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Tenth Chapter...7/28
土砂崩れの理由
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「ちょっと晩御飯の材料切らしちゃって。買ってきてくれないかしら?」
昼食の後、リビングでぼーっとしていると、母さんからそんなお願いをされた。あると思っていたものが、冷蔵庫になかったらしい。こういうことはたまにある。
食後のコーヒーを飲み終えてから、僕は買い物のメモを母さんから受け取って、秤屋商店へ向かった。
雨は、朝より小降りになっているものの、まだ傘無しでは出歩けないくらいだ。雨に打たれて揺れる稲穂を見つめながら、田園を横切り、中央広場を過ぎる。商店までは、時間にして十分ほど。その道中に、二人のお爺さんが、如何にも辛そうな足取りで、東へ歩いていくのに遭遇した。多分、集会場へ向かったのだろうな。
「いらっしゃーい。今日は普通のお買い物?」
「普通……まあ、そうです」
確かに、千代さんからしてみれば、機械のパーツを買うのは普通じゃない買い物だよね。
「お好きに見てってね。私、ちょっと父に呼ばれてるから、行かなきゃ。盗ったりしちゃ駄目よ!」
笑顔で冗談めかして言うと、千代さんは店の奥、立入禁止の向こうに引っ込んでいった。こんな風に、店番がいなくなっても物を盗まれたことなんてないらしい。流石の治安の良さ、といったところだ。
そう、治安は良かった、はずなのだけど。
店内に入り、食品の陳列棚を見て回る。生鮮食品は、街の中でとれた物以外はもう殆ど残っていないが、それでも困らない程度には種類も量もあるし、レトルト食品や缶詰などはかなり豊富だ。千代さんは運転免許を持っているので、家族の持っている軽トラックで、隣町まで買い出しに行っている。何が住民にとって必要か、きっと誰よりも把握しているのだろう。千代さんもまた、この街の満ち足りた暮らしを支える一人だよな、と思った。
「おや……こんにちは」
背後から声を掛けられて、少しびくりとしてしまった。慌てて振り返ると、そこには。
「あ、八木さん。こんにちは」
「買い物? この雨なのに、おつかれさま」
「そんなに量もないですから」
「はは、そうかそうか」
こうして八木さんと話すのは、久しぶりな気がする。龍美はしょっちゅう会っているようだが、僕はもうかれこれ、一ヶ月以上は会ってなかったんじゃないだろうか。
相変わらず、カッターシャツに緩く巻いたネクタイという服装。睡眠時間が少ないらしく、目は常に隈が薄っすら浮かんでいる。容姿は中々美男子といったところだろうに、生活がだらしないというか、仕事と私生活が殆ど一緒くたになっている人なのである。いくら派遣されてきた身とは言え、もう少し気を遣った方が良いと思うのだが、余計なお世話だろうか。
まあ、龍美はそんな八木さんを好いているようだが。……でも、あの子はお兄さんキャラならオッケーって感じなのかな。
「八木さんも、何か買い出しに?」
「ええ、私はあっちの部品を」
そう言って指差したのは、昨日龍美が品定めをしていたコーナーだった。八木さんもそこで機械部品を買っているらしい。
「機械が不調だったら自分で直さなくてはいけないんで、ここは本当に便利でね。病院さまさま、といった所だ」
「あそこのコーナーは、病院側の要望なんですもんね」
「だってね。……医療に使わなさそうなものもあるんだけど、そこは私も専門外だし、何かには必要なんだろう。私の仕事の助けになっているから、それだけでありがたいよ」
「はあ」
言われてみれば、何に使うのかよく分からないようなパーツもあるし、気にはなるところだ。
「お待たせしました~っと。あれ、八木さんいらっしゃい」
「どうも、こんにちは」
「ゆっくり見ていってくださいね」
「ありがとう。でも、そんなに時間はとらないので」
にこりと微笑むと、八木さんはすっと機械部品コーナーに歩いていき、十秒と掛からずに目当ての品をレジに持ってくる。頻繁に利用しているから、どこに何を置いているか、大体把握しているのだろうな。
