い頭痛がした。気分転換をしなくてはと、ベッドから起き上がって、窓際まで向かう。雨は霧のように細かく、窓を開けて風に当たっても平気だろうと、僕は引手に指を伸ばした。
そのとき、突然稲光が起きて。
白く染まった視界の中に――それが、見えた。
「ひっ……!?」
窓から弾かれるように、慌てて後退る。心臓の鼓動が跳ね上がるのが分かる。
気のせいだ。見間違いだ。常識的に考えたら、当たり前のことじゃないか。
窓に映ったのは、僕の顔に決まっている。
鬼の顔であるわけがないんだ。
「……」
恐る恐る、窓に近づく。映るのは、間違いなく自分の顔だ。恐怖に引き攣った、情けない表情。
頭が痛む。足が震えてくる。数日前の夜と同じ、いやそれ以上に、重く、鈍い。耐えきれなくなって、頭を押さえながらしゃがみこんでしまう。
何故、こんなことが起きるんだ。僕が何か、罰当たりなことをしたとでも? そんなことはない。ないはずなのだ。
鬼。その存在に近づくことすら、禁忌だというのか。まさか。そもそも鬼なんて、架空の存在に決まっているのだ……。
理性は鬼の存在を否定する。それでももっと奥深いところで、本能のような、或いはそう、集合的無意識のような深層で、鬼という概念への怖れを感じてしまっているかのような。
そして、握り潰されそうな頭痛の中で、次第に拡大されていく音、音、音。
それはあるところで意味のある言葉へと変わって聞こえてきた。
――殺す。
――殺す。
恐怖に身が凍る。
あまりにも現実離れした、濁ったその声は。
やはり鬼のそれに相違なかった。
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