王太子殿下はモブさえいればいい

星ふくろう

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第二部 プロローグ 

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「この嘘つき!!
 モノになれだの、結婚してくれだの、しまいには尊重すると言いながらあっさりと売ると言い。
 あなたは結局、あの二人と何も変わらない!!!」
「爪と牙はダメですよ。
 僕の短い寿命が更に縮まる‥‥‥」
 え‥‥‥?
 それはどういうーー
 アリスティアは困惑するしかなかった。
 アルバートの言葉は断片的すぎてなにも理解ができない。
 どう、彼を信じていいのかがわからない。 
 何よりーー
「あの二人、か。
 ルシアードとエイシャ様ですか?」
「えっ?
 えぇ、はい‥‥‥」
 何かを決断しようとするとこれだ。
 まるでタイミングを見透かしたかのように、別の方向に思考がそらされてしまう。
「あなたはルシアード様より、余程‥‥‥あの、イゼア竜公子やメアリージュン王女よりももっと。
 酷い悪の華を心に咲かせてるのね、アルバート‥‥‥」
 つい、心にもない一言がでてしまってそれを言った途端、アリスティアはハッと我に帰った。
 アルバートがそれを聞いて間違いない。
 僕は誰よりも醜悪で狡猾な王子ですから、と。
 そうはっきりと言ったからだ。
「あ、そんな‥‥‥ごめんなさい。
 そんな気はーでもーー」
 うーん、そう少女は何かを悩んでいた。 
 めんどくさい。
 まどろっこしい。
 正面切っての駆け引きがしたいのに、横から横から絡めてをかけられるのは性格に合わない。
 直情径行の灰狼の彼女は、
「あーもう!!
 アルバート!!」
 アルバート?
 そんなに直接的だったか、彼女は。
 これにはアルバートが驚いた。
「な‥‥‥なにか??」
 アリスティアは尾で首を締めるようにして、爪先を尖らせる。
「あ、あのーーアリスティア?
 その、それは・・・・・・??」
 自分の横で悲しんでいた少女はどこに行ったのか。
 まるで獲物を仕留める時のように馬乗りになった彼女は、静かにそれでいてまっすぐな視線でアルバートを見降ろしていた。
 ついでに危険な香りも少しばかり含んで。
「アルバート!
 わたしははっきり言わない男性は嫌いです。
 あなたはあの学院内では愚か者などと言われていましたけど!!
 それでも、アシュリー様や周りへの配慮はあの優しさは本物だった」
 ギラリ、と爪先に星の光を反射させて少女は続ける。
「それがどうしてこうなるのかな‥‥‥??」
「あなたが全部を隠して、脇に置いて、後から自分で誰にも迷惑がかからないように生きてきたから。
 それをわたしはずっと見てきました。
 だから、最初はなんてグズでダメな男なんだろうと軽蔑していたのに‥‥‥」
「それはまたー‥‥‥ひどい言われようだな」
 あはは、その爪は恐いねえ、アルバートは控えめな言葉しか出せなくなっていた。
 少女から向けられている、ここまで直接的な感情に出会うのは久しぶりだったからだ。
 それまでこの数年間、彼に向けられてきたのは陰湿な下卑た彼を馬鹿にする声と、その立場を利用してやろう。
 そう考える連中がその大半を占めていたのだから。
「ひどい言われようにもなるでしょう?
 ねえ、どれが本当なのですか?
 奴隷にしたいのですか?
 あのルシアードがエイシャ様に強要したような変態じみた行為がお好きなのですか?
 それとも、本当に愛しているのですか? 
 正妃になってくれと懇願したのはあなたですよ?
 なぜ、いまになって‥‥‥寿命がなんてことを言いだすの!!?」
 もういいわ。
 この返事がまともなものでなければ殺してシェスに渡ろう。
 アリスティアはそう考え始めていた。
 何もかもが理屈に合わない。
 彼を愛せるか自信が沸かなかった。
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