王太子殿下はモブさえいればいい

星ふくろう

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第二部 プロローグ 

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 この暗闇の中でさらに揺らめきを見せる暗黒の海面に浮いている。
 アリスティアはそれが怖かった。
 魔族とはいえ、同族は他になく学ぶべき力の使い方も暗殺が出来る程度。
 種族としてのまだ未知の能力はあるだろう。
 そう言い残してこの世を去った兄の声がふと聞こえたような気がしてアリスティアは辺りを見渡した。
 しかしあるのは大海原と、天空大陸に遮られ届かない月明かりだけ。
 何かを思い出し、過去への悲しみに頭をふる彼女を、そっと抱き寄せる手があった。
「どうしたんですか、アリスティアは感情の機微がこんなに激しいなんて」
 可愛い人だ。
 そう言い、アルバートは彼女を抱きしめる。
 もう誰にも遠慮せずに二人だけでいれるのだと、彼は幸せそうだった。
 片方、アルバートの祖国に預けた家族のことが頭を離れないアリスティアはそう幸せにも浸れる気分ではなくなっていた。
 露骨にではないが、アルバートからそっと身を引いてしまう。
「アリスティア?」
 不安を煽ってしまったか?
 彼女の不安の元はたった一つ。
 請け負った家族のことだけだろうな。
 まあ、それでも抱きしめない理由にはならないけどね。
 そう思い、アルバートは身を躱す少女を更に抱き寄せる。
「なぜ!?」
「嫌、と言われても抱きしめますよ?
 あなたはそれほど感情が豊かなのに、自分に関わる人間のことになると途端、臆病になる。
 それを補佐するのが、僕の役目だから。
 少なくとも、妻になるなら僕にはそうさせて欲しい」
「そんな勝手な‥‥‥」
 それではまるで自分があなたの手のひらの上で操られているみたい。
 アリスティアは顔を背ける。
 目も合わしたくない、そんな感じだった。
「やれやれ、他の家はどうか知りませんが。
 僕はあなたの考えを優先しますよ?」
 アルバートはため息まじりに赤い尾を自分の首に巻き付けてくる少女にそう言い空を見上げる。
 月明かりが少ないだけ、天空の星空は美しく輝いていた。
「なによそれ、まるで外に関してはあなたが立ち、中は全部、わたしにしろ。
 そう言っているように聞こえます‥‥‥それでも、意見はわたしを尊重する、と」
 変な人。
 この貴族社会で、しかも、王国の第一王子なのに。
 アリスティアは呆れてしまう。
 こんな女性の意見を、私生活にまで尊重する男性は見たことがない。
 どんな貴族も女性に対しての敬意は払っても‥‥‥
「女は所詮、モノですよ‥‥‥。
 あなただって、困ればわたしを売り飛ばすくらいするでしょう?
 わたしの父親がそうしたようにー‥‥‥」
 背中を向けて少女はそう本音を語る。確かに、下級貴族や庶民の間でもそうだし、領主以下の家臣はすべて奴隷と変わらない。土地を与えて騎士の忠誠を得るがそれはあくまでも契約。
 持ち主は、王か領主だった。
「そうですね」
 アルバートはあっさりとそう言い、その一言はアリスティアを怒らせるには充分だった。
 赤い尾がまた膨れたのを見てアルバートは本当に分かりやすい。
 機嫌を知るには一番いいな、これは。
 そう思った時に、少女はアルバートに向き直る。
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