インペリウム『皇国物語』

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episode3 人と魔の狭間に

69話 平穏の在り処

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 蒸し暑さを含んだ熱風、一度人肌が浴びれば思わず汗で蒸れてしまいそうな独特な風。鬱蒼とした森林の木々の間をすり抜けてゆく。その風が向かった先は徐々に森林地帯が薄くなりやがて大自然の中にありながら不釣合いに堅固な城壁が露になる。自然との調和を重んじており、特に魔物や動物に対しては共存共生を目指しているここ『ガザレリア』でも産業は大きく発展している。それどころか商業区はドラストニア以上に活気づいている様子。城壁にも強力な大砲が常設されており、守衛の兵士の鎧は一級品の兵装で固められていた。

 兵達の間でも魔物への対処は徹底されており、魔物を退く手段として『偽炎塵フェイクパウダー』と呼ばれる青い炎のような現象を発生させる粉塵のような物質が用いられる。軍の兵装としても採用されており、魔物の基本的な対応方法の一つとして確立。こうしたこの国の事情を知らずにやって来る人間の中で彼らに捕まる者達も決して少なくはなかった。

「今回の連中、運が悪かったな。肉食性の植物に襲撃に遭ってるところを出くわしたって話だろ?」

「あんな回避のしようがないところに…狙い撃ったかのように軍が動いたってのもどうもきな臭いよな」

 城壁の守衛の二人組は思い思いに話し、旅人だけでは襲いかかる植物の魔物は対応しきれないと漏らす。軍に所属している自分達でも手をあぐねる状況と政府の方針に疑問を抱いてはいるようで捕まった人間に対して哀れんでいる。

「しっかし、見たかよ? 一緒にいた女」

 茶化すように衛兵の一人はニヤついて胸を強調するような下品な仕草を見せるが、相方の兵士は呆れた様子。

「やめとけ、あれは例の何とかってとこのお偉いさんを追って来たって噂らしいぞ」

「あ? じゃあ魔物連れてた連中を追ってきたってことか? なんでまた?」

「俺が知るわけないだろう。上の意向に従わねぇとあのと一緒にされるぞ」

 先程まで調子の良い発言をしていた守衛の高揚感は鳴りを潜め、固唾を飲んで仕事へ戻る。彼らの中でも既にシャーナルたちの正体は感づかれており、当然のことだが軍上層には周知の事実だった。相手が相手だけに彼女達の扱いだけは慎重にならざるを得ない。


 そしてガザレリア最大の都市にまで連れてこられたシャーナル一行はガザレリア政府側が用意した高級宿舎に滞在することとなった。今回は特別扱いとのことでその思惑に彼女が感づいていないはずがなかった。

「けれどもなんとも矛盾した国…」

 一望できるほどの高層の宿舎、その自室から眺められるガザレリアの中心都市の様子を目の当たりにする。国内のおよそ七割ほどを占める森林地帯とは相反して人間の住む都市部とその近辺は異常なほど発展を遂げていた。ドラストニアの王都にも引け劣らないこの場所だけがまるで別空間のように見える。

「これだけ魔物と森林で埋め尽くされていれば農業なんて骨が折れるわね。そもそも国の方針的にも出来ないのでしょうけれど」

 シャーナルは頼んだルームサービスの紅茶を啜りながら独り言のように呟く。紅茶はドラストニアで飲むものとは違い薄味ではあるもののナッツ系のような甘みも感じられる。初めて飲む人間にとってはかなり飲みやすい部類ではある。

「アマチュアね」

 飲んでいた紅茶をテーブルに置いて評する。それはこの都市の発展に対しても評するような物良いにも感じられる。

 当初の目的であった国内状況の調査そのものはアーガストとマディソンにも依頼し、彼らにとっても街中でも普通に溶け込む事ができる町は珍しい。彼らに任を与え実績を積ませるという意味合いもあったためだ。作り上げられた街並みは確かに盛況してはいたがその奥底に暗雲にも似た黒いものを感じているシャーナル。それを払拭するように部屋に常設された水を口に含み、後味としてほのかに残った苦味を消す。