「っと、感心してる場合じゃないや」
僕も買い物に来ているのだった。ポケットから母さんにもらったメモを取り出して、リスト通りの品を取っていく。買い物カゴは周囲に置かれてあるが、今日は必要ないくらいの量だ。
「ありがとうございました。またよろしくね~」
八木さんも僕も、程なくして買い物を終える。千代さんが頭を下げるのに、僕らも軽く礼を返した。
「私はこれから病院に寄っていくんだけど、ちょっと一緒に歩くかい?」
八木さんがそんなことを言うのは珍しい。孤独を愛していそうな人なんだけど。
「構いませんよ、行きましょう」
「うん。遠回りだけど、すまないね」
「いえいえ」
龍美も先日話してくれたが、八木さんの話は興味深いものも多いし、面白いことが聞けるかもしれない。病院までの短い時間だけれど、嫌ではなかった。
傘がぶつからないよう気を配りながら、八木さんと並んで歩く。こうして歩くと、僕って背が低いな、と感じる。
「玄人くんも龍美さんも、鬼の伝承を調べてるんだってね」
「ああ、はい。龍美から聞きましたか」
「そんなところ。私の仕事もある意味じゃあ謎を調べることだし、二人の調査を応援しているよ」
「えと、ありがとうございます」
「どういたしまして」
八木さんは、少しだけ笑顔を浮かべたが、それはすぐに消えてしまう。
「……私の地質調査も長い間続けてきたけれど、そろそろ帰りたいな、と思うことがある」
「そう、なんですか?」
「うん。やっぱり、永射さんの事故もそうなんだけど……ここのところ、不穏なことが多くて。この街全体の空気が、悪くなっている気がするんだ」
普段は観測所に籠りがちな八木さんも、それは感じているらしい。
「……それから、事故があった日に、土砂崩れも起きたね。他の人はあまり気に留めていなかったけど、あれは雨のせいだけじゃなくて、地震の影響もあったんだよ。土砂崩れのせいで揺れたように感じたのは間違いなんだ」
「そう言えば……龍美も地震があったって言ってる人がいるって話してたな」
「ええ。実は、満生台で過去に大きな地震は、大体十数年おきに起きているみたいでね。最後にあった地震が一九九四年だから、もうそろそろ大きな地震が起きても不思議じゃないんだ」
「最後の地震から今年で十八年……ですか」
「そう」
その法則がどこまで正しいかは不明だが、専門家の八木さんが言うと説得力がある。間隔が十数年なら、二十年目までには一度、大きな地震が来てしまいそうだ。
「しかし、最大震度は大体五弱だったから、今の満生台なら大きな被害は出ないと思うのだけど。……怖いことが続くせいで、ちょっと、不安になってしまうね」
「その気持ちは、分かります」
幸も不幸も、何故か連鎖してしまう。そういうものな気がする。
「……八木さんって、鬼の存在を信じたり、しますか?」
ふいに聞きたくなって、僕は問いかける。
「そうだねえ。私はこの目で見たものしか、信じない人間だからね。目の前に現れたなら、そのときは……信じられるかな」
「あはは、八木さんらしいです」
「私らしい、か。そのイメージが変なものじゃないといいのだけど。……ふう、到着だ」
気付けばもう、僕らは病院の敷地前まで歩いてきていた。案外楽しく話せたので、もう着いてしまった、という感じだ。
「それじゃ、ここで。付いてきてくれて、ありがとう」
「いえいえ、こちらこそ。楽しかったです、八木さん」
軽く手を振ってから、八木さんは歩いていき、病院の中へ入っていった。それを見届けてから、僕も向きを変えて、家の方向へ歩き出した。
「……地震、か」
もういつ大きな地震が街を襲ってもおかしくない。八木さんの推測が正鵠を射ているなら、そういうことになる。土砂崩れが起きた原因は地震だったという。それは、もしかすると予兆なのだろうか。悪い方向にばかり考えがいってしまうが、有り得ない可能性ではない。
それでも、この街は今、発展を続けている。多少の揺れが来たところで、人々の生活まで揺らいでしまうことはないと思うけれど。
「あら……真智田くんじゃない」
