王太子殿下はモブさえいればいい

星ふくろう

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第二章 ルケードの狼姫

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「躾、ですよ。
 命じたことを聞かない犬には必要でしょう?
 そういえば、あなたはこの方の侍女でしたね」
 アルバートはさて、どこまで悪役と見てくれるかな?
 たいそうな腹黒い卑怯者だと思ってくれよ?
 そう思いながら言葉を選ぶ。
「主人が下賜され飼い犬になったのなら‥‥‥その従者もそうあるべきでしょう?
 違いますか、アリスティア?」
 断ればお前の主人は死ぬがな?
 そう微笑み、エイシャの首にかけた手に力を加えていく。
「どうします?
 選んだのは‥‥‥彼女ですよ、アリスティア?」
 そろそろ物分かりがよくなってくれないかな?
 それともーー己の全てをかけて主を取り戻しに来るか?
「安全の保証がありませんー‥‥‥」
 そう侍女は言う。
 主人の命の安全を一番にしろ、と。
 アルバートはそれを一蹴した。
「そんなものはない。
 はっきり言いますよ?
 あなたの主人はこの通り、自分から首輪までつけて物になり下がった。
 生かすも殺すも、僕の自由だ。
 あなたは自分で選ぶがいい。
 自由でも、物でも。
 その場で死ぬことも、また忠義だ。
 どうしますか?」
 ああ、そうそう。 
 アルバートはそれを付け加えた。
「物になった元男爵令嬢エイシャは、いまはあなたよりも格下でしたね?
 ねえ、準男爵第二令嬢。いえ‥‥‥アクバー氏族のアリスティア様?」
 と。
 銀髪の亜人の顔色が変わる。
 それもあからさまなほどに。
 知られてはならない秘密を知られた。
 そんな動揺を彼女は見せていた。
「灰狼王は王都アクバーを陥落せしめん英雄の手によりその栄光を失った。
 でしたっけ?
 どこかで聞いた詩歌だった気がしますが」
 蒼白なアリスティアはなにも答えられない。
 すでに誰も知らないはずの秘密。
 歴史の影に埋もれた闇のはず‥‥‥
 なのになぜ、この王太子殿下は知っている?
 数段優れた黒狼の姫をあっけなく失神させ、太古に隠されたその伝説の片鱗に触れるなんて。
 こいつは人間か?
 アリスティアはふと考えた。
 もしかしたら、いまはどこにもその名を聞かない魔族が。
 地下世界の住人が姿を変えてここにいるのでは、と。
 それなら、まだ納得がいく。
 主人を取り戻し、この正体不明の何者かを命をかけて葬れば。
 故郷にいる‥‥‥一族に被害は及ばない。
 戦うべきだ。
 そう決めた彼女は戦闘の準備を開始した。
 牙を伸ばし、その両手の爪を伸ばした。
 武器などいらない。
 この牙と爪だけで十分だ。
 この爪は鉄すらも切裂く。
 人間などに後れをとってなるものか。
 必ず、主人を取り戻し生きてここからでる。
 さあ、血が霧となるような戦いを始めようではないか。
 アリスティアは心を決めてアルバートを見据えた。
 
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