王太子殿下はモブさえいればいい

星ふくろう

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第一章 失われた竜使い

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「それで、今夜は俺のエリスに何を話す気なんだい?
 まさか、前にみたいに入れ替わって抱こうなんて。
 そんな話は、もうなしだよ?」
 あの時は火を吐かれてとんでもない目にあっただろ‥‥‥
 アルバートはなにもできなかったよ。
 そう寂しそうに言う。
「あんな美しい女性に好かれるお前が羨ましい。
 メアリージュン王女にも目にかけられているじゃないか?」
 メアリージュン王女?
 その単語に、アシュリーは目を光らせた。
 まるで、獰猛な爪を隠した鷹のように。
「兄さん、酒がまずくなる。
 あの女は最低だ。
 俺の身体が不自由だからと、周りにわたしは聖女になるためにしてるんですよ。
 そんなように寄ってきやがる。
 叩き切れるなら、そうしたいくらいに憎らしい‥‥‥」
 アシュリー。
 そんなに感情を出すな。
 僕らは庶子なんだ。
 まだ、この学院を無事に出れるまでは‥‥‥隠しておけ。
 そう言いたいが、この苛烈な弟は感情を抑えない時もたまにある。
 ただ、それを見えないように心の奥底で燃やしているだけだ。
「そうか。
 僕はてっきり、いい仲なのかと思っていたよ。
 エリス様と三人で、仲良くしているのか、と」
 ないよ、兄さん。
 あり得ない。
 アシュリーは笑いながら言う。もう五杯目だ。
 アルコールに弱いくせに、飲む速度だけは早い。
「で、何を話すつもりなんだ?
 エリスと」
「そのままだよ、アシュリー。
 言いづらいだろ?
 お前が、エリス様とその子供のことを考えて、居場所作りにいま動いてるなんてさ?」
 アシュリーが黙り込む。
 それはエリスと自分だけの問題にしておきたいし、話して相手に心の負担をかけさせたくない。
 そんなようにアルバートは感じ取っていた。
「お前たちの仲が悪くなるようには言わないよ。
 それに、もう酔いが回り過ぎてるんじゃないのか?」
 酒に弱い人間というのはとことん、酔うとだめらしい。
 アシュリーはすでに半分ほど、眠りの世界にいた。
「三人だけの秘密なら‥‥‥僕らはうまくいくんだがな。
 四年後には、母上とアシュリーとエリス様と子供‥‥‥か。
 返事によるな」
 もし、そうなったらすまない。
 アルバートは心の底から謝罪しながら、弟を普段とは違う、下段のベッドに寝かしつけた。

 そして、いま。
「すまない‥‥‥アシュリー。
 お前の幸せは、叶えてやれないかもしれない。
 許してくれ」
 月明かりが差し込む部屋の中で、何も知らずに眠る弟をみて。
 彼から多くを奪った兄は涙を流していた。
 再度、心の底からの謝罪を込めて‥‥‥

 翌朝。
 学院の講義は午前中に二時間。
 午後から二時間。
 それ以外は、生徒の自由時間であり、己を研鑽するために多くのカリキュラムが用意されている。
 生徒は自主的にその中から数時間を選び出し、自己学習に充てるようになる。
 エリスは変わらずアシュリーと行動を共にし、たまにメアリージュン王女がそのそばに寄り添うような。
 そんな当たり前の光景がアルバートの目のまえで行われている中。
 彼は珍しい人物と、いつも根城にしている図書館で出会うことになる。
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