考え事をしていたので、前方の人影に全く気が付かなかった。顔を上げると、そこには早乙女さんが立っていた。彼女は可愛らしい花柄の傘をくるりと回しながら、こちらを見つめてくる。
「今日、定期健診の日でしたっけ。……違うか」
「八木さんに会って、病院まで付いていってたんです」
「八木さん……何か用かしら」
早乙女さんは、少しだけ首を傾げたが、すぐにこちらへ視線を戻して、
「ところで真智田くん、この辺りで、鍵が落ちてませんでした?」
「鍵、ですか?」
「ええ。仕事場の鍵を一本、落としちゃったみたいで。……うーん、外で落としたんじゃないのかもですね」
「僕は見てないです。……どこかで見かけたら、ご連絡しましょうか?」
「いや、多分道には落ちてないと思います。聞いておいて申し訳ないけれど、気にしないでください」
「はあ、分かりました」
大丈夫なのかな、とは思ったが、当人が気にするなというのだし、余計な心配はしない方がいいだろう。
「それにしても、この街のお年寄りはとても活力がありますね」
「病院があるおかげじゃないですか?」
「だと、嬉しいんですけど。……最近、変な集会が始まっているみたいで、私としては、少し怖いんですよ」
「ああ……」
早乙女さんも、集会の件は心配しているようだ。確実に、不穏な空気は広まっている。
「鬼の伝承なんて、もう古いでしょうに」
「まあ、若い人間からしたら、そうでしょうね」
「お年寄りでも、移住してきた人からしたら、変てこな話だと思いますよ」
苛立ち混じりに彼女は言うが、移住してきたお年寄りの中にも、集会の参加者は一定程度いるような気はする。
「……早乙女さんは、鬼の存在を信じてないんですね」
「勿論です。そんなものを、いちいち信じていられないですから」
早乙女さんはそう斬り捨てたものの、語気を荒げたことが恥ずかしくなったのだろう、照れ隠しのように咳払いをする。
「じゃあ、お仕事に戻らないとなので。気をつけて帰ってくださいね、真智田くん」
「は、はい。じゃあまた」
僕の言葉に、早乙女さんは笑みで返し、それからスローペースで病院の方へと歩いていった。
……今日は、想定外に色んな人と会う機会があったな。
「……さ、帰ろう」
道草を食ってばかりはいられない。僕はふう、と一つ息を吐くと、心持ち速足になって、家への道を歩き始めた。
昼食の後、リビングでぼーっとしていると、母さんからそんなお願いをされた。あると思っていたものが、冷蔵庫になかったらしい。こういうことはたまにある。
食後のコーヒーを飲み終えてから、僕は買い物のメモを母さんから受け取って、秤屋商店へ向かった。
雨は、朝より小降りになっているものの、まだ傘無しでは出歩けないくらいだ。雨に打たれて揺れる稲穂を見つめながら、田園を横切り、中央広場を過ぎる。商店までは、時間にして十分ほど。その道中に、二人のお爺さんが、如何にも辛そうな足取りで、東へ歩いていくのに遭遇した。多分、集会場へ向かったのだろうな。
「いらっしゃーい。今日は普通のお買い物?」
「普通……まあ、そうです」
確かに、千代さんからしてみれば、機械のパーツを買うのは普通じゃない買い物だよね。
「お好きに見てってね。私、ちょっと父に呼ばれてるから、行かなきゃ。盗ったりしちゃ駄目よ!」
笑顔で冗談めかして言うと、千代さんは店の奥、立入禁止の向こうに引っ込んでいった。こんな風に、店番がいなくなっても物を盗まれたことなんてないらしい。流石の治安の良さ、といったところだ。
そう、治安は良かった、はずなのだけど。
店内に入り、食品の陳列棚を見て回る。生鮮食品は、街の中でとれた物以外はもう殆ど残っていないが、それでも困らない程度には種類も量もあるし、レトルト食品や缶詰などはかなり豊富だ。千代さんは運転免許を持っているので、家族の持っている軽トラックで、隣町まで買い出しに行っている。何が住民にとって必要か、きっと誰よりも把握しているのだろう。千代さんもまた、この街の満ち足りた暮らしを支える一人だよな、と思った。
「おや……こんにちは」
背後から声を掛けられて、少しびくりとしてしまった。慌てて振り返ると、そこには。
「あ、八木さん。こんにちは」
「買い物? この雨なのに、おつかれさま」