 そして待っていたかのように自室の扉がノックされ、応えるべく彼女は扉へ歩みを進める。

「失礼致します、ドラストニア皇女殿下。『代表』がお待ちです」

 ガザレリアの制服組が彼女の迎えに上がる。腰に下げている短剣を隠しもせずにやって来るあたり牽制の意味も含んでいたのは明白、というよりあまりにも露骨に思えて滑稽に見える。彼女は答える意味も含めて彼らに頷き、案内されるがままに歩きだしていく。


 ◇


 森林地帯から離れた大都市の市場。流石にここでは熱帯雨林のような湿気の強さは感じられなかったが日光を遮る草木がないのと、人ごみの多さによっては都市中心部のほうが熱さを感じるかもしれない。行き交う人々の身なりはそれなりにしっかりとされており、市場自体も交易品や野菜や果物といった作物を中心とした食料品がほとんどである。

 魔物、動物との共生を謳っているだけあって肉類、魚はおろか卵さえも全く見受けられない。市場でも魔物や飼育された動物の存在は散見され、愛護用と移動手段用と用途は様々で自由に放し飼いのように解放されている様子。中には躾の行き届いていない動物が走り回り周囲に被害を及ぼしているものも多々見受けられる。

「これで共生か…」

 アーガストは呆れたように呟いていると背後の方で騒ぎが巻き起こる。

「そこの御仁! そいつを止めてくれ!!」

 アーガストが振り返ると彼目掛けて突進してくる猪とも思える魔物が涎を垂らしながら一直線に向かってくる。周囲の人間は彼に逃げるように騒ぐが、彼は少しだけ身構える。そして魔物と相対、激突による凄まじい衝撃音が響き渡るがアーガストは平然とした様子。素手だけで受け止め、左手で頭を掴んで押さえ込む。

 威嚇とも言いえぬ龍蛇族による特有の鳴き声とも表せぬ、むせるような声を断続的に行なうことで魔物はその凶暴性が衰えていく。やがて先ほどまでの気性の荒さが嘘のように落ち着いた様子へと変わる。声の主もとい魔物の飼い主と思しき人物が彼に駆け寄り心配そうに声を掛けてくる。

「すまんな、リザードマンでもなけりゃ止められなかったろうよ」

「操れもしないのに無理な買い物はやめておけ。それから拙者は『龍蛇族ドラゴニアン』」

 アーガストはすぐさま訂正して返すと彼はすぐさま謝罪し、改めて感謝を述べている。すると武装した兵士達が彼らを囲いこむ。大方予想はついていたというようにアーガストは冷静に周囲の兵の数を数えていた。飼い主の男が必死に弁明を行なうもそれも聞き入れてもらえず、周囲の人間達も彼らを恐れるかのようにその場から散ってゆく。

「そこのリザードマン、先ほど住民の報せで貴殿が魔物に対して攻撃行為を行なったと。同行していただきたい。」

「『龍蛇族ドラゴニアン』だ。正確な種族として認識も出来ずによくも共生などと謳えたものだ。あれで攻撃行為とみなすのであれば魔物に対しての躾はどうしているのかね」

「攻撃行為には『威嚇行為』も含まれている、見たところ貴殿が行なった行動も威嚇行為と見なされる。我々はただ職務を全うしているだけに過ぎんよ」

 男はニヤつきながらアーガストを見上げている。他の兵士達も同じように彼を見ている様子だったのがかえって異様に見えて疑問を抱く。中にはアーガストに向けて『トカゲ野郎』と侮蔑の言葉を吐き彼もうんざりとした表情で呆れかえる。これが一国の軍人が他国の人間に向ける態度なのだろうか。

