王太子殿下はモブさえいればいい

星ふくろう

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第一章 失われた竜使い

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 擬態を解けば二十五メートルほどの巨大な竜へと変化するこの公女は優しいし慈悲もあるが。
 それ以上に慣例や習慣に縛られるのを嫌う。
 大好きな人の元を訪れるのになぜ、時間を選ばなければいけないの、とか。
 五体満足が正しいなんてそんな考えはおかしい。
 生きていけないならば周りが補佐すればいいではないか!
 など‥‥‥この学院内では浮いている存在であった。
 そして、今夜も彼女はこりずにアシュリー目当てにその部屋に外部からそっと侵入する。
 二段式のベッドは上がアシュリーで下がアルバートだ。
 先にアルバートに深い眠りの魔法をかけておき、周囲に位相をずらす結界を張れば誰も邪魔は入らない。
 今夜も愛する旦那様の腕の中で眠りにつくのだ。
 前準備の魔法が完全に発動したのを確認して、見た目は黒髪に黒い瞳。
 少しばかり黄色人種系の外見を持つ、東洋風の美少女はアシュリーの寝床へとそっと潜り込んだ。
「ただいま、だんな様?」
 珍しく早く寝ているのだろうか?
 今夜はいつものように抱きしめて熱い抱擁がない。
 最近、剣技の稽古で疲れているとも聞いているから、今夜はそのまま添い寝することにした。
 がーー
「エリス、やっぱり毎晩来てたんだな?」
 怒り半分、呆れ半分で旦那様と呼ぶ男性にそっくりの兄は、弟の恋人を睨みつける。
「へ?
 え、あれ?
 え‥‥‥なんで??
 あのーアシュリーは?
 旦那様は????」
「旦那様は下で君の魔法にかかってぐっすりお休みしてるよ?」
 アルバートは笑顔で言うと、慌てて逃げ出そうとするエリスの尾を片手で捕まえる。
 竜が人間に擬態したと聞くと、トカゲの尾を連想する。
 しかし、少なくとも竜公国の竜たちの尾は犬の尾のようにふさふさとした。髪色に近い色のものだ。
 そしてそこは、ある種の感覚器でもある。
「あっ‥‥‥だめ、そこ触られたらーー」
 エリスが甘い吐息を出す。
「毎晩、毎晩。
 この時期になると盛りのついた犬みたいに人が寝ている上で散々、喘いでくれて‥‥‥
 本当に、この時期は僕とアシュリー揃ってさ。
 寝不足なの理解してる?」
 尾はまた、握られると力を入らなくさせる部分でもある。
 エリスが必死に取り返そうとするのをうまくさばきつつアルバートは嫌味を言ってやった。
「そ、そんああ!?
 だって、あんなにぐっすり寝てたじゃない!?」
「それは最初だけだね。
 エリス、何か忘れてないかい?
 僕の魔眼は左眼だけにあるってことを」
 魔眼が左眼だけにしかない?
 それは普通のことじゃないの?
 エリスはそう思ってしまう。
「そんなこと言いながら、尻尾を撫でないでーーああ、だめ!!
 それしていいのは旦那様だけなの!!!」
 ふーん、あそう。
 そう言いつつ、アルバートは尾の毛を数本引き抜いて見た。
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