「そんなに量もないですから」
「はは、そうかそうか」
こうして八木さんと話すのは、久しぶりな気がする。龍美はしょっちゅう会っているようだが、僕はもうかれこれ、一ヶ月以上は会ってなかったんじゃないだろうか。
相変わらず、カッターシャツに緩く巻いたネクタイという服装。睡眠時間が少ないらしく、目は常に隈が薄っすら浮かんでいる。容姿は中々美男子といったところだろうに、生活がだらしないというか、仕事と私生活が殆ど一緒くたになっている人なのである。いくら派遣されてきた身とは言え、もう少し気を遣った方が良いと思うのだが、余計なお世話だろうか。
まあ、龍美はそんな八木さんを好いているようだが。……でも、あの子はお兄さんキャラならオッケーって感じなのかな。
「八木さんも、何か買い出しに?」
「ええ、私はあっちの部品を」
そう言って指差したのは、昨日龍美が品定めをしていたコーナーだった。八木さんもそこで機械部品を買っているらしい。
「機械が不調だったら自分で直さなくてはいけないんで、ここは本当に便利でね。病院さまさま、といった所だ」
「あそこのコーナーは、病院側の要望なんですもんね」
「だってね。……医療に使わなさそうなものもあるんだけど、そこは私も専門外だし、何かには必要なんだろう。私の仕事の助けになっているから、それだけでありがたいよ」
「はあ」
言われてみれば、何に使うのかよく分からないようなパーツもあるし、気にはなるところだ。
「お待たせしました~っと。あれ、八木さんいらっしゃい」
「どうも、こんにちは」
「ゆっくり見ていってくださいね」
「ありがとう。でも、そんなに時間はとらないので」
にこりと微笑むと、八木さんはすっと機械部品コーナーに歩いていき、十秒と掛からずに目当ての品をレジに持ってくる。頻繁に利用しているから、どこに何を置いているか、大体把握しているのだろうな。
「っと、感心してる場合じゃないや」
僕も買い物に来ているのだった。ポケットから母さんにもらったメモを取り出して、リスト通りの品を取っていく。買い物カゴは周囲に置かれてあるが、今日は必要ないくらいの量だ。
「ありがとうございました。またよろしくね~」
八木さんも僕も、程なくして買い物を終える。千代さんが頭を下げるのに、僕らも軽く礼を返した。
「私はこれから病院に寄っていくんだけど、ちょっと一緒に歩くかい?」
八木さんがそんなことを言うのは珍しい。孤独を愛していそうな人なんだけど。
「構いませんよ、行きましょう」
「うん。遠回りだけど、すまないね」
「いえいえ」
龍美も先日話してくれたが、八木さんの話は興味深いものも多いし、面白いことが聞けるかもしれない。病院までの短い時間だけれど、嫌ではなかった。
傘がぶつからないよう気を配りながら、八木さんと並んで歩く。こうして歩くと、僕って背が低いな、と感じる。
「玄人くんも龍美さんも、鬼の伝承を調べてるんだってね」
「ああ、はい。龍美から聞きましたか」
「そんなところ。私の仕事もある意味じゃあ謎を調べることだし、二人の調査を応援しているよ」
「えと、ありがとうございます」
「どういたしまして」
八木さんは、少しだけ笑顔を浮かべたが、それはすぐに消えてしまう。
「……私の地質調査も長い間続けてきたけれど、そろそろ帰りたいな、と思うことがある」
「そう、なんですか?」
「うん。やっぱり、永射さんの事故もそうなんだけど……ここのところ、不穏なことが多くて。この街全体の空気が、悪くなっている気がするんだ」
普段は観測所に籠りがちな八木さんも、それは感じているらしい。
「……それから、事故があった日に、土砂崩れも起きたね。他の人はあまり気に留めていなかったけど、あれは雨のせいだけじゃなくて、地震の影響もあったんだよ。土砂崩れのせいで揺れたように感じたのは間違いなんだ」
「そう言えば……龍美も地震があったって言ってる人がいるって話してたな」
「ええ。実は、満生台で過去に大きな地震は、大体十数年おきに起きているみたいでね。最後にあった地震が一九九四年だから、もうそろそろ大きな地震が起きても不思議じゃないんだ」