 不穏な空気が漂い一触即発の中、深緑の巨体が怒りの混ざった声色と鬼気を帯びた視線を向けてこちらに向かってくる。

「兄者にトカゲとほざいた奴はどいつだ?」

 目が血走っており怒りを露にしているのが目に見えて分かる凶悪なオークの殺気がその巨体から放たれている。先ほどの兵は彼に臆することなく冷めたような視線を向けてアーガストの行為に対しての罰則を行なうつもりだと彼に話すが当然納得するマディソンではなかった。

 怒りを男に向けて胸倉を掴みかかり、周囲の兵も反応し武装していた得物をマディソンに一斉に向ける。

「じゃあなんでてめぇらは黙ってみているだけなんだ? あの青い炎でも使えばよかっただろうが」

「我々が駆けつけた頃には彼が既に『威嚇』を働いた後だった。駆けつけるまで待っていればよかったな」

 暴走した魔物を止めるための行動に対してとぼけるように答える男の言葉に反応した兵士達の間で笑い声が巻き起こり、周囲からは彼らをあざ笑うようにしか見えなかった。マディソンの迫力ある凶悪な表情を前にしても物怖じすらしない点に関しては流石に軍人とだけある。

「よせ、マディソン。『彼女』の事もある、事を荒立てるな」

 アーガストの言葉に男の胸倉を放して解放するマディソン。彼女という言葉に男は僅かに目元が動き反応したのをアーガストは見逃さなかった。険悪な空気が漂う中でそれは打ち払らわれた。彼らの騒動を聞きつけた別の軍人の部隊が彼らの間に入り込み仲裁を行ったからだ。

「十二隊長、何か問題でも起こったのかね?」

「五隊長、法を犯した者の処罰は最低でも禁固刑でしたね。彼らは違法者です」

 男にそう言われ『五隊長』と呼ばれた男はアーガストらを一瞥した後、すぐに答える。マディソンも魔物に手など出していないと声を上げて反論。仲裁に入った五隊長は冷静に彼らの言葉も受けて彼らを擁護する。

「彼らはドラストニアからの使者。丁重にもてなせと総帥から通達を受けているはずだが」

「さぁ? 存じませんね。内部に入り込んだ間者の狂言とも考えられませんか?」

 納得のいかない様子の十二隊長は態度を一向に改めない。むしろアーガスト達をどうあっても処罰したいという意思を感じられるほどその対応は直線的過ぎた。埒が明かないと感じた五隊長は書簡を見せて彼らが特使として迎えられたという内容を改めて教える。

「総帥の命だ。この行為は違法どころの話ではなくなるぞ」

「甘言であったとしてもそれは同じ事ではありませんか? 五隊長」

 あろうことか彼らの総帥直々の書簡を甘言とし疑いを向けてきた。流石にこれを看過できないと五隊長の部下達は武器を構えて彼らに対峙、十二隊の兵達もそれに応じる構えを見せ一触即発となる。しかし十二隊長が武装を下げるように自身の部下達に合図を送った。それぞれの面子を守る意味も含めてこの場を後にしていくよう命を下す。去り際に五隊長に意図の分からない笑みを見せたあと彼もその場を後にした。

 妙な緊張感から解放されて周囲の住民達もホッと胸を撫で下ろし各々自分達の生活へと戻っていく。

「大変失礼しました。住民から話は伺っております。ああいった巨体の魔物が暴れると死者が出るほどの規模に発展する事も稀ではないので」

 暴走した魔物に対しても武装使用許可が下りないこと、止める手段も魔物が疲労して動きが止まったところを丁重に捕縛するというなんとも情けない内容である。それまでに出た被害も死傷者に対しては何の補償もないのだとか。魔物への苦痛を与えない、しかし人間に被害が出る事は一向に構わない、ハッキリ言って異常である。

「一体誰のための国家なんだよ」

 都市部の人間のことをそこまで好いていないマディソンでさえ呆れてしまうほどの現状。

「利権のためですよ。今のガザレリアではそうした人間が権力の座に就き、法を作っておりました。ですが今の国家代表に変わり少しずつですが変わり始めております」

「十二隊の者達も…点数稼ぎのためにあのような行動を取っているのです」

 自身の出世に一番の近道なのが既存の法に順応するということ、たとえそれがある意味『法外』なものであったとしても。彼らは良くも悪くも法に従っているだけ、それ自体に悪などは存在しない。悪法でも法は法なのだと五隊長は語る。

「して隊長殿、訊ねても?」

 五隊長に伺い立てるアーガストに気のある返事で答えた彼は何の事かと訊ねる。

「肉や魚はどちらで調達できるかな?」

 五隊長は目を丸くした後少しだけ笑って見せた後に自身の知る経路から調達できると説明した。マディソンもついでのように酒の調達を頼みこむと快く引き受けてくれた様子。少し満足した彼らは心なしか足取りも軽くなり案内されるがままに代表府へと向かっていく。


 ◇


「うぅー…疲れたぁ」

 都市部の高級宿の一室で少女の声が響く。追従してきた他のハウスキーパー達も少し疲れの入り混ざった表情で笑いかける。

「お疲れ様。初日、というよりも派遣されてきたのに奥方の遊び歩きに付き合わされるなんて災難だったわね」

 彼女達の話によれば珍しい話ではないのだが、派遣されたハウスキーパーでしかも子供を同伴させることはほとんどないのだとか。それほどまでにロゼットの容姿が目立っていたというのもあるのだと話すが彼女自身は容姿で損した気分だと複雑そうである。彼女達が称する『遊び歩き』も間違いではないところが余計に複雑な気持ちにさせてゆく。

 内容も内容で都市部の衣類、雑貨品、装飾品その他多数の買い物を付き合わされた挙句、貴族達と交流会と称した舞踏会や談笑を楽しむといったもの。ハウスキーパーの彼女達は当然それに付きっきりで貴族からの誘いを断るように徹底されている。彼女が気に入った貴族から言い寄られるようなことでもあればその後屋敷で徹底的にいびりぬかれ、そのせいで何人も去っていったという話を聞いて呆れかえるロゼット。そのためたまに見た目の冴えない貴族との舞踏を奥方に命令されたりととにかく彼女が楽しめるような内容を行うように強要される。

 その貴族に気に入られればその夜を共に…。なんて命じられることもしばしばあるのだとか。もはやハウスキーパーというよりも王と従者というのに近い。集められたハウスキーパーも選りすぐりの美女ばかりであるため目立つ。もちろんそれも承知で行なっているゆえにただひたすら目立ちたいのだ。特にこの地は国境付近もあり、他国からの貴族や珍しい品の流通も早いことも相まって彼女にとっては王都よりも居心地のよい環境と言えるのではないだろうか。

 そして現在も夜会に参加するためにお色直しをしているのだというのだから周囲も呆れを通り越して感心すら憶える。周囲のハウスキーパーも着替えを始め自身の持ってきた制服へと変わる。ロゼットも例外なく参加を義務付けられ、重たい身体を起こして着替え始めたのだった。



 夜会は都市ミスティアの中心地ではなく、繁華街から少し離れた高級地区にあたる場所。宿から馬車で数分程度の距離にもかかわらず、数名のハウスキーパーを連れて奥方とポットンは移動し、残りのハウスキーパーは先に徒歩で向かわせ出迎えるように指示を出す。供回りにはロゼットも含まれていたため彼女も馬車での移動となり、疲労の溜まった身体を少しだけ休めると思うと幸運だっただろう。

 たどり着いた会場もまた豪邸となっており、正面には噴水まで設置されている。会場へ向かう貴族達が既に数多く揃っており、一同も会場で貴族達に飲み物を手配するように指示される。