「最後の地震から今年で十八年……ですか」
「そう」
その法則がどこまで正しいかは不明だが、専門家の八木さんが言うと説得力がある。間隔が十数年なら、二十年目までには一度、大きな地震が来てしまいそうだ。
「しかし、最大震度は大体五弱だったから、今の満生台なら大きな被害は出ないと思うのだけど。……怖いことが続くせいで、ちょっと、不安になってしまうね」
「その気持ちは、分かります」
幸も不幸も、何故か連鎖してしまう。そういうものな気がする。
「……八木さんって、鬼の存在を信じたり、しますか?」
ふいに聞きたくなって、僕は問いかける。
「そうだねえ。私はこの目で見たものしか、信じない人間だからね。目の前に現れたなら、そのときは……信じられるかな」
「あはは、八木さんらしいです」
「私らしい、か。そのイメージが変なものじゃないといいのだけど。……ふう、到着だ」
気付けばもう、僕らは病院の敷地前まで歩いてきていた。案外楽しく話せたので、もう着いてしまった、という感じだ。
「それじゃ、ここで。付いてきてくれて、ありがとう」
「いえいえ、こちらこそ。楽しかったです、八木さん」
軽く手を振ってから、八木さんは歩いていき、病院の中へ入っていった。それを見届けてから、僕も向きを変えて、家の方向へ歩き出した。
「……地震、か」
もういつ大きな地震が街を襲ってもおかしくない。八木さんの推測が正鵠を射ているなら、そういうことになる。土砂崩れが起きた原因は地震だったという。それは、もしかすると予兆なのだろうか。悪い方向にばかり考えがいってしまうが、有り得ない可能性ではない。
それでも、この街は今、発展を続けている。多少の揺れが来たところで、人々の生活まで揺らいでしまうことはないと思うけれど。
「あら……真智田くんじゃない」
考え事をしていたので、前方の人影に全く気が付かなかった。顔を上げると、そこには早乙女さんが立っていた。彼女は可愛らしい花柄の傘をくるりと回しながら、こちらを見つめてくる。
「今日、定期健診の日でしたっけ。……違うか」
「八木さんに会って、病院まで付いていってたんです」
「八木さん……何か用かしら」
早乙女さんは、少しだけ首を傾げたが、すぐにこちらへ視線を戻して、
「ところで真智田くん、この辺りで、鍵が落ちてませんでした?」
「鍵、ですか?」
「ええ。仕事場の鍵を一本、落としちゃったみたいで。……うーん、外で落としたんじゃないのかもですね」
「僕は見てないです。……どこかで見かけたら、ご連絡しましょうか?」
「いや、多分道には落ちてないと思います。聞いておいて申し訳ないけれど、気にしないでください」
「はあ、分かりました」
大丈夫なのかな、とは思ったが、当人が気にするなというのだし、余計な心配はしない方がいいだろう。
「それにしても、この街のお年寄りはとても活力がありますね」
「病院があるおかげじゃないですか?」
「だと、嬉しいんですけど。……最近、変な集会が始まっているみたいで、私としては、少し怖いんですよ」
「ああ……」
早乙女さんも、集会の件は心配しているようだ。確実に、不穏な空気は広まっている。
「鬼の伝承なんて、もう古いでしょうに」
「まあ、若い人間からしたら、そうでしょうね」
「お年寄りでも、移住してきた人からしたら、変てこな話だと思いますよ」
苛立ち混じりに彼女は言うが、移住してきたお年寄りの中にも、集会の参加者は一定程度いるような気はする。
「……早乙女さんは、鬼の存在を信じてないんですね」
「勿論です。そんなものを、いちいち信じていられないですから」
早乙女さんはそう斬り捨てたものの、語気を荒げたことが恥ずかしくなったのだろう、照れ隠しのように咳払いをする。
「じゃあ、お仕事に戻らないとなので。気をつけて帰ってくださいね、真智田くん」
「は、はい。じゃあまた」
僕の言葉に、早乙女さんは笑みで返し、それからスローペースで病院の方へと歩いていった。
……今日は、想定外に色んな人と会う機会があったな。
「……さ、帰ろう」
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