「ブレジステン婦人、お待ちしておりました、本日もお美しい。やはり貴女がいらっしゃらないとパーティーがどうも盛り上がりに欠けます」

「とんでもございません。私など―…」

 豪邸の主人であり主催者でもある人物と奥方は談笑を愉しみ、ハウスキーパー達には飲み物を配るよう手伝わせる。もとより奥方は自身の株を上げるための意味居合いもあり、揃えた者も美女ばかり。よほど他者からの評判を気にしているのだろう。昼夜問わず動き回りその上、こんな夜分遅い時間から本業をさせられるとなり長旅を経験した事があるとはいえロゼットはひぃひぃと内心悲鳴をあげながらせこせこと働く。

 貴族の面々はどこか統一感のある髪型、髭の整え方、それらも相まって誰も彼も似たような人物ばかりに見えてしまう。おそらくそういう流行ものなのだろうと現代とも少し通ずるような感覚を憶える。どこでもいつでも人の生活の中では流行り廃りがある。庶民の間では目立つ事はないが生活力に余裕のある貴族達の間ではそれがより顕著に現われ、彼女は自身のいた現代日本がどれほど恵まれた環境だったのか思い知らされていた。

 そんなことを思いつつ飲み物を配り終え再び取りに戻ろうとした際に貴族の一人にぶつかり転倒してしまう。ロゼットは焦り、慌てて謝罪の言葉を述べて怪我がないかどうかを訊ねるために顔をあげると、眼帯のようなもので左目を隠しているブロンドの髪の女性が立っていた。凛々しくも美しい姿、貴族よりもむしろもっと気品があり立ち姿も軍人のように背筋をピンと伸ばし圧倒されるような雰囲気を醸し出している。

「あ、申し訳ございません!」

「ん…大丈夫。貴女は?」

 女性は自身のことよりも尻餅をついて倒れこんだロゼットの手を取って彼女に怪我がないか確認を行う。

「あ、はい…ありがとうございます。私のことよりもお嬢様のお加減の方は…」

「平気。じゃ、気をつけてね」

 それだけ言うと女性は立ち去る。ロゼットも一瞬の出来事で少し女性のほうを放心状態で見ていたがすぐに奥方に呼ばれたためにパタパタと向かっていく。少し歩いた後、女性は少しだけロゼットの方を振り返り何かを思ったのか僅かに首を傾けてすぐさま歩みを進めた。少し歩いたところで背後から険しい声で話しかけられる。

「なんだ、似合ってるじゃないか。たまにはそういう格好も悪くないだろう」

 その声色はどこか穏やか、というよりも女性のドレス姿を茶化すようにも見えた。そういう男は軍人顔負けの屈強な躯体、その風格も将兵の持つそれと同じくこのような貴族の集まりにも似つかわしくない。

「貴方は窮屈そうですね」

「貴族の集まりになど参加もしたくないからな。供回りでもない限りこんな場所に好き好んで来ようか」

 正装姿が窮屈そうな男に対して冷淡に先ほどの女性は皮肉を述べるのに対して男も冷たく返す。もとより溶け込むつもりもないようだが軍人のような二人がこの場にいる理由は定かではなかった。周囲は華やかに着飾った端麗で華奢な貴族や肥え太った中年貴族達が囲む中で異質な存在とはいえ誰も気にするでもない。平和に慣れ、警戒心の無さに男は呆れ、女性は淡々と周囲の観察と警戒を怠らない。

「そこまで気張るな、下手に警戒するとかえって目立つぞ」

「平和ボケはしたくないわね…」

 女性は一言一言この現状を皮肉るように答えているが実際にその通りとも言えるのがそれこそ『皮肉』であった。魔物の襲撃が多く発生している中で住民達は怯えて暮らす毎日を強いられているのにも関わらず貴族達は社交会という名の享楽に明け暮れている。都市部で身元不明の殺人事件も起こっているのに危機感さえも感じていない。自分達が他国の人間であるにも関わらずと女性は呟く。

 男が返事をしようと言葉を選んでいると照明が消え、夜会の開催と祝杯を挙げる演説が開始される。
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